今回は「口パクの見分け方」について書いていきたいと思います。
先に言っておきますが、僕は口パクはどちらかと言えば容認派です。
してもいいと思っています。
「じゃあ、書くなよ」という話ですが、日本の音楽の成長というか音楽リテラシー向上のためには見分けられる人が増えればいいと思っています。その方が誰もが気持ちよく音楽を楽しめるはず。
まぁ、触れていいのかわからない内容でビクビクしていますが。笑
目次
「口パク(リップシンク)」と「被せ」
音楽で使われる口パクは主に2種類
- 完全口パク
- 被せ
です。
まぁ、口パクは説明されずともわかるという方も多いと思います。
もう一つ口パクとは違う「半分口パク」とも言えるような「被せ」について少し説明しておきます。
「被せ」
「被せ・重ね」と呼ばれるようなものです。
これは音源の上から自分の声を重ねて歌うというようなものです。
『被せ』の効果
一つは
- 歌声が安定して聴こえるようにすること
もう一つは
- 『ダブリング・ダブルトラック』的な効果
を生み出すことが考えられます。
「ダブリング」とは
ジョンレノンが生み出したと言われる録音手法で、録音した同じ2つの音声を重ねてほんの若干ずらすことで、独特の音色(厚みやウェット感などリバーブに近い音色)を生み出す手法です。
当然、ライブでも重ねることで音の厚みが生まれ独特の音色が生まれます。
おそらく音楽番組やライブなどではこの「口パク」と「被せ」という技法が使われています。
口パクをする理由
口パクをおこなう理由は様々なものが考えられます。
- 激しいダンスがある
- 喉の調子が悪い
- 機材や予算の都合・機材の不調
- 歌唱に不安がある
など様々な理由でしょう。
僕は全然ありだと思っています。
人間だから調子の良い悪いは必ずありますし。
仮に歌が苦手で口パクをしていたとしても、その人はおそらくそこにいるだけ・動くだけで人を魅了できる、価値を生み出すことができる存在なのですから何も問題はない。
『聴かせる音楽』ももちろん重要だと思いますが、『魅せる音楽』もあっていいと思います。
でも、聴き分ける力は確実にあった方がいいはず。
そんな口パクを見分ける方法について紹介します。
『口パク』を見分ける方法
ハ行・サ行・ザ行・タ行・カ行の鳴り方
マイクを使って生で歌っているのと、録音を流しているのでわかりやすいのはこの「ハ行・サ行・ザ行・タ行・カ行」の鳴り方です(*わかりやすい順)。
マイクを使って生で歌う場合、これらの子音の立ち方というか、鳴り方というのはおそらく人間である限りは一定にコントロールできません。
もちろんマイクはこれらの子音の鳴りを軽減するために「ヘッドケース」や「ポップフィルター」という部分があるのですが、生で歌うとどうしてもこれらの子音は強く出たりします。
具体的にどうなるのか
ハ行は吐息の鳴り「ボファ」っとした鳴りが入ります。
サ行・ザ行・タ行・カ行は「ツン」とした子音の鳴りが入ります。特に「シ・ジ・チ・キ」の発音は子音の成分を多くマイクが拾うため「ツン」とした鳴りが強調されます。
この子音の鳴り方の音圧を”一定にする”ということは人間にはできないでしょう。
どれだけ平坦に歌ってもこれらの子音は際立ちます。「ツン」とします。
少なくともその子音の音圧に凸凹感があり、一定ではないです。
これらの子音は他の発音に比べて音圧が上がりやすいのですね。波形にするとクリップしやすい部分です。
録音音声はこのようなノイズに近い音は目立たないようにします。
もちろん録音音声の中にもダイナミクスはあるのですが、生歌はもっと凸凹です。
なのでこれらの子音の凸凹感をよく聴くとほとんどわかると思います。
『マイキング』による音圧差
生歌で歌っている人は口からマイクを離す人も多いです(近づけたり、離したりして声量をコントロールする)。
このようなマイク操作をマイキングと言ったりします。
このマイキングによる音圧差の有無でわかる場合もあるでしょう。
ただし、口パクをしている場合、基本的にマイクと口の距離をかなり近づけます(バレないように)ので、マイキングによる音圧差そのものがわからないこともあります。
でも、生歌で歌っていれば、口を近づけたぶんだけ先ほどの『子音が際立つ』のです。
ラッパーの方などはマイクを口にすごく近づけるので、いい意味でボファボファしてますよね。
ちなみに、時々口パクじゃないことを証明するためにマイクを振ったり、マイクを離してあえて歌わなかったりすることもみかけたりしますが、あれはどうなんでしょうね。
シンガー自身もリスナーも、誰一人得してないような気もしますが。笑
マイクをどうこうするより、表現・フェイク・アドリブ・グルーヴで変化をつけた方が断然良い気が、、、。
- 『マイクを離す=声が入ってない=原曲と違う=口パクでないことの証明』にはならない
ですよね。
その他フレーズの音圧差
その他フレーズの音圧の差でわかることもあります。
先ほども言いましたが、生歌はどんなに上手い人でも凸凹します。
むしろ凸凹が生歌の良さですよね。
ところが録音音声は音圧が生歌と比較するとかなり一定です。
もちろん録音音声の中にも音圧差があるのですが、生歌はそれ以上に凸凹します。
何を言っているのかわかりにくい
良いのか悪いのか微妙なところですが、生歌はやはりいい意味で何を言っているのかわからない時があります。
それは音圧によるものなのか、発音によるものなのか、原因は様々でしょうがそれが生歌の良さですね。
テレビなどは歌詞のテロップがついているので無意識にそれを”歌とリンクさせて読んでしまう”のですが、あえて歌詞テロップを視界から隠してみるとわかりやすいかもしれません。
ブレス
先ほどの「ハ行」にもつながるのですが、ブレス音が不自然な形で入って入れば生歌の可能性が高くなるでしょう(もちろん口と合っていることは前提ですが)。
ただ、ブレスのあり・なしだけでは口パクと決めつけることはできません。
マイクが空気感を捉えておらず音楽に埋まっている
生歌の場合、マイクが周辺の何らかの空気感(音)を捉えています。
例えば、マイクから1メートルくらい離れた位置で大声を発してもマイクはその音を捉えています。
ということはその周りにある音(演奏)を小さいながらも捉えているはずなのです。もちろん演奏は一緒に鳴っているので埋れて聴こえないにしても、先ほどの発音の凸凹や吐息などは生歌特有の空気感です。
ところが口パクの場合とても綺麗に音楽に埋まっています(音源としてはとても良い)。
言葉のタイミングが良すぎる
「言葉のタイミングが良すぎる/揃いすぎている」と音源である確率が高いかもしれません。
生歌はどれだけリズム感のある達人でもわずかなズレがあります。
人間なので。
そのほんの少しのズレが音楽としてのグルーヴを生み出していますし、リズム感がいい人ほど、そのときそのときのリズムの乗り方が違うのが最大の楽しみの一つでもあります。
フレーズの語尾が整いすぎている
『フレーズの語尾』はどんなに上手い人でも、一定のニュアンスを出すのは難しいです。
ポップスの場合、全てのフレーズの伸ばす拍数や収束感・ビブラートまで決めてその通り完璧に実行している人はほぼいないでしょう。
語尾はその場の空気感で長く伸ばしたり・短く切ったり、跳ね上げたり・フォールさせたり、最も歌のニュアンスが出る部分です。上手い人はフェイク・アドリブを入れたりもしますね。
この語尾に着目するのも結構わかりやすいです。
オートチューンがかかっている
Auto Tune、ピッチ補正のことです。
オートチューンは上手い人が深くかけて使うと音楽的な表現技法(音色変化)として成立するのですが、それ以外の用途で使っているオートチューンは不自然に聴こえますね。
オートチューンは不自然に音階にハマりますからすぐにわかります。楽曲のキーに音程が吸い込まれるような感じです。また、逆に”あえて音程を外す”こともできます。
しかし、耳が良くないと、意外と聴き分けるのが難しいです。
オートチューンがどんなものかわからない人はどうぞ↓
しっかりとかけたものはわかりやすいですが、あっさりとかけたものは結構自然な仕上がりになってますよね。
ものすごく下手に歌ってもそれらしくできるという、、もはや何でもできる時代です。
生歌にオートチューンをかける場合ももちろんあります(それはそれで議論を生んでいるのでしょう)。
まぁ生歌にオートチューンって事故る危険性もある↓
まぁでもこれは今後どんどん精度が上がって増えるのかもしれませんね。
少し話が逸れてしまいましたが、事前に録音した音源による口パクであればほんのりオートチューンがかかっていても不思議はないですし、そういうものがあるのはこの耳で確認済みです(*稀にしか見たことはないですが)。
音源・音・口の動き・喉の動き
これは誰でもわかるでしょうから最後に。
当たり前ですが、
- 音が音源と同じかどうか
- 口の動きと音は合っているのかどうか
- 喉は動いているかどうか
ですね。
この項目を前提に上記のいくつかの項目を見ていけばわかると思います。
まとめ
何度も言いますが、口パクは悪いものではないと思います。
口パクをしなければいけない時もあるでしょうし、口パクをすることで生み出せる魅力もあるはずなのです。いろいろな魅せ方があっていいはず。
ただ、聴き分ける耳を持つことは損ではないですね。
そういう耳を持つと音楽をより深く味わえますし、仮に自分の好きな音楽が口パクであっても変なモヤモヤもなく素直に音楽を楽しめると思います。
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ボーカリストは知っておくべき『Auto Tune』問題
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