ボイトレの目的には大きく分けて二つの方向性があると思います。
そしてその二つの道は直線として繋がらない可能性があるので、そういう点を考慮してトレーニングすべきだろうというお話です。
二つの方向性とは
- プロの歌唱力を得る道
- カラオケスターの歌唱力を得る道
この二つです。
「え?同じ道じゃないの?」と思うでしょう。
僕も昔はそう思っていました。
しかし、実は違う道です。
- 『人を魅了するような歌・アカペラで歌えば楽器のように聞こえる声・感動させる歌唱力』みたいなものを手にする道を”プロの道”
- 『とりあえずどんな歌でも低音から高音まで好きなように歌える』みたいな道が”カラオケスターの道”
とでもしましょう。
そうすると、この二つの目標は分けて考えるべきだと思います。
普通はこう考える。
一本の道になっていると。
確かにこういう場合もありうるとは思います。
でも、おそらくこういう辿り方をする人はそう多くはないでしょう。
特に近年、世の中に普及しているボイトレは色々な情報がごちゃごちゃになっています。
そして、色々なニーズがありますから一つの情報に対してその全てのニーズを捉えきれない。
実際は、
このように”最初から”道は分岐していると考えた方が、自分に合うニーズを捉えられると思います。
なぜこのようなことが起こるのかというと、この二つの道は
- 優先すべきことが違う
- 常識が違う
からです。
二つの道の違い
【カラオケスターの目標】
- 低音域から高音域まで自由に歌える
- あのシンガーと同じように歌える
- 色々な曲を不自由なく歌える
みたいな感じでしょう。
【常識】
- 高音は鍛えればどこまででも出る
- 声質や声色は努力次第で変えられる
みたいな感じでしょう。
では、プロはどうなのか?
【プロレベルの目標】
- 自分が魅力的に歌える範囲の音域を極める
- 自分だけの最高の音色の発声を見つける
- 基本的に自分の曲だけ歌えればいい
という感じでしょう。
【常識】
- 自分のもともと持っている声帯の音域からは逃れられない(例*魅力的な高い声はどこまでも出ない。など)
- 声質や声色は変えるよりも最大限活かした方が魅力的
みたいな感じでしょう。
まぁざっと書き上げてみましたが、大分違いますよね。
この二つの方向性をざっくりとまとめると、
こんな感じでしょう。
要は、
- 誰かに近づける道を選ぶのか(おそらく超えることはない)
- 自分を最大限活かす道を選ぶのか
という違いでしょう。
プロシンガーって「制約を受け入れた分だけ強い(魅力的)」です。
まさに『制約と誓約』ですよ(わかる人はわかる)。笑
逆にカラオケスターへの道はある種の『ドリーマー』なので、基本的に「練習すればどこまでも行ける」的な感じです。
まぁ確かに、
- 練習すればどこまでも高音は出せる
- 声質や声色も努力次第で変えられる
かもしれませんし、それを否定はしませんが、全部に(*魅力度は考慮に入れない)という言葉を付け加えるべきだと思います。
まぁつまり、制約を受け入れてない分だけ、弱い(魅力的でない)んです。
もともと持っているものを活かした人(長所を伸ばした人)と持っているものに逆らった人(短所を埋めようとした人)のどちらが優れているかなんて、言わずもがなですよね。
ある意味では器用貧乏みたいな感じになると思います。
カラオケスター↓
プロシンガー↓
まぁ適当ですが、こんな感じでしょう。
こういう図で表現してしまうと、「努力量でカバーすればいいのでは?」と思うでしょう。
その考えこそが『ドリーマー』と考えるべきかと。
考え方として、
- ある項目を削るとある項目の上限が伸びる
と考えるべき。
- 削る項目は『自分の声帯に合わないもの』
- 伸びる項目は『魅力度・質』
です。
まぁこれは歌に限らずスポーツでもなんでもそうですよね。
自分に合ったものを最大限活かした人が強い。
道が違えば練習が違う
カラオケスターになりたい初心者が歌を始める場合は、
- 発声の質にあまりこだわらず、自由に低音から高音まで歌えるようになるための練習
をすべきですし、それをすることが最短のルートだと思います。
とにかく低音域から高音域まで自由に歌えることを目標にしたトレーニングになるでしょう。こういうニーズも普通にありますし、それも音楽です。
プロのように歌いたい初心者が歌を始める場合は、
- 発声の質にこだわって練習しなければいけないので、コツコツとした道になりすぐに歌いたい歌は歌えない・もしくはその曲を歌うのはキーが合ってないので諦めたり、自分に合うキーに設定し直したり、なんてことも必要になる
と思います。
場合によっては全然楽しい道ではないでしょう。
ただし、訓練を続ければ発声の質を正しく保ち、人の心を掴む歌が歌えることでしょうし、アカペラで歌っても楽器のように美しく鳴るのでしょう。
世のボイトレにはこの2種類の目的がごちゃごちゃになっている
よくボイストレーナーが言う、
- 『〇〇は間違っている』
- 『正しい〇〇』
とかありますよね。
あれって効果の面での正しいや間違いもあるとは思うのですが、今回のお話である『道の違い』による正しいや間違いもあると考えています。
つまり、
- プロのように歌いたければ間違いの情報でも、自由に歌えるようになりたければ正しい情報とも言えることもある
でしょう。
- 『目標の違いが生み出す情報の正誤』
ですね。
例えば『リップロール』とかはそうかもしれませんね。
リップロールは自由に歌えるようになるには非常に有効ですが、感動や質を求める人は取扱い注意(ダメとは言ってない)トレーニングだと個人的には思っています。
もちろん逆のようなトレーニングもあるでしょう。
ただ自由に歌いたいだけの人に「倍音がないよ。発声の質が悪いよ。まずは基礎からしっかり固めるトレーニングだ。」みたいなのってニーズを捉えてないですよね。
その人はきっとこう思うはずです。
「この練習全然効果出ないじゃん=間違ったトレーニングだ」
と。
実際はそうではなく、継続すると最終的には魅力的な質へとつながるトレーニングなのかもしれません。
世に溢れているボイストレーニング情報はこの『道の違い・目標の違い・ニーズの違い』がごちゃ混ぜになっています。
このサイトも例外ではありません。笑
なので、この目指す道の違いによる情報の良し悪しを見極める力も時には必要でしょう。