今回は、『歌うときの姿勢』についての内容です。
「歌うとき、どんな姿勢をとったら声が出しやすくなるか?」というお話ですが、先に結論を述べておきますと、
- クラシック(マイクなしを前提とした歌唱方法)であれば、「アゴ」と「胸」に気をつけた姿勢を取ることが、基本的な正解。
- ポップス(マイクありの歌唱方法)であれば、そこまで過度に姿勢にこだわる必要はない。
- ただし、これらはあくまでも傾向であって、自分にとって一番声が出しやすい姿勢が、真の正解の姿勢になる。
という内容です。
歌うときの姿勢について
まず、歌うときの姿勢は
- クラシック(マイクなしが前提)の発声であれば、『姿勢にこだわるのも重要』
- ポップス(マイクありが前提)の発声であれば、『姿勢はそんなに気にしなくてもよい』
というスタンスを取るといいかと。
これは、色々なシンガーの歌っている姿を観察すると、何となく理解できるかと思います。
クラシックとポップスそれぞれ掘り下げていきます。
クラシックの姿勢は、「アゴ」と「胸」がポイント
クラシックにおいて、「姿勢を良くする」という言葉は、
- 『アゴを引く』
- 『胸を張る』
という二つの動作を取ることで、発声しやすい状態を作っています。
アゴを引こうとすれば勝手に胸が張りますし、胸を張ろうとすれば自然とアゴが引きますから、二つの動作はつながっているものとも言えます。
これを理解した上で、クラシックシンガーを観察すると、アゴを引いたような姿勢をとっているのがわかると思います↓
では、なぜクラシックではこの姿勢をとるのか?
それは、
- 喉仏を下げるため
- 息をたくさん吸えるようにするため
という二つの目的が考えられます。
⑴喉仏を下げるため
これは試してみるとわかるのですが、
- 「アゴを引いて声を出す」
- 「アゴを突き出して声を出す」
では、引いた方が喉仏が下がると思います。
喉仏が下がるということは、咽頭(腔)共鳴が広がることになります。
つまり、この共鳴が広がると太い音色、下方向へ響くような音色の声になります。
そして、オペラなどのクラシックは、マイクがない時代からの発声方法なので、この共鳴が必須です。
その体だけで会場に声を届けるには大きな声量が必要になります。そして、大きな声量を生み出すには共鳴を最大限に活用しなければいけないので、『喉仏を下げる(咽頭共鳴を最大化させる)』という行動を取っているのですね。
つまり、
- 喉仏を下げやすい姿勢を取るために「アゴを引く」
ということです。
逆に『喉仏を下げようとすると、自然とアゴを引く動きになる』とも言えると思います。
⑵息をたくさん吸えるようにするため
先ほども言ったように、クラシックは体一つで大きな声量を出さなければいけない歌唱方法です。
そのため、たくさんの息の量が必要になります。
つまり、『たくさんの息を吸う必要がある』のですね。
そして、たくさんの息を吸うためには、肺に空気が一番入りやすい姿勢を取る必要があります。
試してみるとわかると思いますが、
- しっかりと胸を張った姿勢
- 背中を丸めて猫背になった姿勢
で息を吸うと、前者の方が圧倒的に吸いやすいはずです。
つまり、胸を張ることで息が吸いやすくなるので、胸を張った姿勢が必要になるということです。
支え
クラシックでは、「腹圧を保つ・支え・アッポッジョ」と呼ばれる技法が使われることがあります(*流派によって違う)。
これは、すごく簡単に言えば「お腹をなるべく膨らませたまま発声する」ということです。つまり、吸うときも吐くとくもお腹が膨らんでいるのですね。
もちろん、息を吐けばお腹は凹んでいくのが普通なので、あくまでも「なるべくその状態を保つもの」です。
これをすることで、
- たくさんの息を吸いやすくなる
- 喉周りの力みを取り除く(喉仏を下げやすくなる)
というメリットが生まれるのですね。
詳しくは、ここでは省略します。
-
声の「支え」について【”腹圧”と横隔膜の動きが重要】
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つまり、腹圧を保ちやすくするためにも胸を張ることが必要とも言えます。
腹圧を保つのは、流派によってやったりやらなかったりしますが、どちらにしても呼吸量をしっかりと確保するために胸を張る必要があるのですね。
ただし、「アゴを引きすぎる」「胸を張りすぎる」のように何事もやり過ぎはよくないので、その点は各自の調節が必要です。
他の動作も、ほとんどは「アゴ」と「胸」につながる
「アゴを引くこと」「胸を張ること」の目的について述べましたが、姿勢で語られることは他にも色々ありますよね。
例えば、
- 足は肩幅
- 手は『横or後ろで組む』
などがあります。
ただ、これらも結局は「アゴ」と「胸」につながるものと考えられます。というのも、これらの動作は直接的に声に影響しているものとは言えないからです。
実際に試してみるとわかると思うのですが、足を肩幅に広げようが閉じようが、手をどこに置いていようが声自体には何の影響もないと思います。
しかし、例えば、
- 手を前で組むと、「アゴ」が前に出やすく「胸」が引っ込みやすくなる可能性がある。なので、手は横か後ろにおいて置くことで悪い方へ行くことを防ぐことができる。
- 足を完全に閉じていたり、足を大きく広げすぎたりしていると体がフラフラしてしまうので、結果的に「アゴ」や「胸」が動きやすくなる。だから、足は肩幅くらいがちょうど良くなる。
というように、間接的に「アゴ」や「胸」に繋がっていると考えられます。
なので、姿勢のポイントは「アゴ」と「胸」にだけ着目しておけば、その他の部位は自然とそれに合わせた形を取ることができるはずです。
ポップスは姿勢にこだわらなくてもいい
上記までのように、クラシックにおいては、
- 喉仏を下げて咽頭共鳴をしっかり作り、『声量を最大化させる』
- 息をたくさん吸えるようにして、『声量を最大化させる』
という部分が理由で、しっかりと姿勢にこだわる必要があります。
そして、『声量を最大化させる』理由は、マイクなしが前提だからですね。
ということは、ポップスはマイクがあるので、姿勢にこだわる必要性が薄くなるということになります。
ピアノで弾き語りするシンガーだと、ほとんどの場合猫背になっていますし、踊りながら歌うシンガーは一定の姿勢を保っていません。
歌えるのであれば、ブリッジして反り返っても問題はないのです。
なので、基本的に「ポップスは姿勢にそこまでこだわらなくていい」という結論になります。
もちろん、ポップスの人でもクラシックと同じメリットを得たい場合は、姿勢にこだわってもいいと思うのですが、その必要性はないことの方が多いでしょう。
結局、最適な姿勢は人それぞれ違う
一旦これまでの内容をまとめると、
- クラシックは「アゴ」を引き、「胸」を張るような姿勢を取ることで、歌唱上のメリットが大きくなる可能性が高い
- ポップスは、特に姿勢にこだわらなくても問題はない
ということになります。
しかし、これはあくまでも傾向のお話であり、絶対的な答えではありません。
ポップスにしても、クラシックにしても、行き着くところの答えは、
- 自分が一番声を出しやすい姿勢を取ること
になるでしょう。
例えば、クラシックでも姿勢なんて気にしなくていい人や、猫背気味な方が声が出しやすい人もいるかもしれませんし、ポップスでも姿勢をきっちりと固めないといい声が出せないという人もいるでしょう。
体の作りや骨格など、人それぞれ全く同じではないので、必然的にいい声を出せる姿勢も人それぞれ違ってくるのですね。
つまり、自分が一番いい声を出せる姿勢が正解の姿勢であり、全ての人に当てはまる絶対的な答え(「〇〇な姿勢が正解」など)はないということになります。
そして、最終的には「自分が一番いい声を出せる姿勢」を、自分で見つけなければいけないということですね。