この記事は
- 高い声を出すために必要な4つの動作(要素)とその鍛え方について
- 高音を鍛える時の注意点や考えるべきこと
という内容です。
目次
高い声が出る仕組み
まずは高い声が出る仕組みの概要についてまとめます。
「声」は声帯が振動することで生まれる音です。
そして音程とは1秒間あたりの空気の振動回数(Hz・ヘルツ)によって決まります。
例えば、
440Hz(ラの音=A4)は1秒間に440回の空気振動をしている音ということ。
ということは『声帯の振動回数を増やすと高い声が出る』と考えることができます。
そして、声帯の振動回数を増やすための動き(要素)は
- 声帯を伸ばす
- 息を強く吐く
- 声帯を薄く使う( 裏声)
- 喉を締める(*歌唱上正解ではないことも多いが、必ずしも不正解とも言えない。)
という4つです。
つまり、この4つのいづれか、もしくは複数の条件を揃えることで高音発声ができるということになるので鍛えるべきものもこの4つに絞られる。
基本的には①と②が中心、③は表現やニーズに合わせて、④はハードロックやメタル系などのニーズに合わせてという感じでしょう。
①声帯を伸ばす
声帯の振動回数を増やすためにメインの動きとも言えるのが声帯が伸びる動きです。
例えば、
緩い状態の輪ゴムを弾いた時と、ピンと張った時の輪ゴムを弾いた時では後者の方が1秒あたりの振動回数が増えて高音になるようなイメージです。
例えば、
- 自分が楽に出せる声を出す「あーー」
- その後、少し音程を上げてみる「あーー⤴︎ーー」
感覚的には感じにくいですが、この時声帯は「伸びる」という動きをしています。
この伸びる動きの能力が高音発声の主役です。
声帯を伸ばす能力を鍛える
声帯を伸ばす能力は当然ながら「声帯が縮んでいる状態から声帯を伸ばそうとする」ことで鍛えられると考えられます。
これは厳密には「”輪状甲状筋”という筋肉が働くことにより声帯が引き伸ばされる」という動作です。
輪状甲状筋↓
もちろん、この輪状甲状筋もその動きを認識するのはほぼ不可能でしょう。
「輪状甲状筋が動いてるなぁ」と感じられる人はまずいないはず。
これは音程を上げようとしたときに勝手に働いているものなので、シンプルに「音程を上げる動作をすればいい」と考えておいていいと思います(*「喉を締める」という動作にならないように注意する必要があります)。
この能力を鍛えるには様々なトレーニング方法がありすぎますのでシンプルで一番おすすめなものを一つ。
トレーニング
シンプルでおすすめなのが地声の低音域〜裏声の高音域までを
- 「あ⤴︎(地声)ーーーア⤴︎(裏声)ーーー」
のようにだんだんと音程を上げて発声するトレーニングです(*裏声が出ない場合は地声で無理のない範囲まで)。
なるべく力が入らないように楽な状態で喉が締まらないように音程を上げ、声帯を伸ばすストレッチをするようなイメージを意識するといいでしょう。
いきなり劇的な効果は現れないですが、継続するうちにコツコツと声帯を伸ばす能力がついてくるでしょう。
筋トレやストレッチみたいなもので、少しづつゆっくりと成長させていくイメージです。
声帯も股関節みたいなもので、急には柔らかくならないですからコツコツと進めるのが大事だと考えられます。
音域をコツコツと開発するトレーニングはこちらにまとめています↓
-
-
地声の高音域を広げる方法【結局、地道なトレーニングが一番いい】
続きを見る
②息を強く吐く
声帯の振動回数を増やすには『息の力を強める』ことも関係しています。
試しに、音程は意識せずに
- ため息をつくように「はぁ」と声を出す
- 空手家のように全力で息の勢いをつけて「はっ!」と声を出す
すると後者の方が音程が高い声が出るはずです。
例えば、多くの人が「くしゃみ」をするとき音程が高音になることがほとんどでしょう。これは”くしゃみ”という動作が「息を強い勢いで吐き出す動作だから」ですね。
つまり、『息を強めると高音になる』。
もちろん声帯は機械のように固定できるものではないので、厳密には息の力が強くなると声帯がそれを支えようとして自然と声帯が伸びる動きをし、その結果として高音になるということでもあるのですが。
この「息があっての声帯の動きがある」ということを意識しておくことが大事だと考えらます。
例えば、
自分が出せる範囲での高音を”できる限り最小の息で出そうとする”と、喉が締まる動き・感覚がすると思います。同じ音で”先ほどの空手家のイメージで息の勢いをつけて声を出そうとする”と、喉が開く動き・感覚がすると思います。
このようにある高音に対しての声帯の動きは息の力の度合いによって同じ音であっても全く違う動きをします。
息の力に合わせて声帯は自然動きを変えているのですね。
つまり、
『”息の力”と”声帯の動き”という二つの要素によって声の音程は決まっている』とも言えます。
なので、息の能力を高めることが高い声に繋がります。
息の能力を鍛える
これは「息を吐く力」「息を吸う力」「横隔膜の柔軟性」を鍛えること。
こちらも色々な鍛え方があるのですが、
- ドッグブレス
- 「スー」「ズー」トレーニング
- パワーブリーズを活用する
などがおすすめです。
息の能力もすぐに劇的に成長するものではないので長期的にコツコツと継続する必要があります。
また、息を鍛える上で一番重要なのが『声帯との連動性』を意識しておくことです。
これを意識しておかないと、息のトレーニングは無駄に終わる可能性もあります。
先ほども述べましたが、「息が声帯を活かしており、声帯が息を活かしている」ので両方を連動させることが高音発声はもちろんそれ以外においても重要になってくるのですね。
-
-
息に声を乗せる【”息の重要性”と声帯との連動性について】
続きを見る
③声帯を薄く使う(裏声)
声帯とは上から見て伸びたり縮んだりという動きをしますが、断面で見ると『厚くなったり、薄くなったり』という動きをします。
基本的には伸びるほど薄くなり縮むほどに厚くなる。
*あくまでも”基本的な動き”です。
ここで重要なのが『声帯には二つの厚みのモードがある』ということ。
それが『地声』と『裏声』です。
- 地声は「声帯筋」という部分が振動する。
- 裏声は「声帯筋」という部分が活動を停止して、それを覆う靭帯や上皮部分のみが振動する。
断面の動き↓
裏声(ファルセット)は地声と比較して薄い皮のようなものが振動していると考えることができます。
-
-
声が裏返る仕組みと原因について
続きを見る
その他の条件が同じで「分厚い肉を振動させる(地声)」のと「薄い皮を振動させる(裏声)」のではどちらが振動回数が多くなるかを考えると、当然後者です。
裏声の音が高くなる原理はこれです。
つまり、高音を出すには『声帯の使い方のモード(声区)を切り替える』『裏声を使う』というのも一つの手です。
最近では日本に限らず世界的に「高音域は裏声をメインに使う」というのが主流の一つになってきていますので、ここを徹底的に鍛えるのも選択肢の一つです。
裏声を鍛える
裏声を鍛えるにはとにかく裏声をたくさん使うこと。これに尽きるでしょう。
また、裏声が出せない場合はまず出せるようにしてそこから鍛えましょう。
低音域から高音域まで裏声を使いこなせるようになると表現の幅が広がるはずです。
-
-
裏声(ファルセット)の音域を広げるトレーニング方法について
続きを見る
④喉を締める
この動きは基本的には非推奨ですが、歌において使えるかどうかは一旦置いておいて「喉を締める」ということも高い声を出す方法の一つになり得る。
もし、これまでの3つの項目「声帯を伸ばす」「息を強める」「声区を移行する」が動かせないものであるという条件であれば、『声帯が硬直する』ことで音程を上げることができます。
例えば、
出しやすい音程で「あーー」と発し、その声を出しながら喉を締めていくと自然と音程が上がるはず。
喉を締めると声帯が硬く固定され振動数が速くなるので音程が高くなります。
高い声が苦手な人は高い声を出そうとすると自然とこうなってしまう(喉締め発声)という人も多いでしょう。
もちろん、どんな熟練者であっても限界を超える高音になればなるほど喉は締まっていくでしょう。
喉締め発声は『声帯を伸ばせる限界を超えた高音を出そうとすると、高音にするために喉が締まって声帯を硬直させてでも高音を出そうとするもの』とも言えるのでしょう。
悪い発声として「喉締め発声」というものが語られるように、喉を締めるという動作は基本的にはあまりいいものではない。
しかし、必ずしも悪いものとも限らない場合も普通にありますし、ハードロックやメタル系のジャンルでは鋭い超高音発声なども必要だったりするのである程度こういう動きの力を借りる発声が必要になってくるのかもしれません。
なので、あくまでも非推奨だがどうしても必要な場合のみ検討するという感じがいいと思います。
喉締めを飼いならす
「喉を締めるような動き」「固めるような動き」という”基本的にはマイナス要素”なので、これらを上手く飼いならすようなトレーニングをすることになるでしょう。
トレーニング方法としておすすめなのは「ネイ」「ヤイ」トレーニング。
このトレーニングは「ネイネイ」「ヤイヤイ」などの発声で強い鳴りを作りながら喉や舌の緊張をほぐしていくものですが、このトレーニングなら多少締めるような発声もコントロールしやすくなるでしょう。
-
-
ハイトーンボイスの出し方について
続きを見る
高音を鍛える時の注意点や頭に入れておくべきこと
①声変わりの時期は注意
変声期を終えた方にはあまり関係ないのですが、
- 『声変わり中は無理をしない』
- 『声変わりをまず綺麗に無事に終わらせる』
ということが実は非常に重要だと考えられます。
そもそも声変わり中は声帯が大きく変化している最中なので、そもそも高い声が出しづらい時期です。にも関わらず(だからこそ?)高い声に一番憧れる時期でもあるでしょうが、これが厄介。
声変わりは基本的には男性の方が変化が大きいですが、女性でもある程度基本の音程は下がります(*個人差はある)。
ココがポイント
”音程が下がる”という声帯の成長をしている最中に高い声を出すトレーニングをしても思ったような効果は出ないでしょうし、効果が出たとしても変な発声のクセを身につけてしまう可能性も高くなりますし、さらに成長中の声帯についたクセはなかなか抜けないかもしれません。
『声変わり中に無理をするくらいなら、何もしない方が結果的に高音が出せるようになる』なんてこともあるのかもしれません(*一概には言えないでしょうが)。
なので、変声期中の場合は『無理をしない』ということを大前提により慎重に高音のトレーニングをしたり、息のトレーニングなどを中心に取り組むなどの工夫が必要でしょう。
-
-
声変わり(変声期)のボイストレーニングでの注意点や失敗
続きを見る
②高音発声の限界は人それぞれ決まっている
よく「高い声は鍛えれば出る」と言われますが、これはかなり言葉足らずな表現だと考えられます。
正確には
人それぞれ「機能的限界の高音域」と「魅力的限界の高音域」が持っている声帯(体)によって決まっており、その範囲までなら鍛えられる
というのが正しいと考えられます。
声帯の『機能的限界』とは
音の質などは一切気にせず、声帯という楽器によって生み出すことができる限界の高音です。
例えば、
現在ギネス記録に認定されている声における人類の最高音はE8(88鍵ピアノをはみ出す音)です↓
つまり、人類は今のところE8までが機能的限界の最高音ということになります。
もちろんこれはギネス記録なので、一般的には当てはまらないレベルの高音ですが、全ての人に『その声帯を使って生み出せる限界の最高音は決まっている』と言えます。
もちろん声帯は鍛えられるものではあるのです。
しかし例えば、筋トレで「胸筋が1cm厚くなる」は実現可能だが「胸筋が1m厚くなる」は基本実現不可能ですよね。
同じように声帯も鍛えられる範囲がある程度決まっているので機能的限界の最高音は存在すると考えることになります。
声帯の『魅力的限界』とは
『魅力的に鳴らせる範囲の最高音』のようなものです。
”機能的最高音”は「その声帯を使ってどこまでの高音を出せるのか」という、あくまで音色自体はどんな音でもいいという条件でのお話ですが、こちらは『音色の魅力』を考慮したものです。
歌においては音色の質(発声の質)が非常に重要で、単に高い声を出せればいいというものではないですよね。
つまり、美しく聴こえる・心地よく聴こえる音階を考慮した限界があるということ。
そして、こちらの限界は人によって(持っている声帯によって)かなり差が出ると考えられます。
基本的に
- 声が低い人・低い声帯を持つ人ほど魅力的最高音も低い
- 声が高い人・高い声帯を持つ人ほど魅力的最高音も高い
という傾向になる。
なので、高音に関して言えば「声が低い人ほど魅力的な高い声の限界は低い」と言えますし、「声が高い人ほど魅力的な高い声の限界は高い」と言えるでしょう(*あくまで基本的に。例外はある)。
個人個人の「声帯・喉の作り」は『生まれ持った楽器の性能』のようなもので鍛えて魅力的になる範囲はある程度決まっていると考えられます。
つまり、”逆らえないもの”。スポーツで言う「骨格」に近いかと。
「じゃあ、歌は高い声の人が有利なのか」というと、本質的にはそうでもないでしょう。
それは歌は高い音が「優」で、低い音が「劣」ではないから。
確かに”高音に関して”は高い声帯が有利ですが、低い声帯を持つ人は低い音域に魅力的な範囲が広い。
つまり、魅力的な”範囲の広さ(2〜3オクターブ)”は多くの人が大体同じくらいだが、声帯によってそれがズレている。
なぜ長い歴史を持つクラシック声楽が音域のタイプを「バス・バリトン・テノール・アルト・メゾソプラノ・ソプラノ」という6つに分けたのかというと、
- 鍛えればどうにかなるものでもないから
- 声帯のタイプに従った方が魅力的だから
でしょう。
『魅力的限界は声帯によって決まっている』ということを考慮した上で高音を鍛えることが重要。
-
-
『声帯のタイプ』と『魅力的な音域』の関係性について
続きを見る