今回は、「歌うときの舌の位置について」です。
先に結論を述べておくと、
- 歌うときの舌の最適な位置は”個人個人違う”ので、「正しい位置」を考えすぎなくていい
- 舌の動きに左右されない喉(声帯)を作ることが重要
という内容です。
目次
歌うときの舌の位置の正しいポジションは『人によって違う』
歌うときの舌の位置はどこがベストなのか?と考えることはあるでしょうが、
- 「舌の大きさ・長さ・厚さ」「骨格・歯・口の中の空間」は、人によって違う
- 発音・言語によって、舌の使い方が違う
という点を考慮すると、万人に当てはまる『正しい舌の位置』なんてものは存在しないとも言えます。
そして、自分にとって一番いい位置を探すことが正解とも言えるでしょう。
①「舌の大きさ・長さ・厚さ」「骨格・歯・口の中の空間」は人によって違う
- 舌の大きさ
- 舌の長さ
- 舌の厚さ
- 骨格
- 歯
- 口の中の空間
これらは人それぞれ違います。
横に広い舌を持つ人もいれば長い舌を持つ人、舌をMやWの形にできる人、鼻に舌先をつけることができる人など色々な人がいます。
当然、『歯並び・舌から歯までの距離・舌が収まる口の中の空間』の大きさも人それぞれです。
ということは、「正しい舌の位置は〇〇」と言ったところで、全ての人には当てはまらないのですね。
よくあるのが、
- 舌が上がってはいけない
- 舌を下げなさい
- 舌を凹ませよう
- あくびのような舌の位置を作ろう
- 口の奥の黒い空間が見えるように
などなどの教えですね。
これらは確かに当てはまる人もいるでしょうが、当てはまらない人もいます。
例えば、舌がものすごく大きくて、口の空間がものすごく小さい人がいたとしたら、その人は発声するだけで舌がせり上がっているように見えます。
この人に「舌が上がらないように!」とか言ってしまうと、酷ですね。無理に下げることで、その人にとっては不自然な状態となってしまいます。
つまり、
体や舌が人によって違うのですから、『最適な舌のポジションは人によって違う』と言えますし、自分が発声しやすい舌の位置を探すことが大事と言えます。
②発音・言語によって舌の使い方が違う
発音や言語によって、舌の使い方は違うので、一定の『正しい位置』というものは定めにくいです。
発音
よく「舌を上げてはいけない」と言われますが、舌を上げなければ発音できない発音はたくさん存在します。
例えば、『ヤ行』。
試しに鏡の前で、口の中を見ながら「ヤ」と発音してみてください。舌はこれでもかというくらいせり上がると思います。
ヤ行は、舌の奥の広い面を上あごにつけないと発音できないですから、舌は絶対に上がります。仮に「ヤ」だけの歌が存在するとしたら、その歌は大半の舌のポジションがダメだということになります。
それはおかしいですよね。
そもそも、歌の中では舌は休むことなく動いているので、その都度正しい位置というものを考えるのは、なかなか難しいのかもしれません。
言語
例えば、イタリア語などは舌の使い方に特徴がある言語です。
特に、日本語ではほぼ使われないような巻き舌も普通に使われます。
言語によって舌の使い方が違うということは、取るべき舌のポジション・多く出てくる舌の動きも言語によって違うと考えられますよね。
あらゆる言語で歌が上手い人はいますから、そういう点では「正しい舌の位置」を定めるのはおかしなことなのかもしれません。
舌の動きに左右されない喉(声帯)を作ることが重要
舌の位置の正解というのは、自分で探さなければいけないのですが、本質的には、
- 舌の位置のことを考えなくてもいいくらいの、喉(声帯)の能力を身につけることが大切だ
と考えておいた方がいいと思います。
普段話すときに、舌の位置なんて何も意識しないのと同じように、歌うときもほとんど舌に対する意識は必要ないのですね。
しかし、歌うときにそうはいかなくなるのは、歌における声帯の動きは普段の会話よりも高度な動きを要求されるからですね。
例えば、高音が苦手な人(声帯の柔軟性が低い人)は、高い声を出そうとすると舌がせり上がって(舌根が硬くなって)しまうことが多いです。
これは、声帯の能力だけでは高い声を出すことができないので、喉周りと舌が硬く緊張して、高い声を出すための手助けをしている状態です。
つまり、舌の硬直を引き起こしている原因は、声帯の能力不足です。
なので、その発声状態では舌を自由に動かせないでしょうし、無理に動かすと、サポートがなくなる分だけより高音が出しづらくなるでしょう。
しかし、高音が得意な人(声帯の柔軟性がある人)は、高い声を出すときに舌がせり上がったり、固まったりしません。
そして、舌を上げたり下げたりすることもある程度自由にできますし、それが発声に大きな影響を与えることはありません。
*もちろん、音域的限界は人それぞれにあるので、限界を越えればどんな一流シンガーでも舌は固まるでしょう。
つまり、声帯の能力が低い人は、声帯の動きに合わせて舌が動いてしまうために舌を意識してしまうと言えるでしょう。
ということは、正しい舌の位置を探るのではなく、舌を柔軟に動かせるくらい声帯を鍛える。ということが、本質をついた行動になると考えられます。
これを当サイトでは、「舌と声帯の動きを切り離す」と表現しています。
舌と声帯の動きを切り離す
実は、舌と声帯の動きを切り離すために、「正しい舌の位置」を指導することが役立つことがあります。
例えば、先ほどの高い声が苦手な人は、声帯の能力不足によって舌がせり上がって固まってしまうので、声帯を鍛えなければいけないということでしたね。
しかし、舌に力が入った状態(舌が声帯をサポートしている状態)で高い声を発声しても、効果的に声帯を鍛えられませんし、意識的のその動きを取り除かないと、いつまでも癖のように動いてしまいます。
なので、この人に「舌を下げなさい」などと指導することで、舌の補助を無くして声帯を効果的に鍛えられるようになると考えられます。当然、補助を無くすことでその時点では高い声はより出せなくなるのですが、その状態でトレーニングした方が、長期的に考えると良いトレーニングになるのですね。
舌と声帯の動きを切り離すトレーニングは、
- 巻き舌で発声する
- 舌を出したまま発声する
などがあります。
こういうトレーニングイメージです↓
確かに、自分に最適な舌の位置を考えることも重要なのですが、本質的には『舌が固まらなくてもいい声帯の能力を身につける』=『声帯と舌の動きを切り離す』ことが大事だと言えるでしょう。
舌のトレーニング
舌根と声帯を切り離すトレーニングについては、記事『舌根を柔らかくするトレーニング方法について』にも詳しく書いているので、こちらを参考にしてみてください。