今回は『主流な歌い方の変遷』についての研究です。
あくまで『主流な/人気な』という部分で、例外を探せばいつの時代もいくらでもいるというのは大前提でのお話です。
また、歌唱方法や発声を細かくみていくとキリがないのでざっくりとした流れのお話です。
目次
主流な歌い方の変遷
音楽の歴史が積み重ねられていく上で、歌における主流な歌い方は時代によって変化しています。
その理由は色々あるでしょうが、最も大きな要因は
- 文明・文化の変化。音楽の「聴き方」と「作り方」の変化。つまり「聴き手の音楽機器」と「作り手の音楽機器」の進化。
によるところが大きいでしょう。
今回はその理由をどうこう考えたいわけではないので、早速ですが本題へ。
発声・歌い方の傾向はすごくざっくり考えると、
- 歌い方の『熱量』が「高い」か「低い」か
という軸で考えることができると思います。
ここでの『熱量』とは「高音の頑張り具合」「声量の頑張り具合」のようなものです。
- 熱量=高音×声量
というイメージで、簡単に言えば『歌声のテンションの高さ』みたいなものだと捉えてください。
そうすると、
このように考えられるのではないかと(*都合よく10年区切りになるわけではないので、あくまでざっくりとした目安です)。
もちろん、主流だから良い・主流じゃないから悪いなどは一切ありません。
では、それぞれの年代について紐解いていきたいと思います。
*以下の2つの動画は音楽変遷がわかりやすいので参考までに↓
〜1920年辺り【クラシックスタイル・熱量高い】
マイクという機器が普及するまで、つまりポピュラーミュージックが普及するまでの時代。
当然、マイクがないことを前提とした歌唱方法が当時の主流だったと言えるでしょう↓
マイクがない状態でも聴く人に響き渡らせるため、『声量に特化しなければならない』=『熱量の高い歌唱方法』になるのですね。
厳密に言えば、このクラシックの歴史の中でも熱量が低いスタイルから熱量が高いスタイルへと変遷したという歴史がありますね。劇場が大型化していったことによる影響と言われています。細かいことは、ここでは省略します。
とにかくマイクなしを前提として大きな声量を生み出す歌唱スタイルが主流の歌い方と言える時代でしょう。
1920〜1950年辺り【熱量が低い】
この時代はカントリーミュージックやジャズなどの時代。
1920〜
この時代の発声方法はかなり落ち着いた温度感の発声が主流です↓
普通に話すくらいの温度感。
マイクがあるからこそこれくらいの熱量でも多くの人にその歌声を届けられるようになったとも言えますね。
ただし、マイクやそれに関する音響機器はまだまだ発展途上です。
つまり『マイクがあるからこそ、音が割れないように熱量の高い発声ができなかった』とも言えるのかもしれません。
〜1950
この時代付近で、いわゆる『ジャズっぽい歌い方・熱量』は完成したと言えるのかもしれません。
1950〜2000年辺り【熱量がどんどん上がる】
ここから熱量はどんどんと上がっていきます。
50年代
まず50年代から熱量高めの音楽、R&Bやロックンロールが流行していく↓
まだまだ、音割れするような音響ではありますが、この熱量の歌唱スタイルがこの後どんどん主流になっていくのですね。
60年代
60年代と言えば(*ポップ・ミュージックの祖)↓
この時代音響機器は凄まじく進化して、今だに「ビートルズが使っていた〇〇」のように言われますし、現代でも使われていたりしますね。
60年代、熱量はどんどん高まる(*ソウルミュージック)↓
今でも「ソウルミュージック」というジャンル=力強い・パワフルな歌唱スタイルというような熱量が高いイメージでしょう。
70年代
70年代くらいになると熱量は発声の力強さとともに、高音へと向かうジャンル(ハードロック)が現れる↓
こういうハードロックボーカリスト達が歌い方・歌唱方法というものにさらなる方向性を見出したとも言えるのかもしれません。
女性シンガーも明るく高めの発声へとだんだんと寄っていく↓
80年代
80年代も全体的な熱量は上がり続けたと言えるでしょう。
マイケル・ジャクソンとプリンスという二人の天才によって生み出された音楽は次世代に大きな影響をもたらしたと言われています。
この年代は歌唱方法も一つの極みというか、熱量の高さと美しさをギリギリまで総取りするような完成されたものとなっていく↓
女性も美しさとパワフルさを両取りするようなとんでもないシンガー達が現れる↓
現代においてもこういうスタイルは正解というかお手本の”一つ”となっているでしょう。
90年代
90年代辺りが発声の熱量のピークと言えたのかもしれません。
まずパンクロックらしい歌い方と言いますか、社会への反発感があり、”いい意味で”雑な歌唱スタイルもこの時代あたりでかなり普及していったと考えられます↓
90年代はボンジョビやメタリカやガンズ・アンド・ローゼズなど、80年代にピシッと完成されたものに対して壊すような音楽性というか、ロックっぽい音楽が暴れまわったような時代にも思えます(日本も同じような感じですね)。
とにかく発声の熱量は高く、とにかくパワフルに、とにかく高音へという時代のピークだったのかもしれませんね↓
2000〜2010年代前半辺り【温度感の停滞・下がる予兆】
明確に区切ることはできませんが、2010年代中盤辺りまでがこの流れと言えるのかもしれません。
この年代は発声の熱量の高まりがひと段落するというか、特別大きく下がるわけでもないが、それまでの流れとは違い上がることもないというイメージです。
まず、この年代からヒップホップが主流な音楽シーンに入り込んできますが、ラップもどちらかと言えば比較的温度感が高めで熱のあるラップが人気傾向だったのかもしれません↓
例えば、ロックでもファルセットを多く使うようになったり↓
パラフルには出すがそんなに高い音域にはいかなかったり↓
どこか温度感が下がるような予兆を感じる時代だったのではないでしょうか。
2010年代後半〜現在【熱量がどんどん下がる】
直近のお話なので気付きにくいですが、おそらく音楽史の中でもかなり大きな転換点になっているだろうと考えられます。
ここから急激に発声の温度感が下がります。
まずこの年代の最大の特徴はヒップホップ(ラップ)が世界の主流の音楽になったというのが大きなポイントでしょう。
温度感も落ち着いたラップがかなり増えました。
もしくは今まで埋もれていた『ラップスタイル』そのものが音楽の主流として受け入れられたと言えるのかもしれません。
女性シンガーのラップスタイルもどんどん増えていますね↓
もちろんヒップホップだけではなく、ポップス全体として発声の温度感が低い曲が人気になる↓
さらに裏声(ファルセット)をがっつり使うシンガーがものすごく増えます↓
このように高音は頑張らずにファルセットを使うスタイルがかなり増えたというものこの年代(現代)の最大の特徴ですね。この変化はすごくわかりやすく、日本でも同じ現象が起きていますね。
もちろんいつの時代もファルセットを使う人はいるのですが、全体的な頻度は今が一番多いのではないでしょうか。
そして、発声の温度感の低下の象徴のようなシンガーも現れています↓
この流れはまだまだ続いているので、これからはラップスタイル、もしくはラップに近いような温度感の低い発声が歌唱スタイルがどんどん主流になっていくのではないかと考えられます。
なので、海外ではよく「メロディーは死んだのか?」というのが議論になっていますね↓
個人的には「メロディーが死んだ」のではなく、「偉大な先人達のメロディーが生き続けている」からこそ新しい音楽の作り手はどんどんメロディを殺していかざるを得ないのだろうと考えています。
ちなみに”なぜここ10年で温度感の低下が起こったのか”という部分に関しても個人的な考えは一応いくつか持っているのですが、少し長くなるのでここでは省略します。
ただ、一番大きいものを一つ挙げると『スマホの普及』でしょう。
音楽は自由なので発声の熱量が「高いからいい」とか「低いからいい」などは一切ないですし、いつの時代でも色々な歌唱スタイル・歌い方があります。
ただ、時代によって主流な発声や歌い方は変化していて、今現在かなり大きな変化の中にいるのではないかというお話でした。