今回はこのサイトのテーマに沿うかは微妙な内容ですが、『ボーカルの加工・編集』という部分について触れておきます。
というのも、歌唱技術そのものには直接的に関係しないのですが、「ボーカルミックス・ミキシング」という部分をある程度理解しておくと「生歌」への理解が深まり、結果的に自分の歌唱力向上に繋げられる可能性が高まるとも考えられるからです。
目次
魅力的な「ボーカル」には魔法がかけられている
当たり前と言えば当たり前ですが、多くの人が聴いているボーカルの音声は『ミックス』『ミキシング』と呼ばれる作業によって、聴きやすくより良い音になるように加工・編集されています。
加工や補正などと言うと、なんだか悪いイメージを持つ場合もあるのかもしれませんが、基本的に音声を録音できるようになって以降は、いつの時代でも、その時代における最大限の技術を使ってより良い音になるよう加工されています。
ボーカルのお化粧と言いましょうか、写真を盛るみたいな感じで「音を盛る」または「整える」のですね。
こういうエンジニア(≒プロデューサー)によって、ボーカリストの歌声はいつの時代でも「その時代における最高の音」に加工されています。
もちろん「もともとのボーカルの音色=生歌」が重要なのは間違いないのですが、「ボーカルの盛り方=ミキシング」もまた同じくらいに重要なのですね。
料理に例えると、
- 「食材」が『生歌』
- 「調理方法」が『ミキシング』
みたいな感じででしょう。
つまり「生歌」と「ミキシング」の両方を合わせて『ボーカル』なのですね。
例えば、「80年代のシンガーの歌声が好き」「90年代が〜」などというような特定の時代のシンガーが好きという人もいたりすると思いますが、その歌声や歌い方が好きというよりも実はその時代に流行したミキシング、ボーカルによく使われた機器特有の音色が好きだったりするということもあると思います。
具体的に何をしているのか?
このボーカルの加工というのは具体的には、
- EQ(周波数調整)
- コンプレッサー(音圧圧縮)
- サチュレーター・エキサイター・ディストーションなど(倍音付加・歪み)
- リバーブ・ディレイ(残響・反響)
- ピッチ補正(*2000年頃から普及。)
などなど色々です(*人によって色々で決まりはない)。
ミキシングが「具体的に何をしているのか」についてボーカリストが細部まで細かく知っておかなければいけないということはないででしょうし、全くわからなくても問題ない人もいるでしょう。
しかし、感覚的にはある程度理解しておくことが重要だろうと考えられます。というのも、ボーカリストにできることは「生歌」の部分を磨き上げることだけだから。
そんなミキシングをざっくりと簡単に掘り下げます。
EQ(イコライザー・周波数調整)
音の周波数を整える作業です。
「声」にも色々な周波数帯の音があるので、それを整えることが必要になります。
こんな感じ(*再生位置〜)↓
声の嫌な成分を少なくしたり、逆に声の美味しい成分を大きくしたりするものだと考えればいいと思います。
主に歌声の聴きやすさの部分に関わってくるものですね。
コンプレッサー(音圧圧縮)
簡単に言えば、『音の大小の凸凹を整えるもの』です。
わかりやすく言えば「大きい声を小さくして、小さい声を大きくするもの」という感じ↓
人間の声は音量がすごく凸凹しているので、それを整えないと綺麗に聴こえないのですね。
このコンプレッサーはかけ方次第でボーカルの発声方法が変わったように聴こえることもあるので、ボーカリストは結構勉強したほうがいいのでしょうが、かなり奥が深いのが厄介。
さらに機器によって色々な特色があり、使う機器によってボーカルの音色の質感も微妙に変わります(*イヤホン推奨)↓
この微妙な違い。
こういう部分が音楽の一番面白いところであり、音楽の一番「沼」な部分でもあるのでしょう。
詳しく掘り下げると、それだけで記事が終わってしまいそうなので、ここでは省略します。
サチュレーター・エキサイター・ディストーションなど(倍音付加・歪み)
簡単に言えば、『音の質をがっつり変えるもの』という感じでしょう(*「がっつり変える」ものですが、ほんのり使うことが多いでしょう。料理で言う調味料みたいなイメージ)。
こんな感じ(*再生位置)↓
Bypass(スイッチOFF)からActive(スイッチON)になるとボーカルの質感が自然にいい感じになることがわかると思います。
これは音に倍音を付け加えているのですね(*こういう直接的なものだけでなく、先ほどのEQやコンプレッサーにも機器によって様々な倍音がついたりします。)
こういう音の質そのものを変えるものは、ほんのりしたものからがっつりしたものまで幅広いです。
例えば、ラジオっぽいようなレトロな感じがするシャリシャリとした歪みを作ったり↓
温かみがあるフツフツとしたジリジリ感を作ったり↓
リバーブ・ディレイ(残響・反響)
リバーブはカラオケで言う「エコー」みたいなものです。ディレイは「やまびこ」みたいなものです。
*再生位置〜イヤホンだとわかりやすい↓
実はミキシングの時代変遷で最も分かりやすいものの一つが、このリバーブだと思います。
すごく簡単に言えば、
- 1950年〜2000年くらいまでリバーブはどんどん濃くなる
- 2000年〜現在までリバーブはどんどん薄くなっている
という流れがあると思われます(*あくまでも傾向のお話)。
もちろん一言で「濃い」「薄い」では語れない部分があるのですが、細かいことは置いておき。
簡単に言えば、
- 90年代前後くらいにリバーブのひたひた感はピークになる
- 最近のリバーブはカラカラに乾いている
という感じかと。
リバーブひたひた時代↓
大きなホールで歌っているような感じで、ボーカルがひたひたに湿っているようなウェット感がありますね。
最近はカラカラです↓
乾ききっていますね。
このように最近はリバーブがカラカラだったり、かかっていても薄く透明なことが多いです。
また、個人的にはこの『リバーブの傾向』と『主流な歌唱スタイルの傾向』には一定の相関関係があるのではないかと思っています。
特に歌い方の熱量(高音・声量)の部分。
世界的に流行した歌唱スタイルの傾向の変化は、大体こんな感じだと思われます(*見方によって多少の誤差があるでしょう)。
そして、これとリバーブのウェット感・ドライ感の変遷が綺麗にマッチしているような気がします。
つまり、
- リバーブがウェットな時代ほど熱量が高い発声が流行る
- リバーブがドライな時代ほど熱量が低い発声が流行る
と言えるのかもしれません。
ピッチ補正(Auto tuneなど)
これはする人としない人がいるので、必ず行われるものではないです。
がっつりとかけるとエフェクトのようにも使えます↓
ナチュラルにかけたものは3:27〜。
ピッチ補正はよく議論になるのですが、個人的にはピッチ補正は悪いものだとは思いません。
ピッチ補正することで生まれる良さもあると思います。ただ、ピッチ補正しない良さもあるので両方に良さがあるかと。
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ボーカリストは知っておくべき『Auto Tune』問題
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【おまけ】ピッチシフター・フォルマント変化
最近ではピッチシフター(ピッチをがっつり変化させるもの)とかフォルマント(周波数の強弱変化)を変えるエフェクトプラグインがかなり綺麗です。
例えば、ピッチシフターでオクターブ上げると女の人の声っぽくなる↓
パチパチと切り替えていますが、もとのボーカルに対してかなり自然な感じでピッチがシフトしていますね。
もちろん、逆に女性ボーカルを男性ボーカルっぽくすることもできます。
こういうプラグイン、厳密にはまだ機械的な違和感はあると言えるでしょうがかなり綺麗ですし、そのうち違和感すらなくなるようなものが出てくるかもしれませんね。
こちらはフォルマントを変えて子供っぽい声を作っている(普通のボーカルは0:45〜)↓
ボーカルの音色の作り方は、時代ごとの機器によって進化していますね。
ミキシングから逆算して歌声を作る
最初の方で述べたように、
- 『ボーカル』=『生歌』+『ミキシング』
です。
ボーカリストはミキシングについて細かく考える必要はないでしょうが、それらを何となくでも理解しておけば、『生歌』の部分をどうすべきかというのがある程度導き出されるでしょう。
この部分は個人個人色々な答えがあるでしょうから、一概に「〇〇が正解」とは言えません。
ただ、
どんなボーカルでも大体共通するだろうというものを一つ挙げるとするのなら『マイク乗りの良い生歌を作る』
ということだと思います。
- マイクによく通る声=ミキシングしやすい声
と言えるかと。
まぁ「マイクによく通る歌声=単純にいい歌声」とも言えるのですが。
つまり、ミキシングから歌声を逆算すると「マイク乗りのいい声を身につける」というのが大事なポイントになってくるかもしれません。
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”マイク乗りのいい歌声”についての研究
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