今回は「歌うときの舌の位置について」です。
この記事は
- 歌うときの正しい舌の位置は人によって違う
- なぜ『正しい舌の位置』が教えられるのか?
- 正しい舌の位置が人によって違う理由
という内容です。
目次
歌うときの舌の位置の正しいポジションは『人によって違う』
先にこの記事の結論から述べておくと
- 歌うときの舌の最適な位置は”個人個人違う”
- そしてそれを見つけることよりも舌の動きの左右されない喉を作ることの方が重要
ということです。
これは言い方を変えると、
- 『”正しい”舌の位置なんて存在しない』
- 『舌の位置は上がってても下がってても、どっちでもいい』
とも言えるのかもしれません。
なので『舌の位置』にばかりこだわるのはもしかしたら意味がないかもしれませんね。
なぜ?
「なぜ舌の位置がどうでもいいのか?」というと、
- 発音・言語によって舌の使い方が違うから
- 「舌の大きさ・長さ・厚さ」「骨格・歯・口の中の空間」は人によって違うから
ということが考えられます。
これらの理由は後ほど掘り下げるのですが、その前にもう一つ考えておくべきことがあります。
それが
- 「なぜ正しい舌のポジションというものが語られるのか?」
です。
もっと言うと、
- 『なんのために舌の位置にこだわるのか』
という部分を理解しておくことが重要だと思います。
「正しい舌の位置」を教えられる理由
確かに舌の位置において”正しい”位置は存在しないと考えられるのですが、
- 『舌(舌根)が発声を邪魔する』
ことはあります。
なので、
- 舌が上がってはいけない
- 舌を下げなさい
- 舌を凹ませよう
- あくびのような舌の位置を作ろう
- 口の奥の黒い空間が見えるように
というようなことが言われますね。
「じゃあ、正しい位置あるじゃん!」と思うでしょうが、考えるべきポイントはそこではないと思います。
高音が苦手な人
例えば、高音が苦手な人の場合、舌が上がって(舌根が硬くなって)しまいます。
これは『舌根が発声を邪魔している』と言えますね。
ただ、厳密には『声帯を自由にコントロールできないので、舌根の力を借りて声帯をなんとかコントロールしようとしている状態』だと考えられます。
*さらに厳密には声帯周りが緊張することで舌根が硬くなるとも考えられる。
こういう状態の人の場合、必ず舌が上がってしまうので「舌を下げなさい」と教えるのですね。
まぁそういう点では舌を凹ませたり、舌を下げたり・引っぱったりすることは”練習において”は「正しい位置」と言えるのかもしれません。
でも言ってしまえば”少なくともその時点では”舌を下げたくらいじゃ高音は出ませんよね。
だって”舌の力が必要だから借りている”のであって、それを無くすともっと出なくなる可能性の方が高いです。
高音が得意で自由自在に発声できる人ならどうでしょう?
こういう人は舌根を固めないでも(舌根の助けを借りなくても)、声帯を自由にコントロールできます。
つまり、高音発声時に舌を上げても下げても同じように楽に発声できるので『舌の位置なんてどうでもいい』と考えられると思うのです。舌の位置がどうあろうと発声の質に大きな影響はないのですね(*もちろん上がっている場合と下がっている場合では音色の変化はあるでしょう)。
プロのシンガーの舌を観察すればわかりますが、上がっている人も下がっている人もいますよね。
つまり、高音が苦手な人などは
- 舌が上がっているからいい発声ができないのではなく、いい発声ができるための声帯の能力がないから舌が上がっている
と考えられます。
そしてそういう人がいい発声ができるようになるために、舌根と声帯の動きを切り離すために『正しい舌の位置』というものが教えられるのですね。
まとめると、
この場合の『正しい舌の位置』とは舌の助けを取り払うための舌の位置なだけであって、舌が硬くならない(舌の力を借りない)のであれば舌はどんなポジションをとってもいいと考えられます。
つまり
- 『練習における正しい舌の位置は存在する』が、『発声における正しい舌の位置は存在しない』
と考えられます。
言語や舌の形・大きさの違い
- 発音・言語によって舌の使い方が違う
- 「舌の大きさ・長さ・厚さ」「骨格・歯・口の中の空間」は人によって違う
この二つの理由から
- 『適正な舌の位置は人それぞれ違う』
ということが考えられます。
①発音・言語によって舌の使い方が違う
仮に「舌を上げてはいけない」というのが正しいポジションだとしても、舌を上げなければ発音できない発音はたくさん存在します。
発音
例えば『ヤ行』。
試しに鏡の前で口の中を見ながら「ヤ」と発音してみてください。舌はこれでもかというくらいせり上がると思います。
ヤ行は舌の奥の広い面を上あごにつけないと発音できないですから舌は絶対上がります。
仮に「ヤ」だけの歌が存在するとしたら、その歌は大半の舌のポジションがダメだということになります。
それはおかしいですよね。
言語
例えば、イタリア語は舌の使い方に特徴がある言語です。
特に日本語ではほぼ使われないような巻き舌も普通に使われます。
言語によって舌の使い方が違うということは取るべき舌のポジション・多く出てくる舌の動きも言語によって違うと考えられますよね。
でもあらゆる言語で歌が上手い人はいますから、そういう点では「舌の位置なんてどうでもいい」と言えるでしょう。
②「舌の大きさ・長さ・厚さ」「骨格・歯・口の中の空間」は人によって違う
そのままの意味ですが、
- 舌の大きさ
- 舌の長さ
- 舌の厚さ
- 骨格
- 歯
- 口の中の空間
これらは人それぞれ違います。
横に広い舌を持つ人もいれば長い舌を持つ人、舌をMやWの形にできる人、鼻に舌先をつけることができる人など色々な人がいます。
当然、『歯並び・舌から歯までの距離・舌が収まる口の中の空間』の大きさも人それぞれです。
仮に、舌がものすごく大きくて、口の空間がものすごく小さい人がいたとしたら、その人は発声するだけで舌が上がってしまうことになりますね(正確には「上がっているように見える」)。
この人に「舌が上がらないように!」とか言ってしまうと酷ですね。
つまり、
体や舌が人によって違うのですから、『最適な舌のポジションは人によって違う』と言えます。
本やボイストレーナーによって「正しい舌の位置」の言っていることが違うのもこういうことですね。
だって人それぞれなのですから。
以上のようなことから
- 『歌うときの舌の最適な位置は個人個人違う』
- 『”正しい”舌の位置なんて存在しない』
と考えられます。
どうやって自分に最適な舌の位置を見つけるのか?
と言われると、『まずはそこじゃない。』でしたよね。
そんなことより舌の位置にこだわらなくてもいいくらい・舌を自由に動かしても大丈夫なように舌根と声帯を切り離す(声帯の能力を高める)というところに焦点を当てていくことが大事だと思います。
それが結果的に最適な舌の位置に導いてくれるのですね。
舌のトレーニング
舌根と声帯を切り離すトレーニングについては記事『舌根を柔らかくするトレーニング方法について』にて詳しく書いているのでこちらを参考にしてみてください。