今回は、ベルティング発声・ベルティングボイスについて。
”ベルティング”とは、一般的に「地声の高音発声」や「迫力のある地声の高音発声」のことを指す言葉です(*ただし、歌の流派によって考え方が違う場合もある)。
何か特殊な発声方法のようなイメージを持ってしまいますが、特定の『印象』『雰囲気』によって”ベルティング”と呼べるものが出来上がると考えられます。
今回は、そんなベルティングボイスについて掘り下げていきます。
目次
ベルティング発声・ベルティングボイスとは
冒頭でも述べましたが、ベルティングボイスとは
- 地声の高音発声
- 力強い/パワフルな/迫力のある高音発声
を指す言葉です。
具体的には、こんな感じのイメージ(男性)↓
女性↓
実は厳密な定義は曖昧で、世界的にも明確な定義のない言葉でもあるので、歌の流派によっては考え方が異なる場合もあります。
ただ、一般的には『力強さ・パワフルさ・声量がある・太い』というような印象・雰囲気のある地声の高音発声に対して「ベルティング」という言葉を使うことが多いです。
つまり、このベルティングという言葉は『特殊な発声方法』『技法』というよりも、
- 『印象・雰囲気』を表すニュアンスが強い言葉
だと個人的には思っています。
そもそも語源は、Beltの動名詞「Belting」にvoice(声)がついて『ベルティングボイス』です。
「Belt」は「腰に巻くベルト」の意味です。動詞として使うと「ベルトや帯を締める」などの意味がありますが、「勢い」というニュアンスの意味もあり、「Belt out」で「勢いよく歌う・大声で歌う」などの口語的な意味としても使われます。
この「勢いよく歌う・大声で歌う」の意味合いが、『ベルティングボイス』に大きく反映されていると考えられます。
なので、あまり難しく考えなくてもよくて、
『迫力高音発声』
くらいの認識でいいと思います。
『ベルティングボイス』は地声?ミックスボイス?
ベルティングボイスは『迫力ある地声の高音発声』ですが、そう表現すると次の疑問がよくあります。
- 「じゃあ、ミックスボイスは?」
と。
これは、難しく考えない方がいいです。
このページでは、ベルティングボイスは『地声でもあり、ミックスボイスでもある。あまり気にしない。』と考えておきましょう。
「え、ズルくない?」と思うでしょうが、これを考え出すと「そもそもミックスボイスって何?」という話に突入にしてすごく長くなってしまうので、ここではスルーします。
-
「ミックスボイスとは」についての研究・考察【そもそも存在するのか?】
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ベルティング発声の特徴(条件)
『ベルティングボイス』を作るには、”地声”は大前提として、
- 力強く声量ある声
- 太い声
- 高音発声
という3つの要素が必要だと考えられます。
*厳密には「太い声」は必須条件ではないとも言えるでしょうが、今回は入れて考えます。
3つはそれぞれ、
- 『力強い声』とは、声帯にかかる息の圧力が強い発声・声帯の鳴りが強い発声
- 『太い声』とは、喉や口の空間が広い発声・咽頭腔共鳴が広い発声
- 『高音』は、声帯が伸びる発声
という風に考えることができます。
つまり、
- 『①力強い音色』+『②太い音色』+『③高音』=ベルティング
を変換すると、
- 『①(声帯閉鎖+強い息の力)』+『②深い咽頭腔共鳴』+『③声帯を伸ばす』=ベルティング
となります。
この3つの条件を揃えると、ベルティング発声になると考えることができます。
①「声帯閉鎖」+「強い息の力」
「声帯閉鎖」+「強い息の力」が生み出すものは、『声帯にかかる強い圧力(呼気圧)』です。
ベルティングにおいては、この『息の圧力』を考えることが重要です。
”息の圧力(呼気圧)”とは少し難しいのですが、
『声帯にかかる息の圧力』
『声帯がせき止めている息の圧力』
のことです。
例えば、息の力(量)がいくら強くても、声帯閉鎖が弱ければ息の圧力は弱いということになります。
このように、声帯が息を受け止めなければ『息の圧力(呼気圧)』そのものは小さくなりますし、発声そのものも息が多く流れる『息っぽい発声』になります。
声帯がしっかりと閉じることで、この圧力が高まります。
*「声帯閉鎖」は喉を締めるわけではなく、あくまでも声帯をしっかりと閉じる(声に芯を作る)ということです。
これによって、息が声帯にせき止められることで強い圧力を生み出します。結果的に、強く声帯を振動させることになり、強い発声が生まれます。
つまり、
- 「声帯閉鎖」+「強い息の力」=強い息の圧力
- 強い息の圧力がある発声=『強い鳴りの発声』『パワフルな発声』『声量ある発声』
ということ。
②深い咽頭腔共鳴(太い声)
ベルティングに必要な「太い声」とは、喉の共鳴空間をしっかりと保った広がりのある声ということです。
これによって、
- しっかりと共鳴させる=声量が大きくなる=迫力がつく
と考えることができます。
もちろん、喉の大きさは人それぞれ違いますから、鍛えればいくらでも声を太くできるというわけではありません。あくまでも『自分の喉での太めの声』を作るということです。
そして、太い声を作るには深い咽頭腔共鳴が必要です。
これは簡単に言えば、「喉仏を下げる」こと。
これによって太い音色になります。
「なぜ太く聴こえるのか」などは『太い声の出し方について』の記事にまとめているので、ここでは話を先に進めます。
③高音発声(声帯を伸ばす)
ベルティングはもともと「大声で歌う」という意味合いなので、「高音」という意味はありません。しかし、「大声を出すとき・勢いよく声を出すとき」というのは、ほとんどの場合ある程度高音になります。
例えば、すごく遠くにいる人に向かって「おーーーい!」と大きな声で呼びかけるときに、低い声にはなりませんよね。人間の声の仕組み上、勢いよく声を出そうとすると自然と高音になるのですね。
なので、”ベルティング”は結果的に「高音」という意味合いがくっついてくるでしょう。
もちろん誰もがどこまでも無限に高音が出せるわけではないので、『自分の声帯に最適な範囲内での高音』という条件です。
最適な範囲に関しては、『声帯のタイプと音域の関係性について』の記事にまとめています。
で、声を高音にするには
- 声帯を伸ばす
- 息を強める
- 裏声を使う
- 喉を締める(*基本は非推奨)
という4つの方法がありますが、ベルティングに一番必要な能力は『声帯を伸ばす』になります(*ベルティング以外でも重要)。
「息を強める」という部分は、ベルティングの条件(先ほどの呼気圧の話)に入っていますし、「裏声」「喉を締める」というのはベルティングの条件外です。
なので、必然的に『声帯を伸ばす』という行動が必要になってくる。
ただ、声帯を伸ばすとは言っても、伸ばそうと思って伸びるものではなく、声の音程を上げると勝手に伸びているものという感じなので、あまり細かいことを考える必要はないでしょう。
ベルティングの出し方・練習方法
先ほどまでのベルティングの条件、
- 声帯閉鎖+強い息の力(強い鳴りの発声を作る)
- 深い咽頭腔共鳴(喉仏を下げる)
- 声帯を伸ばす(高音にする)
を順番にクリアしていけば、ベルティングボイスが出せます。
順番は人によって向き不向きがあるかもしれませんが、この順番で取り組むのがおすすめです。特に、高音を最後に取りに行った方が上手く行きやすいです。
①強い鳴りの発声を作る
まずは、音程を気にせず自分が一番出しやすい音程で、『力強い声・鳴りの強い声』を作ります。
とりあえず、力強く大きな声を出そうとすればできると思いますが、上手くできない人はエッジボイスの状態に強い息を押し通すように発声するといいと思います。
声帯閉鎖と強い息
- 大きく息を吸います
- その分だけ強く勢いよく息を吐きます(この息の強さを忘れない)
- もう一度息を吸います
- 口は「ha」の形を作ります
- 「ha」と吐きたいところですが、息を止めます
- この時、息は喉(声帯)で止めているような感覚が必要です(*これが呼気圧)
- その感覚を維持したまま、先ほど息を吐いた強く吐いたのと同じ勢いで、無理やり息を通し声を出します
- 「あ"ー!」と力強い発声が出ます
どんな発声になったかはわかりませんが、ほとんどの人が大声や叫び声に似たような声量ある強い発声になったと思います。
場合によっては、ガラガラ・ゴロゴロと声帯が割れるような音が鳴って怒鳴り声・がなり声のような感じになるでしょう。
これは、声帯が息の圧力を支えきれずに『仮声帯』というものが作用しています↓
ガラガラ・ゴロゴロの正体はこいつです。
この『仮声帯』の音色は少し嫌な感じもするでしょうが、無理に消す必要はないです。
ベルティングと呼ばれる発声では、この仮声帯の「うなるような音色」を残すような発声も多いです↓
もちろん、このニュアンスは消してもいい。
そういう場合は息の力を弱めてください。
- 仮声帯が勝手に働く=声帯が息を支えられない状態
なので、息の圧力を弱めれば収まります。
ただし、弱くしすぎるとベルティングの要素を失うので、バランスを上手く取ってください。
とにかくこれで、
- 『力強い声量ある発声』
という条件は満たせたと思います。
力強い声が出せない人
*人によっては、どうしても力強い声を出せない声帯を持っている人もいます。
日常生活でも「大声を出す・怒鳴る・叫ぶ」みたいなことが全くできない人です。
主に息っぽい声質を持っている人に多いかもしれません。こういう場合は、無理をせずに諦めることも大事です。ベルティングだけが全てではないので。
②喉仏を下げ、太い声を作る
次に喉仏を下げます。
やり過ぎも良くないので、自分で上手く調節することが必要です。
上手く下げられない場合は、
- 喉仏を軽く手で触りながら、下げる練習をする(*手で触ることで意識しやすくなる)
- 「オ」の母音を使って下げる練習をする(*「ボイ」の発音がオススメ)
などで練習してみてください。
喉仏を下げた状態で、先ほどの力強い声を出せば、
- 『太くて力強い声』
になったと思います。
おそらく、ここまではできる人も多いかと。
③力強く太い声を高音にする
おそらく、①の時点である程度は高音になっているはずですが、ここまでで作った『力強く太い声』の音程を高くすれば条件的にはベルティングボイスなのですが、、、、、できたでしょうか?
ここで、できる人は”高音にしようとすれば高音にできる”はずですが、できない人はいくらやってもできないでしょう(今の能力では)。
できなかった人はおそらく、
- 高音にできない
- 高音にすると太い声を保てない(喉が締まっていく)
というどちらかになったはず。
要するに、
- 太い音色を作ろうとすると音程を上げきれない
もしくは、
- 高音を出そうとすると、喉が締まり共鳴空間が狭くなってしまい、太い音色を作れない
という状態になり、『太い』と『高音』の両方を取ることができない。
これは、
声帯の柔軟性(声帯が伸びる力)が不足していると言えるでしょう。
高音を出す能力が不足しているので、自由に音色をコントロールできないのですね。
この場合は、コツコツと高音を開発していくことになります。
ベルティングも『コツコツ』と開発が一番
ベルティングを成立させるための高音のトレーニングは、
- 『①力強い発声』と『②太い発声』をまず成立させて、それができる発声の音域をコツコツと一歩づつ広げていく
という考え方がベストだと思います。
練習方法
- まず、どんな音程でもいいので『力強く太い発声(高音を抜いたベルティング)』を作る
- その音色が維持できる限界の高音を探ります
- この高音は「ギリギリ出せるか出せないか」の高音ではなく、「若干苦しい」くらいの高音
- この「若干苦しい」ところを徹底的に繰り返し発声して、「楽」に変えていく
- 「楽」になったら、次の「若干苦しい高音」を「楽」に変えていく
これを繰り返すことで、音域が広がりベルティングが可能になるでしょう。
大切なポイントは
- 一気に高音を練習しない
- コントロール可能な範囲をコツコツと広げる
ということ。
音域の開発は、ゆっくり進んだ人の方が最終的にいい結果が得られる確率が高いと考えられます。
-
地声の高音域を広げる方法【結局、地道なトレーニングが一番いい】
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