今回は歌の上級テクニック『ブルーノート』についてです。
この記事は
- ブルーノートとは
- 効果
- 使っている歌手の一例
- ブルーノートの歌い方・練習方法
という内容です。
ブルーノートとは
ブルーノートとは
- スケール上の3度・5度・7度の音を若干フラットさせて寂しいトーンを生み出すこと
- (♭3度・♭5度・♭7度ぴったりの音を指す場合もある*厳密には違うとされる)
です。
簡単に言うと、
Cメジャースケールであれば
- 『ドレミファソラシド』の3・5・7番目である『ミ・ソ・シ』が『ミ♭・ソ♭・シ♭』っぽく歌うということ
です(その楽曲のキーによってその音は変わります。キーに対して3・5・7です。)
簡単に言ってしまうと『濁る音』。
これが特有の寂しさや哀愁を生み出すテクニックになります。
主にジャズ・ボサノヴァ・R&B・ソウルミュージックなどなど多く使われますが、ロックでもポップスでも普通に使われます。
語源・由来
英語『blue note(*直訳すると「青い音符」)』です。
日本人でも悲しい時や寂しい時に使う、『ブルーな気持ち』のブルーです。
そんなblueな印象の『note(*音符という意味)』なのでブルーノートという名前がついています。
19世紀、白人たちが黒人奴隷たちに「ドレミファソラシド」を教えると、黒人たちは「ドレミ♭ファソ♭ラシ♭ド」っぽく歌うことから、その寂しい印象から『ブルーノート』と呼ばれるようになったみたいです。
そんな黒人たち発祥の音楽が
『ブルース:blues』ですね。
『♭』っぽくは四分音(クウォータートーン)?
さっきから『若干♭』とか『♭っぽく』と言ってますが、この『♭っぽく』というのもブルーノートの鍵だったりします。
例えば、『ミ♭』と『ミ』の間の音という感じです。
もっと厳密には
- 『ミ♭』と『ミ』の真ん中に線を引いて『ミ♭』側に寄った音
です。
*ただし、ピアノなどでは表現できない(鳴らせる鍵盤がない)ためそのままフラットの音を指す場合もありますし、そのまま♭の音を使っても楽器の場合は大きな問題はないと思います。
図で示すとこんな感じ↓
明確な♭ではないんです。♭や#を含む『ドレミファソラシド』では表現できない音なんです。
このように半音と半音の半分(四分音・クウォータートーン)周辺の音階なので、西洋音楽では『♭っぽく』と表現するしかないのですね。
ドンピシャで『♭』の音を鳴らしても全然いいのですが、歌の場合ドンピシャを狙ってピッチが悪いと音痴っぽくなります(後ほど説明)。
ブルーノートの効果
名前の通りですが、ブルーノートは
- もの悲しい感じ
- 寂しい感じ
- 哀愁漂う感じ
- 泣いている感じ
- ジャズっぽい感じ
- ブルースっぽい感じ
を出す効果があります。
これを使うからといって歌が上手いという直接的な効果があるわけではなく、あくまで表現技法です。
なのですが、
- 歌がすごく上手いと言われるような人ほど上手く使うイメージ
があるとも個人的には思っています。
歌に味や深みや奥行きがつくような感じですね。あとは作曲やアドリブとかで歌える音の選択肢が増えるという感じです。
ただし、先ほども言ったように失敗すると一転「音痴」に感じるリスクもあるという難しいテクニックです(だからこそ上手い人は使いこなせるとも言える)。
ブルーノートを使っている歌手の例
- 【Official髭男dismさん】
後半「ピュアもせいぎもあったもんじゃ」
ブルーノートとともに少し鳴りに力強さがありますが、独特の哀愁あるおしゃれな音色になっていますよね。
イントロ頭の怪しげな音階もブルーノートかな。
なんだか『ルパン感』がありますよね。
もちろんルパンもブルーノートがあります。
- 【aikoさん】
「絶えず〜絶えず〜絶えず〜」「指が触れたとき〜」
なんだか煮え切らない寂しさをまとっているような音ですよね。
この煮え切らないようなニュアンスがブルーノートをバチっと決める鍵でしょう。
aikoさんはブルーノートを多用することで有名です。
一瞬だけ入れる「なつの星座にぶらさがって」↓
これはかなりわかりにくいですが、ブルーノートがあることでなんだか寂しげになります。
ちなみに1回目の「見下ろしてーー↓↓」とかも単純なブルーノートではないですが、思いっきりフォールさせてブルーノートを通るようなニュアンスを出しているように感じます。
- 【玉置浩二さん】
さて、どこでしょう?笑
玉置さんは楽曲の中ではもちろんフェイクやアドリブの中でも使いますね。
肌にしみているので自動的に出てくるというやつでしょう。
もちろん他のシンガーでも探せばいくらでも例はあります。
ブルーノートの度合いと狙うべき音
度合い
ブルーノートは曖昧な音程だからこそ、そのフラットさせる度合いでブルーな印象の度合いが変わると考えられます。
例えば「ミ」と「ミ♭」であれば、
このように「ミ♭」に近づくほどブルーなトーンが色濃く出るような感じになるでしょう。
ブルーノートは使い方を間違えると「音痴」になる?
ブルーノートは特に歌においては決まればすごく心惹きつけられるようなテクニックですが、外せば音痴になるという諸刃の剣です(まぁでも上手い人は外しませんし、普通の人でも体に染みつけば外さないとも思う)。
ブルーノートで狙うべき音
ボーカリストがブルーノートで狙うべき音はここです↓
このように『ミ♭』を上ずるようなあたりを狙うといい感じのブルーノートになると思います。
つまり、『ミ』を下げるイメージというよりも『ミ♭』を少しあげるイメージ。
こういう上方向にベンドするような・ギターのチョーキングをするようなピッチ感をイメージしてブルーノートを使うといい感じに聴こえます。
逆に『ミ♭』の下側に行く(2度側に寄る)と音痴っぽく聴こえます。
少なくとも哀愁のあるブルーノートになりにくいです(これだとおそらく暗すぎる。ブルーノートは『暗いけど明るい』んです。)
なので、ある意味では諸刃の剣のようなテクニックで、上手い人が多く使うのでしょう。
じゃあ、
- 『ミ♭』ドンピシャならどうなの?
と思うかもしれません。
確かにドンピシャでも問題はないのですが、ドンピシャよりも上ずる方がおしゃれに決まるという特性があるのがブルーノートです。
寂しすぎるのではなく、ほんのり寂しいニュアンスがベストとされています。
ブルーノートの意識
考え方としては
- 暗い音の明るいトーン
を出すみたいな意識になると思います。
例えば、
- 明るい音*コード『C』の構成音は『ド・ミ・ソ』
- 暗い音*コード『Cm』の構成音は『ド・ミ♭・ソ』
です。
この明るいコードか暗いコードかを分ける音で、
- 大前提暗い音『ミ♭』だけど、明るい音『ミ』にちょっと引っ張られているようなニュアンスの音
がブルーノートです。
この暗い中にある明るさが独特の哀愁・ジャズな感じ・ブルースな感じを生み出すのだと思います。
- 暗闇の中でかすかに灯るロウソク
- 悲劇の中でも希望に向かう
- 苦悩から安らぎへ向かう
みたいなイメージで、大前提は暗いけど、「そこから明るさへ向かいたい!」みたいな音です。
結局『ブルーノート』は解釈次第では
- 半音くらい下げてもいい余地がある音がスケール上に3つある
と考えることもできます。
つまり、ブルーノートが身についている人といない人では、歌の中で歌える音の数に3つ差があるということになります。
その分だけ歌の幅が広がる。
だから上級者のテクニックなのですね。
ブルーノートのやり方・練習方法
ブルーノートの歌い方として大事なことは
- ブルーノートは考えるよりも感じること
だと思います。
一種の『癖のようなもの・体に染み付くもの』とも言えるでしょう。
ジャズを聴きまくる人は身につきやすいでしょうが、普通にJ-POPを聴くだけではなかなか身につけにくい音感だと思います。まぁ探せばJ-POPでもたくさんありますが。
ブルーノートを歌うときにコードに音がない場合もありますから、
- コード上の音に乗せないという『コード感』が必要
です。
コードに乗せないコード感
例えば、コード『C』なら『ド・ミ・ソ(それ以外も歌っていい音はあるが、簡単に考える)』に乗せるようにコード感を鍛えると思います。
ピッチの良さにはコード感が必要ですから、そうすべきです。
ところがブルーノートが身につくと、『C』のコード上にない音『ド・ミ♭・ミ・ソ♭・ソ(これも簡単に考える)』をぶつけられるようになるんですね。
まぁブルーノートを
- 音源通りに歌う(聴いている音を再現しようとすれば、意識しなくてもできていることはある)
- 即興で歌う(これはある程度の意識がいるかも。できるとカッコいい)
などでも色々変わってくると思いますが、どちらにしてもブルーノートを感じることが一番大切でしょう。
感じることができれば自然とできるような気もします。
ブルーノートの感じ方
その曲のスケール上の『3度・5度・7度の音を若干フラット』させればいいのですが、ボーカリストは絶対音感でもない限り、
「次の音が3度だから♭だ!」
みたいなことはできないと思いますし、基本しないと思います。
でも、絶対音感なんてなくてもブルーノートは『なんとなく』でも普通に感じ取るんです。
やり方は2種類。
- ブルーノートを使っている部分を何度も聴く
- 全部の音を♭気味に歌ってみる
で大体感覚はつかめてくると思います。
①ブルーノートを使っている部分を何度も聴く
ブルーノートを何度も聞いているうちに何となくその音を理解できるようになります。
『なんとなく』でいいんです。
音の印象としては
- ブワーン
- ジュワーン
- ぼやんとした音
- 重力に引っ張られるような音
- 気だるそうな音
- 泣いているような音
みたいな印象です。わかりにくくてすみません。笑
例えば、ブルースのギターだと「キュイーン」ってチョーキングしている部分は大体ブルーノートだったりします(チョーキングしないと『♭っぽい音程』を表現できないから)。
とにかく、たくさん聴くことが大事です。
特にジャズをよく聴くのがオススメです。
②全部の音を♭気味に歌ってみる
なんでもいいので『好きな楽曲の全部の音を♭気味に歌ってみる』のもいいかもしれません。
そうすると♭気味に歌っているのに
- 『なんか寂しげないい感じに聴こえる音』
が出てくるはずです。
その音は結果的にその楽曲キーのスケール上の「3・5・7」なんですが、それ以外の音はいい感じにならないんです。
このように手当たり次第に探ることでもだんだん感覚はつかめると思います。
まぁでも
結局、ブルーノートが決めやすいのは7th以上(7th〜13th)のテンションがついているコード上だったりします(例:Bm7・C7・A7(9)...などなど多数)
7th以上がブルーな音色へと誘ってくれるんですね。
だからブルースは基本7thコードになる。
ちょっとだけ踏み込んだ話
ブルーノートは『♭3・♭5・♭7』の音です。
これって結局コード上で考えると『#9th・#11th・♭7th』のテンションコード(濁る音:一種の不協和音)です。
つまり、ジャズやボサノバなどテンションコードがたくさん出てくる楽曲は歌でもブルーノートがたくさん使われますし、使いやすいとも考えられます。
ところが、シンプルなJ-POPでは『#9th・#11th』などは基本使われませんよね。
もちろん『7th』は使われますが、基本7th以上のテンションが乗っかっているジャズ系ミュージックと比べると、その頻度は天と地ほどの差です。
そういう点でやはりジャズをたくさん聴く(7th以上テンションを体に染み込ませる)のは大事なのでしょう。