この記事は
- 歌の”抑揚”についての概要
- 歌の抑揚のつけ方について
という内容です。
歌における”抑揚”は声量の大小のこと
「抑揚」という言葉は、本来『発する音の調子の上げ下げのこと=音程の起伏』のことであり、英語で言う”イントネーション”になります。
なので、「抑揚のある話し方だね」と言った場合「音程の上げ下げがしっかりとある話し方だね」という意味になります。
ところが、歌においての抑揚は、
- 『声量差・大小表現=ダイナミクス』のこと
を指します。
歌は基本的に音程が決まっているものなので、音程の起伏があるのは当たり前です。なので、言葉のニュアンスが変化して『声量の大小』を指す言葉になったのでしょう。
つまり、「歌に抑揚をつける」とは
- 声の『小と大』を表現すること
- 声の音量差をつけること
です。
考え方はシンプルに『音の大小を作る』。
なので歌に抑揚がない、歌が棒読みっぽくなるという場合は、この『音量の起伏』を作ることを意識するといいのですね。
抑揚のつけ方は、3層の声量で考える
抑揚をつけるには、発声を大きく3層に分けると上手くいくでしょう。
発声は大きく区分すると、
- ささやくような発声=小
- 普通くらいの発声=中
- 大きく張る発声=大
という3つの層に分けられます。
このようにざっくりでいいので、自分の意識を3つに分けます(*もっと細かく分けたい場合は、いくらでも増やして構いません)。
そうすると、「小中大」の声量を行ったり来たりすること=『抑揚を作る』ということになります。
音量を押したり引いたりすることで、音量の階層(落差)を作るのですね。
このように、声量の階層をつけてフレーズを歌うことで抑揚が生まれます。
「どこに抑揚をつけるか?」には大きな決まりはないので、自分がしたい表現に合わせてつけましょう。
具体的なイメージ↓
ささやくような発声から張るような発声まで、音量の大小の幅が大きいことがわかると思います。
抑揚と「コンプレッサー」
抑揚とは「音量の大小の変化」によって作られることは間違いないのですが、聴き手側の立場に立つと、マイクを使う歌唱においては、「音量の大小」というよりも「表現の大小」のように感じられるかもしれません。
というのも、マイクを通った声(音声のデータ)は、基本的に「コンプレッサー」という機械で圧縮されます。
コンプレッサーとは簡単に言えば、大きな音を小さくして、音の大小の幅を狭めるものです(*もちろん、完全に均等にするわけではない)↓
大きな音を小さくする分だけ、相対的に小さな音を大きく聞かせることができます。
このように、音声のデータというものは、音量が凸凹すぎてそのままでは良く聞こえないので、コンプレッサーを使う必要があるのですね。
ということは、聴き手側は歌い手側よりも音量が均等な音声を聴いていることになります。
そういう点では、聴き手の視点に立ったときの「抑揚」というのは、「音量の大小」というよりも「表現の大小」という方が正確ではないかということです。
歌い手側としては、音量の大小をつけることに変わりはないので、そこまで気にする必要はないかもしれませんが、一応補足としての内容です。
良い抑揚を生み出すには
いきなり「音量の小・中・大をコントロールしろ」と言われても、上手くできない場合もあるでしょう。
これを上手くコントロールするには、
- 小の発声
- 大の発声
の片方・もしくは両方をコントロールできるようになる必要があると考えられます。
①小の発声を磨く
”単に音量を下げて小さな声・ささやく声を作ること”自体はそこまで難しいことではなく、おそらく誰にでもできることでしょう。
しかし、『それが歌に使えるかどうか』ということを考えると、途端に難しくなるはず。
要するに、「小の発声」は音量自体は小さくなっても、声自体はマイクによく通る発声をしないと歌に使えなくなるのですね。
これを攻略しないと、上手く抑揚をつけられなくなります。
なので、「よく通る小さな発声」いわゆる『ウィスパーボイス』という発声を極める必要がある。
ウィスパーボイスをよく通る発声にするためには、”息の流れ”が最も重要です。「とにかく綺麗にたくさん息が流れる発声はよく通る」と言えるでしょう。
-
ウィスパーボイスの出し方について【囁くような息の多い発声】
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②大の発声を磨く
まず「大きな声」に関しては、小さな声とは違い、人によって得意・不得意があるということを頭に入れておくべきでしょう。
例えば、「大声を出せ」と言われた時にすぐできる人とすぐにはできない人がいるでしょうし、さらにすぐにはできない人の中にも、
- 練習すればできるようになる人
- 練習してもできない人
がいるはずです。
どうしてもできない人
やはり、「どうしても声が張れない」という声帯を持つ人は普通にいますし、大きな声を出せてもそれを歌に活かすとなると難しかったりもします。その場合は、諦めて「小・中」で起伏を作るスタイルに徹した方がいいのかもしれません。そういうスタイルでも素晴らしいシンガーはたくさんいますから。
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歌に声量はいらない【声量の必要性について】
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大の発声を鍛える
大きな声量を生み出すには、最低でも
- 強い息の力
- 強い声帯の鳴り
という二つが必要です。
簡単に言えば、「強く息を吐いてそれを声帯でしっかりと支えて鳴りに変換する」ということです。
小の発声は『息の流れを声帯が華麗に受け流すイメージ』ですが、大の発声は『より強く息を吐いてそれを声帯で受け止めるイメージ』です。
「声帯をしっかりと鳴らす能力」と「息の圧力をしっかりとかける能力」の二つを鍛えていけば、ガツンと鳴らせるようになるでしょう。
-
力強い歌声の出し方について
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また、先ほどの『①強い息の力』『②強い声帯の鳴り』に『③太い声(=咽頭腔を広げる)』を加えると、ベルティングボイスと呼ばれるような発声になり、より大きな声量を表現できるようになります。
抑揚のトレーニング
最後に抑揚のトレーニングを紹介します。
やり方はシンプルです。
- まずは自分の中での大きい声量「あ!」と小さい声量「ァ」を出してみます(*発音はなんでもOK)
- 次にこの二つを連続で交互に発声していきます。
- 『あ・ァ・あ・ァ・あ・ァ・あ・ァ』
- 最初はゆっくりでもいいのでだんだん早くしていきましょう(*早すぎる必要はない)。
- これを繰り返すことで大小の声量変化を体に染み込ませます。
基本はこれです。
ここでおそらく、何も意識しなければ音量の大小『あ・ァ』に合わせて、音程も『高・低』となるはずです。これは息の勢いが変わっているので自然なことです。
これはこれで特に問題はありませんが、次のステップとして、
- 音程は変えずに音量だけ『あ・ァ・あ・ァ』と変化させる
という練習に取り組むとより抑揚をコントロールできるでしょう。
さらに慣れてきたら『大・中・小』の3層を意識して、
- 『あ・ア・ァ・あ・ア・ァ・あ・ア・ァ』
と練習しましょう。
すぐにコントロールできるようにはならないかもしれませんが、繰り返していくうちに、自然と抑揚をコントロールできるようになるでしょう。