歌の雑学・研究・考察

歌における『腹式呼吸』の必要性についての研究

投稿日:2020年1月27日 更新日:

今回は「腹式呼吸は歌に必要なのか」という研究考察です。

 

よく「歌には腹式呼吸が必要だ」「歌が上手くなるためにはまず腹式呼吸を身につけましょう」と言われる一方で、「腹式呼吸なんて必要ない」という意見やプロのシンガーにも「腹式呼吸なんて考えたこともない」という人もいます。

 

どちらが正しいのかわからなくなりますが、結局この問題は『必要性は人によって違う』と考えるのがいいかと。

 

そして、その考え方の分岐点は

  1. 「ポップス」なのか・「クラシック」なのか
  2. 息と声帯が連動しているのか・いないのか

この二つのポイントに注目すると腹式呼吸が必要かどうかを考えることができると思います。

今回はそんな腹式呼吸に関する研究です

腹式呼吸とは

腹式呼吸(ふくしきこきゅう)とは、一般的には胸郭(肋骨などからなる籠状の骨格)をなるべく動かさずに行う呼吸のことをいう。

声楽においては、声を良く出すために呼吸を工夫することを、「腹式呼吸」という言葉で示すことが多い。

引用元: Wikipedia『腹式呼吸』より

ウィキペディアではこのように定義されています。

 

〇〇式呼吸とは、

  • 「肺を動かす時(呼吸の時)、主にどこを動かしますか?」

という質問に対する『答え』みたいなものです。

 

『肺』を動かす役割を担っている部分は『横隔膜(おうかくまく)』と『胸郭(きょうかく)』という2つの部分。

なので、主な呼吸法は

  1. 腹式呼吸(横隔膜)
  2. 胸式呼吸(胸郭)

と名付けられているのですね。

 

「このどちらを主体として(意識して)呼吸するのか?」というだけのお話です。

  1. 腹式呼吸はお腹が大きく動く
  2. 胸式呼吸は胸回りや肩が大きく動く

と考えてもいいでしょう。

腹式呼吸のメリットは『最大呼吸量』を増やせること

まず前提として、

  • 腹式呼吸と胸式呼吸には劇的な差は生まれない

ということを頭に入れておくことは大事かと。

 

試しに「お腹を意識して思いっきり息を吸って吐く」「胸回りや肩を意識して思いっきり息を吸って吐く」という二つの動作をやってみても、そこまで息の量や力に差は生まれないはずです。

 

なぜなら、基本的に息を吸って吐く時点で無意識に胸郭と横隔膜の両方が自然と動いているから

基本的に二つは連動しているので、どちらか一方の動きを”完全に”止めようとしてもおそらくできないでしょう。

どれだけ胸を動かさないように・お腹を動かさないようにしても呼吸する時点である程度両方動いている

 

人間は「息を吸う・吐く」という行動に対して自然と最適な動きをするようになっているので、何か特殊な意識を持った呼吸方法でもそこまで劇的には変化しないのですね。

 

ただし、

横隔膜(お腹)は意識や訓練次第で可動域が大きく変わってくる」「胸郭の動きはそこまで鍛えられない」ので結果的に、

  • 横隔膜は動かしやすい(拡張しやすい

と考えることができます。

 

この拡張することを「腹式呼吸」と定義することもあるでしょうし、この拡張によって

  • 最大呼吸量が増える

というメリットがある。

腹圧呼吸(もう一つの腹式呼吸)

上記の腹式呼吸が一般的に語られることが多いでしょうが、声楽界では腹圧呼吸のことを腹式呼吸と言うこともあるのかもしれません。

 

腹圧呼吸とは、

  • 『なるべくお腹を膨らませたままの状態』で息を吸ったり吐いたりする

というもの。

つまり、息を吐くときになるべくお腹をへこまさないということ。

お腹を膨らますことを「腹圧を高める」などと言いますし、声楽では『アッポッジョ=支え』などと言います。

声の「支え」について【”腹圧”と横隔膜の動きが重要】

続きを見る

なぜこれをするのかなどは上記のリンク先にまとめているので、ここでは省略しますが、主にクラシック歌唱において大きなメリット(喉仏が下げやすい+最大呼吸量の確保)があるのですね。

 

なので、ジャンルが「クラシック」であれば「腹式呼吸=腹圧呼吸」という意味の場合があるというのは頭に入れておくべきでしょう(*流派による)。

腹式呼吸の必要性

冒頭で述べたように

  1. 「ポップス」なのか・「クラシック」なのか
  2. 息と声帯が連動しているのか・いないのか

という二つのポイントで必要性は変わってくるでしょう。

①「ポップス」なのか「クラシック」なのか

先ほど述べたように腹式呼吸は

  1. 腹式呼吸
  2. 腹圧呼吸

という2種類の考え方が存在します。

 

クラシックで腹圧呼吸を使う流派であれば有無を言わさず必要と言えるでしょうし、腹式呼吸だとしてもクラシックにおける必要性は高いでしょう。

なぜなら腹式呼吸は『最大呼吸量が増えるから』。

 

クラシックはマイクがない前提

クラシックはマイクがない前提での歌唱スタイルです(*使わないわけではない)。

その身一つで大きな声を会場に響かせる必要があるので『たくさんの息の量』が必要になります

また歌のフレーズも長く伸びやかなフレーズばかりなので、そういう点でも息が必要。

 

つまり、お腹を目一杯使うことで、最大呼吸量を増やせる腹式呼吸がある程度必要になってくると考えられます。

クラシックは「姿勢」「呼吸」など全身をフル活用するような発声です↓

このようにしっかりと『型』を整えて発声する。

 

ポップスは?

ここでのポップスはマイクを使う前提での歌唱スタイルとします。

 

ポップスは実はクラシックほど腹式呼吸の必要性がないというか、『あってもいいけどなくてもいい』くらいの感じになるでしょう。クラシックほど最大呼吸量を増やす必要性がないことの方が多いでしょうから。

 

これはポップスのシンガー達を観察していればなんとなくわかることかもしれません。

皆さんも多くのシンガーを見て「これ絶対腹式呼吸とか考えてないよ」と感じることは多々あると思います。

 

呼吸のためにお腹がしっかりと動いたりもしません↓

”腹式呼吸そのものが歌声にとって重要なわけではない”のですね。

ポップスにおいては、『型』としての腹式呼吸は歌声に必要な『手段』ではないのでなくてもいい

 

では「なぜ、ポップスでも腹式呼吸が重要だ」と言われるのか?というのが次の「息と声帯の連動」に関する話になるでしょう。

②『息と声帯の連動』と『腹式呼吸』

なぜ腹式呼吸が重要と言われるのかというと、

腹式呼吸を意識することで『息の流れ』『息の使い方』をたくさん考えることになり、結果『息がしっかりと流れる声』を身につけられるから

だと考えられます。

要するに腹式呼吸は『手段』ではなく『トレーニング』になっている。

 

流れとしては、

  1. 腹式呼吸を意識する
  2. 息をしっかりと吸ったり吐いたりしながら声を出すことを繰り返す
  3. 結果的にしっかりと息が乗った声を出す練習になる
  4. 息と声帯が連動してくる

という感じでしょう。

 

つまり、

  • 息と声帯の連動性能が高い人(歌が上手い人)にとっては「腹式呼吸は必要ない(あまり意味がない)」

と言えるでしょうし、

  • 息と声帯の連動性能が低い人(歌が苦手な人)が息と声の連動性を高めるためであれば、「腹式呼吸は必要(役に立つ)」

と言えるでしょう。

 

要するに、

  • 腹式呼吸を習得する→歌が上手くなる

ではなく、

  • 腹式呼吸を意識して歌う→『息と声帯の連動性を高めるトレーニングになる』→歌が上手くなる

という方が正確なのではないかと。

 

息の能力が高い人は腹式呼吸なんて考える必要もないですし、息の能力が不足している人は腹式呼吸を考えることでいいトレーニングになる。

こう考えると「腹式呼吸が必要だ」とする論も「腹式呼吸は必要ない」とする論も両方理解できますね。

息に声を乗せる【”息の重要性”と声帯との連動性について】

続きを見る

「呼吸方法」にこだわりすぎるのは良くない

ポップスはもちろんクラシックにおいてもある程度そう言えるでしょうが、

  • 呼吸方法自体に固執しすぎるのはあまりいいことではないだろう

と思われます。

 

これは「全く考えなくてもいい」ということではなく、「深く考えすぎなくてもいい」ということ。

発声法の研究で大きな影響力を持っていたフレデリック・フースラーは、「腹式呼吸」「胸式呼吸」「側腹呼吸」「肋間呼吸」などのように型や方式に分類された呼吸法は、いずれも本来全体がバランス良く協調して働かなければならない呼吸機能のうちの一部のみが突出して働くことによって生まれる不完全で不自然な呼吸法であり、呼吸をそのような型や方式に分類することや、意識的に行われる機械的、方式的呼吸法はすべて声楽の発声にとって有害である、という見解を示している[7]。

引用元: Wikipedia『腹式呼吸』より

かなり納得できる内容ですね。

  • どこかに偏った意識をもたらす呼吸方法をするメリットはない→自然に呼吸しろ

という感じでしょう。

 

結局、歌においては呼吸方法が大事なのではなく、『息そのもの』と『息を活かす声帯の連動性』が大事です。

つまり、『形・型』や『フォーム』が大事なのではなく、『結果』が大事であるということ。

 

なので、『呼吸方法そのもの』を考えるよりも

  • 息を吐く力を鍛えよう
  • 息を吸う力を鍛えよう
  • 声帯が息を活かせるようにしよう

と考える方が本質的なのかもしれません。

肺活量と発声の関係性について【肺活量は歌に必要なのか】

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