今回は「整数次倍音」と「非整数次倍音」から『発声の型』みたいなものを考えるという内容です。
少しマニアックな内容ですが、なるべく簡単に表現していきたいと思います。
「整数次倍音」・「非整数次倍音」の簡単なおさらい
発声におけるこの二つをシンプルに考えると、
- 整数次倍音とは『声帯の鳴り・芯』の成分
- 非整数次倍音とは『息・ノイズ』の成分
と考えることができると思います。
例えば、こちらのお二人の違いはわかりやすい(*イヤホンだとわかりやすいかもです。声に含まれる「スーー」という成分の有無に注目するとわかりやすい。)↓
ブライアン・アダムス(右)は「スーー」「ザラザラ」などの成分(非整数次倍音)が多く含まれている事がわかると思います。
ルチアーノ・パヴァロッティ(左)は「スーー」という成分ほぼなく、代わりに「声の芯」のような成分(整数次倍音)が多く含まれています。
こちらも同じ↓
これって厳密には『マイクの違い』という面もあるとは思いますが、『発声方法が違うからこそマイクが違う』というのが正確でしょう。
つまり、マイクがなくても声に含まれている成分は概ね変わらない↓
対して、ほぼ純粋な鳴りの成分です↓
なぜマイクが違うのかはこれを見ればわかると思いますが、声量がありすぎる(整数次倍音が強すぎる)=”前提がマイクなしの発声だから”ですね。
普通のダイナミックマイク向きの発声方法ではないということ(音圧が強すぎるので、音量を絞らざるを得なくなるが、当然絞ると声の魅力が半減する)。
整数次倍音を強めることで、マイクなしでも会場に響き渡るほどの声量を得られるとも言えるでしょう。
逆に、ダイナミックマイクは声における非整数次倍音を透過しやすいという特性(子音を綺麗に切り取るため)があるので、ポップスのシンガーは非整数次倍音をベースに操る(後半で掘り下げます)。
もちろん、大前提として”全ての声には両方の倍音が含まれている”のですが、このように「何を強めるかの違い」は結構大きいでしょう。
人によって「倍音の好み」がある
特に、どちらが良いとか悪いとかの優劣はないですが「好み」はあるでしょう。
人によって、
- 整数次倍音(鳴り)に焦点が当たりやすい耳
- 非整数次倍音(息)に焦点が当たりやすい耳
みたいなものがあり、それによって好きな歌声の「好み」が分かれたりすることもあるでしょう。
例えば、ロックが好きな人は整数次倍音好きが多くて、ジャズ好きは非整数次倍音好きが多いなど(*もちろん、一概には言えない)。
実はこれ人によってかなり個人差があると思われます。ものすごく偏った人同士は、まるっきり『良し』とする価値観の方向性が違うなんてこともあるでしょう。
日本語は母音重視の言語なので、自然と整数次倍音に焦点が当たりやすい耳の人が多いのかもしれません(*予想です)。
まぁ「好み」は人それぞれなので、『みんな違ってみんないい』んです。
ただ、この2種類の倍音を考えると、人気の出やすい(賞賛されやすい)ボーカルスタイルが見えてくるんです。
賞賛されるボーカリストは”倍音の型”が大体決まっている
先ほど言ったように音楽は好みの要素が大きいので、行き着くところ『何でもあり』ですし、『ジャンルによって良し悪しも変わる』し、『優劣なんて本質的には存在しない』というのは大前提でのお話。
ただ多くの人から賞賛されているボーカリストは、2つの倍音を巧みに使い分ける(両方のいいとこ取りをする)という共通点があります。
そして、その使い分け方にはだいたい決まった「型」みたいなものがあるんです。
具体的には、
- 低中音域を『地声の”非整数次倍音”』中心の発声
- 中高音域を『地声の”整数次倍音”』中心の発声
- 高音域を『裏声の”非整数次倍音』中心の発声
という感じです(*何を強調させるかというお話)。
簡単に言い直せば、
- 低中音域を『地声でさらっと息系の発声』
- 中高音域を『地声でガツンと鳴り系の発声』
- 高音域を『裏声でさらっと息系の発声』
という感じです。だいたいこの”型”。
日本でも世界でも名が挙がるボーカリストはみんなこの型を取る。
- ベーシックなポップボーカルを突き詰めると大体このスタイルになる
と言えるでしょう(*もちろん例外を探せばいくらでもありますが、傾向としてのお話)。
このスタイルを取ることで、「整数次倍音好きの人」も「非整数次倍音好きの人」も両方満足しやすいでしょうし、音色的にも変化があり起伏のあるボーカルになるということでも賞賛されやすいのでしょう。
もちろん、どちらか一方に偏ったボーカルも良いのです。
片方に特化した音作りができるわけですし。
そうすると、ひたすら片方だけが欲しいって人には美味しくてたまらないんです。ずっと好きな音を浴び続けられるわけですから。
整数次倍音特化↓
非整数次倍音特化↓
これは例えるなら、
- 「肉」と「野菜」をバランスよく食べたい人
- 「肉」だけをひたすらに食べたい人
- 「野菜」だけをひたすらに食べたい人
がいるように、ニーズは人それぞれということです。
ただ、
- 「肉(整数次倍音)」と「野菜(非整数次倍音)」の両方をメニューに出しておけば、多くの人を満足させられる可能性が高まるだろう
という感じかと。
つまり、そういう点で”両取りの型”を取ると
- 「非の打ち所がないボーカルになる」=「多くの人が魅力的に感じやすいボーカルになる」
という感じでしょう。
つまり、確率の問題。
ただし、「両取り」だろうが「特化」だろうが、本質的には優劣はないでしょう。
なんなら近年は多様性の加速に合わせて特化が強い傾向にある気もしないでもないですね。
この型のベースは「非整数次倍音」=息の流動性の攻略が鍵
この歌唱スタイルの型は、『非整数次倍音(=息の流れ)がベースとなる』と考えられます。
- 低中音域は息を多く流す
- さらに息を流すことで中高音を発声するのですが、その際息の勢いを支えるためにある程度声帯は「鳴りの形」を取る→結果的に整数次倍音の増加
- 裏声は基本的に息が流れやすい(非整数次倍音を含みやすい発声)
このように、基本的に息の流れをベースに発声するのですね。
例えば、こちら↓
- 最初の方の「who's bad」の連呼は息系・非整数倍中心の低中音域(*マイケルにとっては)
- 中盤強い鳴りの中高音発声で鳴りの増加(息の流動性を保ったまま整数次倍音が増える)
- 裏声「フォーー!」
みたいな。
ちなみに、周りのダンサーたちの発声は息の流動性・非整数次倍音の成分が少ない発声(整数次倍音中心の発声)なので、マイケルの発声とはまるで別物の音色なのがわかると思います。
これが、『美しい発声は息の流動性がある』ってやつです。
これは王道の型に限らず、結局ほとんどのポップボーカルにおいて共通して言えることでしょう。
たとえ、ぱっと聴いた感じ「整数次倍音・鳴り系」中心の「ジリジリ・ビリビリ」したエッジの強い発声であっても、実はベースに非整数次倍音(息の流動性)があります。
ただし、クラシック系のマイクを使わない発声はベースが「鳴り」でしょう。この『ベース(土台)』という言葉。
表現が難しいですし、個々の感覚の違いなどもあるでしょうが、
- ポップス的発声はあらかじめ息が流れているところに声帯が閉じる
- クラシック的発声はあらかじめ声帯が閉じているところに息を流す
というイメージ。
あくまでイメージですが、瞬間を切り取ればあながち間違ってないかもしれません。
このように倍音の性質を考えると、歌唱方法がだいたい見えてくるという内容でした。
まとまりがないですが、今回はこれくらいで。
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声の『倍音』の出し方について【意識するべきは「息」と「声帯の鳴り」】
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