「鼻腔」とは鼻の奥にある空間のことで、この部分に声を響かせることを鼻腔共鳴と言います。
この鼻腔共鳴はよく問題になり、例えば「鼻腔共鳴ができない」「鼻腔共鳴を強くできない」「高音発声時に鼻腔共鳴を作れない」などの悩みが多いです。
一般的に語られる鼻腔共鳴は
- 鼻腔に声を通すこと
- 鼻腔に強く響かせること
という二つの条件のどちらか、あるいは両方を満たすことで成立します(*つまり、厳密には3パターンある)。
そして、上記二つを成立させるには
- 鼻腔に声を通す:口と鼻の境目にある軟口蓋を開く
- 鼻腔に強く響かせる:声帯から鼻腔への距離を縮める
ということになるので、これを満たせば鼻腔共鳴はできるようになります。
何を持って「鼻腔共鳴」とするか
先ほども述べましたが、一般的に鼻腔共鳴は
-
- 鼻腔に声を通すこと
- 鼻腔に強く響かせること
という意味があります。
一見どちらも同じ意味に思えますが、厳密には違います。まずはこの二つを理解して、どちらが欠けているのかを理解しましょう。
①鼻腔に声を通すこと
鼻腔に声を通すとは「軟口蓋を開く」ということです。
軟口蓋とは、食べ物が鼻に入らないためのゲートのようなもので、開いたり閉じたりしている部分です。
多くの場合、無意識に動いている部分ですが、意識すれば動かせる部分でもあります。
そして、この軟口蓋が鼻腔に声を通すゲートのようになっています。
例えば、口を閉じて鼻から息を出してみてください。この時、息が流れているので、軟口蓋は開いているということになります。
この状態で声を出してみましょう。「んーー♪」と声が鼻に抜けて行く感覚がするでしょう。そして、この感覚のまま口を開いていき「んーーあーー♪」と声を出してみましょう。
そうすると、抜けのいい声になると思います。
次に、先ほどの息を鼻から出した状態で、息の流れを鼻の奥で止めてみてください。鼻の奥の何かが動いたと思います。これは、空気の通り道を軟口蓋で塞いだということです。
この状態で声を出して、先ほどのように口開いていくと、抜けの悪い鼻が詰まったような声になるでしょう。
このように『鼻腔に声を通すか、通さないか』の違いによって、声の印象が変わります。この鼻にしっかりと抜ける状態がここでの鼻腔共鳴ということ。
おそらく、この意味だけでの鼻腔共鳴を求めている人は少ないかもしれませんが、これを鼻腔共鳴としている場合は、先ほどのように口を閉じてハミングの状態を作り、そこから口を開けて発声する練習を繰り返すことでできるようになるでしょう。
また、次の項目の『鼻腔に強く響かせる』という意味においても、鼻に声が通るのと通らないのとでは当然通る方が響くので、どちらにしても取り組んだ方がいいことになります。
②鼻腔に強く響かせる
鼻腔に強く響かせるとは、鼻腔に響く音量が大きくなるということです。
では、鼻腔に響く音量を大きくするためどうするかというと、まず『鼻腔を広げれば、共鳴空間を広くなる』と考えるでしょう。
しかし、これはほぼ実現できません。
なぜなら、鼻腔自体は頭蓋骨の形によってほとんど決まっていて、その空間を動かすことはできないからです。
もちろん、眉間を上げるなどすれば全く動かないわけではないのですが、基本的には鼻腔の空間はほぼ動かせません。
では、鼻腔に響く音量を大きくするためにはどうするか?
これは、
- 鼻腔に音の発信源(声帯)近づける
が正解です。
つまり、『喉仏を上げる(もしくは下げない)』ということ。
例えば、
- 喉仏を下げた状態で声を出す
- 喉仏を上げた状態で声を出す
では、上げた状態で声を出した方が鼻腔に響く感覚が強くなり、喉仏を下げると鼻腔への響きが弱まるはずです。
この差は音の発信源(声帯)から鼻腔までの距離によって生まれます。
音は距離が近いほど大きくなるので、鼻腔と声帯までの距離が鍵になるということです。
他にも例えば、
- はっきりとした口の形で「オー」と声を出す
- はっきりとした口の形で「イー」と声を出す
だと、「イー」の方が鼻腔に響きます。
もちろん、「イー」で意識的に喉仏を下げればそうはなりませんが、何も意識しなければ「オ」は喉仏が下がり、「イ」は喉仏が上がるので、こうなるということです。
つまり、鼻腔共鳴というのは『喉仏を上げる』、もしくは『喉仏を下げない』ことによって生み出すということ。
あまりに極端に喉仏を上げると不自然な声になってしまうでしょうから、そこは各自でバランスを取る必要がありますが、少なくとも喉仏を下げないことが鼻腔共鳴において重要なポイントです。
喉仏のコントロールができない人は、喉仏に軽く手を添えて常に位置を確認しながら発声練習すると、だんだんと意識的にコントロールできるようになってきます。
声帯部分に問題があれば鼻腔共鳴はできない
上記までのように、
- 鼻腔に声を通す:軟口蓋を開く
- 鼻腔に強く響かせる:喉仏を上げる
という二つで鼻腔共鳴は完成するのですが、それでも鼻腔共鳴ができないというパターンもあるでしょう。
こういう場合、問題は共鳴云々ではなく、声帯部分に問題があるということがほとんどです。
例えば、「高音発声時に喉が締まってしまう」という状態の人。こういう人は鼻腔共鳴の条件をしっかりと満たしても、良い音色の発声になりません。なので、「鼻腔共鳴できているはずなのに、しっくりこない」、もしくは「高い声を出すときに鼻腔共鳴が上手くできない」と考えてしまいます。
しかしこれは、そもそも声帯から発せられる音が悪い状態なので、しっかりと響かせたところで良い音にはならないということです。
つまり、「どう響かせるか」という共鳴部分の前に、「どんな音か」という声帯部分の問題をクリアにしておかなければいけないということです。
鼻腔共鳴の条件を満たしているのにできないという場合、鼻腔共鳴のことは一旦忘れて、声帯を鍛えることにフォーカスしましょう。