今回は「歌の独学」がテーマです。
ここでは、
- 独学:基本的に誰からも指導を受けず、自分の力だけで学び成長すること
- 習う:ボイトレ教室などに通って、先生から指導を受け成長すること
として話を進めます。
「独学」の反対の言葉は、「通学」と表現するのが本来正しいのですが、歌においては表現上しっくりこないので、ボイトレ教室などに通って歌を学ぶことを、ここでは簡単に「習う」と表現しておきます。
目次
独学でも歌は上手くなれるのか
「独学で歌が上手くなれるのか?」という疑問はよくあるものですが、上手くなれると言えます。
日本を含む世界中に「歌を習ったことはない」と語るシンガーが数多くいることから、特別なことではないのですね。
歌のトレーニングはすごく簡単に言えば、
- 歌う
- 改善点の把握・修正
- すぐに修正できない場合、その改善のためのトレーニングする
という3つを繰り返すだけのものです。
これを上手くやれば、『独学』も『習う』のもほとんど差は付きませんので、独学でも上手くなれると言えます。
しかし、全ての独学が成功するのなら、歌の学校なんて必要なくなりますから、そういう点では独学を成功させるのには難しさもあると言えるのですね。では、何が難しいのか。
独学の難しい点
習うことと比較すると、独学は、
- 自分の歌の課題や改善点の把握が難しい
- 間違った練習をし続けるリスクがある
という2点が問題になります。
①改善点の把握
自分の歌を自分で評価するというのは、かなり難しいことです。
まず、自分の声を客観的に聴く難しさがあります。
というのも、人間は体の構造上「自分で聞いている自分の声」と「他人が聞いている自分の声」が違います。
そして、自分の本当の声というのは「他人が聞いている自分の声」の方です。これは自分の声は骨伝導によって伝わってくる音があるからですね。
自分の声の録音を聴いて違和感を感じるのは、これが原因です。
極端な例ですが、
- 自分はいい声を出しているつもりでも、実際はそうでもない
- 自分では音程やリズムがあっているつもりでも、実際はそうではない
などのズレが起こっている可能性もあるわけです。
さらに、自分の声を正確に認識できている状態であったとしても、それを自分で評価する難しさもあります。
例えば、「自分では自分の声が嫌いなのに、他人からは褒められる」ということは結構あります。これってほとんどの場合、他人の方が正しいことが多いのですが、人間は自分のこととなると客観的に評価できなくなってしまいます。
それに対して、『習う』場合は、先生が客観的に歌の改善点を指摘してくれますから、評価を委ねることができます。
もちろん、先生の評価が絶対に正しいとは限りませんが、どちらが間違えた判断を下しやすいかで言えば、自分で判断する方が間違えやすいと言えます。
②間違った練習をし続ける
改善点を把握できたとして、それがすぐに修正できない(=能力が足りていない)問題の場合、その改善に向けた練習をすることになります。
先生から指導を受けている場合は、どんなトレーニングをするか、どう段階を踏んでいくか、を指導してもらえます。もちろん、先生に指導してもらったからといって、失敗しないとは限らないのですが、選択肢を間違え続けて、悪い方向性に進み続ける可能性は少ないでしょう。
ところが、独学の場合自分で考えてトレーニングしなければいけないため、選択を間違え続けると、悪い方向性に進み続けてしまう可能性が高くなります。悪い方向性に進み続けてしまうと、悪い発声や変な発声が体に染み付いてしまって、元に戻るのも大変になってしまいます。
以上が、独学において問題になるポイントです。
裏を返せば、
- 自分で改善点をしっかりと把握できるようにする
- 間違った方向へ進むリスクを回避する
という二つを意識さえすれば、「独学」と「習う」ことの差はほぼ無くなるとも言えます。
独学を成功させるためのポイント
上記2つのポイントを考慮すると、以下の3つを押さえておけば、独学は上手くいくと考えられます。
- 自分の歌声をたくさん録音して聞く
- 自分の歌声とシンガーの歌声を同じ条件で比較して改善点を修正していく
- 現状の自分の音域でも歌いやすい曲から練習して極めていく
それぞれ掘り下げます。
①自分の歌声をたくさん録音して聞く
まず、自分の歌声をたくさん録音することです(*動画の自撮りの方が映像がある分なお良い)。
独学においては、これが一番重要と言えるかもしれません。
先ほど述べましたが、自分の耳だけは自分の本当の声が聴けないので、自分の本当の声を聞ける状況を作り出す必要があるのですね。
録音をするメリットは
- 自分の本当の声に慣れる
- 客観的に問題点を把握・修正しやすくなる
- マイク乗りのいい発声が身につきやすくなる
などがあります。
ある意味、録音こそが”ボイストレーナー”とも言えます。
「自分の声を聞きたくない」という人もいるでしょうが、そういう人ほどたくさん聞いた方がいいということになります。自分の声に「気持ち悪さ」や「違和感」を感じるということは、認識にズレがある状態ということですから。
プロのシンガーもレコーディングという形で、常にこれをしていますから、そういう点では必ずやるべきことと言えるでしょう。
②自分の歌声の録音とシンガーの歌声を比較して改善点を修正していく
先ほどの録音を活用すれば、独学においてかなり良いトレーニングができるので、録音ついでにこの方法を取り入れるのがおすすめです。
具体的にどんなトレーニングなのかというと、
- 『自分の歌声とプロのシンガーの歌声を同じ条件で比較する』
という練習です。
この練習方法は、間違った方向性へ行くリスクをほぼ無くすことができるのではないかと思います。
具体的には
例えば、YOUTUBEなどでプロのシンガーの”生歌”の映像がたくさん聴けますね↓
YOUTUBEやTik Tokなどの発展により、このような生歌が聴ける機会が爆増していますが、こういうスマホで撮られたようなものは、自分で自撮りすれば、”同じ条件”を作ることができます。
そして、「プロの生歌の動画」と「自分の生歌の動画」を交互に比較します。すると、プロのシンガーにあって自分の歌声に足りないものが正確に見えてくるということです。
なぜ同じ条件が必要?
普段聴くプロのシンガーの歌声は、素晴らしいエンジニア達によって綺麗にミキシングされたものがほとんどです。
要するに、最高の音になるように”盛っている歌声”とも言えます。
「盛る」というと、なんだか偽物みたいなマイナスイメージがある人もいるかもしれませんが、いい音に聞こえるように音を盛るのは、ある意味当たり前のことです。歌のお化粧みたいなものですね。
つまり、「お化粧したプロの歌声」と「自分のスッピンの歌声」を比較しても条件が同じではないので、その差が正確に見えてこないのですね。
差を正確に理解しなければ、お手本までの道のりを間違えてしまう可能性も高まります。
逆に言えば、
- 『お手本と自分との差を正確に・的確に把握すれば道を間違えることはない』
とも言えるはずです。
なので、お手本との差正確に理解しやすい状況を自分で作ればいい、ということです。
注意点
お手本と同じ条件で比較する上で、一つ重要な注意点なのですが、
- 声帯の『音域』のタイプ
- 声帯の『声質』のタイプ
は人それぞれの個性なので、それを考慮に入れておきましょう(*スポーツで言う「骨格」「身長」のようなものです)。
要するに、お手本のシンガーと全く同じ歌声になれるわけではないということです。
例えば、
- すごく低い声帯を持つ人が、すごく高い声帯を持つ人の歌声を目指しても上手くいかない可能性が高い
- すごく息っぽくてハスキーな声質の人が、くっきりと芯のある声質の歌声を目指しても上手くいかない可能性が高い
などのように、人それぞれ声帯の個性による向き不向きはあります。
お手本と比較する時に、『人それぞれ声帯の特性は違う・元々持っている楽器(声帯)は違う』ということを考慮に入れて、完全にコピーしようとするのではなく、歌のクオリティをコピーしましょう。
③現状の自分の音域でも歌いやすい曲から練習して極めていく
独学でのトレーニングを上手く成功させるためには『どんな曲を練習するか』というのが、かなり重要な鍵になってきます。
なぜなら、課題曲の選曲次第で成長速度や、間違った方向性へ進んでしまうリスクに関わるからです。
選曲のポイントは
- 今の自分の能力(音域)でも歌える曲
つまり、『音域的に無理のない曲から極めていき、一歩つづステップアップする』ということが、かなり大事になります。
例えば、
- 今の自分に歌える音域の曲からたくさん歌い込んで、一歩づつステップアップしていく
- 今の自分には歌えない音域の曲にいきなり挑戦し、頑張って歌い込む
この二つの道は、どちらがいいか。
確かに、②の道でも成功することはあるかもしれませんが、失敗のリスクもかなり大きくなるでしょう。音域的に無理のある曲を練習すると、「間違った発声」「変な発声」を身につけやすくなりますし、頭の中が音域でいっぱいになってしまい、その他の項目(音程・リズム・発声の質)に頭が回らなくなってしまいます。
独学を成功させるためには、このようなリスクを取りに行くことは避けたいので、必然的に①の道を選んだ方がいいということになります。
しかも、仮に成功するとしても、どちらの道も最終的にかかる時間はそこまで差はつかないでしょうから、音域的に無理な曲に挑戦するメリットはほとんどないです。
もっと言えば、ボイトレ教室に通うとほとんどの場合、いきなり無理な曲に挑戦することを強制的に止められるでしょう。そういう点では、独学でも同じようにすべきだと言えます。
ただし、これの弱点は「楽しくない」と感じる可能性があるという点です。やはり、歌いたい歌を歌うことが楽しいわけで、歌いたくない歌を極めるというのは楽しくないこともあるでしょう。
しかし、歌いたい歌のキーを変えるなど工夫することはできます。楽しさは減るでしょうが、それを犠牲にしてでも、コツコツと進んでいく方が独学にはメリットが大きいと思います(*独学に限らずですが)。
まとめ
個人的には、「独学」は自分の声の評価と練習のやり方・方向性を間違えなければ、「習う」ことと、そう大きな差は生まれないと思っています。
もちろん、誰もが多少の失敗はするでしょうが、”大きく間違える”というリスクを排除していくことが、独学成功の秘訣になるでしょう。
もし、どうしても不安な場合は、ボイトレ教室の無料体験レッスンを受けまくるという裏技もあります。基本どの教室も一度しか受けられませんが、教室が地域に5つあれば、理論上は5回レッスンを受けられることになります。
困ったときには活用してみるのも手ですね。