今回は歌の成長を加速させる重要項目というテーマです。
歌の練習過程においてはその成長速度・成長効率を大きく変えるような重要項目があると考えられます。
ある意味『歌が上手くなりやすい人』と『歌が上手くなりにくい人』を分岐させる項目でもあると考えられるのですが、それが
- 自分の声帯の個性を把握し、それを”活かす道”を進んでいるかどうか
- 「自分に聞こえる自分の声」と「本当の自分の声」のズレを感じにくい耳の状態になっているかどうか
- 楽器の弾き語りができるかどうか
というものです。
③は必ずではないのですが、①②に関しては必ず押さえておいた方がいいと言えるほど歌の成長において大きな影響を与えるものでしょう。
今回はこの3つの重要性を掘り下げるという内容です。
目次
①自分の声の個性(音域・声質)をしっかりと把握し、それを”活かす道”を進む
これは
- 自分の声の個性を活かす方向性に進むことで歌はぐんぐん成長できるが、自分の声の個性に逆らう方向性に進むとあまり成長できない可能性が高い
ということです。
その理由は、人はそれぞれ持っている声(喉・声帯など)が違い、その人に合った『適性』というものがあるからです。
例えば
極端な例ですが、仮に《一流の声が低い男性シンガー》と《一流の声が高い女性シンガー》がお互いの歌声になろうと本気で全力で訓練しているとしましょう。
しかし、この二人の努力はいくら続けても目的を達成することは叶わない可能性が高いと考えられます。
これはおそらく多くの人が「どんなにすごいシンガーであろうと男と女は声帯が違うんだから無理でしょ」『訓練すればどうにかなるという話ではない」と感じるはずです。
もちろん全く成長できないわけではなく多少は目標に近づくことはできるかもしれませんが、おそらくどこかで壁にぶつかるはず。そして当然、自分に合ったキーで歌うよりも魅力的になるということはないでしょう。
このように訓練や努力ではどうにもならないものが『適性』です。
つまり、適正に沿った道はぐんぐん成長でき、それに逆らった道を進むと成長が鈍くなる(もしくは成長できない)と言えるのですね。
もちろん逆らうことは「絶対にダメ」「100%失敗する」とは言えないのですが、どちらが成長しやすいかという確率論で考えればかなり高確率で自分の声帯の個性を活かした方が良い結果になると言えるはず。
これは言い換えると、
- 歌のトレーニングとは『なりたい歌声になれるもの』ではなく、『自分の持っている声を磨くもの』。
ということになるでしょう。
自分の声帯を活かす道は人それぞれ違う
先ほどの例では「声が低い男性」と「声が高い女性」というわかりやすい比較をしましたが、同じことは厳密には個人差レベルで起こっているということになります。
つまり、誰もが同じ方向性に進めるということはないのですね。
人それぞれが自分に合う道を行くことになる。
ただ、ここで注意しておくべきなのが、『個性を活かす』『個性に逆らう』というのは絶対的なルールがあるわけではないということです。
基本的には「低い声を持っている→低い音域が得意」「息っぽい声質を持っている→息っぽい発声が得意」などのようにそのまま沿って考えればいいのですが、そうではないパターンも時々あるでしょう。
例えば、
- 低い声を持っているが歌うときは高い音域を活かした方が魅力的になり、逆に低い音域の方が苦手で歌いにくい。
というような変則的なパターンもあります。
こういう人は「割と最初から高い声が出せた。」「高い声の方が出しやすかった。」などのように語ることが多い。
つまり、個性に逆らっているように見えるがそうではなく、これはこれで”個性を活かしている”ということになります。こういう変則的なパターンはそう多くはないでしょうが、声帯は人それぞれ違うのでこういうことも起こり得るのですね。
なので、個性を活かす道に絶対的な正解はない。
あえて答えを出すのなら『自分に合うものは全て正解で、自分に合わないものは全て不正解』ということになります。
自分の声帯の個性を活かすというのは
- 最初からある程度できる
- 得意・やりやすい
- 練習すると伸びやすい
- 他人から褒められた部分
などを目安に考えるいいのではないかと思います。
また、『自分の個性に逆らう道』はその反対で
- できそうに思えない
- 不得意・やりにくい
- いくら練習しても全然伸びない
- 他人から「合ってない」と言われた部分
などを目安に考えるといいかと。
自分の「音域のタイプ」と「声質のタイプ」はしっかりと把握しておく
『声の個性』というものは厳密には”全身”が関わります。骨格・喉・舌・歯・あご…という風に細かく見ていくとその全てが声に関連します。
ただ、中でも最も注目すべきポイントが『音域』と『声質』です。
この二つはスポーツで言う「身長」「骨格」のように最も向き合うべき部分であり、基本的に変えられないような部分なのでこの二つは必ず向き合っておくべきでしょう。
音域は大きく区切ると6タイプくらいに分かれていて、
声質は大体4タイプくらいに分かれます。
つまり、大きく分けると6×4=24通りのタイプがあるということになります。
もちろんこれらはあくまでもざっくりと分けた区分でしかないので、こちらも厳密には人の数だけの個性があります。
当然「何もかも普通でグループ分けしにくい」という人や「どこにも当てはまらない特殊な声」という人もいるでしょう。先ほどのように声は低いが高い声が得意という変則的なタイプもいます。
そういう色々なパターンがあるという面も含めて『自分はどんな声帯を持っているのか?』と向き合う必要があるということです。
注意点
*声変わりが終わるまでは声帯のタイプ(特に音域)が確定しないので、その点は注意です。
「特徴を掴んだら何をすればいいの?」と考える人もいるでしょうが、そこは人の数だけ答えがあると思うのではっきりとした答えを出すことはできません。
というよりも『自分の声帯の特徴を掴む』という行動そのものが自然と自分の声を活かす道につながってくるだろうと思われるので、あまり難しく考えなくても特徴を把握しておくことを大切にしていればいいのではないかと思います。
自分と似たタイプのシンガーをお手本の一人にする
最後にもう一つ自分の個性を活かす道として重要なポイントになるのがお手本選びです。
おそらくほとんどの人はお手本のシンガーが一人や二人はいるでしょうが、
- 自分の声帯の個性(音域・声質)と似たタイプのシンガーをお手本の一人とする
と歌の成長の仕方を大きく変えると考えられます。
やはり自分と似たタイプのシンガーには自分の成長にとって良いヒントがたくさんありますし、それをお手本にすることで自分の個性を活かす道に繋がりやすいと考えられます。
もちろん、完全に同じ声を持った人はいないでしょうからその点は考慮しなければいけませんが、『似たタイプ』で考えればおそらく見つかるでしょうし、似たタイプでも良い道しるべになると考えられます。
自分と違うタイプのお手本は上手く変換する
とは言えやはり好きなシンガーをお手本にしたいというのは誰もが思うことでしょう。
もちろん、好きなシンガーがそのまま自分と似ているタイプだったのなら何も考える必要はないですが、自分と違うタイプだったときは考えなければいけません。個性に逆らう道になってしまっては大変なので。
この場合は『上手く自分の体に置き換える』ことが大事になるでしょう。
お手本と自分の個性の差をしっかりと考慮して、自分のことに上手く変換できればどんなお手本を選んだとしても問題ないはず。
- もし、お手本のシンガーが自分の体を使うとしたらどんな歌声を作り上げるだろうか?
と考えるといいと思います。
ただ、これは意外と難しいです。できる人は上手くできますが、すぐにできない人もいるでしょうからそういう点でお手本のシンガーは自分と似たタイプも必要になるのですね。
②自分の声の聞こえ方のズレを修正する
これは
- 「自分に聞こえる自分の声」と「本当の自分の声」の誤差をあまり感じない耳(脳)になる
ということ。
わかりやすく表現すれば『自分の歌声の録音を聴いたときにほとんど違和感を感じない状態になる』とも言えます。
こういう耳の状態のことをここでは『ボーカル耳』と呼ぶことにします。
*「ボーカル耳」という言葉は世間では通じない個人的な造語なのですが、音楽家の中でボーカリストにのみ必要な耳だと考えられるので、ここではわかりやすくそう呼ぶこととします。
「ボーカル耳」が必要な理由は自分の声だけは実際の音として聞こえないから
まずボーカル耳が必要な理由は、声以外の全ての音は耳の外側から聞こえてくる音(気導音)だが、自分の声だけは耳の内側から骨伝導によって聞こえてくる音(骨導音)が混じっているからです。
これが原因で「自分が聞いている自分の声」と「本当の自分の声」の認識がズレるということが起こります。
自分の声の録音などを聞いた時に変に聞こえるのもこのためですね。
歌においてはこの「骨導音」によるズレが様々な悪影響を及ぼします。
例えば、極端に言うと「自分ではすごくいい音色の声を出しているように聞こえるが、実際はいい音色ではない」「自分では音程が合っているように聞こえるが、実際は全然合っていない」というようなことが起こってしまうということです。
これはあくまで極端な表現ですが、ズレがある人は多かれ少なかれこれが起こっていると言えるのですね。
基本的に『音痴』の主な原因もこれだと言われています。脳が勝手に骨導音をいい感じに補正してしまう(誤認してしまう)のですね。
このように「自分に聞こえる声」と「他人に聞こえる声」の認識の誤差が大きいということは歌にとってマイナスにしかならない。
であれば、この誤差を小さくする必要があるということです。
ちなみに
ピアニスト、ギタリスト、ベーシストなどボーカル以外の全ての音楽家はこの誤差がいくら大きくても全く問題ないと言えます。
なぜなら「骨導音」で音を聴かないから。
ところが歌だけは「骨導音」が関わってくる。
なので、音楽家の中でボーカリストだけは「骨導音」と向き合う必要があるのですね。
「ボーカル耳」を持つ最大のメリットは歌の成長効率を高めること
ボーカル耳を持つことが歌に及ぼすメリットは
- 音程・リズム・音色の質・表現などの把握・修正が上手くいく
- 自分の歌声を常に客観的に聴くことができる
- 歌の成長度合い・成長効率を高める
などが考えられます。
まず「自分が認識する自分の声」と「他人が認識する自分の声」のズレが少なければ、自分の声を客観的に捉えられているということになります。
つまり、自分の歌声の『音程』『リズム』『音色の質』を正しく認識することができるということになりますし、自分の歌声をより良くするために的確な行動が取れるということにもなります。
なので《ボーカル耳を持っている人》と《そうでない人》を比較すると、断然前者の方が成長スピードが早くなるということになるのですね。
ボーカル耳ではない人は「自分に聞こえる自分の声」と「本当の自分の声」のイメージがズレているので、課題や問題点の把握にズレが生じ、結果的に間違った方向性へ進みやすくなるのですね。
歌が上手い人と苦手な人の差は案外こういうところの要因が大きいのかもしれません。
であればこの耳は早めに作っておきたいですね。
まずは自分の耳の状態を測る
これはあくまでも目安ですが、自分の歌声をスマホなどで録音して聞いた時に、
- 「うわ、気持ち悪い声。これが自分の声?聞きたくない!」→*誤差『大』
- 「気持ち悪いとまではいかないけど、録音した声はそれなりに違和感を感じる。普段歌っている感じより若干変に聞こえるし、イメージ通りじゃない。」→* 誤差『中』
- 「うん、いつも通り。良くも悪くもこれが自分だし、特に違和感は感じない。」→*誤差『小』
これは現状の歌の上手さなどは一切関係なく、単純に誤差を感じるかどうかの問題です。
この誤差『小』の状態を目指しましょう。
もちろん人間なので完全な誤差0の状態になることはないですが、自分の声を聞いたときに自分のイメージとのズレがあまりないことが大切です。
「ボーカル耳」を作る方法は録音をたくさん聞く
おそらく一部の才能ある人でもない限り、大抵の人は最初は誤差『中』か誤差『大』になっていると思われます(*「自分に聞こえる自分の声」をたくさん聞いて生きてきたはずなので、ある意味自然なことです)。
しかし、訓練さえすれば誰でも修正できると思われます。
ズレを修正する
一番良いやり方は、
- ひたすら『自分の声を録音して聞くこと』を繰り返すこと
でしょう(*スマホの録音や動画撮影などで十分です)。
録音の音声は「ほぼ現実の声」というか、少なくとも自分が聞いている声より現実に近いです。なので『出した自分の声』と『聞いた自分の声』をすり合わせることで脳の認識がどんどん修正されていくと考えられます。
人間の脳は不思議なもので、自分の声に最初のうちは大きな違和感を感じていたはずなのに、繰り返し聞くことでだんだんと違和感がなくなってきて、いつに間にかなんとも思わなくなります。
おそらく脳が認識のズレをだんだんと修正してくれるのでしょう。
ある意味この”慣れ”こそ『ボーカル耳』とも言えるでしょう
なので、とにかく録音を繰り返して慣れるのが大切。プロのシンガーも言ってしまえば録音(レコーディング)は必ずしていますからね。
*ちなみに録音などあまりしたことがないのに元々このズレが小さい人も時々いると考えられます。これは「発声の質がいい」という条件によって生まれやすいと考えられます。また、録音以外にもボーカル耳を持ちやすいトレーニング方法はいくつかありますから。詳しくは『歌が上手い人は自分の声の聞こえ方の誤差が小さい』の記事にて。
③楽器の弾き語りができるようになる
これは、
- 楽器の弾き語りができるようになると歌が上手くなりやすい状態を作れる
ということです。
ただ、これに関しては楽器が弾けなくても歌が上手いシンガーもいるので「絶対に弾けなければいけない」わけではないのです。
しかし、割合で考えると楽器が弾けるボーカリストはかなり多くそこには強い相関関係があると言えるでしょう。
また、「楽器の弾き語りができる」というのは『楽器の高度な演奏能力を身につける』というわけではなく、『簡単な弾き語りができるくらい(コードを鳴らしてそれに合わせて歌えるくらい)』でOKです。
楽器は音楽的感性を飛躍的に高める
「なぜ楽器を練習することがいいのか?」という理由は『音楽的感性が飛躍的に高まるから』だと考えられます。
まず、歌の上手さは『①発声能力』『②音楽的感性』という二つの能力によって決まります。
掛け算的に考えるとわかりやすく、
- 歌の上手さ=発声能力×音楽的感性
と言ってもいいと思います(*詳しくは『歌に必要な二つの能力について』の記事にて)
そして、このうちの音楽的感性を最も効率よく高めるのが楽器を練習することだと考えられるのですね。
特に音楽的感性の中の、
- コード感・・・楽曲のコード進行やキー(調)に乗る能力
- タイム感(テンポ感)・・・自分だけで一定のリズム・BPMを刻む能力
という身につけにくい能力も成長させやすいというのが鍵かと。
コード感(覚)
「コード感」という言葉は色々な使われ方がありますが、ここでの『歌におけるコード感』というのは簡単に言えば『音楽と調和する能力』です。
この能力があると即興の演奏などにも自然とメロディがつけられるようになりますし、作曲もできるようになります。
楽曲のコードやキー(調)に乗る力があるということは、視点を変えると『音程を外さない能力』でもあります。
- 「音程を合わせる能力」
- 「音程を外さない能力」
一見同じものですが、「合わせる能力」の上位互換が「外さない能力」です。
「音程を外さない能力」があるとアドリブやフェイクも自在になります。
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タイム感(覚)
タイム感(テンポ感)は演奏のリズムに合わせる能力ではなく、自分だけで一定のリズムを刻む能力。
これは自分がリズムの柱になる能力で、基本的にドラマーやベーシストなどに必須の能力と言えるでしょう。
ただボーカリストもこれを持っている場合、より一層歌のリズム感が良くなると考えられます。
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つまり、
「コード感」「タイム感」は高度な音程・リズムの能力ということです。
そして、この二つの能力はカラオケなどに合わせて歌っているだけではなかなか身につきにくい能力だと考えられます。もちろん全く身につかないわけではないですし、それだけで身につく人も当然いるでしょう。
しかし、弾き語り(楽器を演奏すること)はこれらの能力を飛躍的に高めやすいと考えられます。
なので、楽器の練習をすることも歌の成長において大事なポイントになるのですね。
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まとめ
- 自分の個性(声質・音域)を活かす意識を持ち、逆らわないこと
- 『ボーカル耳』を作ること
- 楽器の弾き語りができるようになる
この3つの項目を押さえることで『歌が上手くなりやすい人』になれるのではないかと思います。
内容的には少し地味な内容ですが、その重要度はかなり高いものだと思われますし、少なくとも①②は必ず押さえておいた方がいい項目だろうと考えられます。