今回はビブラートについての内容です。
近年の歌唱スタイルにおいてはその重要性は減少傾向にあるのかもしれませんが、歌を上手く聴かせるための必須テクニックの一つです。
そんなビブラートについて紐解いていきたいと思います。
ビブラートとは
ビブラートとは
- 『音程の揺れ・揺らぎ』のこと
- 波のように規則的に音程を動かすことで、音程の安定感と心地よさを生み出すテクニック
です。
まぁ割と一般的な言葉でもあるのでわかる人も多いとは思います。
しかし、ビブラートはあくまで『音程の揺れ』ということをしっかりと理解しておくことは重要です。
これは後半の『ビブラートはどこで生み出すのか?』ということを考える上で非常に重要です。
ビブラートの原理
音程を揺らす幅は
- 『半音の音程の揺れを作るのが理想的なビブラート』
とされています。
この上下に半音で揺らすということは実質的に「シ」「ド#」に四分音(半音のさらに半分)届かない状態なるので人間に耳には「ド」の音として認識されるのですね。
ただし、その音程の揺れ幅や揺らし方は厳密に決まっているわけではなく、音程を半音以上大きく揺らしてもビブラートはビブラートです。
あくまで理想的なビブラートは半音程度の揺れというだけで、揺らし方などは人によって表現は自由ですし、個性が出るところでもあります。
ただ大きく揺らした場合、
このように不必要な音程まで認識できてしまいます(これはこれでありな場合もある)。
逆に揺らす幅が狭すぎても
音程の揺れを認識できません。
表現は自由ですが、音楽的にはある程度美しいと感じる範囲は決まっていると考えられそうです。
なので理想的な音程の揺れ幅は半音程度と言われています。
揺れる回数
実は時間あたりどれくらい揺らせば最適なのかというのもすでに研究されています。
一般的に
- 1秒間に5〜6回程度音程を揺らすビブラートが心地よいビブラート
とされています。
下の音源は1小節毎・1秒間に1〜8回まで音をビブラートをかけた音源です。
好みにもよるでしょうがやはり5〜6回目くらいがちょうどよく感じ、3〜4回ではゆったり、7〜8回で多いと感じると思います。
ビブラートの種類
ビブラートの『種類』と言ったって、厳密には種類というものはないと考えたほうがいいと思います。
ビブラートにあるのは
- 「種類」ではなく『個性』
です。
ビブラートの個性を作るポイントは二つあります。
それが音程を
- 揺らす幅
- 揺らす回数
です。
この二つの度合いでビブラートは個性が出ます。
ちなみに
カラオケとかの採点で出て来るのですが、この二つの度合いをタイプに分けて「A-1」だとか「B-2」だとか色々分けられています。
見たことある方もいるはずです。
これは覚えなくていいですし、気にしなくてもいいと思います。
あれはあくまでDAMを製作した第一興商さんが定めたビブラートの種類ですから、カラオケ採点の楽しみを増やす要素でしかないです。
当然、世界共通の用語でもないので、外国人に言ったところで『?』です。というか日本のプロのシンガーでも『?』でしょう。
カラオケ採点が好きな方は気にしてもいいとは思いますが、それ以外の方は気にする必要のないことです。
音程を揺らす幅
- 深いビブラート
- 浅いビブラート
というものです。
ただし、ビブラートは半音程度、音を揺らすのが基本的でしたね。
なので、あくまでそこをが基本なのですが、じゃあ『完全に半音で揺れるのか』と言われるとそうでもなく、微妙な差に個性が出てくるのですね。
深いビブラート
浅いビブラート
そこまで浅くはないのですが(むしろ理想形)、浅すぎると聴き取れないのでこれくらいを例に。
時間あたりに揺れる回数
- 細かいビブラート
- 緩やかビブラート
です(細かいの対義語は粗いですが、粗いビブラートというとなんかわかりにくいので緩やかなビブラートとします。わかりづらい方はすみません。)
時間内にどれだけ音を揺らしているかということです。
細かいビブラートは震えているような寂しさが表現しやすいですし、緩やかなビブラートは壮大さを感じさせてくれますね。
細かいビブラート
緩やかなビブラート
ちりめんビブラート?
ちりめんビブラートとは
- 一般的には細かい音の揺れをするビブラート
を指します。
しかし、特に明確な定義が決まっているものでもないでしょうから、それ以上気にする必要もないでしょう。
語源
語源はおそらく、織物のちりめん(縮緬)から来ているのでしょう。模様や肌触りが細かく縮れているのをビブラートに当てはめたのだと考えられます。
ちりめん(縮緬、クレープ織り、仏: crêpe)は、絹を平織りにして作った織物。
一般的には、経糸にはほとんど撚り(より)のない糸を使い、緯糸として、強い撚りをかけた右撚り糸(右回りにねじった糸)と左撚り糸(左回りにねじった糸)とを交互に織り込む。このため、精練すると、撚りのかかった糸に撚りを戻そうとする力が生まれ、布が縮んで、生地の表面にシボ(凹凸)が現れる。
引用元:Wikipedia『ちりめん』
ビブラートはどこを使って生み出す?
ビブラートはどこを使って生み出すのか?という問題が議論になることは多いです。
特に議論に上がるのがこの3つです。
- 横隔膜(お腹)
- 口
- 喉(声帯)
人の体はそれぞれですからいろいろな意見があって当然とは思うのですが、個人的な答えは『喉(声帯)』と考えています。
なぜなら、音程を調節している部分は結局『声帯』だからです。
- ビブラートは「音程の揺れ」
- そしてその音程を調整している部分は『声帯』
- よってビブラートは声帯が生み出している
こう考えるのが自然だと思います。
しかし、横隔膜や口を使うビブラートが語られることもありますね。
個人的にこれらはあくまでコツを掴むためのものだと考えられます。
①『横隔膜ビブラート』
よくビブラートは横隔膜を使うとかいう話が出てきます。
横隔膜で揺らす、お腹で揺らす、などですね。
横隔膜(お腹)って息を吐いたり吸ったりするために肺を動かす機能がある部分です。
このようにあくまで
- 横隔膜は『息をコントロール』している部分
です。
ということは横隔膜で作るビブラートは『息の起伏で作る?』ということになりますね。
試しにお腹(横隔膜)をベコベコ膨らませたりヘコませたりしながら声を出してみましょう。
「あ〜〜〜〜」
確かにビブラートっぽくなります。
っぽくはなりますが、大抵の場合お望みのビブラートにならないと思います。
これは厳密には横隔膜の動き(息の勢い)に合わせて声帯が動いているだけですね。集中すれば声帯が動いているのがわかるはずです。
そもそも「こんなにお腹ベコベコやってられない!」と思います。
だってお腹を動かさなくてもビブラートはかけられる↓
女の子がお腹に手を置いたりするのでわかりやすいですが、ほぼ動いてないですよね。
実質的にはビブラートは声帯が作るので、横隔膜の動きはそこまで関係ないんです(全くもって関係ないことはない)。
基本的には横隔膜をどうこうしたって、コントロールできるのは息だけです。
つまり揺らすというのなら揺らせるのは厳密には『息の量』だけということになります。
あくまでコツを掴むもの
横隔膜ビブラートとは『横隔膜の助けを借りて声帯がビブラートのような動きをしやすくするため』の補助輪みたいなものです。
最初は補助輪付きでもいいのですが、いつかは補助輪を外さないと自由にビブラートが使いこなせないでしょう。
ビブラートができる人の中には横隔膜を使っている感覚のある人もいるでしょうが、実質的に音程を動かしているのは『声帯』のはずです。
なので「横隔膜の揺らし方がわからない」などという人はわざわざそこに縛られる必要はないでしょう。
②『口を使うビブラート』について
『口を使うビブラート』という論もあります。
例えば、口を高速で「アウアウアウアウ」と動かしながら声を出すとビブラートっぽくなりますよね。
これも「っぽく」ですが。これが口を使うビブラートです。
これはなぜかというと、
- 「ア」は明るい開放的な音「ウ」は暗い閉鎖的な音色
なのが理由です。
口の開き方の差が大きいので、音色の差が生まれるのです。
その差が音階を若干(半音もいかないくらい)変えてしまっている(もしくはそのような印象を生んでいる)のですね。
その音色の差を練習の感覚としての足がかりとするのはいいことだと思います。
ただ、口の開きの差だけではビブラートほどの音階の波は生まれませんし、そういうビブラートをしている人も結局はその口の音色の差に合わせて声帯で音の波を作っているのですね。
試しに一定の音をなるべく変えないようにしながら「アウアウ」してみてください。多分ビブラートっぽくならないはずです。
さらに核心をつくと、『口を閉じてもビブラートはできます』。
なので口の動きは必須ではないと言えます。
コツを掴むもの
つまり『口を歌うビブラート』もあくまでビブラートのコツを掴むため・声帯の動きの波を作るための補助輪のような役割だということです。
口を速く動かすということは比較的誰でも簡単にできるので、コツを掴む練習に向いていますね。
ここで言いたいのは口を動かすのが悪いということではなく、ビブラートを作っているのはあくまでも声帯だということです。
ビブラートのコツを掴むトレーニング
ビブラートのコツを掴むトレーニングです。
コツを掴むトレーニング
- ピアノを用意します(音が鳴るものならなんでもいい)
- 自分の出しやすい音を出します(例えばド)
- 次にその音を半音下げた音・もしくは上げた音を出します(例えばシやド#)
- この二つの音を連続に交互に弾きます(ドシドシドシ・・・・・)
- これに合わせて声を出します「あーあーあーあー」
- スピードをだんだん速くします(ドシドシドシ・・・・・)
- 自分の限界まで速くします
- この時も声はしっかりと出してなるべく限界の速さまでついてくること(ビブラートができない人は難しいでしょう)
音源に困っている方は『ビブラートトレーニング音源ページ』を活用してみてください。
できたでしょうか?
限界はありますが、ある程度早いスピードで音を変化させられるようにしましょう。
目安は1秒間に5〜6回揺らす。
基本的にはこの半音差を追いかける発声練習を繰り返すことでビブラートができるようになってくるはずです。
結構速く音階を動かさなければいけないので、すぐにはできるようにならないでしょうが、繰り返し練習するとできるようになるはずです。
まずはコツを掴むことが非常に重要です。
ただ、これは『ドの音に対して』という点ではまだ『偽ビブラート』です。
なぜこのコツは『偽ビブラート』なのか
「偽」という言い方も適正ではないでしょうが、これは「ドの音に対するビブラート」ではないのです。
そういう意味で「偽ビブラート」と表現しました。
ここで重要なのが『ビブラートの音程を感じる部分は音の波の真ん中の部分』ということです。
ド・ド#を交互に繰り返した場合、波の一番高い点は「ド#」、波の一番低い点は「ド」ですね。ということは何の音程を感じるかというと、ドとド#の間の『表記できない何かの音程』を一番感じるのですね。
つまりこれは「ド」に対してのビブラートではなく、『表記できない何かの音程』に対してのビブラートなのです。
もし「ド」に対してビブラートをかけたいのなら本来は「ド」が波の真ん中に来るようにして上下に揺らさなければいけないのです。
なのでそういう意味で先ほどの練習は「ド」に対しての「偽ビブラート」と言ったのです。
ただ偽ビブラートの方がピアノの音階をたどればいいだけなので、練習段階でのコツが掴みやすいのです。
ビブラートの練習方法
上記のコツを掴むトレーニングがビブラートの練習の基本形ですが、実際に使うのは「偽ビブラート」ではないので、実際に歌の中で「普通のビブラート」を使っていく必要があります。
つまり音階にドンピシャでビブラートをかけなければいけません。
一番いい練習方法は
- 『目標の人の真似をする』
です。
「おい!なんだよそれ!」ですね。
投げやりな回答ですみません。
ですが、
これにはわけがあるのです。
というもの
- ビブラートというのは人によって深さや揺らし方が違います。
細かく揺らしたり、ゆっくりと揺らしたり。
なのであなたが目指す歌声のビブラートをよく聞いてCDと一緒に歌って真似するというのが一番いい練習法です。
大事なのはよく聴いて一緒に歌うことです。
コツを掴むトレーニングはやっていれば、声帯はある程度ビブラートの動きに慣れているはずです。
なのであとは目標のビブラートを体に染み込ませるということが重要でしょう。
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ビブラートの応用表現についての研究
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