今回は「歌における口の開け方」について。
歌やボイトレにおいて「正しい口の開け方は?」と疑問に思うことはあるでしょうが、これは突き詰めると、
- 口の開け方の最適な形は人それぞれに違うので、自分に合った口の開け方を見つけなければいけない
という答えにたどり着きます。
つまり、何らかの答えを求めたところで、それが自分に当てはまるとは限らないので、自分だけの答えを見つけなければいけないということです。
目次
歌うときの正しい口の開け方は人それぞれ違う
なぜ正しい口の開け方が人それぞれに違うかというと、
- 体(骨格・あご・声帯・舌・歯など)が人それぞれに違うから
です。
もちろん、人間としての大きな作りは同じと言えるでしょうが、その大きさや形は人それぞれに微妙に違いますね。
なので、「正しい口の開け方」に絶対的な正解も間違いもないということになります。
世の中に広く普及している色々な教え・指導は、実際にはそのほとんどが「最大公約数的な正しさ」です。つまり、多く人にとって当てはまりやすいものが「正しい」と言われやすいだけであって、それが実際に自分に当てはまるかはわからないということです。
例えば、口の開け方の指導では、
- 「口を大きく開けなさい」
- 「指が2〜3本縦に入るくらい」
- 「口の中にピンポン球を入れているイメージで」
などがよく指導されます。
もちろん、これらが正解の人もいるので「ダメだ」と言ってるわけではないのですが、それが「必ず正解」とは言えないでしょう。
口を大きく開けることで、「逆に声が出しづらくなる」などマイナスになってしまう人も一定数います。マイナスになるのであれば、それは「正しい」とは言えないですよね。
色々なプロのシンガーを観察すればわかりますが、全ての人が大きな口を開けているわけではないですね。
口をあまり開けずに素晴らしい歌声を生み出しているシンガーもたくさんいます。おそらく、その人にはそれが最適なのでしょう。
ということは、
- 口の開き方に共通する正解は一切ない
- 自分が開けやすい口の開け方で開けるのが一番
と考えるのが自然です。
よって
正しい口の開け方には一切決まりはなく、自分の一番良い音色が出せる口の開け方が「正しい口の開け方」になるということ。「形」に正しさを求めるのではなく、「結果」に正しさがあると考えればいい。
自分に合った口の開け方の見つけ方
個人的には以下の順番
- マイクを使う歌唱方法か、使わない歌唱方法か
- 口の開き方は「縦方向」と「横方向」のどちらの方向性にするか
- 発声の特性を考慮する
という流れで考えるといいのではないかと思います。
①『マイクを使う前提の歌唱方法か、使わない前提の歌唱方法か』を考える
マイクを使わない前提の歌唱方法とは、オペラなどのような「クラシック」「声楽」と呼ばれるようなもの、もしくは「合唱」などのことです。ここでは、まとめて「クラシック」としておきます。
マイクを使う前提の歌唱方法は、特に説明はいらないと思いますが、ダイナミックマイクと呼ばれるマイクを使って歌うスタイルです。ここではざっくりと「ポップス」と呼ぶことにします。
そうすると、口の開け方を考えたときに、
- クラシックは、できるだけ口を大きく開けることがメリットになることが多い
- ポップスは、どちらでもいい
と言えます。
これは二つの歌唱の性質、主に『声量の必要性』という部分に注目すると、
- 『クラシック』は、生身で遠くまで声を届けなければいけない →→ 少しでも共鳴空間を広げ大きな声量を生み出すことが、最大のメリットになる →→ 口を大きく開ける必要性が高い
- 『ポップス』はマイクを使うので、声の目的地は近い →→ 音量という意味での声量は必要ない →→ 口の開け方に決まりはない
という風に考えることができます。
簡単に言えば、クラシックは声量が欲しいから口を大きく開けた方がいい。ポップスは口の前にマイクがあるので、必ずしも口を大きく開ける必要性はないということ。
このようにまずは、自分の目的の歌は『マイクを使う前提なのか、マイクを使わない前提なのか』が、口の開け方を考える上での一つのポイントになります。
②「口の開き方」を2種類の方向性で考える
口の開き方は、大きく分けると2種類の方向性で考えることができます。
- 縦方向
- 横方向
という二つです(*もちろん「中間」はあるが、ここでは抜いて考えます)。
縦に開けるというのは
- 「オ」の形に近い状態に開ける
ということ。
横に開けるというのは
- 「エ」の形に近い状態に開ける
ということ。
口を縦に開く音色の特徴
縦に開くことで、
- 深い
- 太い
- 重たい
- 暗い
- かっこいい
- 大人っぽい
印象になります。
口を横に開く音色の特徴
横に開くことで、
- 浅い
- 細い
- 軽い
- 明るい
- 可愛い
- 子供っぽい
印象になります。
「なぜ口の開け方がこのような印象を決めるか」というと、『声帯で作られた音がどのように出ていくか』を決める部分だからですね。
「声」を構成する要素は「息・声帯・共鳴・発音」であり、
- 口の開きは「共鳴」「発音」部分
に属します。
「共鳴」「発音」は『音色の印象を決める』という部分においては、重要な役割を果たします。
話を戻します。
多くの人は、この「縦方向」と「横方向」のどちらが得意かというタイプを分けることができるでしょう(*もちろん大きく分けた場合においてのお話なので、実際は「どちらとも言えない」というタイプもある)。
これは『どちらに寄った方がいい音が鳴るか』を考えると、判別しやすいです。
例えば、「オ」の口の形を維持して「アイウエオ」と発音、次に「エ」の口の形を「アイウエオ」と発音してみてください(*変な発音になって問題ないです)。
ここで大事なのは、この時『どちらの方が自分にとっていい感じの音色になったか』もしくは『出しやすいか』です。
「オ」寄りに発音した方がいい音色が鳴った場合は、口を縦に開ける方がいいタイプ。「エ」寄りに発音した方がいい音色が鳴った場合は、口を横に開ける方がいいタイプになる確率が高いです(*あくまで傾向)。
もちろん、縦の方がいい音色が鳴ったからといって、常に縦方向に口を開けなければいけないわけではありません。
その辺りは曲やフレーズの表現臨機応変に対応するものでもありますが、自分にとっていい音色が鳴る口の開け方を上手く使うことで、より歌のクオリティを上げることができるでしょう。
③発声の特性を考慮する
これは発音によって最適な口の開け方は変わるので、それを考慮するということです。
例えば、”地声の高音発声”において、
- 「アー!」と大きく口を開いて発声する
- 「ウー!」と口をすぼめて発声する
とすると、おそらくほとんどの人が「ア」の方がいい音色が鳴るはずですし、出しやすいはずです。
これは、単に「ア」の方が音の出口が大きくなるからというのもありますが、あごの開き・舌のポジションなど声帯の動きに影響するためですね。
なので、多くのシンガーは「ウ」の母音で強く張らずに裏声にしたり、強く張る場合は「ウァ」「ウェ」「ウォ」など微妙にズラすように表現することが多いです。こうすることで、少しでもいい音色になるようにするのですね。
当然、口の開け方も微妙に変化するわけです。
このように口の開け方は発音の特性によっても変わるので、発音ごとに口の開け方のベストを考えるとより自分にあった口の開け方ができるようになっていくでしょう。
この発音しにくい発音というのも人それぞれに違うので、自分で試行錯誤するのが一番ベストです。
結論
口の開け方は
- 『自分に合ったものを見つけること』
が重要。
まずは、
- マイクを使う前提の歌か
- マイクを使わない前提の歌か
を考える。
口に開き方は
- 縦方向
- 横方向
の傾向があり、それに応じて印象が変化する。
得意なタイプや発音などによって、自分の最適な口の開け方を工夫するということです。
今回は「口の開け方」でしたが、「舌の位置」も同様に『個』の要素が強いです。
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歌うときの”舌の位置”についての考察【最適なポジションは人それぞれ】
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