今回は、「”自分の声”と”本当の自分の声”の認識の誤差と歌唱力は大いに関係があるだろう」という内容です。
この誤差が小さい人ほど歌が上手くなる可能性が高く、誤差が大きい人ほど歌があまり上手でない可能性が高くなるのかもしれません。
目次
自分の声の聞こえ方について
自分に聞こえる音には2種類の音があり、
- 骨導音・・・体の中を通って聞こえる音・骨伝導によって直接耳に聞こえる音。「内耳共鳴」と呼ばれることもある。自分の声のみこれがある。
- 気導音・・・耳の外側から聞こえる音・自分の声以外の音。
と言われます。
聞きなれない言葉ですが、
- 「骨導音」が耳の内側からの音
- 「気導音」が耳の外側からの音
と考えれば難しくないと思います。
基本的には、ほとんどの音は気導音で聴いています。
ところが、自分の声だけは『骨導音+気導音』で聴いています。
このように声帯で鳴った音が、体の内側を通って聞こえる音と外に発した音を同時に聞いているのですね。
なので、「自分が聴いている自分の声」と「人が聴いている自分の声」は違うのですね。
この誤差と歌唱力の関係性
「自分が聞いている自分の声」と「本当の自分の声」の誤差の感じ方と、歌唱力には大きな関係があると考えられます。
基本的に、この誤差が小さい人ほど歌が上手くなる確率が上がるでしょう(*もちろん誤差0にはならない)。
理由は
- 「誤差が小さい」=「現実の歌声をある程度正確に認識している」=「自分で自分の歌声を客観的に把握・修正することができる」というのが、結果的に歌唱力においてあらゆるメリットにつながるから
です。
音程・リズム・歌声の質・表現などあらゆる面を、客観的に把握・修正できるのですね。
もちろん、この誤差の認識以外にも「音程やリズムを認識する耳」「音の質を見抜く耳」など重要な耳はありますが、今回はあくまで「誤差」の面に焦点を絞っています。
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耳の良さと歌唱力の関係性【耳をよくする方法】
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歌唱力がある人は外側の音の情報が多い?
このように歌唱力のある人は、「自分が聞いている自分の声」と「他人が聞いている自分の声」の誤差が小さいと考えられるのですが、実は外側の音の情報を多く取り入れることができるとも考えられます。
例えば、歌が苦手な人は自分の歌を録音してみると「気持ち悪い声。最悪。別人じゃん。」とか感じる人も多いと思います。
ところが、歌が上手い人は「ふーん。まぁ自分の声だな。」くらいの認識になると思います。
これは自分の声の認識の誤差が少ないからですね。
なぜ誤差が少ないのか?
一つは単純に
- 「脳が慣れている」「脳の認識の誤差が少ない」
などの面が考えられます。
これは脳の認識のズレの問題なので、おそらく誰でも自分の声の録音を毎日聞くなどのトレーニングをするとズレはかなり小さくなるはずです。
そして、もう一つ重要なのが
- 「発声の質がいいので、外側で聞き取れる声の割合が多い」
という点。
出している声が理にかなった”良い発声”をしている場合、外に出て行く音がいい音色なので、結果的に自分の声を外側(気導音)で聴ける割合が増幅します。
そうすると、必然的に他人が聞いている音と大差ない音が自分にも聞こえているため、結果的に上手く歌えると考えられます。
さらに、人間の耳の特性で『自分が大きな声を出しているときは、耳の聞こえ方が気導音(外側の音)に近づく・骨導音をカットする』という現象が起こります↓
中耳(鼓膜から蝸牛に至るまで)には耳小骨といわれる非常に小さな骨が3個組み合わさった機構があり,これが鼓膜で受けた音の振動をテコの原理で能率よく内耳に伝えるようになっています。この耳小骨を支持している小さな筋肉がありますが,これは非常に大きな音がきたときに働いて,内耳への振動を伝わりにくくして耳を保護するようになっています。自分が発声しているときには,音源が聴覚器官に近いため大きな音刺激が到来するので,やはりこの筋肉が働きます。ところがこの筋肉の働きによって低周波成分の損失は増えますが,高周波成分にはあまり影響しません。このことは自分の声を気導音の特性に近づけるように働いているということになります。
つまり、発声の質がいい人は外側の音を聞ける割合が多くなるというのは、構造上理にかなっているということになります。
音痴=誤差が大きい?
逆に音痴な人というのは、この誤差が大きいと考えられています。
誤差が大きいというのは
- 気導音の割合より骨導音の方が大きく聞こえてしまう
- 脳が勝手に補正してしまう
という事です。
内側の音が強く聞こえてしまう
これは先ほどの逆ですね。外側から聞こえる声が弱いとも言えるでしょう。
内側の方が強く聞こえすぎてしまうので、自分が外部に発している現実の声と違いすぎる声が自分に聞こえてしまっているわけという状態です。
おそらく、声が小さい人などに多いかと考えられます。
『自分では自分の声が大きく聞こえるのに、声が小さいと言われる』など。これは実際には声が小さいのです。ところが、自分の中ではそれなりに大きく聞こえる。
自分には大きく聞こえるから、声が小さくなってしまうのですね。
脳が補正してしまう
これは例えば、『自分では音程が合っているように聞こえるが、実際は合っていない』というような自分の中で聞こえる声を、脳が勝手に補正してしまっていると言われています。
不思議と脳が勝手に補正してしまうのです。補正するというよりは、ある種「思い込んでいる」と言えるのかもしれません。人間って不思議ですね。
いくら練習しても、音感が全くつかない・音痴な人というのはこういう要素が非常に強いのかもしれません。
とにかく、内側から聞こえる音(骨導音)は当てにならない。
外側の音の情報を増やすトレーニング=歌唱力アップ
外側の音の情報(現実の音)をしっかりと認識できる人ほど歌が上手くなるのなら、まずはその情報を意図的に増やせばいいのですね。
実際に、そういう環境で練習した人ほど上手くなりやすかったりしますし、よく言われる「バケツをかぶって歌え」の目的も、『自分の声の外側の音(気導音)を意図的に増やすこと』なのですね。
こういう練習は、
- 誤差を縮める
- 現実の歌声がわかりやすくなる
などの効果が考えられますし、結果的に「気導音を増やすようないい発声をすること」につながると思います(*最終的な目標はこれです)。
いくつか有名な方法なども含めて紹介します。
①お風呂で歌う
これは有名なトレーニング方法、というか場所ですね。
お風呂はよく反響する空間になっているので、自分の声がよく聴こえます。弱点は、若干エコー気味になっていい感じに聴こえてしまうことや、あまり大きな声は出せないことでしょう。
②バケツや段ボールをかぶる
これも比較的簡単にできる方法だと思います。
バケツや段ボールをかぶることで顔の周りだけに響く空間を作れるので、周りへの防音も多少できますし、自分の声がよく聴こえます。
弱点は周りが見えなくなることと、バケツやダンボールを被るという情けない気持ちになることくらいです。
③壁の目の前で歌う
単純ですが、壁の目の前に立って歌うという方法です。
当然ながら、声がすぐに跳ね返ってくるので、いつもより自分の声がよく聴こえるでしょう。
もっとも簡単にできるトレーニング法の工夫だと思います。「そんなに変わる?」と疑問に思うでしょうが、意外と効果があります。
弱点は目の前が壁なので気分がよくないことと、その壁の向こう側は防音面で大丈夫なのかということくらいです。
④押し入れやクローゼットの中で歌う
バケツや段ボールをかぶるのと、壁の前で歌うのを足して2で割ったような感じです。
プロのシンガーにもクローゼットで歌っていたなどと発言する人は意外といるので、外耳の情報を増やしやすいいい練習場所になると言えるでしょう。
防音もある程度はできるでしょうし。
ただ、押し入れやクローゼットの環境は、人それぞれの家によって違うでしょうから、誰でもできることとは言えないですね。
⑤ウタエット
こちらのグッズは自分の歌声を自分の耳で直接聴く事ができるボイトレグッズです。
ダイレクトに自分の耳に声を通すので、まさに自分の声を聴く練習に最適なものです。
- 消音機能
- 呼吸負荷機能
もついているので、歌唱力アップに一役買うグッズです。
効率よく自分の声を聞きながらトレーニングしたい人におすすめです。
⑥録音する
これは厳密には「情報を増やすトレーニング」ではないのですが、「現実の歌声を聴いて誤差を完全に理解するトレーニング」ですね。
歌いながらのトレーニングではありませんが、最終的にはこれが一番「誤差修正」に効くのではないかと考えられます。