今回はファルセットとヘッドボイスの区別について。
特にこの
- 『ヘッドボイス』
という言葉。
これが、日本と海外で考え方が似ているようで全く違うという面白い現象が起きているようです。今回はそういうお話。
ファルセットとヘッドボイスの定義の違い【日本編】
一般的な考え方として
- ファルセットは『息が多い裏声』
- ヘッドボイスは『芯のある裏声』
という表現で語られていますね。
特に深く考える必要もなく、息っぽい裏声であればファルセットで、しっかりと鳴っている裏声であればヘッドボイスなのでしょう。
調べると大体こんな感じで出てくることが多いです(日本では・・・)。
個人的にはですが、この区分の必要性はほぼ感じません。
そのまま「息っぽい裏声」「鳴りの強い裏声」じゃダメなんですかね? だって、地声はこんな風に区別した名前はないですよね。
なぜ裏声だけこれが起こったのかを深く考えると、クラシックとポップスの考え方がごちゃごちゃになっているような気もしないでもないのです。
もともとクラシックでは「ファルセット(falsetto)」は『間違った声』『偽物の声』という意味合いで使われていたと考えられています。”false"は『間違い・嘘である』という意味の言葉です。
確かにマイクがない前提であれば息っぽい裏声では会場に届きません。
つまり、『歌に使えない弱々しい裏声=ファルセット』『歌に使えるしっかりと鳴る裏声=ヘッドボイス(頭声)』と考えると、これがだんだんと変換されていき、
- 「歌に使えない弱々しい裏声」→『息漏れのある裏声』
- 「歌に使えるしっかりと鳴る裏声」→『芯のある裏声』
となっていったのではないかと。あくまでも予想ですが。
では、海外はどうなのか?
海外(の古い考え方?)では『ファルセット=ヘッドボイス』
全部が全部というわけではないのはもちろんですが、海外のボイトレ界隈では
- 「ファルセット=ヘッドボイス」
という風に同義語的に表現しているのを目にする機会も多いです(もちろん、日本の方にもそう表現している人はいます。逆に海外にも先ほどの日本的な定義の人もいます)。
割と「息が漏れる」とか「芯がある」とか関係なしにそういう表現をしているのをよく見かけます。
例えば、世界的シンガーのジェシー・Jさん(再生位置*4:55〜)↓
- 「head voice is ha〜〜〜」
息漏れ漏れですよね。確実に「息っぽい」。
でも『head voice』と言ってますね。
このようにヘッドボイスとファルセットを音色的な区別もせずに同義語的に扱う人も多くいます(向こうの”古い?”考え方)。
特にそれで問題ないとは思います。
考え方としては
- チェストボイス=chest voice=胸声・胸に響く声=地声
- ヘッドボイス=head voice=頭声・頭に響く声=裏声
というように『チェスト・胸』の声に対して、『ヘッド・頭』の声という言葉の対比を作っているのでしょう。
わかりやすいですね。
ちなみに
日本語は少し変というか面白いですね。「”地”声」「”裏”声」というように『地』と『裏』なのです。ここら辺も変な誤解が生まれてしまうので「地声」のことを『表声』と表現する方もいますね。
個人的にはこの「ファルセット=ヘッドボイス」と考える概念がしっくりきます。
ちなみに先ほどの「息=ファルセット」「芯=ヘッドボイス」という考え方がしっくり来る人もいると思いますので、それはそれでいいとも思います。
ただ、そういう考え方の裏側に「犬ファルセット」と「猫ファルセット」という2種類の声帯の問題も絡んでいるのではないか?と個人的には思っています。
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正しい裏声について【犬ファルセットと猫ファルセット】
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海外(の最新の考え方?)にはもっと違う概念のヘッドボイスがある
試しに海外版のグーグルで「head voice falsetto difference 」と検索してみると面白いです。
The breathy and relatively thin nature of a falsetto tone will become very evident as compared to head voice, which has a clearer and richer timbre at a louder tone.
Head voice has some of the buzzing element that most people know so well from chest voice. This is because when singing in head voice, the vocal folds close (adduct) more than when singing in falsetto.
訳)ファルセットの音色は大きくてクリアで豊かな音色を持つヘッドボイスに比べて息っぽさと比較的薄い性質になるのは明らかでしょう。
訳)ヘッドボイスは、地声のような鳴り(buzzing)の要素があります。これは、ヘッドボイスで歌うときは、ファルセットで歌うときよりも声帯が閉じる(付加する)ためです。//
一見すると日本での定義と言ってることは変わらないようにも思いますよね。
ところが、サイト内で例として示している部分(”I like you a little too much for that〜”*0:47〜)↓
おや?
これは日本語だと割と地声やミックスボイス(ミドルボイス)と言われそうな発声、、。
少なくとも、『裏声ではない発声』ですね。
次の例。
While falsetto and head voice have been used interchangeably in the past, falsetto is understood to be a breathy version of high notes and head voice produces a richer and more balanced tone on the high pitches in a singer’s voice. Falsetto and head voice are two different modes for singing the same notes in the upper registers of the voice.
訳)ファルセットとヘッドボイスは以前は同じ意味で使用されていましたが、ファルセットは高音の息っぽい発声であると理解されており、ヘッドボイスは声の高いピッチでより豊かでバランスの取れたトーンを生み出します。
ファルセットとヘッドボイスは、声の高音域で同じ音符を歌うための2つの異なるモードです。//
Singing with a full head voice (also called “singing with a mix” or “middle voice) is simply when you sing in your head voice register without going breathy.
訳)完全なヘッドボイスで歌うこと(「ミックスで歌う」または「ミドルボイス」とも呼ばれます)は、息っぽさのないヘッドボイスの声区で歌うときです。//
Put another way, head voice is just a balanced or “flow phonation” at the top part of the voice, or head voice range.
訳)別の言い方をすると、ヘッドボイスはただ、声の上部、つまり頭の声の範囲のバランスの取れた「発声」です。//
This means that Falsetto and Head Voice are simply two different ways of approaching the same note.
訳)ファルセットとヘッドボイスは、同じ音程にアプローチするための2つの異なる方法ということです。//
One breathy (falsetto) and one with a balanced tone (“mix” or head voice).
訳)1つは息っぽい発声(ファルセット)で、もう1つはバランスの取れたトーン(「ミックス」またはヘッドボイス)です。//
若干わかりにくいですが、こちらもどうやら『日本のヘッドボイス』とは随分とニュアンスが違います。
そして「昔はファルセットとヘッドボイスが一緒で〜」、みたいな記述もありますね。
このサイトの例では、これが『ヘッドボイス』らしい(”Money on My Mind〜”*0:54〜)↓
少なくとも裏声ではないですね。
これも(”Somebody to Love〜〜”1:35〜)↓
(“Let it Be”の“be” *1:32〜)↓
どれも日本だと地声、もしくはミックスボイス・ミドルボイスと言われそうな感じです。
が、どうやらこれが
- 『ヘッドボイス』
みたいですね。
つまり、
- ファルセットではない発声で頭方向へ鳴らす発声
という”文字通りの表現(ヘッドボイス=頭の声)”として捉えている模様。共鳴の感覚の方向性を指しているということですね。
例えば、地声で低音域を出すと下方向へ出す感じになり胸によく響く感覚がします。ところが地声のまま音階を上げていくと高音域になった時にはおでこ辺りの方向性へ出しているような感覚になると思います。
そうすると地声であっても中高音域に差し掛かった時に『チェスト(胸)』とは感じられなくなりますね。
言葉の意味を真剣に考えすぎるとしっくりこなくなります。日本語で言えば「地声………”地”?」みたいな状態ですね。
なので、これを上手く整理するために共鳴位置の変化を表す言葉として『チェストボイス』『ヘッドボイス』があるという考え方ですね。
おそらく「ファルセット」という言葉と「ヘッドボイス」という言葉が同じ意味の言葉であれば、どちらか一方の言葉は誤解を生みやすい邪魔な言葉になるので「ファルセット=裏声」とし、「ヘッドボイス」に新しい概念をつけたという感じでしょう。
なんにせよ日本とは捉えている音が随分違うご様子。
このサイトだとこれはファルセットとしています。(1:13〜)↓
確かに、裏声(ファルセット)ですね。 日本だとこういうものがヘッドボイス(芯のある裏声)になるでしょうから、やはりヘッドボイスというのは裏声から切り離された考え方のようです。
もちろん、グーグルの検索上位に出てきているものが正しいとは限りませんが、上位に出てきているものは多くの人の概念に影響を与えているはずです。
現に日本で「ファルセット ヘッドボイス 違い」で調べると
- ヘッドボイス=芯のある裏声
で出てきますし、その定義が多くの人の概念に影響を与えていることでしょう。
しかし、海外では
- ヘッドボイス=裏声ではない頭方向への芯のある発声=地声orミックスボイス
的なニュアンスになっているのですね。
最後にもう一つのサイト。
The head voice and falsetto can sound very similar. In fact some people may say they are one in the same. They both use a ‘head’ tone where the sound is felt in the head and not the chest.
訳)ヘッドボイスとファルセットは非常によく似た音になります。実際、一部の人々は同じものであると言うかもしれません。どちらも、胸ではなく頭で音が感じられる「頭」のトーンを使用します。//
Falsetto is a thinner sound and is strictly in the ‘head’ and only uses the thin, leading edges of the vocal folds to vibrate. Head voice can be defined as a ‘mix’ of chest and head voice, which is generally a stronger sound than falsetto.
訳)ファルセットはより薄い音で、厳密には「頭」にあり、声帯の薄い前縁のみを使用して振動します。ヘッドボイスは胸と頭の声の「ミックス」として定義できます。これは通常、ファルセットよりも強い音です。//
この3サイト、「head voice falsetto difference 」で上位に出てくるんですよ。
共通して、どちらかと言えば地声かミックス的なニュアンスで言っていますし、例として捉えている音もそうですね。
少なくとも裏声ではない。
日本と言ってることが同じようで全然違うという面白い現象ですね。
「ファルセット」と「ヘッドボイス」は日本的な考え方なら区別は必要ないですが、海外的に考えるのなら区別されるのもわかります。