今回は、喉の脱力というものがテーマです。
基本的に、脱力に関してはトレーニングで改善できると考えられるのですが、トレーニングをする前に”脱力”に関しての考え方をある程度整理しておく必要があります。
「喉の脱力」とはどこを脱力するのか?
まずは、「喉の脱力」の目的を整理します。
「喉の脱力」には主に、
- 喉締めの緩和
- 声帯の硬直の緩和
という二つの目的になると考えられます。
⑴喉締めの緩和
現状の自分の能力を超える高音や声量を出そうとすると、喉が締まり苦しそうな発声になることを『喉締め発声』と言ったりしますね。
喉締め発声は簡単に言えば、声帯だけの能力で上手く声をコントロールできないので喉周りの力を借りている状態です。
この状態は、喉締めそのものが悪いのではなく、厳密には喉締めによって「共鳴空間が小さくなること」によって音色の響きが悪くなり、結果的にいい音色の発声ではなくなることが問題とも言えるでしょう。
なので、仮に音色が悪くならないのなら喉締めでも何も問題ないということにもなりますが、ほとんどの場合その状態でいい音色は生まれないので、喉締めを解消する必要があるということです。
これが、喉の脱力の目的の一つです。
⑵声帯の硬直の緩和
これは、自覚しにくい場合もあるのですが、喉は締まっていないが声帯が固まっている(締まっている)という状態があります。
喉周りに力みはないが、声帯そのものが力んでいる状態ということです。
こういう力みは”力み”として認識しにくいものかもしれません。特に日本語は、母音を重視し声帯を固く使う言語なので、日本人は無意識にこの症状に陥りやすい傾向があります。
このような声帯が力んだ状態では”いい音色の発声”にならないので、この力みをほぐすという意味合いでも「喉の脱力」という言葉が使われているでしょう。
初心者の「脱力」と熟練者の「脱力」は違う
「喉締めの緩和」と「声帯の硬直の緩和」が脱力の目的になり、基本的にはそれらを脱力させればいい発声になるとも言えます。
しかし、ここで一つ理解しておかなければいけないのは、
- 初心者と熟練者では同じように『脱力』しても結果が同じにはならない
ということです。
おそらく「力を抜けとは言われたものの、力を抜いたところでいい発声にはならないよ?」と感じたことがある方も多いとは思います。
これは「積み上げられた能力のある状態での脱力」と「能力がない状態での脱力」は別物だからです。
例えば、先ほどの喉締め発声で言えば「高い声を出すと喉が締まるが、喉を脱力すると高い声にはならない」という状態になると思われます。
この「喉締め」は、高い声を出すために”借りている力”なので、それを無くすと高い声が出せなくなるというのは、ある意味当たり前のことですね。
つまり、必要な能力があるから脱力できるのであって、その能力がなければ脱力してもすぐにいい結果にはならないということです。
言い換えると、「脱力」にはある程度の長期的な視点での成長を考える必要があるということ。
「脱力」の感覚について
「脱力した発声とはどんな感覚なのか?」疑問に思うこともあるでしょう。
これに関しては、
- 脱力の”感覚”は人ぞれぞれであり、自分に適する感覚を探すことが大事だ
というのが核心をついた答えだと思います。
少し答えが面白くないかもしれませんが、他人の感覚と自分の感覚が完全に同じになることはないので、自分に適するものを探した方が結局のところいいだろうと考えられます。
ただ、あえて多くの人に当てはまりそうなものを考えるとすれば『話し声からそう大きくかけ離れた感覚ではない』と言えるはず。
おそらく、このページを読んでいる方は「歌声には余計な力が入ってしまうが、話し声はそうはならない」という人がほとんどだと思います。であれば、その話し声くらいの喉の脱力感というのをイメージすればいいだろうと思われます。
素晴らしいシンガー達は、話し声から歌声へと瞬時に切り替えることができますが↓
ある意味「喉の脱力感」は話し声と大差ないからこそ、このようにコロコロと切り替えることができるという見方もできます。
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歌における『力を入れる場所・力を抜く場所』は人それぞれ違う
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脱力トレーニングを始める前の注意点
脱力トレーニングを始める前に、『変声期・声変わり』には注意しなければいけません。
というのも、この時期は男女ともに声帯が変化している時期であり、声に関する様々な問題が起こりやすい時期です。なので、「いつまでも脱力できない」「何をどうしても力が入ってしまう」ということも起こったりします。
こういうものは、人間の成長過程にある”仕方のないこと”で、トレーニングするよりも、何もせずに声変わりが終わるの待っている方が結果的によかった、という場合も普通にあると考えられます。
もちろん、トレーニングで解決する場合もあるので一概には言えませんが、変声期はトレーニングによって逆に発声が悪くなったりする可能性もあるので、注意が必要です。トレーニングしたい場合は、無理のないトレーニングを心がけましょう。
脱力のトレーニング方法
脱力トレーニングの考え方は、2種類あります。
- 脱力を第一にして、その発声のコントロール範囲を広げていく
- ある程度力を入れて発声し、その発声を特殊な発声トレーニングでほぐす
①脱力をベースにしたトレーニング
まず、喉が脱力した状態(話し声くらい楽な状態)の発声を作り、その感覚を崩さずに声をコントロールできる範囲を少しづつ広げていくトレーニングです。
つまり、『脱力した状態』を第一に考えて声を鍛えていくということ。
もちろん、先ほど述べたように能力がない状態では脱力したからといっていい結果は生まれないのですが、それでも脱力を崩さずに発声を続けることで、必要な能力を身につけていくということです。
少しでも力が入るような発声になったら、一度力が入らないところまで戻ってその発声状態のままコントロールできるように”試行錯誤”します。
この試行錯誤は、人それぞれ感覚や意識の違いにより具体的なものを述べることはできないのですが、
- 「力が入っていない発声」から「力が入り始める発声」になるその間の部分の発声をたくさん繰り返すこと
でゆっくりと脱力した発声の範囲を広げていけると思われます。
地道なトレーニングになりますが、コツコツと積み重ねることで脱力したいい発声を身につけることができるでしょう。
自分の声を録音してトレーニングするなどして、こまめに歌声を確認するとより上手くいくでしょう。
②特殊な発声トレーニングでほぐす
まずは、特に脱力を意識せずに力が入った発声を出し、その状態で特殊な発音のトレーニングを繰り返すことで脱力を促していくというトレーニングです。
オススメは、
などなど。
力が入った発声でこれらのトレーニングを繰り返すことで、余計な力みをほぐすように脱力を促します。
前提が脱力ではない分、思い切ってひたすらにトレーニングできますし、あまり細かいことを考えなくても発音が脱力を促してくれるというメリットはあります。
そして、おそらく短期的に脱力の効果を感じやすいと思われます。
しかし、こういうトレーニングは『変に脱力した発声』を生み出してしまう可能性もあります。
”変に脱力した発声”とは、脱力はできているが発声の音色があまりいい音色ではない発声のことです。特殊な発音が脱力を促してくれる反面、特殊な発音なので音色の質をあまり気にしなくなってしまって、気づかずに悪い発声を身につけてしまうのですね。
このようなことが起こる可能性があるので、音色の質に注意しながらトレーニングするといいでしょう。
先ほどの①のトレーニングと組み合わせながらトレーニングすれば、変な発声になりにくいと思われるので、上手く使い分けましょう。
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