この記事は『ミックスボイスとは?』というテーマについて深く研究・考察した記事です。
歌の勉強をする多くの人が一度は「ミックスボイス」という言葉に引っ掛かったことがあるはず。そしてよくわからない迷路に迷い込むという。
個人的には、
- 『ミックスボイスなんて言葉が存在しなければ、多くの人が幸せになったのでは?』
と思ってしまうようなそんな言葉です。
ミックスボイスとは
一般的には
ミックスボイスとは
- 主に裏声ではない発声で高音域を出す発声方法
- もしくはその『声区』
を指す言葉です。
また同じ意味として、『ミドルボイス』とも言われたりします。
主に
- 地声=胸声=チェストボイス(Chest)
- 中声=ミックスボイス/ミドルボイス(Mixed/Middle)
- 裏声=頭声=ファルセット/ヘッドボイス(Falsetto/Head)
このような声区の区分の真ん中の部分を指す言葉として『ミックスボイス』という言葉が使われるのが一般的です。
しかし、特に特定の音階や音色の特徴なども明確に決まっていないために非常に曖昧な言葉で多くの語り口があり、世界的にみても正式な定義が不明瞭なものとなっています。
本来の語源・由来
『ミックスボイス』という言葉の由来はフランス語を英語に変換した時に生まれたものとされています。
原語はフランス語のヴォワ・ミクスト(voix mixte)であり、英語の mixed voice もその訳語のようである。
引用元: Wikipedia『ミックスボイス』
このフランス語のヴォワ・ミクスト(voix mixte)というのは『声区融合』という意味なので、それを訳した英語のミックスボイス(mixed voice )も『声区融合』という意味になるのが本来は正しいのでしょうし、元々はそういう使い方の言葉だったのかもしれませんね。
声区融合とは
- 『地声から裏声までを滑らかに移行すること』
を指すことが多い言葉です。
地声と裏声を融合させる・混ぜ合わせる(mixed)という意味合いなのでしょう。
勘違いしやすいのですが、声区融合とは『移行する境目の発声を指す言葉』ではなく、その『滑らかに移行するという発声様式全体を指す言葉』です。
つまりミックスボイスとは本来、
- 君は”ミックスボイス”だね
- 君は”声区融合”してるね
- 君は”地声から裏声まで滑らかに移行”してるね
という状態を指す言葉だったのかもしれませんね。
しかし、その言葉の曖昧さのせいで多くの解釈を生んで、言葉だけが一人歩きした結果として、
- 君は”ミックスボイス”だね
- 君は”裏声ではない高音”を出してるね
という感じで使われるのが一般的になっていると思います。
まぁ言葉は時代の流れによって使い方が変わっていったりしますから、「本来は〜」とか「厳密には〜」とか言ったところで、、、結局はその流れに乗るのが一番なのかもしれませんね。
なぜ一般的に使われるミックスボイスは曖昧になるのか?
この理由は明白だと思っています。
『声区として明確に線が引けない』
からです。
簡単に言えば、「ここからここまでが〜」と範囲を決める時の「ここ」の場所をはっきりと示すことができないと考えられます。
特に「ここから」の部分。
地声・裏声はできる
地声と裏声ははっきりとそれができるんです。
- 地声=声帯筋(甲状披裂筋)が働く発声
- 裏声=声帯筋(甲状披裂筋)が働かない発声
と明確に線が引けるのですね。
難しく考えたくない人は『地声・裏声』で考えておいてもいいのかもしれません。
というかその方が歌が上手くなる人が多いのかも。
ミックスボイスって言葉を調べれば調べるほどわかることわかることなのですが、
- プロほど語らず、一般人ほど語る傾向にある不思議な言葉
です。
ただ、それには深い理由があると考えています。
もし、「ミックスボイスを『ある』か『ない』の2択ではっきりと答えろ」と言われたら、僕は『ない』と答えます。
これについては別記事で掘り下げていますので、興味のある方はこちらへ。
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-
ミックスボイスの存在について【なぜプロほど語らず、一般人ほど語るのか】
続きを見る
ミックスボイスの一番お得な解釈
どう考えるにしても「ミックスボイス」という言葉自体は一般的に使われるので、めんどくさいですよね。
自分の中で解釈をある程度決めておくといいと思います。
ミックスボイスとは
『自然な換声点以上の音域の裏声ではない発声』
*換声点・・・地声と裏声が切り替わる点。「自然な」という言葉がついているのは換声点は”一点”ではなく、いくらでもズラせるので、「一番楽で最適な」という意味で「自然な」と書いています。
くらいで考えるのが一番お得なように思います。
お得というのは
- 使われるとしたらそういう場合を指すことが多いので、大枠の意味を捉えやすい
- 定義に線引きできるとしたらこれしかないから考えやすい
という点でお得です。
こう考えると会話にもついていけますし、一般的に使われる意味を大枠捉えていると思っています。
個人的にもこのような意味で使っています(本当は使わない方が良いと思っていますが、みんなが使うから。笑)
そして
もし、
『ミックスボイス=自然な換声点以上の音域の裏声ではない発声』
とするのならば、
ミックスボイスとは
自然な換声点以上の音域で声帯筋が働いた発声
*声帯筋(甲状披裂筋)・・・地声で働いて、裏声では働かない部分。
と言い換えられます。
ということは『ミックスボイスは地声の仲間』=『地声の高音』と考えることができるはず。
ミックスボイスの声帯の形や状態
声帯は人体なので筋肉や神経などと同様にまだまだ研究の余地が残されている分野です。
論文や文献を参考にこの記事を書いていますが、ここからは「ふーん。」くらいでお楽しみいただくのがいいと思います。
ここからはミックスボイスを「地声の高音」という意味合いで表現します。
では早速ミックスボイス(地声の中高音発声)の声帯の状態や発声原理について考察。
地声と裏声の声帯の状態の違いをざっくりと理解しておくべき
ミックスボイスを理解するには地声と裏声の声帯の状態の違いをしっかりと理解しておかなければいけないでしょう。
地声と裏声の違い
声帯はこのように左右のひだが打ち合って振動します(正確にはベルヌーイというものですが、難しいので打ち合うと考えても損はないでしょう)。
この声帯の断面をクローズアップすると
このようになっています。細かい名前はどうでもよくて声帯筋(=甲状披裂筋)という『肉』があり、それ以外は『皮』みたいなものだと考えていいと思います。
そうするとこのように分けられます。
この二つの『肉』と『皮』のうち、『肉』の打ち合いが地声。
「皮』だけが打ち合うのが、裏声です。
これを断面で見ると、
このようになっています。
わかりやすい(*再生位置)↓
これが
- 地声と裏声の明確な差(定義)
です。
つまり
地声のように聞こえるには『肉』が必要であり、肉をなくせば『皮』だけになり裏声になるということです。
-
-
声が裏返る仕組みや原因について
続きを見る
ミックスボイスの声帯の状態
ここまでで、
- 肉(声帯筋・甲状披裂筋)の打ち合いが地声
- 皮(声帯靭帯・声帯上皮)の打ち合いが裏声
ということがわかりました。
ではミックスボイスはどちらに分類できるのか?
どちらかと言えば『肉』だと思います。
だって『裏声ではない』のですから。
しかし、同時にミックスボイスというのは綺麗に線引きできないものだと感じませんか?
声帯筋がどの程度打ち合えばミックスボイスと言えるのか、その線を引くのは難しいということです。
これが「それは地声だよ、ミックスボイスだよ」みたいな問題や、「〇〇なミックスボイス」というものを作り出していると思います。
- 地声寄りなミックスボイス
- 裏声寄りなミックスボイス
- 柔らかいミックスボイス
- パワフルなミックスボイス
などなど色々な表現がありますね。
なんにせよ
声帯筋という「肉」の部分を働かせずに声帯靭帯などの「皮」の部分だけで発声すると裏声になってしまうので、「肉」のある発声でなおかつ高音の発声をしなければいけない。
「地声から裏声」と「地声からミックスボイス(地声の高音)」の声帯の動き
地声→裏声
声帯は基本的に伸びることで音を高くします。
このように声帯が伸びれば伸びるほどに音が高くなっていきます。
これが輪状甲状筋による声帯の伸展です。
そのまま声帯を伸ばして音を高くすると、やがて声帯筋が働かなくなります。
地声→ミックス(地声の高音)
ミックスボイスはこの「裏返る段階」に入っても地声のような状態を保つ。
声帯が伸びるにも関わらず声帯筋を保つ動きをするので、地声のような音色の高音になるのですね。
というか見かけ上はほとんど地声。
つまり
- 裏声は『声帯が伸びるので声帯筋が働かない発声』
- ミックスボイスは『声帯が伸びるのに声帯筋が働く発声』
です。
ということは声帯が「伸びる力」をそのままに「収縮・緊張する力」を加えて地声の状態(声帯筋が働く状態)を維持しなければいけない考えられますね。
つまり、
この「伸びる力」と「収縮する力」という二つの相反する力の共存こそが『裏声ではない高音発声=ミックスボイス(地声の高音)』を可能にすると考えられます。
ちなみに
- 伸びる力は声帯を開く作用
- 縮む力は声帯を閉じる作用
に連結していると考えられています。
縦の動きが結果として左右への力にも直接ではないですが、間接的に関係しているのですね。
ミックスボイスの発声原理
ここまででミックスボイスを可能にするには
『本来、高音域では働かなくなる声帯筋(甲状披裂筋)を高音域で働かせることが必要』
ということはイメージできたと思います。
「じゃあ、どういう原理でそれが働くの?」
というところが一番大事ですよね。
それを紐解いていきます。
ここからがミックスボイスの核心ですが、超マニアックゾーンです。笑
2種類の縦方向の収縮
ミックスボイスの発声においてかなり重要な部分のお話になりますが、かなりややこしいです。
実は声帯筋を働かせるこの縦方向の収縮の力。
まだ解明されていないことも多いらしいのですが、縦方向の収縮のうち『外側』と『内側』と『さらに内側』を分けて考えなければいけないのです。
青い部分(『一番外側』)は謎が多いらしいので無視してください。
オレンジと赤の2種類が『内側』と『さらに内側』です。
簡単に言うと地声で使う『肉』の部分をさらに2分割したものです。
内側・さらに内側などの表現がすごくややこしいので、
- オレンジ(2番目に内側)→外側
- 赤(1番内側)→内側
と表現します。
わかりにくかったらごめんなさい。
ここで重要なのが、
大抵の人はオレンジライン(外側)は収縮させることができるが、赤ライン(内側)を単体で収縮させることができるかは人による(声帯の柔軟性による)と考えられています。
つまり基本的にオレンジライン(外側)は誰もが使っていて、オレンジライン(外側)の動きにくっついて赤ライン(内側)も動いている人が多いということ。
しかし、声帯を上手く動かせる人は赤ライン(内側)だけを上手く動かせるというのです。
つまり
- 声帯コントロールが苦手な人はオレンジと赤が同じ動きをする
- 声帯コントロールに長けている人は赤だけを独立して動かせる
と考えられています。
これは例えば、
- 耳だけを動かせる人と動かせない人
- 胸筋をピクピクと動かせる人と動かせない人
のような神経や筋肉が開発されているかいないかの違いと考えられます。
これにより声帯を伸ばしても地声の状態を維持できる(裏声にならない)のですね。
このように
『高音域で赤ライン(声帯筋)を使えるようになること=ミックスボイスの発声原理』
と考えられています。
以下の引用(原文ママ)は大体同じことを言ってるはずです。
低音域から中音域においては、前筋・後筋による伸展作用がそこまで強くありません。声帯は内筋と声帯筋(低音においては外側も)が全体で振動を起こします。しかし、音域が段々と高くなり、伸展作用が強くなると、声帯は外側から裏声モードに変化し、振動停止をし始めます。すると、ある高さのところで、内筋全体が裏声モードになり、振動停止状態になります。残されるは「声帯筋部分」のみ。
このとき、声帯筋が「内筋に依存しなければ機能できない状態」だと、結果、内筋とともに裏声モードになり振動ができなくなります。しかし、「独立して機能することができる状態」だと、声帯筋は内筋が裏声モードに侵食後も独自で振動のが可能となります。この状態で発せられる声こそ、高音域のミドルボイスとなります。
胸声は甲状被裂筋により声帯が収縮し、厚く閉じた状態で発せられる。
頭声は輪状甲状筋により声帯が薄く伸展され声帯の縁の靭帯が振動する。
中声においてこの甲状被裂筋と輪状甲状筋を仲介し、胸声と頭声の融合を可能にするのが甲状被裂筋の内側にある声帯筋である。声帯筋はその構造から緊張を自由に変えることができ、そのことによって胸声、頭声の橋渡し、あるいは、胸声を多く含んだ中声、頭声を多く含んだ中声等の様々な音色コントロールに対応することができるのである。
引用元:『声楽発声のメカニズム』より
つまり、この内側声帯筋が働いている状態であればどこまでも地声のような高音を発することができる理屈です。
それが『良い発声』であるかはまた別の話ですが。
ミックスボイスを出すためのアプローチ
ミックスボイスを出すため必要な条件は
- 高音域で『声帯筋を働かせる』
- 特に『内側の声帯筋』が重要
でしたね。
ということは
- 『高音域での声帯筋の働かせ方=ミックスボイスの出し方』
と考えることができますね。
大きく分けると二つの考え方ができると思います。
- 『内側声帯筋』が独立して働くように開発する(理想?)
- 外側からの力を借りて声帯筋を働かせてしまう(無理矢理?)
という二つの考えです。
まぁこの二つのも完全に別物というものでもないでしょう。
1.内側声帯筋が独立して働くように開発する
理屈的には高音発声をするとき(声帯伸展するとき)に『内側の声帯筋』が綺麗に独立して働くように開発するというイメージです。
ただし、この内側の声帯筋の動きを知覚・認識するのはかなり難しいと思います。
多分ほぼ全ての人は認識できないと思います。もちろん魅力的なミックスボイスを出している人でさえ。
例えば、
歩いているときに「あー、前膝十字靭帯がしっかり動いてるわぁ」みたいな認識ができないのと同じです。
なので、高音域で声帯筋を働かせることができる人(声帯の柔軟性がある人)は
- 地声のように高音を出そう
- 裏声にしないで高音を出そう
などの意識のみで出していると考えられます。
いい意味で意識すれば勝手に働くのでしょう。
なので、「内側声帯筋を働かせるぞ〜!」と思って働かせることができる人はおらず、内側の声帯筋が独立して働くかどうかは結果論なのだと思われます。
つまり、
『地声のような高音を出そうとした結果として内側の声帯筋が働いている』
のですね。
じゃあ、どうやって開発する・鍛えるのか。
開発方法
この内側の声帯筋を開発するのに良いとされているのが『エッジボイス』です。
あまり力みなくエッジボイスをトレーニングすることで、この声帯筋の内側の部分を鍛えることができると考えられています。
この「鍛える」とは
筋肉を鍛えるようなものではなく、神経を鍛えるような意味合いが強いと考えられます。
例えば、足の指で「グーチョキパー」とずっと練習していると足の指を上手く動かせるようになるような感じでしょう。
あまり認識できない部分だけに鍛える難易度が高いですね。
日々コツコツと動かしてあげる・使ってあげることが大事だと思います。
ただ、認識できないのが厄介すぎる、、、、笑
2.外側からの力を借りて声帯筋を働かせてしまう
声帯コントロールが上手い人は内側の力を上手く使うことができると考えられていますが、外側の力を使っても声帯筋を働かすことができるはずです。
これは比較的誰でもできやすいと思います。
俗に言う
- 『声帯閉鎖』
というやつです。
*「俗に言う」というのは、本来「声帯閉鎖=声門閉鎖」と同義語でただ声帯が開くか閉じるかだけの意味なのですが、それとは違う声帯に一定の緊張や圧力を与えるような動きのことを『声帯閉鎖』と言ったりする使い方のニュアンスも多いからです。
つまり、
このように外側から締めてしまって声帯筋を働かせるという考え方です。
なんだか無理やり感もありますが、先ほどよりも意識・感覚的に捉えやすくわかりやすいと思います。
しかし、これだといわゆる『喉締め発声』です。
例えば、高音が苦手が苦手な人は「裏声ではない高音を発声しよう」とすると喉締め発声になる人は多いのではないでしょうか?
これは、
- 地声のまま高音に登ろうとする=声帯筋を働かせたまま高音に登ろうとする
- しかし内側の声帯筋を独立して上手く使えない=声帯の外側の力を使って声帯筋を無理やり働かせる=喉締め発声になる
と考えられます。
つまり、声帯筋を働かせるため(地声の音色にするため)に声帯周りの力を使ってしまう(使わざるをえない)のですね。
こういうものは基本的には『喉締め発声』と言われ悪いものとされています。
もちろん魅力的でないダメな発声も多いでしょう。しかし、一概にダメとは言えないはず。
なぜならその周りから力を借りている度合いは場合によるからです。
- 喉締めは力を借りすぎている状態は流石にダメなことが多い?
- 中くらいだとどうなのか?
- ではほんの少し借りている状態はどうなのか?
など様々な状態が考えられると思います。
なので、外側の力を借りるという考えも一概にダメとは言えないと思っています(でもダメな場合も当然ある。)
開発方法
こういう考え方で高音(ミックスボイス)を出した場合、ほとんどの人が外側の力が過剰に働いてしまうはずですね。
声帯筋を上手く動かせないから外側を使って無理やり働かせるのですから。
結果的に喉締めになる。
ということは、
この場合、
『働いている外側の力をいかに減らしていくか』
というのがポイントになると思います。
言い換えると『力んでいる部分を脱力する』ということです。
力んだ発声状態で脱力を促すようなトレーニングをし、外側の力を減らしながらトレーニングする。
結果として内側の力が鍛えられるということも考えられます。
裏声からのアプローチ
ミックスボイスは裏声から開発しよう・アプローチしようという考え方も多いですね。
これってどうなんでしょう?
裏声からのアプローチ
裏声からのアプローチは
このように裏声から声帯筋を働かすイメージと考えられます。
が、、個人的にはこの裏声からのアプローチは考えにくい、、この動きはありえない、、、とも思っていますが、決めつけは良くない。笑
だって声帯は人それぞれだからです。
実は「裏声アプローチ」が語られるカラクリは自分の中ではほぼ確信していますが、長くなるのでここではやめておきます。笑