今回は「ミドルボイス」についての研究考察です。
「ミドルボイス」は歌の流派によって(人によって)言ってることがバラバラで一体何が正しくて何が間違っているのかわからなくなってしまいますよね。
ある意味「よくわからない」という状態が核心をついているのですが、この問題の結論を先に述べておくと
- 「ミドルボイス」の考え方は歌の流派によって様々。なので、自分の中で適度に折り合いをつけることが大事になる
と考えられます。
目次
なぜたくさんの意味や考え方があるのか
本題に入る前にまず「なぜ、流派によって無数の答えがあるのか」について少し触れておきます。
大きくは
- 「ミックスボイス」という似た言葉の存在
- 『ミドル』『ミックス』という言葉の曖昧さ
という二つの理由があると考えられます。
「ミックスボイス」を何とするかというのは一旦置いておきますが、「ミドル=中間」「ミックス=混合・混ぜる」というような似た意味の言葉ですね。
さらに「中間」とか「混合」という曖昧さを持った言葉でもあります。
つまり、『なぜたくさんの意味があるのか?』というのは
- 『言葉を伝える側』の解釈と『言葉を受ける側』の解釈がズレていくから
でしょう。
『ミドル』『ミックス』のように言葉が曖昧なせいで世界中を巻き込んだ伝言ゲームで大失敗してしまい、その結果無数の意味合いが生まれてしまったとも言えるのかもしれませんね。
ミドルボイスを5つのパターンに分けて考える
現状たくさんの考え方があることはどうしようもないことなので、自分に合う考え方を選択するしかないですね。
ここからは「具体的にどういう考え方があるのか?」まで踏み込んでいきその上で「どう考えるべきか」について考察したいと思います。
そうすると「ミドルボイス」とは
- 「中音域帯の発声全般」を指す
- 「地声の中高音発声」を指す
- 「裏声の低中音発声」を指す
- 「ミックスボイス」を指す
- 「なし」とする
という5つの考え方ができます。
個人的には「⑤なし」の考え方が一番好きですが、もし”ある”側で考えるのなら「②地声の中高音発声」が一番いいように思います。
①「中音域帯の発声全般」を指す場合
これは”特定の発声”を指しているというよりも”その音域帯の発声”を指す言葉になります。
「ミドル(Middle)」というのは「中間」を指す言葉で、
- ロー(Low)→低い
- ミドル(Middle)→中くらい
- ハイ(High)→高い
のように使われます。
高い声のことを「ハイトーンボイス」と言ったりしますが、そういう音域的区分で『高くも低くもない中間くらいの音域の声』を指す言葉としての『ミドルボイス』ということです。
つまり、「地声」とか「裏声」のような声区の区分があるわけではなく、単に「中音域」という意味で『ミドルボイス』と呼んでいるこのがこのパターンですね。
厳密にどこからどこまでを『中間』とするのかということに決まりがないのでこれも人それぞれの考え方次第になります。
②「地声の中高音発声」を指す
これは「地声」という声区における中高音域あたりを『ミドルボイス』としているということです。
例えば、チェストボイス(地声)は「チェスト(Chest=胸)」という言葉通り”胸に響く声”という特徴からその名前がついています。
もちろんヘッドボイス(裏声)は”ヘッド(Head=頭)に響く声”です。
これらはあくまでその特徴を端的に表した言葉です。
しかし、地声でも高音域を発した場合、「胸に響くというよりはどちらかと言えば頭に響く、もしくは頭と胸の中間位置に響く」ということが起こります。
例えば、自分の地声の最低音から最高音まで「あーー⤴︎」と上げていくと響きの位置が真下から上に上がっていくのを感じられるはずです。
これは声帯や喉の作り的にそうなるのですが、このようにある程度高音になることで「チェスト・胸」という言葉がしっくりこなくなるのですね。
- 『声区』という意味ではチェストボイス(地声)だが、『発声感覚』としてはチェストボイス(胸声)とは言いにくくなる
ということです。
なので『ミドルボイス(胸と頭の中間に響く声)』という意味合いの言葉を作ることで、その響きの位置を端的に表せるのだと思われます。
このことから
- ミドルボイスとは「地声の中高音発声」
という意味合いになります。
一般的に「ミドルボイス」という言葉が使われている場合は大体これに当てはめると大きな問題は生まれないように思います。そういう点で個人的には一番いいように思います。
③「裏声の低中音発声」を指す
これも先ほどと理屈は同じです。
裏声を出すときは基本的に頭に響きやすくなるのですが、それが低い音域の裏声である場合、響きの位置は中間的な位置なります。
このように裏声でも低音域は響きの位置は落ちるので『ヘッド』と呼ぶにはしっくりこなくなってしまいます。
なので、これをもとにして、
- ヘッドボイス(頭に響く裏声)
- ミドルボイス(頭に響かない裏声)
として考えるパターンです。
よって
- ミドルボイスとは「裏声の低中音発声」
となります。
おそらくこのパターンで使われることは少ないでしょうが、なくはない。
④「ミックスボイス」を指す場合
これがかなり厄介で「ミックスボイスとは何か?」というものを解き明かさなければいけないのですが、これも極論は『人次第・流派次第』の問題になります。
ミックスボイスの意味はこれまでのミドルボイスの意味「①中音域の発声」「②地声の中高音発声」「③裏声の低中音発声」の他にも
- 声区融合(地声から裏声にスムーズに移行できるという状態)
- 地声と裏声の間を埋める発声方法
- 地声と裏声をある割合で感覚的に混ぜる発声
- 『柔らかさ』『透明感』のある地声のような発声
などなどたくさんの意味合いが語られています(*似たよう意味もありますが、微妙に違います。もちろん、これ以外にもあるでしょう)。
どう考えるのも歌の流派次第なので人それぞれ好きに考えてもいいと思うのですが、ここで考えるべき大事なポイントは「ミックスボイスは”声区”なのか?」という点。
答えはNOとされています。
”声区”とは声帯の機能区分のことで、「声帯の振動パターン」「一連のピッチ」「音の種類」によって区分されたものです。
現代では声区は
- ボーカルフライ
- モーダル(地声)
- ファルセット(裏声)
- ホイッスル
という4つに区分されておりそれ以上の区分はありません。
つまり、「ミックスボイス」がどんな意味を持っていたとしても、地声と裏声の中間に位置しているのであればそれは”声区としては”「地声」か「裏声」のどちらか一方に属していることになるのですね。
つまり、『地声と裏声の間を埋める新たな発声方法(新たな声区)』にはならないということは言えます。
ということはこれを除く全ての意味を並べると、ミックスボイス(ミドルボイス)とは
- 中音域の発声全般
- 地声の中高音発声
- 裏声の低中音発声
- 声区融合
- 地声と裏声をある割合で感覚的に混ぜる発声
- 『柔らかさ』『透明感』のある地声のような発声
これだけのパターンが考えられます。
もう嫌になってきますね。笑
大体どの定義もツッコミというか、文句を言うことはできるんです。
- [中音域の発声全般]→→→意味としてはありだが「ミドルボイス・ミックスボイス」ではなく『ミドルレンジ・ミックスレンジ』にした方がしっくりくる。
- [地声の中高音発声]→→→そのまま『地声の高音』『チェストボイスの高音』でいい。
- [裏声の低中音発声]→→→そのまま『裏声の低音』『ヘッドボイスの低音』でいい。
- [声区融合]→→→これは実は『ミックスボイス』の語源で定義的に問題はない。しかし、この意味ではほとんどの人が使っていない。
- [地声と裏声をある割合で感覚的に混ぜる発声]→→→”感覚として”混ざることはあるが、声区としては必ず「地声」か「裏声」のどちらか一方になる。
- [『柔らかさ』『透明感』のある地声のような発声]→→→地声でいい。
このようにどこかしら定義に欠陥があります。ある意味はっきり定義できないからこそ声区ではないとも言えますね。
ただし、『④声区融合』という意味で使う場合のみ特に問題はないかと。そもそもの語源なので。
これらの詳細についてはこちらの記事『ミックスボイスとはそもそも存在するのか?』にまとめているのでここでは省略します。
⑤「なし」とする場合
「ミドルボイス」「ミックスボイス」が声区でないのであれば、
- そもそも「ミックスボイス・ミドルボイス」は区切る(名前をつける)に値するのものなのか
と考えてもおかしくはありません。
要するに「ミックスボイス・ミドルボイス」なんて考えなくていいというような考え方で、歌において基本的に考えるべきは
- 地声=チェストボイス
- 裏声=ヘッドボイス(ファルセット)
のみとするということになります。
そもそも1990年代以前には「ミックスボイス・ミドルボイス」という言葉はプロの歌手にさえほとんど広まっていなかったとされています。
また現代においてもプロの歌手はそこまでこの言葉を使いませんね。そういう意味では特に考えなくても不都合はないと言えるのでしょう。
どう考えるのがベストか
これは人によって流派や考え方が違うので一概に述べることはできませんが、『ミドルボイス』というものを
- ”声区”として考えるのか
- ”発声表現”として考えるのか
というのをまずは整理すればいいと思われます。
”声区”として考えるのなら無視して問題ないかと
これは先ほども述べたように
- ボーカルフライ
- モーダル(地声)
- ファルセット(裏声)
- ホイッスル
という4つの声区しかないので「ミドルボイス」「ミックスボイス」を声区として考える必要性はないというか、そこに声区を見つけようとしても見つからないはず。
よって”声区”で考えればミドルボイス・ミックスボイスはないものとして考えるのがベストだろうと個人的には考えます。
”発声表現”として考えるのなら
”発声表現”として考える場合、『それが何を指しているのか』を自分の中で明確にしておくことが重要でしょう。
- 「中間的な音域の発声」なのか
- 「響きの位置が中間になる地声」なのか
- 「響きの位置が中間になる裏声」なのか
などなど。
自分の中でのしっくりくる定義があるのならそれを大切にしていればいいと思います。
ただし、人それぞれ定義が違うので「他人からそれを教えてもらう場合」「他人にそれを語る場合」には注意が必要です。
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声区の種類について【歌においてどう考えるのがベストか】
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