今回は、『声帯の音域タイプ』についての内容です。
人はそれぞれ持っている声帯によって、最適な音域帯が違い、魅力的な音階がある程度決まっています。
つまり、歌のために自分の声帯の音域タイプと向き合うことは重要です。
目次
人は約3オクターブくらいの音域のポテンシャルを持っている
一般的に、歌に使える音域は最低音から最高音まで2〜3オクターブくらい出せるようになります。
つまり、誰しも約2~3オクターブくらいは出せる力を秘めているということ。
もちろん個人差はありますし、男女差もあります。音域の範囲自体は、男性の方が広くなる傾向です。
また、声が高い男性は女性寄りの範囲、声が低い女性は男性寄りの範囲になりやすいと考えられます。
つまり、『低い声帯ほど”範囲そのもの”は広がりやすい』という傾向にあります(*あくまで傾向)。
もちろん、中には女性でも4オクターブ以上出せる人もいますし、男性の中には6オクターブくらい出せる人もいます↓
なので、3オクターブくらいはそこまでありえない範囲ではないのですね。
2〜3オクターブをフルに使うわけではない
2〜3オクターブのうち、
- 歌に最も使いやすい音域(=魅力的な音域)が1~1,5オクターブくらいの範囲
になります。
なので、多くの楽曲が1オクターブ~1,5オクターブくらいの音域の範囲で歌われることが多い。3オクターブの音域を開発したからといって、その音域全てをいつも使えるというわけでもないのですね。
声区ごとに魅力的に鳴らせる音域は、決まっている
2〜3オクターブの中で最も魅力的に鳴らせる音階は、ある程度決まっています。
基本的に、このような『音階と魅力の関係性』のグラフになります(*個人差はある)。
もちろん、現状このような状態の方もいるでしょうが↓
ポテンシャルとしては、誰もが先ほどの図のようになると考えられます(*声帯が鍛えられていない人は多くの場合、上図のように地声の中高音と裏声の低中音域に開発の余地があります)。
基本的に、
プロのシンガーはこれに合わせて自分のキー(音域)を設定し、作曲している。
なので、大体の曲は1〜1,5オクターブの楽曲になることが多いのですね。
基本的に、歌はこの一番美味しい部分をたくさん使うことになります(*もちろん、例外はある)。
個々の『声帯のタイプ』と『音域』の関係
音域のタイプは大まかに区分すると、
- 男性の「低い声帯」「普通の声帯」「高い声帯」
- 女性の「低い声帯」「普通の声帯」「高い声帯」
と分けられます(*これらはあくまでも大きな区分での6タイプなので、『厳密に細かく区分すれば個人個人違う』とも言えます)。
クラシックではこれを
- 男・低い→『バス』
- 男・普通→『バリトン』
- 男・高い→『テノール』
- 女・低い→『アルト』
- 女・普通→『メゾソプラノ』
- 女・高い→『ソプラノ』
と呼びます(*もっと細かい分け方もありますが、基本的にはこの6タイプ)。
ポップスではあまり使われない言葉ではありますが、この声帯音域の区分はポップスでも同じように考えることができます。
声帯タイプによって魅力的な音域が変わる
『それぞれの声帯のタイプが「高い音」や「低い音」を出したときにどんな音色になるのか』というのは、こちらの動画がすごくわかりやすくまとめられています↓
このように、声帯のタイプによって音階ごとの「音色の魅力度」や「頑張り具合」などが変わってきます。
当然、
- 低い声帯ほど低い音が得意
- 高い声帯ほど高い音が得意
ということになります。
これは先ほどの、『誰もが持っているポテンシャルの2〜3オクターブの範囲』がズレるからですね。
楽器で言えば、ギターとベースの違い、チェロとコントラバスの違いなどのように、得意とする音域帯が人それぞれ違うということです。
一番美味しい音域の位置(歌のキー)も違う
当然ながら、先ほどの1〜1.5オクターブの一番美味しい音域帯も持っている音域タイプに沿っています。
これによって、人それぞれの魅力的な音域帯の違いが現れるということです。
例えば、「地声のガツンと出す高音の最高の鳴りの音(いわゆる「当たりの音」)」の音階も、バスボーカルは「mid2E」、テノールボーカルは「hiB」、アルトボーカルは「hiC」、ソプラノボーカルは「hiF」などのように人それぞれ違います(*あくまでも例です)。
よく「自分に合ったキー(音域)で歌いなさい」と言われるのは、言い換えると『魅力の位置を合わせなさい』ということなのですね。
換声点の最適な位置も人によって違う
換声点(地声から裏声に切り替える音階)の最適な位置も、声帯のタイプによってある程度決まってきます。
もちろん、換声点は一点ではなく地声と裏声が重なっている範囲の分だけ作れるのですが、「この辺りで切り替えるのがちょうどいい」というポイントはある程度決まっていて、それが声帯のタイプに従っているということです。
当然、低い声帯ほど低い音階で裏声に切り替え、高い声帯ほど高い音階で切り替えるのが最適ということになります(*個人差はあります)。
換声点について詳しくはこちらにて↓
-
換声点がガラガラする・かすれる問題と対策トレーニングについて
続きを見る
最適な共鳴のポイント・声の方向性も違う
これはわかりやすく、
- 声が低い男性(バス)
- 声が高い女性(ソプラノ)
で比較してみましょう。
この両者がmid1Cくらいの音を出すと、声の方向性はこんな感じになるでしょう。
このように、男性は特に違和感なくまっすぐな方向性で声を発することができるでしょうが、女性はものすごく下の方向へ出そうとするはずですし、そもそもmidC1は低すぎて出せないこともあるでしょう。
この場合女性は、声帯を緩めよう(低くする)としているから声を下に当てようとする(喉仏を下げようとする)のですね。
ここで、逆にこの両者がhiCくらいの音を出すと、
このような方向性になると思います。
この場合、男性は声帯を引っ張ろう(高くしよう)とし、喉仏が上がり、場合によっては裏声へと変化し、声が上や頭の後ろに響くような感覚になるでしょうし、出せないこともあるでしょう。
声が高い女性にとってhiCはそこまで高い音ではないので、地声で気持ちよくおでこ辺りの方向性へ声が飛んでいくような感じになるのですね。
これが声帯のタイプと声の方向性の関係です。
この声の方向は、意識によって程度コントロールすることはできるのですが、人それぞれ音域・声区ごとに”最適な範囲”というものがあって、極度に声の方向性を変えることは難しいでしょう。
つまり、声の方向性の最適な範囲は持っている声帯と音階によってある程度決まるということ。
例えば、最低音がlowEで3オクターブの音域を持つ人ならこんなイメージ↓
音階は人によって違うので、自分の感覚と音域を照らし合わせる必要があります。
また、声の方向性は声区の出しやすさなどとも関連してきます↓
先ほどの、各声帯のタイプの比較動画もこの「声の方向性」を踏まえて見直すと、よりわかりやすいかもしれません。
”基本的には”自分の声帯のタイプには逆らえない
ここで、大事なのが基本的には『自分の声帯のタイプに従うべき』だということ。
つまり、「自分の声は明らかに低いタイプだが、高い声で歌いたいから無理して高音を練習している」などのようなことはしない方がいいということです。
もちろん、『例外』というものも様々な要因によって生み出されることはあるのですが、基本的には自分の声帯のタイプに合わせて歌うべきですし、プロシンガーの多くはこれに逆らっていないことがほとんどです。
「努力でどうにかならないのか?」と考えるでしょうが、
「なぜ何百年も続くオペラなどのクラシック声楽が、声帯の音域タイプを区分けしているのか?」
というところがある意味答えだと思います。
自分の声帯に逆らうとどうなるのか?
わかりやすく言えば、
自分の声帯に従っている人に勝てない(魅力度で劣る)
と言えるでしょう。
つまり、「音域的に出せるかどうか」「歌えるかどうか」の問題ではなく、『魅力的に歌えるかどうか』の問題です。
やはり、基本的には自分の個性を活かした方が魅力的になります。
例えば、
- 「低い声帯のシンガー」が、高い声帯のシンガーの音域帯に適した曲を歌う
- 「高い声帯のシンガー」が、高い声帯のシンガーの音域帯に適した曲を歌う
として、どちらが魅力的に歌えるか?
これは、後者の方が魅力的になる可能性が高いのは明らかですね。当然、低音の歌を歌うと立場が逆転します。
例えば、「もし声が低いシンガーと声が高いシンガーが、お互いの曲を原曲キーで歌おうとするとどうなるか?」を考えると分かりやすいです。
- 【男・低】
- 【男・高】
- 【女・低】
- 【女・高】
おそらく、いくら努力してもしっかりと歌えるようにはならないだろうと予想できますよね。やはり、生まれ持った喉の形が違いすぎます。もし歌えたとしても、多くの人は「自分に合った曲を歌ってくれ」と思うことでしょう。つまり、魅力度が下がっているということ。
なので、どんな人でも自分の持っている声帯に逆らうと、基本的には『逆らっていない人には勝てない=魅力的にはならない』と考えることができます。
逆らうと負荷がかかる
また、長期的視点で考えると、自分の声帯に逆らっている人は少しづつ無理な負荷を蓄積し続けることになり、声が劣化する可能性が高いと考えられます。
つまり、練習すればするほど声の魅力が少しづつ失われていきます。仮に自分の適性とは違う音域帯が歌えるようになったとしても、その歌声の寿命は短く、その発声を維持するのは難しいのです。
例外はある
基本的には「自分の声帯に逆らえない」と考えるべきでしょうが、様々な要因で『逆らった方が魅力的な人』もいます。
というより正確には、
- 『逆らっているように見える人』
です。
例えば、『一見すると低めな声帯を持っているように思えるが、何らかの要因が重なり高い音域の方が得意な喉』のような人はいます↓
「一定の法則に当てはまらない」というパターンは確かに存在します。
しかし、それは
『自分の声帯に逆らっているように見えるが、実はそれが”従っている”=その人にとってはそれが最適』
と考えるべきでしょう。
なので、大抵は「あの人があんなに低い声帯を持っているのだから、自分もトレーニングによってあの人くらいの高音は出せるはずだ」と真似をすると、痛い目を見る可能性の方が高いのかもしれません。
個人的な研究範囲では、このパターンに当てはまる人は、「特に努力することなく最初からそれができた」「自分にとってはそれが一番よかった」、というようなことを語っていることが多いです。
【先ほどの動画の抜粋(表現のニュアンスは少し変えています)】
- 福山さん「昔から高いんですか?」
- 稲葉さん「まぁそうですね。声帯の形で大概は決まっていると思う」「響きの点で、歌で低いところは使わない」
- 福山さん「実際に使える一番高いところはE(mid2E)までなんですよ。」
- 稲葉さん「高けりゃいいってもんでもないので。その人の一番響くところがいい。」
福山さんも羨ましがってはいますが、両者とも『自分の声帯に従っている』ことがわかりますし、『自分の声帯に従うことを大切にしている』ことがわかりますね。
- 基本的には『自分の声帯に従う』方が魅力的
- 例外的に『自分の声帯に逆らう』方が魅力的(一般的には「逆らっている」ように見えるが、それが本人には「従っている」になる)
本質的には、結局どちらも自分の声帯を活かしていることになります。
このように、側から見ると例外的な見方ができる場合はあるので、「自分はどうなのか?」というのは考えるべきでしょう。
自分の声帯の音域を確かめる
自分の声が高いのか低いのかは「自然な最低音」に注目
日本人の一般的な成人の”話し声”の平均音は、
- 男性が lowF#〜mid1Cくらい
- 女性がmid2A#〜mid2Eくらい
と言われています(調査によって様々な誤差があります。特に女性は海外だとmid1E〜mid2Cくらいと、日本との差があります。声帯が違うというよりも、日本女性特有の話し方の違いが大きいとされています。)
基本的には、話し声の平均的な高さは歌声の音域と関連性があるのですが、実際には話すテンションや性格などでも会話時の音域は変わってしまいます。
なので、声帯の音域のタイプを考えるときは、
- 『自然な最低音』
に注目するといいです。
自然な最低音とは
「音になるかならないかくらいのギリギリの最低音」「無理に出した最低音」ではなく、「楽にしっかりと声にできる範囲での最低音」のことです。
- エッジボイスのようになる手前の最低音
- 大きな声を出せる最低音
- 楽な状態でため息をついた時の音
などが目安です。
そうすると、この自然な最低音は、
- 男性:lowB〜mid1B
- 女性:mid1B〜mid2B
個人によってざっくりこれくらい差が出ます(*もちろん、これをはみ出す人もいます。これは、あくまでも一般的な目安です)。
つまり、同じ性別でもすごく低い人とすごく高い人では、1オクターブ近く差があることもあります。
あくまで目安ですが、
こんな感じになると考えられます。厳密には個人個人違うので、あくまで参考程度に。
もし「判別が上手くできない」「よくわからない」という場合には、アーティストが普通に話しているインタビュー動画などと一緒に、”音程を真似しようとせずに”話してみるといいかもしれません。
似た声帯のタイプを持っている場合は、『無理なく自然と』同じような音程になることが多いです。
で、同じような話し声の音程になる人は自分と近い声帯を持っているはずなので、その人の歌は同じように歌いやすい可能性が高いという風に考えられるわけです。
*ただし、先ほども言ったように話し声はテンションなどによって音域が大きく変わるので、その点は考慮する必要があります。また、同じような音域になった場合も『似ているタイプの可能性が高い』だけで、全く同じではないのでその点は注意です。
-
歌声と話し声の関係性についての考察
続きを見る
自分の2〜3オクターブは、これを基準に考える
この自然な最低音を基準に、大体2〜3オクターブで考えると上手くいくでしょう。
地声はこんな風に考えるといいかと(*単位はオクターブ)↓
裏声はこんな感じのイメージ↓
裏声は普段使わない分だけ苦手な人も多いでしょうが、しっかりと鍛えるとこのような感じになります。
こんな感じで自分の2〜3オクターブを考えると、自分の歌声がどこまで歌えるのかという目安になります。ただし、あくまでも目安なので、厳密には個人個人違うということはお忘れなく。
詳しくは、こちらの記事にもまとめています↓
-
『音域はどこまで鍛えられるのか』について【自分の音域を予測する方法】
続きを見る