今回は『エッジボイス』と呼ばれる発声技法・トレーニング方法についての内容です。
エッジボイスは、以下のような効果が期待できます。
- 声帯のコントロール能力の向上
- 高音域の発声能力の向上(主にハードロック系の発声において)
- 歌の表現力の向上
ただし、やればやるだけプラスに働くものとは限らないので、その点に関しては注意が必要かもしれません。
個人的には、歌の初心者のうちはものすごく効果的だが、上級者にはそこまでプラスに働かないだろうと思っています。
目次
エッジボイスとは
「エッジボイス」とは、声帯を極力少ない振動回数で振動させることで、カラカラ・カリカリとした音を出す発声方法のことです。
具体的な発声は、こちらの動画が参考になります(再生位置は1分19秒から)↓
海外では一般的に「ボーカルフライ」と呼ばれています。「揚げ物」のようにパチパチ音がするから、「フライ(揚げ物)」と名がついているのですね。
通常の声とは異なり、「声の素」だけを鳴らしているような発声と考えると良いでしょう。
エッジボイスの声帯の状態
声帯は普通に「あーー」と声を出すとき、すごい高速で振動しています。高速で振動することにより、くっきりとした声を生み出しています。
ところが、エッジボイスの場合は「あ”あ”あ”あ”」と、通常の声に比べると低速でゆっくりと振動しており、声というよりも「音」を作り出しているような状態です。
図はやや誇張した表現なのですが、このように『エッジボイスは声帯の最小限の振動による発声方法である』と理解しておくと、このテクニックを習得しやすくなると思います。
リアルで見ると声帯はこんな感じ。苦手な人は飛ばしてください(*再生位置0:25〜)↓
ちなみに通常の振動(Normal)もゆっくり振動しているように見えますが、車のタイヤのように高速すぎてゆっくり見えるという現象です。
エッジボイスの効果・メリット
エッジボイスには
- 声帯のコントロール能力の向上
- 高音発声能力を高める(主にハードロック系の発声において)
- 歌の表現力をが向上する
という3つの効果が考えられます。それぞれ掘り下げます。
①声帯のコントロール能力の向上
エッジボイスは、声帯のコントロール能力を向上させると考えられます。
特に、声帯閉鎖(声門閉鎖:声帯を閉じること)をコントロールする能力を鍛える効果が期待されます。
エッジボイスが上手く出来ている状態とは、声帯をしっかりと閉じることができている状態です。
声帯を最小で振動させている分だけ、普通の発声よりも声帯の動きの感覚が意識しやすいので、開閉のコントロール能力を向上させるトレーニングになる、ということですね。
ただし、これを目的とした場合は、喉をしっかりとリラックスさせて、力まずにトレーニングすることが重要です。
というのも、エッジボイスは声帯を締めるのを意識しぎると、喉も一緒に締めてしまいやすいです。こうなると、声帯だけを上手くコントロールできていないことになるので、声帯をコントロールするトレーニングとしては、あまり意味を成さないのですね。
エッジボイスは声帯と一緒に喉が締まってしまう場合などにおいて、喉周りと声帯の動きを切り離し、声帯だけを上手く閉じられるようにするトレーニングになると考えておけば良いと思います。
こういう問題を抱えていない場合においても、この意識でエッジボイスをトレーニングすることで、声帯コントロールを向上させるためにトレーニングになると考えられます。
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芯のある声を作るのは「声門閉鎖」
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②高音発声能力を高める(主にハードロック系の発声)
まず、前置きとして、エッジボイスは「一般的な高音発声」のためのトレーニングにはあまり役に立たないと考えられます。
なぜなら、基本的に声の音程を上げる主役は「声帯が伸びる動き」だからです。
エッジボイスはこの「伸びる動き」にほとんど関係がないことがわかると思います。
なので、高い声を出したいからと言ってエッジボイスをたくさん練習しても、あまり意味はないでしょう。
ところが、
ハードロックやメタル系のジャンルでよく使われるような、「尖った高音発声」や「締めるような高音発声」を鍛えるためには、エッジボイスのトレーニングが役立つ可能性があります。
実際、そのためのトレーニングとして使われることも多いです。
例えば、「あーー」と楽に声を出しながら、喉だけを締めていくと、金属的な高音になっていくはずです。これは、声帯が外側から締め付けられることで硬直し、振動が制限されることで高音になっています。
つまり、音を高くする主役はあくまでも「伸びる動き」ですが、実は声帯を「固める動き・締める動き」も高音を生み出す要因になっています。
もちろん、この喉を締めるような動きには歌唱上のデメリットがあるため、基本的には悪いものとされています。しかし、ハードロックやメタルなどの演奏が激しいジャンルにおいては、逆にメリットとなる要素が大きくなると考えられます。
演奏に埋もれないためのボーカルとして、『より高く』『より鋭い』方が良いのですね。
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ハイトーンボイスについて
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なので、そういうジャンルにおいては、この一定の「固定・締め・緊張」を利用して、より高く鋭い高音発声を実現させているのですね。
もちろん、締めすぎると「喉締め」になるので、適度なバランスが重要です。
そして、エッジボイスはこの適度な締め・固定感覚を身につけるためにも役立つだろうと考えられるのですね。
ただし、先ほどの「声帯コントロールを向上させる効果」においては、エッジボイスはリラックスした状態でやらなければいけなかったのですが、
このトレーニングでは、逆にある程度の力を入れて発声する必要があるでしょう。
つまり、同じエッジボイスのトレーニングでも目的によって正反対の意識でトレーニングしなければいけないということ。
③歌の表現力が向上する
「歌の表現力が上がる」と断言するのは過剰な表現かもしれませんが、歌の表現幅やテクニックが増えるのは間違いないでしょう。
たとえば、歌の始めや単語の最初をエッジボイスで歌うことで、歌に哀愁や深み、心地よさ、色気などを表現するテクニックがよく使われます。
もちろん、たくさん使えば良いというものではないので、その点は注意が必要です。
すべてのフレーズに大量のエッジボイスを使うと、さすがにくどい印象を与えるかもしれません。
エッジボイスは自然と入る
表現としてエッジボイスを意識的に習得することは何も問題ありませんが、実際には思っているほど歌い手が意識していないことも多いです。
つまり、意図せず自然とエッジボイスが入っているということです。
エッジボイスは声帯の最小振動発声なので、声帯がリラックスして使えている状態でゆるい歌い出しをすれば、自然にエッジボイスが入りやすくなります。
そのため、意識的にエッジボイスを入れることも大切ですが、無意識にエッジボイスが入る声帯の状態を作ることの方が重要になるかもしれません。
英語圏は会話でもよく使う
日本語の会話ではあまり一般的ではありませんが、英語圏ではエッジボイスで話すことが頻繁にあります(*動画の再生位置は1:32〜)↓
*再生位置1:29〜↓
このように、英語圏では、話す際にエッジボイスが入る傾向があります(*すべての人がそうではない)。
英語は声帯を柔らかく使う言語で、息の出力が弱くなるとエッジボイスになりやすいためでしょう。また、子音が重要な言語であるため、エッジボイス=母音が弱い声の出し方が成立しやすいと考えられます。
一方、日本語は声帯を硬く使う言語で、母音の鳴りが重要なため、会話の中ではエッジボイスが入りにくい傾向がありますね。
エッジボイスのデメリット
エッジボイスにはデメリットもあると考えられます。
- やりすぎて声帯を固く使う癖がつく可能性
- 初心者・中級者には効果が期待できるが、上級者にはあまり効果がない可能性
それぞれ掘り下げます。
①やりすぎて声帯を硬く使う癖がつく可能性
エッジボイスは声帯の最小振動発声で、声帯にかかる負荷が少ないトレーニングです。そのため、長時間トレーニングができるというメリットがあります。
カラカラと鳴らすのが楽しくて、つい長くやってしまうという場合もあるでしょう。
しかし、エッジボイスを長時間やっていると、どうしても無意識にだんだんと力が入ってしまったりします。その結果、声帯を固く使う癖が付き、硬い声、尖った声、金属的な声になっていく可能性があります。
もちろん、ハードロック系の高音発声を目的にしているのなら、ある程度はこのデメリットが薄れると考えられますが、それでもやりすぎると過剰な締め癖が付いてしまうかもしれません。
基本的に歌はしっかりと声帯を振動させる声がメインなので、エッジボイスのやりすぎで変な癖をつけないように気をつけましょう。しっかりと気をつけていれば、そこまでやりすぎることもないとは思いますが。
②初心者には効果が期待できるが、上級者になるほどメリットはないかもしれない
エッジボイスは声の素を最小限に鳴らしている状態なので、大きな負荷がかかっているわけではありません。あくまで『発声の最少動作』に過ぎないので、やればやるだけ声が良くなるというものではないということです。
基本的には、声帯の細かい「動き」や「使い方」の開発が目的であり、ある程度の能力がついてきた状態になると、特にプラスになることもなくなっていくでしょう。
なので、初心者には効果的でおすすめできるトレーニングになるが、上級者にはそれほどメリットにはならないだろうと思います。
エッジボイスの出し方・練習方法
エッジボイスは『声帯の最小振動発声』であると意識することで簡単にできます。
エッジボイスの出し方
まず、普通に「あーー」と発声し、その状態を維持したまま声量を絞っていきます。徐々に声の音量を下げ、吐く息の量を弱めると、声にできなくなる点(音にならない点)が出てきます。
その声にならなくなりそうなギリギリの点は、おそらく「あ”あ”あ”」という状態になっていると思います。
基本的にはこれで出し方を覚えていき、あとは何度もやって体に覚えさせるだけです。
どうしてもできない場合
エッジボイスを練習しても、すごく息っぽい声を持っていたり、ハスキーボイスを持っていたりする人は、一般的なエッジボイスのようにはなりにくい可能性もあります。喉の構造や声帯の形状などには、個人差がありますから、全ての人が同じようにできるとは限りません。
もし、いくら練習してもエッジボイスができない場合は、個人的には諦めても問題ないと思います。絶対に必要なものではないですから。
ただし、エッジボイスができない理由の中には「何らかの喉の病的な問題がある」という場合もあります。その場合は、専門医の診断を受けることが大切です。
「低音エッジ」「高音エッジ」トレーニング
「低音エッジ」「高音エッジ」というトレーニング方法があります。その名の通り、「低音域でエッジボイスを出す」「高音域でエッジボイスを出す」というものです。
エッジボイスは、音程がはっきりしない発声方法ですが、低く出そうとしたり、高く出そうとすればある程度音程をコントロールできます(*ただし、力まないように注意が必要です)。
これを利用して、音程の変化に対しても力みにくい声帯のコントロールを身につけることができると考えられます。
「裏声エッジ」
「裏声エッジ」というトレーニング方法があります。これは、文字通り裏声の発声状態のままエッジボイスを作ることを指します。
このトレーニングは、裏声における声帯のコントロール能力を向上させることに役立つ可能性がありますが、個人的にはそこまでおすすめできません。
というのも、裏声の状態でエッジボイスを作ると「カサカサ」とした音色が鳴り、普通のエッジボイスと比較してスカスカの状態になります。しかも、裏声は声帯の粘膜の縁を使った発声なので、エッジボイスのような状態を作っても隙間が空いている状態になる。
つまり、裏声自体がそもそも声帯が少し開いた発声なので、それをエッジボイスのように閉じようとするメリットがあまりないと考えられるということです。
裏声を鍛えたい時は、裏声をしっかり発声して鍛えた方が無難でしょう。
まとめ
エッジボイスとは、声帯を最小限に振動させてカラカラ・カリカリとした音を出す発声方法。
歌の表現やボイストレーニングにも使われ、以下のような効果・メリットがある。
- 声帯コントロール能力向上:主に声帯の開閉のコントロール。力を抜いてトレーニングする必要がある。
- 高音発声能力向上(ハードロック系):声帯を締めるような高音発声に有効。力を入れてトレーニングする。
- 歌の表現力向上:歌の中でエッジボイスを使うと表現力が増す。意図的に入れるよりも自然に入るくらいの意識がいいかもしれない。
デメリット
- やりすぎで変な癖がつく可能性がある
- 上級者には効果薄い