今回はリップロールというボイストレーニングについて。
リップロールは
- ”初心者の人”が歌唱力をアップさせるために絶大な効果を発揮する
- 中上級者はデメリットを考慮して上手く付き合っていく必要がある
トレーニングだと考えられます。
目次
『リップロール』とは
リップロールとは
『唇を連続的にブルブルと震わせながら発声するトレーニング方法』のこと
です。
海外では「リップバブル」「リップトリル」などと呼ばれています。
リップロールのやり方
リップロールのやり方
- 口を閉じたまま「ウ」の形を作ります(少し唇を尖らせます)
- 唇は閉じたまま若干だけアゴを開き唇に向かって息を吐きます
- このとき唇の「ウ」の意識は固定です
- 息を吐き続けていれば自然と「ブルルルルル」となるはずです
おそらくこれでできるはずですが、なかなか上手くできない人もいるはず。
できない場合
- 唇の両端を親指と人差し指でつまみ「ウ」の形にします
- そのまま息を吐きます
- 「ブルルルル」となるはず
- うまくいかない場合はつまみ具合を調整してみる
その唇をブルブルさせた状態のまま声を発してみてください。
コツを掴めば手を使わないでできるようになるかと。
どうしてもできない場合
リップロールは唇に一定の厚みを作らなければいけないので、顔や骨格の作り上どうしてもできないということも考えられます。
例えば、
- 歯並びの関係(出っ歯など)でできない
- 唇が薄くてできない
など。
逆に言えば、唇が分厚い人や歯が内向きな人ほどリップロールがしやすいかもしれません。
どうしてもできない場合、「こればかりはどうしようもない」としか言えないのですが、どうしようもないものをどうにかしてまで無理のこのトレーニングにこだわる必要もないと思います。
我慢しなければいけないこと
ちなみにリップロールは弊害というか、困ることもあります。
【唾が飛ぶ】
我慢です。基本的にどうしようもないので、タオルを近づける、大きめのマスクをする(唇に接すると上手くできないので)など工夫しましょう。
【鼻や顔がかゆい】
我慢です。そのうち慣れるはず。
【唇が乾く】
我慢です。リップクリームで対処しましょう。
基本的にこのようなものは慣れと我慢で乗り切るしかないでしょう。
練習方法
リップロールは様々なトレーニングができます。
- 低音域から高音域まで滑らかに行ったり来たりする
- ピアノなどのスケールを使って音階に合わせてリップロール
- 曲を全てリップロールのみで歌ってみる
などなど色々と練習方法を工夫できます。
単純に音階をゆっくりと上下させる練習もよし。一つの音でロングトーンをする練習もよし。リップロールのまま何曲も歌ってみるのもよし。
練習音源に困っている方はこちらをどうぞ↓
-
-
『リップロール練習用』トレーニング音源ページ
続きを見る
「リップロール」の効果
リップロールの効果には以下のようなものが考えられます。
- 息と声のバランスを整える
- ウォーミングアップ効果がある
- ピッチを感じやすくなる
- 脱力を促し高音発声しやすくなる
大きなものでこの4つの効果が考えられます。
①息と声のバランスを整える→換声点を滑らかにするなどに役立つ
リップロールは息を流し続けなければ(吐き続けなければ)成立しません。
そして、息のスピードを一定にしないと綺麗なリップロールを続けることはできません。
つまり、リップロールをしている状態は『息をバランスよく流す状態を作る』のですね。
- リップロールは『連続的で均一な』息の流れを強制するもの
と言えるでしょう。
これが息のコントロールが上手くできない人や息と声のバランスが取れていない人にとってはとてもいい練習になる。
換声点に活用しやすい
また、この効果が換声点(地声から裏声に切り替わる音階)を綺麗に切り替えるトレーニングにも良く使われる理由の一つでしょう。
リップロールで地声から裏声までを行ったり来たりすることが『換声点の切り替えをなめらかにするトレーニング』になるのは、換声点付近で不安定になりやすい息と声帯のバランスをリップロールが補助しているからと考えられます。
-
-
『換声点』をなくすための考え方やトレーニングについて
続きを見る
②『ウォーミングアップ効果』がある
これは後半に記述するリップロールの脱力の理屈(圧力弁になる)と密接に関係があり、それによるウォーミングアップ効果があると考えられます(ここでは理屈は置いておいて後半で説明します)。
何より声が軽くなったように感じやすいです(*いい面も悪い面もある)。
もちろん普通に声を出すことでもウォーミングアップになりますが、リップロールの方が効果的に効率よくウォーミングアップできる人も多いでしょう。
適さない人もいるはず
ウォーミングアップの方法は例えばスポーツ選手でも人それぞれです。
まずはリップロールが自分に合うウォーミングアップかどうかを試してみてください。
個人的な考えでは、ハードロックやメタル系などの強い鋭い声で歌うシンガーはやりすぎると鋭い声が出しにくくなったりするのかな?と考えられます。
表情筋をほぐす
当然ですが、唇や唇周りがかなり動くので表情筋をほぐしたりストレッチする効果もあります。
表情だけで声が変わるとまでは言いませんが、表情筋も声をよくするためには必要なファクターではあります。
また、ほうれい線予防に効くなど言われていますが効果の程は定かではありません。ただ、リップロール筋(口輪筋)が発達する気がします。
これはこれでどうなんでしょうか。美容的にはマイナス?
③ピッチを鍛えるのにもいい
リップロールはピッチ感を鍛えるのにもいいトレーニングになります(*特に歌の初心者にはとてもいい影響を与えると思います)。
これには二つの理由があります。
- 音程がわかやすい音に変化するから
- 音の発射地点が耳に近くなるから
です。
音程がわかりやすい音に変化する
リップロールは特有の「ぶるるるるる」という音が生まれます。
唇の「ぷるるるる」という音に性質が変化するので、音程を感じ取りやすい。
普通に声を発するよりも『倍音が単純化する』という感じでしょう。
声には様々な倍音が乗っており、それを唇でシンプルな音階を聞き取りやすい倍音に変換する。
音の発射地点が耳に近づく
声は基本的に声帯で作られ、そこから口を経由して外へ出ていきます。
この場合音の出発点は声帯なので位置としては喉の奥ですね。
これがリップロールだと一度唇にぶつかって再度音となるので、唇から出てくる音のように感じられます。
音の出発点が外側に近ければ外耳に近いわけですから、聞き取りやすいということです。
僅かな誤差ではありますが、意外と変わってきます。
例えば口の前に手をおくだけでも自分に聞こえる音は随分と変わってくるものです。
特に歌の初心者のうちは『骨導音(自分の内側から聞こえる音)』と『気導音(自分の外側からの音)』の認識の差が激しいので、リップロールをすることでそれを多少矯正することができたりするでしょう。
-
-
歌が上手い人は『自分の声の聞こえ方』の誤差が小さい!?
続きを見る
④脱力を身につけ高音発声しやすくなる
リップロールはその特性上、喉の脱力に非常に効果があると考えられます。
そしてこの脱力の理屈がリップロールの最大の目的でしょう。
しかしこの理屈は結構ややこしいので、あまり難しく考えたくない人は
- 「リップロールは脱力に良くて、高音の練習になる」
とシンプルに考えても大丈夫だと思います。
リップロールが呼気圧を支えるもう一つの声帯(弁)になる
リップロールがなぜ脱力や高音発声に役立つのかということについて踏み込んでいきます。
リップロールは声帯(弁)を唇で疑似的に作って呼気圧を支える役割を果たすのです。
*呼気圧とは声帯にかかる息の圧力のこと。難しく考えたくない場合、「息の力」くらいで捉えていいと思います。
そして、リップロールの動きは「閉じた弁に息を通して震わせる」という点で声帯の動きと似たような動きをしている。
つまり
- 疑似的に第二の声帯を作り出している
と考えることができます。
そしてそれが、呼気圧を支える第二の弁の効果を果たす。
リップロールが呼気圧を支える第二の弁になることでどうなる?
リップロールが呼気圧を支えてくれることによって声帯にかかる呼気圧が軽減されます。
こういうイメージ(数字はあくまで例)↓
図は口が閉じていますが、「サポートなし」とは普通に歌うなど口が開いている状態です。
こんな感じで唇が圧力を分散します。
ちなみに「じゃあ、口を閉じればもっと唇に圧力を分散できるんじゃ?」と思うかもしれませんが、そうすると全ての圧力が鼻に抜けるので結局声帯にかかる圧力は100です。
唇が『ブルブルと高速で閉じたり開いたりしている』という弁の動作によって『瞬間的に圧力がかかっては抜けるということを繰り返している』からこそ圧力弁の役割を果たすのですね。
ではこれが何の役に立つのか?
例えば、高音が苦手な人(声帯の柔軟性がない人)は
- 声帯の柔軟性がない→高音が出せない→無理やり高音を出そう(息を強く吐こう)とする→支えられない呼気圧を支えようとして喉が締まる
というのがよくあるパターンでしょう。
詳しくはここでは省略します。
-
-
喉締め発声の原因と対策について
続きを見る
例えば、この高音が苦手な人は『声帯が70の呼気圧までしか耐えられないもの』と仮定すると、下の図のように『30の喉全体を締める力』を使って、100の呼気圧を支えられるように声を出そうとします。
そんな喉を持つ人でもリップロールをしている状態だと、
このように30の力を脱力することができる。
これがリップロールの脱力の理屈であり、高音発声が楽になる理由です。
実はこの圧力軽減は、
- ティッシュを口に含ませる練習
- ストローを水の入ったコップに入れた状態で発声するトレーニング
なども同じような理屈が起こっていると考えられます。
慣らすのが大事
これによってリップロールをしているときは高音が楽になるが、普通の発声をしようとするとまたすぐ元に戻ると思います。
理屈を考えれば当然ですね。
つまり、この状態を何度も慣らすことで体に染み込ませることが重要でしょう。
リップロールのデメリット
脱力や高音発声の練習に最適と言われるリップロールですが、デメリットが存在すると考えられます。
それは
- 「リップロールのやりすぎ・慣れすぎによって、声帯閉鎖が弱い(ゆるい)のが癖になる」
ということです。
もっとわかりやすく直接的に言うと、
- 「弱々しい声になる」可能性がある
ということです。
この「慣れすぎて」というところも結構重要なのですが、それをどの程度と線引きすることはできません。
個人的な感覚ですが、「不自由なく低音域から高音域まで綺麗にリップロールできるようになる」くらいが慣れてきた頃だと思います。
なぜデメリットが生まれるのか?
リップロールの主な役割は「声帯にかかる圧力軽減」でしたね。
なので、初心者のうちは声帯が息を支える力(声帯コントロール)がないので特に高音発声などで絶大な効果を発揮する。
しかし、ある程度声帯が息の圧力を支えられるような状態へと成長した場合、リップロールのサポートが『余計な手助け』になってしまうかもしれません。
声帯で息の圧力を支えられるのにも関わらず、唇で余計な圧力軽減をするとどうなるか?
簡単に言えば声帯がサボります。
声帯があまり息の圧力を支えないような動きに適応していきます。
つまり薄い声(響きのない声・鳴りの弱い声・魅力のない声・倍音の少ない声などなど症状は様々)になっていくと考えられます。
これがリップロールが初心者にはものすごくおすすめで、中上級者は付き合い方を考えなければいけない理由です。
初心者のうちは声帯コントロールが未熟で声帯が息の圧力を支えきれずに喉に力が入ってしまいます。
それを取り除くためにリップロールをすることで声帯にかかる息の圧力を軽減することで声帯コントロールや高音発声に最適なトレーニングになる。
ここまでは良いですね。
ところがある点を境に不必要な圧力軽減となり、やればやるほどに声帯が圧力を支えなさすぎる高音発声(=質の悪い発声)のトレーニングとなってしまうと考えられます。
つまりリップロールはこんな感じの効果のグラフになるのでは?
このどこまでやれば良いのか、どこから先は発声の質を落とすのかを見極めるのは非常に難しいでしょうし、個々によって違うでしょう。
でも折り返す地点は必ずあると思うんです。
じゃないとリップロールをやり続けた人が歌が上手くなる・少なくとも発声の質が良くなり続けるという理屈になりますが、そうはならないですからね。
この折り返し地点の存在がリップロールは効果がある・効果がない論を作り出しているのでは?
こちらの動画の方(海外のボイストレーナー)も同じようなことを言ってますね↓
英語はあまり得意ではないので感覚的な理解ですが、「リップロールでウォーミングアップはやめよう」「弱い声、エアリーな声になってしまう」みたいなことを言っているように思います。
日本だとあまりないですが、海外だとこういう「リップロール止めた方がいいぜ」系の動画を意外と多く見かけます。
こちらも「やるなら歌声から逆算して目的を明確にしてやれ」という感じです↓
先ほどの動画でもそうでしたが、リップロールの代わりに「m」の発音や「mam」の発音などハミング系を勧めていますね。
リップロールは近年生み出されたポップスにおけるボイストレーニングです。
長年の研鑽が積み重ねられたクラシックではリップロールなんてほとんどしないのもこういう面があるからなのかもしれませんね(唇ブルブルさせるくらいなら昔の人でも思いつくでしょう)。
なので、「なんかやり過ぎて声が薄くなってきたな」とか「あれ?声帯をしっかり鳴らせなくなってきたな」という感じが出てきてそれが嫌だと感じる人は要注意です。
そういう人は軽いウォーミングアップ程度にとどめておくのがいいのかもしれません。
その他ボイトレはこちら