今回は「気だるい歌い方(ハイラリ気味な歌い方)・エッジボイスの延長線上にあるような発声方法」というものがテーマです。
- 喉を深く保つ=喉仏を下げる=ローラリンクス(略して「ローラリ」)
- 喉を浅く保つ=喉仏を上げる=ハイラリンクス(略して「ハイラリ」)
性質としては、クラシック発声の対極に存在するような発声方法です。
*「気だるい」という言葉は少し悪い意味合いの言葉ですが、ここでは良い意味での「気だるい印象」として捉えてください。
目次
気だるい(=ハイラリ気味・エッジボイスっぽい)発声方法とは
何か特別な区切りや定義、特殊な発声方法というわけではないのですが、傾向として
- ハイラリ気味になる(喉仏が上がる)
- エッジボイスっぽくなる(尖った鳴りを生み出す)
- ほんのり気だるい印象・甘ったるい印象を持つ(いい意味で)
ような区分ができる歌唱スタイルがあります。
具体的には、こういう発声スタイル↓
「尖った鳴り」「浅い喉」「気だるそうな印象」などが共通項だと思います(*受ける印象は人それぞれでしょうが)。
また、強い高音発声などにおいても同様の状態を保って発声するシンガーもいます↓
このように喉を深く保つのではなく、浅く保つことで『鋭く尖った前に飛ぶような音色』を生み出す発声方法を掘り下げます。
この発声のメリット・デメリット
この発声は一言で言えば、『クラシック発声の反対の発声方法』と言えるでしょう。
【メリット】
- ポップス向け
- 声がすごくマイクに乗りやすい(尖りつつも美しい音色を出しやすい)
- エッジボイスっぽくなる・尖った音色を出せる
- 鳴りと息の変換が簡単→エッジボイスっぽくしたりウィスパーボイスっぽくするのが簡単
- ピッチやリズムを繊細にコントロールしやすい
【デメリット】
- 「深みのある発声」「太い音色」にはなりにくい
- クラシックのようにマイクなしで広い空間に響き渡る発声にはしにくい
- 壮大で伸びやかな発声は苦手
- 良くも悪くも気だるい印象を持つかも
特にどちらが良いとか悪いとかは一切ないですが、この発声方法は「現代ポップス的な発声」であり、「クラシック的な発声」からは遠ざかるということは頭に入れておくべきかと。
浅く尖った発声を作り出す条件
具体的にこういう音色の発声を作り出すには、
- 口から声帯までの距離感を近づける(=ハイラリ気味になる)
- 声帯の鳴りは省エネ化させる(*鳴りが弱いのではなく、少ない労力で鳴らす)
という2つの条件が必要になると考えられます。
①口から声帯までの距離感を近づける
これは簡単に言えば、『喉仏を上げる』=『ハイラリにする』ということです。
喉仏は、
- 下げると『深く太い』音色になる
- 上げると『浅く細い』音色になる
という音色の変化を起こします。
つまり、この発声方法は浅い音色を作る。
太い音色のイメージ↓
浅い音色のイメージ↓
声帯と口の距離感が近いような印象を受けませんか?
声帯をさらけ出しているような感じと言いますか、声帯が口から出てくるんじゃないかみたいな音色ですよね。
実際に、声の出口(口先)から音の発信源(声帯)までの距離は近い。
発声方法としては「喉仏を上げようとして発声する」わけではなく、『喉仏を下げないように発声する』という方が表現として正しいのかもしれません。
つまり、『ハイラリ気味』にする。
洋楽シンガー(特に最近)はこういう声帯と喉の使い方をする人が多いですね。
このように声帯から音の出口までの距離を縮めることで、先ほど書いたようなメリットを生み出せると考えられます。
そして、この浅い音色がいい意味で気だるい印象や甘ったるい印象みたいなものを作るのですね。
②声帯の鳴りは省エネ化させる(エッジボイスの延長線上)
この『省エネ化』というのは言葉で表現するのが難しいのですが、
- 声帯自体はそこまで力を入れず、エッジボイスの延長線上のような発声で声帯を鳴らす
- 力を入れないエッジボイスの状態の声帯に息を通して声をコントロールするような発声
という感じです。
*このエッジボイスとは喉を締めるようなエッジボイスではなく、声帯を最小振動数で鳴らすような力の入っていないエッジボイスです。
- クラシック的な発声に行けば行くほど声帯の鳴りは省エネ化しない
- ポップス的な発声方法に行けば行くほど声帯の鳴りは省エネ化している
とも考えられます。
クラシックスタイル(しっかり鳴らす)↓
ポップススタイル(省エネな鳴り)↓
- 前者は「深さ」「伸びやかに広がるように声が飛ぶ」
- 後者は「浅さ」「鋭く前に声が飛ぶ」
というような印象になると思います(*優劣はなく、表現・音色の違いです)。
これは先ほどの『ハイラリ気味にする』という部分とも関係します。
ハイラリ気味にすることで声帯の鳴りが尖がって聴こえます。
その理由は『声帯から音の出口までの空間が狭くなるから=共鳴空間が狭くなるから』ですね。
浅い発声は音が尖って前に出やすくなるので、必然的に
- そこまでしっかり鳴らさなくてもよくなる=省エネ化
- 結果的にエッジボイスの延長線上っぽくなる
という感じでしょう。
実はハイラリ気味にすることで副次的に「声は鼻腔に当たりやすくなる」という現象が起きます。音源(声帯)が鼻に近づくので当たり前と言えば、当たり前ですね。実はこれを鼻腔共鳴と言っていたり、言わなかったり。
ここでは本題ではないので、詳しくは置いておきます。
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発声における3種類の共鳴について
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【注意点】息と連動した発声でなければいけない
このハイラリ発声は「浅い喉」「エッジボイスの延長線上」という二つの条件を揃えれば要点は抑えられるのですが、『その発声が良い音色の発声かどうか』という部分は結局のところ『息と声帯が綺麗に連動した状態』というのがカギになるでしょう。
息と声帯が連動していないような状態(綺麗な発声ができない状態)で、「浅い喉」「エッジボイスの延長線上」で声を出そうとすると、「浅さ」と「尖った鳴り」だけが強調されすぎて魅力のない音色になるかもしれないのでその点は注意だと考えられます。
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向き・不向きがある
基本的には
- 浅い喉の状態を作って発声する
- エッジボイスの延長線上のような声帯の使い方をする
という条件でこのハイラリ発声は完成すると考えられます。
『エッジボイスの延長線上のような声帯の使い方』という部分も実は日本人(日本語)は苦手で、英語圏の人は得意になりやすい傾向が言語の特性によって生まれると考えられるのですが、これは訓練次第でなんとでもなるとも思われます↓
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洋楽っぽい歌い方・発声についての研究
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ですが、『浅い音色を作る』という部分は人によって向き不向きがあるはず。
というのも、もともと「浅い喉を持つ人」から「深い喉を持つ人」まで色々な人がいるからです。
左(浅めの喉、スティービーワンダー)・右(深めの喉、トムジョーンズ )↓
もともと深い喉を持っている人は良くも悪くも自然と深みのある音色になってしまいます。
音色の得意・不得意はもともと持っている喉によってある程度傾向が決まっています。
- 声が低い人ほど「深い喉」
- 声が高い人ほど「浅い喉」
になる傾向はありますが、逆に「低くて浅い喉」や「高くて深い喉」という感じの人も普通にいるので、ご自身がどうなのかしっかりと見極めてその発声方法が自分に向いているのかを研究することも大事なポイントでしょう。
もしあなたがすごく深い喉を持っていて、浅い音色を作りにくい喉であるのなら無理矢理それを作ろうとせずに、太い音色を活かした方がいいのかもしれません。
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