歌において『息』はものすごく重要なものです。歌の指導ではもちろんですが、多くのシンガー達もその重要性を語ることは多いですね。
ところが、「息のトレーニングをしても思ったような効果が出なかった」という場合もあり、結果的に「息を鍛えてもあまり意味がない」などと考えてしまうこともあるでしょう。
これは「息のトレーニングが意味ない」のではなく、『息と声帯の連動性』を考えていないことが原因です。
今回は、そんな「息の重要性」「息と声帯の連動性」についてのテーマです。
息の重要性について
『声の出発地点』『声の原動力』であるということから、「息」は歌において非常に重要なものです。
もちろん、「息が全てではない」とも言えるのですが、発声において1位2位を争うくらいの主役とは言えます。
プロのシンガー達も息の重要性を語ることは多く、「歌は息で8割決まる」などと言う言葉もありますが、あながち間違とは言えないでしょう。
声の4大要素は
- 息(音の原動力)
- 声帯(音の調節部分)
- 共鳴(音の増幅部分)
- 発音
の4つです。
この4つの要素しかないので、そのうちの一つが大事というのは、ある意味では当たり前のこととも言えるのかもしれませんが。
とにかく、息が歌において重要な要素であることは間違いないので、息を鍛えることは重要なのですが、次の項目『連動』を考えることも同じくらいに大事です。
息と声帯は連動させることが重要
「息と声帯を連動させること」は、息を鍛えるのと同じくらいに重要だと考えられます。
例えば、
- 『息を鍛えても声に何も良いことがない』
- 『息のトレーニングをしても効果が出ない』
と感じる場合は、連動の面を考慮に入れていないからでしょう。
例えば、
- とにかく肺活量を鍛える
- とにかく息を吸う量・吐く量を鍛える
- とにかくブレスコントロールを鍛える
という、呼吸面のみを強化する練習をするとします(*もちろん、これはこれで全然いい)。
ところが、これだと「何も声が変わらなかった」という人も出てくるでしょう。
たくさん息のトレーニングをしても声が良くならなければ、「息のトレーニングは意味がない。無駄だった」と感じてしまいます。
しかし、これは無駄だったわけではなく『声帯と連動してなかった』というのが正確でしょう。
つまり、
- 息の能力だけが向上しても、声帯にその息を活かす能力がなければ『声』自体は良くならない
ということです。
息をコントロールする力だけを強化しても、声帯がその息に見合った動きをしないと意味がない。
- 息そのものの力
- 息を活かす声帯の動き
という両輪を走らせなければ良い発声は生まれないのですね。
よくスポーツなどで、「上半身と下半身の連動が大事」「上半身だけを鍛える・下半身だけを鍛えるだけではダメでその連動性を鍛えることが重要」などと言われますが、声も全く同じです。
つまり、『息と声帯との連動性』に注目しなければいけないということ。
「息に声を乗せる」
「息に声を乗せる」ということは、
- 息と声の連動性の高い発声を目指すこと
と言い換えられるでしょう。
この連動性が高いほど、
- 綺麗に息が流れる発声
- 美しい鳴りの発声
- 透明感のある発声
みたいなものに直結してくるでしょう(*イヤホンなどで聴くと、息の流れがわかりやすいと思います)↓
話している状態から歌に入ったときの『息の流れの差』に着目すると、美しい歌声はとても息が流れていてそれを綺麗に音に変換していることがわかると思います。
このように『たくさんの息の流れとそれを活かす声帯=息に声を乗せることができる=美しい発声』となる。
つまり、息と声の連動は綺麗な歌声には欠かせないものと言えます。
-
綺麗な歌声の出し方について【息の流れが美しさを生み出す】
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どうすれば連動できる?
基本的な考え方は簡単です。
- 息のトレーニングをする際、必ず声と一緒に(声を出して)トレーニングをすること
- 息をしっかりと流した声をたくさん出すこと
です。
そして、息と声を連動させるためには『連動させようと思うこと』『連動を頭に入れておくこと』が何より大事です。
例えば、以下のトレーニング
などでしっかりと息と声帯を一緒に動かしながらトレーニングすると、だんだんと自然に連動してくるでしょう。
”連動させようと意識して練習すれば連動する”。
もちろん、「今日やって明日連動する」なんてそんな都合のいいことはなく、スポーツのように長い期間をかけて少しづつ連動してくるものでしょう。
息に声を乗せる
声と息をしっかりと融合させる発声は、
- 「ため息に声を乗せる」練習をすること
が非常に効果的だと考えられます。
「はぁ」とため息をつくように声を出してみたり、ため息っぽく歌を歌ってみたりする練習もいいと思います。
こういう発声を理想のイメージにして練習するといいかと↓
まずは、ため息っぽい発声を狭い範囲でも上手くコントロールできるようになれば、あとはそれをだんだんと広げていくようなイメージでトレーニングしていくといいかと思われます。
日本人(日本語)は息と声帯の連動が苦手になりやすい
よく「日本人は声帯が硬い傾向がある」とは言いますが、これによって『息と声帯の連動』が苦手になりやすいという傾向にあると考えられます(*もちろん個人差はある)。
これは、日本語の言語特性からくるものだと考えられます。
簡単に言えば、日本語は『声帯や喉を硬く使って、息を区切るような(せき止めるような)動きをする言語』です。対して英語などの欧米圏の言語は、『声帯や喉を柔らかく使って、息を流すような動きをする言語』が多いです。
*詳しくはこちらの動画がわかりやすいです↓
このように、日本語は声帯や喉を硬く使っている言語なのですね。
もちろん、生まれたときから話している言語なのでほとんどの人は「硬く使っている」という意識はないかもしれませんが、無意識に硬く使うようになっている(=癖になっている)のですね。
そして、この『言語による声帯の使い方の癖』が原因で、息の流れを上手く活かすような声帯の動きが苦手になる傾向が生まれると考えられます(*ちなみに、英語は得意になりやすい)。
もちろん、全ての人がそうなるとは限らないですし、苦手な人も訓練すればいいだけの話です。
ただ、生まれた時から慣れ親しんだ声帯の使い方とは少し違う使い方をする分だけ、時間がかかる場合があるということは意識しておくべきなのかもしれません。
息だけのトレーニングも有効【声帯は後からついてくる】
『連動を意識すること』はすごく重要でこれだけ「連動連動」と言っていますが、息だけのトレーニングも結局のところ効果的だと考えられます。
というのも、『声帯は後からついてくる』と考えられるから。
例えば
声量をアップしたいAさんがいたとします。
Aさんは声量UPのために、息だけのトレーニングをやり続けました。
肺活量や息を吸う力や吐く力はすごくつきました。いざそれを活かそうと声を出してみたところ、思ったような声量アップの効果は出ませんでした。
これが連動の重要性の部分ですね。連動性がないと息を活かせない。
しかし、このAさんには続きのストーリーがあるはず。
続き
Aさんの声量はすぐにはアップしなかったけれど、声を出して歌っているうちにだんだんと声量をアップさせることができた。
おそらく、こうなるはずです。
なぜか?
これは、結局声帯が息の力に追いついてきたと考えるべきでしょう。
息の力は十分についていたので、その息を支えようと声帯のコントロール能力が自然と鍛えられたと考えられます。
Aさんは息を徹底的に鍛えたので、無意識下でも息を鍛える前と比較すれば、多く吸ったり吐いたりする力が強くなっているはずですし、何より息を鍛えまくってきたので『息に対しての”意識”がしっかりとある』。
なので、息の力に声帯が適応してくる(連動してくる)のでしょう。
- もともと声が大きい人
- 普通に話しても声がよく通る人・声量が大きい人
はこうして出来上がるのかもしれません。
声が大きい人は大抵の場合、息を吐く力が強い人が多いです。
しかも、「息のトレーニング」は結局、『横隔膜のトレーニング』とほぼ同じ意味合いになります。この横隔膜の柔軟性は、意外にも声帯周りにまで影響しているというのが人体の面白いところです。
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横隔膜と発声の関係性について【歌における横隔膜を鍛えるメリット】
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なので、息のトレーニングは非常に重要ですし、ガンガンするべきだと考えられます。
息を効率よく鍛えたい人におすすめです↓
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