ミックスボイスというものに関しては、多くの人が様々な悩みを抱えがちです。
例えば、
- 声量がない、弱々しい、小さい
- マイクに乗らない
- 裏声っぽい、地声っぽくない
- 気持ち悪い声になる、変な声になる、締めたような声になる
- かすれる
- 中音域が弱くなる、安定しない
などなど色々あります。
もし、これらの悩みに対して『長期間、改善のために色々な努力をしてきたが全然良くならない』『いくら練習しても一向に魅力的にならない』『いつまで経ってもミックスボイスが完成しない』という場合、細かい要因はそれぞれに違うかもしれませんが、大きい原因はほぼ同じところにあるだろうと考えられます。
それは
- ”ミックスボイスという高音発声”を前提に、その発声の問題点を解決しようとしていること
です。
「当たり前じゃん!」と思うかもしれませんが、おそらくこれがほとんどの問題を生み出す引き金になっている可能性が高いです。
つまり、これらの問題の解決策の軸は
- 一度その問題が起こらない音域(ミックスボイスではない音域=地声)まで戻って、問題がない状態の発声の音域をゆっくりと広げること
- 前提をまず『その問題が起こらない発声』にすること
だと考えられます。
目次
ミックスボイスの悩みは『”ミックスボイス”を身につけようとすることで起こる』
全ての人に当てはまるとは言えないのは大前提ですが、ミックスボイスの色々な悩みや問題が生まれる根本的な原因は、
- 『”ミックスボイス”というものを身につけようとする練習』をたくさんしてきて、それにより変なクセがついた発声(変な高音発声)をしてしまっているから
だと考えられます。
例えば、多くの人が「地声のような高音が出せない」という問題に直面した時に、本やYOUTUBE、SNSなどで、「地声のような音色の高音を出すには、”ミックスボイス”を身につけよう」という回答にたどり着くことが多いと思います。
これによって”ミックスボイス”と呼ばれる発声を認識し、『具体的にそれはどのようなもので、どう発声するのか』を探そうとすることになります。
「何がいけないの?当たり前じゃん。」と思うでしょうが、この『考え方がミックスボイスへと強く行ってしまったこと(固執してしまうこと)』こそが、ミックスボイス難民を多く生み出す要因と予想されます。
そもそも
「ミックスボイスとは何?」に対する明確な答えを述べることはできるでしょうか。実はこれって、かなり難しいと思います。
なぜなら、世の中には『様々な定義のミックスボイス』が広まっているからです。
「ミックスボイスとはAだ」「Bだ」「Cだ」「Dだ」と色々なものがあり、定義がはっきりしない言葉になっています。
これは『ミックス(mix)』という言葉の曖昧さが生み出したもので、もはや収集がつかないレベルになっていると思います。
なので、多くの人は無数にあるミックスボイスの説明の中から、無意識に自分が納得できるもの(自分に合うもの)を選び、『自分の中のミックスボイス』を作り上げている。
ある意味、ミックスボイスとは魔法の言葉なのかもしれません。
*ここでは、この定義の複雑さには触れませんので、ミックスボイスの定義の迷宮についてしっかりと考えたい方はぜひこちらへ↓
-
「ミックスボイスとは」についての研究・考察【そもそも存在するのか?】
続きを見る
もし、先ほどの悩みに対して出てくる答えがこうだとしたら↓
考え方や進む道筋が変わった人も、多くいるのではないでしょうか。
一見同じようで、まるで違うこのどちらを進むかで最終的に辿り着く地点が変わってくる可能性があると考えられます。
「まずはミックスボイス」が損をする可能性の高さ
主語を「地声で考える人」と「ミックスボイスで考える人」の行動には、違いが生まれやすいと考えられます。
地声が主語の人は
『地声の高音を鍛えること』が目的になるので、
- 今出せる地声の高音を、ほんの少し伸ばす
- 少し伸びたので、またほんの少し伸ばす
- 少し伸びたので、さらにほんの少し伸ばす
こういう行動パターンで練習しようとすることが多いと思われます。
ミックスボイスが主語の人は
『ミックスボイスを身につけること』が目的になるので、
- ミックスボイスを勉強し、(なんとなく)理解する
- ミックスボイスという高音発声をやってみる
- 不完全な”ミックスボイスっぽい高音発声”を見つけ、それをより良い音色にしようと練習する
こういう行動パターンになることが多いと思われます。
全ての人がこうなるとは限らないですが、わかりやすく比較するとこんな感じでしょう。
この二つの行動は
- 先に「声の質」を優先するか
- 先に「高音」を優先するか
という違いがあります。
この順番の違いが、後々の成長を大きく変化させると考えられます。
先に高い声を身につけようとする右側の道は、高音が出せるだけの変な発声を身につけてしまう可能性が高いでしょう。
そうなった場合、後から「質」を取ろうとしても上手くいかなくなるのですね。なぜなら、前提が”変な高音発声・変なクセ”になっているから。
この『変な』に入り込んだ時点で、それをいくら磨こうとしても限界があるのですね。
つまり、
- ミックスボイスを探すようなトレーニングをしてきたこと
- ”ミックスボイスっぽい高音発声”ができるようになった時、それが単に「変な高音発声」であるのに都合よく”未熟なミックスボイス”だと解釈し、その発声を頑張って鍛えてきたこと
これが、ほとんどのミックスボイスの悩みの原因だろうと考えられます。
ミックスボイスの問題を抱えている人は、このような感じになっている人も多いのではないでしょうか(*冒頭の発声)↓
この冒頭の音声は海外のボイストレーナー(動画の主)に送られてきた質問、
「私のミックスボイスはこのように弱く、悪い音色です。色々なトレーニングを試したけど一向に良くならない。ミックスボイスを強くしたいけどどうしたらいいの?」
という内容に対しての回答を、このトレーナーがしているのですね。
そして、このトレーナーの回答は「一般的に、ミックスボイスと言われているものは地声だ」「ヘッドボイス(裏声)からミックスボイスに入ってはダメ」と言っていますね。
個人的には、その考え方に同意です。
「え、ミックスボイスって地声なの?」と疑問に思う人もいるでしょうが、そこはどうでもいいのです。
ここで大事なのは、この動画の質問者の発声こそまさに『変な高音』『変なクセ』であり、そうならないためには地声と考えておいた方がお得だということです。
損か得か、というお話です。
ミックスボイスの問題を解決する基本は「ふりだしに戻る」
全ての人にとってそうだとは言えないのですが、ミックスボイスの悩みの解決策のほとんどは「ふりだしに戻る」で解決するのではないかと考えられます。
つまり、その悩みが生まれない地声の音域まで戻って、その音域を少しづつコツコツと広げていく。
苦しい選択肢ではありますが、結局「長い時間ミックスボイスの改善に悩んでいる人」は『すでにそこから質を取りに行く道は閉ざされている』からこそ悩んでいるわけで、大抵の場合ふりだしに戻る以外に道はないのではないでしょうか。
いくつかの悩みの事例を掘り下げて考えてみます。
⑴ミックスボイスの声量が小さい
「ミックスボイスの声量がない、弱々しい」という悩みは、言い換えると「地声の声量は出るが、ミックスボイスに切り替わった途端に声量が小さくなってしまう」ということだと思います。
おそらくこの状態は、「高い声にはなるし、そこまで苦しいわけではないが、地声のようにしっかりと鳴らせない」という感じだと思われますが、これは『声帯が高い声を鳴らすために”器用に”締まっている(固まっている)状態』と言えることが多いでしょう。
これは声帯と音程の関係をある程度考えなければいけないのですが、まず声帯は基本的に「伸びる」という動きで音程を上げています。
これが音程を上げるためのメインの動きですが、「ミックスボイスの声量が小さい」という場合の声帯の状態はおそらくこんな状態になっているかと(*図はあくまでイメージ)↓
「伸びる力」がある程度の限界を迎えて、「締まる力」が音程を上げるメインに切り替わっているのですね(*図はあくまでも誇張したイメージなので、実際には声帯が伸びるのが完全に止まるわけではない)。
この”器用に締まる”というのが面白いところで、人間は訓練すれば「あまり力みなく声帯を締める」ことができるようになると考えられます。
人間の声帯は、ある意味すごく”器用”なのですね。
つまり、『力んでいる感覚があまりないのに、力んでいる状態』が完成しています。
この”締まり(硬直)”によって高音を生み出しているのですが、その反面この締まりのせいで声帯をしっかりと強く振動させることができないので声量が出ない発声になっていると予想されます。
言わばこれは『変な喉(声帯)の締まり』であり、本当の意味での『喉(声帯)が楽な状態』ではないのですね。この状態になっている限りなかなか改善するのは難しいでしょうから、声量が保てる音域の地声まで一度戻ってその範囲を少しづつ広げていくのがいいかと思われます。
おそらく、多くの人はこの”締まり始める瞬間”に「ミックスボイスに入った」と感じているはずです↓
この瞬間は「何かが締まった」「薄皮一枚剥がれた」などの感覚なのかもしれません。
ではこの「変な締まり」がなければどうなるのか? おそらく、それは感覚的には全部「地声」に感じるでしょう。
感覚的に「地声」であればそれはもう「地声」では?
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歌が上手い人ほど「地声」と「裏声」しかない【認識している声区が少ない】
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⑵ミックスボイスがマイクに乗らない
これもほとんど上記と同じ状況でしょう。
ミックスボイスがマイクに乗らない理由は「声帯の変な締まり」によって、地声域のようなしっかりとした声帯の振動ができずに、”声の倍音(いい音の成分)”が失われてマイクに乗らなくなるのですね。
具体的には、どこか金属的な成分を持つ反面、音色の太さのようなものを失うような発声になり、その結果としてマイクに乗らなくなるという感じでしょうか。
ここで一つ面白いお話ですが、「変に締まった発声」は『自分にはいい感じに聴こえてしまう』可能性があります。
要するに、本当は声量のない発声なのに、自分の感覚的にはしっかりと声量が出ているように感じているということです。
なぜ、自分にだけいい感じに聞こえてしまうのか?
他の音とは違って自分の声には、『声帯から頭蓋骨に向かって直接聞こえる音(骨導音)』が存在しているのですが、この音が内耳によって聞こえ方が修正されているからだろうと考えられます。
例えば、思いっきり大声を出したときに自分の声に対して「うるさい」と感じることってないですよね。他人が大きなくしゃみをした時は大きな音に「ビクッ」と驚くけれど、自分が大きなくしゃみをしても自分のくしゃみに驚く人はいないわけです。人間は自分の声から大きな音を出すとき、自然と「骨導音」をシャットアウトしているのですね。
逆にボソッと小さな声を出したとしても、自分の声が「小さくて聞こえない」と感じることもないですよね。ものすごい小声で話しても、自分にはしっかりと聞こえます。
このように、骨導音の聞こえ方が音に合わせて(声に合わせて)修正されているのですね。
さらに、声帯が硬直することによって声帯の振動が骨導音として伝わりやすくなるということもあるのではないかと(*糸電話をピンと張ると音が伝わりやすくなるイメージ)。
つまり、自分の感覚では地声もミックスボイスも大差がないが、マイクに乗せるとミックスボイスだけがマイクに乗らなくなるという場合、それは実際ミックスボイスの声量がないだけで、自分の耳にだけいい感じに聞こえてしまっている可能性があるということになります。
おそらくこのパターンは、その”ミックスボイス”を録音してみると変に聞こえるはずです。
改善策はマイクに乗る音域まで戻って、そこから少しづつ広げることです。
⑶ミックスボイスが裏声っぽい
「ミックスボイスが裏声っぽい」ということは、「完全な裏声にはなっていないが、裏声に近い音色の高音発声になっている」ということでしょう。
おそらく、これも上記までと同じ『薄めな器用な締まり・変な締まり』である可能性が高いでしょう。
声帯が地声域のようなしっかりとした声を出す状態を維持できていないので、地声のような音色にはならないが、”器用に締まる”ことで完全な裏声にもなっておらず、「裏声っぽい声」になっているのかと。
一度裏声っぽくならない音域まで戻って、そこからコツコツと広げていくといいと考えられます。
⑷ミックスボイスが気持ち悪い声や変な声になる
「ミックスボイスが気持ち悪い声になる、変な声になる」というやつですが、これは「地声域はいい感じの声だが、ミックスボイスになった瞬間に魅力的ではない声になる」ということでしょう。
おそらく「金属的な声」「べちゃっとした声」「喉を締めたような声」などになることが多いかと。
これも上記までと同じでしょう。
声帯の”変な締まり”によってしっかりと振動できなくなり、声の倍音が失われた発声になり音色が「金属的な声」になっていると考えられます。
もしくはその”変な締まり”によって、喉全体を締めているつもりはなくても若干締まっている状態になり、共鳴空間が狭くなっていることから「べちゃっとした声」になっているのかと。
解決策も上記までと同じです。
⑸ミックスボイスがかすれる
「ミックスボイスがかすれる」ということは、「地声域はかすれないが、高音域になると声がかすれていく」という状態だと思われます。
これは
- そういう声質を持っている
- 裏声に行きたがっている
という二つのパターンが考えられるかと。
①そういう声質を持っている
低音域ではそうでもないが、高音域になると声がかすれる声質を持っている人もいます。そういうプロのシンガーもいますね。
個人的には「隠れハスキーボイス」と呼んでいるのですが、若干のハスキーな性質を持っているということです。
高音域は声帯が伸びるので、声帯が薄くなっていきます。すると『かすれ』が現れやすい状態になるので、結果的に『高音域になるとかすれる』という現象が起こると考えられます。
この場合であれば、自分の声質なので受け入れるしかないのかもしれません。個人的には、これは個性であり悪いものだとは思いません。
②裏声に行きたがっている
おそらくこちらのパターンの方が多いとは思いますが、『裏声になりかけているからかすれている』という状態ですね。
これは『裏返るのを無理やり地声にしようと押さえつけているが、耐えきれていない状態』とも言えるのかもしれません。
このパターンは先ほどまでと比べると、”変に締まっている度合い”が弱いのではないかと考えられます。いい意味で変に締めきれておらず、地声と裏声の間をさまよっているからこそかすれているのではないかと。
であればある程度諦めも必要と言いましょうか、裏声に切り替えてもいいのでは?
というのも、人にはそれぞれの「最適な裏声の音階」があり、この音階の位置は人それぞれ持っている声帯によって違います。
これはある意味”声帯の個性”であり、鍛えてどうにかなる範囲には限度があります。
なので、裏声に行きたがっていてかすれているのであれば、それ以降は裏声に切り替える方がいいのかもしれません。
⑹ミックスボイスの中音域だけが弱くなる
これは結構特殊なパターンだと思われますが、「低音域の地声域はしっかり出せる、高音域のミックスボイスはしっかり出せるが、その地声からミックスボイスへ移行する間の中音域は弱々しく安定しない」という状態です。
つまり、地声っぽい音色でガツンと高音は出せるのに中音域だけが弱くなってしまうのですね。
このパターンは”ミックスボイス”というものをたくさん鍛えてきた人、もしくはかなりの高音発声ばかりを訓練した人がなりやすいのではないかと思われます。
先ほど「人間の声帯は器用」と述べましたが、器用だからこそ「変に締まった発声」でも努力によってある程度は進化させることができると考えられます。なので、おそらく『ものすごく器用に声帯を締めるコントロール』を習得した状態でしょう。
状態としては『地声域が狭く、ミックスボイス域が広い』という状態になっていることが多いかと。
こういう状態になると「全然締めない低音域の”地声”」と「すごく器用にしっかりと締めた高音域の”ミックスボイス”」は出しやすいが、「締め始める中音域」がちょうどどっちつかずになっているような状態(力が逆行し出す)だから出しにくいのだろうと考えられます。
これはあくまでも極端に表現したものですが、要は一貫性のある動きができていないということです。
「変に締まる」というのは、”声帯が伸びる力側”を主観にすると「変にゆるむ」という見方もできます。つまり、力の向きに一貫性がなくなり、それによって声が弱々しくなるのだと思われます。
変に締まっているとは言え、声帯が全く伸びなくなるわけではないので、その発声状態で声帯がピンと張ってくる高音域は強い声が出せるのでしょう。
この状態の解決策は、ミックスボイスを低い方へ伸ばすのではなく、地声域を高い方へ伸ばすといいと考えられます。
ただし、ここまで器用に「変な締めの発声(ミックスボイス)」を極めていると、地声域も伸ばしにくいでしょう。おそらく、ある一定の音域以上で”ミックスボイス”に簡単に入ってしまう癖のようなものがついている可能性が高いので、その癖を抜く必要があると考えられます。
なぜこうなったか?というとやはり『先にミックスボイスを探したから(高音を取りに行った)』と言えるのでしょう。
ミックスボイスの捨て方
上記までのように「何か問題を抱えているミックスボイス」というものは、基本的にそれを捨てること自体が解決策になるのですが、実は一度身につけたものはなかなか抜けないとも考えられます。
スポーツなどでも「悪いクセはなかなか抜けない」と言われますが、同じくらい・もしくはそれ以上に声のクセも抜けません。
なので、頑張って身につけたその”ミックスボイスなるもの”は捨てるのも難しいという、、、。
とにかく、
- まずは自分がミックスボイスだと思っているその発声を封印する。
- 自分が地声だと思っている発声の音域をコツコツと広げる
という二つのステップで、ミックスボイスが抱える問題はほとんど解決するはず。
特に、その発声を極力使わないことが大事でしょう。
「使う」ということは「鍛えられる」につながります。つまり「変な発声を使う」ことは「変な発声が鍛えられる」ことになってしますので、これを防ぐにはとにかく使わないこと。
おそらく、かなりの時間がかかると思われます。
- 変なクセは身につける時は簡単なのに、抜くのは大変。
- 地声の音域をコツコツと広げるのも根気が必要。
なので、ミックスボイスを長く探求してきた人ほど大変な目に合う、、、のかもしれません。
もちろん人によって様々ではあると思います。
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地声の高音域を広げる方法【結局、地道なトレーニングが一番いい】
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