今回は「張り上げ発声」についての内容です。
「声を張り上げる」の本来の意味は、声を強く大きく出すことです。
言葉としては、それ以上の意味はないのですが、歌においては少し悪いニュアンスの意味として使われることが多いでしょう。
例えば、
- どこか無理やり押し切るような発声
- 苦しそうに大きな声を出す発声
- 声が大きく割れていて聞きづらい発声
などを指すことが多いと思います。
こういう悪いニュアンスの「張り上げ発声」の原因と対策についてです。
「張り上げ」が必ずしも悪いとは限らない
先ほども述べましたが、まず大前提として、「張り上げ」は悪いものばかりではないということを頭に入れておきましょう。
なぜなら、「良い張り上げ」であれば、無理に改善する必要はないかもしれないからです。
例えば、ハードロックなどの激しいジャンルでは、明らかに「張り上げ」と呼べるような発声であっても、それが良い味となる場合も多いです。見方次第では、「かっこいい発声」「熱量のある発声」「激しい発声」「エッジの効いた発声」などプラスに捉えられることもあります。
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『ロックらしい歌い方』についての考察
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音楽的に良い音色であれば、張り上げること自体が悪いとは限らないのですね。
しかし、「悪い張り上げ発声」と呼べるものもあると思います。
「無理やり押し切っているような苦しそうな発声」「うるさく聞きづらい発声」などのように、聴いている人にとってマイナスの印象を与えるのなら、それは悪いものと言えるのかもしれません。
*「良い張り上げ」にも「悪い張り上げ」にも絶対的な定義はないので、その判断は人それぞれの価値観に委ねられます。
なので、『自分の張り上げは改善するべきものなのか?』を考えた上で、改善に取り組みましょう。
もちろん、以降は張り上げを悪いものとして、それを改善するという方向性で話を進めたいと思います。
張り上げ発声の原因
張り上げの原因は『直接的原因』と『間接的原因』に分けて考えます。
まず、張り上げ発声の直接的な原因は
- 「息の過剰」
です。
つまり、息を強く吐きすぎているから「張り上げ」という状態になるのですね。
声帯というのは、息の力によって振動しています。
これは、声帯が息の圧力を上手く制御している状態とも言えます。
ここで、息の力だけが強くなりすぎると、その圧力を支えられなくなり、声帯は押し負けてしまい上手く振動できなくなることがイメージできると思います。
難しく考えたくない場合は、張り上げはこのイメージでも特に問題ないとは思いますが、実際にはもう少し複雑です。
人間の体は面白いもので、こういうことが起こりかけると「仮声帯」という部分が自動的に働いて、声帯が息の力を支えられるようにサポートします。
声帯が息の力に押し負けないように、自動的に補助が働いているということです。
この仮声帯は、咳払いをした時などに鳴っている部分で、ガラガラ・ゴロゴロとした音が鳴ります。
例えば、怒鳴り声などのような大声を出すときに、ガラガラするのは、この仮声帯のサポートが働いているからですね。
もちろん、「仮声帯」は意図的に働かせることもできます。ただ、「仮声帯を狙って働かせる発声」と「仮声帯が働かざるを得ない発声」は違うということです。
「仮声帯が働かざるを得ない発声」になるときは、声帯のコントロールもいっぱいいっぱいなので、音程やリズムのコントロールなどが上手くいかず、聞き苦しい声になってしまったりするのですね。
つまり、
- 息の過剰→声帯が息を支えられない→仮声帯が働くような不安定な声(=張り上げ)
これが、張り上げの流れです。
ここまでが張り上げの直接的原因ですが、「では息の過剰を生み出す要因が何か?」というところが、間接的原因になってきます。
間接的原因は、
- 高い声を出す能力不足
- 声量を出す能力不足
という二つ。
この二つが、改善しなければいけない根本の部分になると考えられます。
①高い声を出す能力不足
高い声を出す能力が不足すると、息の過剰になるということです。
まず、声を高くするには
- 声帯を伸ばす(*メイン)
- 息を強める
- 裏声にする
- 喉を締める
という4つの動きがあります。
このうち、声帯を伸ばす動きが主役になるのですが、
声帯はどこまでも伸びるわけではないので、この動きにはある一定のラインで限界がきます。
*この限界は、声帯があまり鍛えられていない人はトレーニングによって伸ばすこともできます。ただし、鍛えればどこまでも伸びるというものではなく、人間なのでどんな人にも一定の限界があります。
現状の能力での「声帯を伸ばす動き」が限界まで来たとき、それ以上の高音を出そうとすると、残された選択肢は、「息を強める」「喉を締める」の二つになります(*「裏声」は今回のテーマに沿っていないので除外)。
このうち、どちらを取るかによって、
- 息を強く吐こうとする→『張り上げ発声』
- 喉を締めようとする→『喉締め発声』
のようになります。今回は前者ですね。
つまり、能力以上の高い声を出そうとして、強い息を吐くことによって張り上げ発声になっているということです。
なのでこの場合、「高い声を出す能力」を少しづつ鍛えていくことが根本部分の解決策になります。
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②声量を出す能力不足
自分の現状の能力以上の声量を出そうとすると、息の過剰になります。
基本的に、息を強く吐けば吐くほどに大きな声量になるので、声量の限界を超えると息の過剰になるということですね。
そして、息の過剰になると起こることは、先ほどの高い声の時と同じ原理です。
声量は、
- 息の力
- 声帯が息を支える能力
- 共鳴(骨格)
によって決まりますが、共鳴部分は骨格によって決まる部分も大きいので、あまり鍛えようがありません。
張り上げの場合、息はしっかり吐けていると言えるので、「声帯が息を支える能力」の部分が欠けているということになります。
ただし、声量においても人間はどこまでも無限に出せるようになるわけではないので、どんな人でもいつかは張り上げ状態になります。
つまり、この能力が鍛えられるのは人それぞれの限界のラインまでということになります。
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声量を上げるトレーニング方法について
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張り上げの改善トレーニング
基本的には、先ほどの項目での関連リンク先にて、「高い声を出す能力」「声量を出す能力」を鍛えることが、張り上げの根本的な部分の改善になると思われるので、それに関してはリンク先のページを参考にしてみて欲しいのですが、ここでは直接的に「張り上げ」そのものの改善が期待できるトレーニングを紹介しておきます。
張り上げるとリップロールそのものが崩れてしまうので、張り上げ自体の制御に役立ちます。また、声帯にかかる息の圧力を軽減し、声帯が息を支えやすくする効果があるので、張り上げの改善には効果的だと考えられます。
おそらく、一番張り上げを改善しやすいトレーニングだと考えられます。
ストローを活用したボイストレーニングも、リップロールと同様に声帯にかかる圧力軽減の効果があるので、張り上げを改善する効果があると考えられます。ただ、このトレーニングの場合、無理に張り上げようと思えば張り上げられるので、リップロールほどの抑制効果はないでしょう。
「ネイ」や「ヤイ」の発音でのトレー二ングです。あごや舌のほぐしながら発声することで、強い鳴りの発声の脱力に役立ちます。当然、張り上げの改善に効果的だと考えられます。
「グッ」の発音でのトレーニングです。こちらは喉を広げながら下をほぐす発音で、脱力を促すものですが、張り上げの抑制にも役立つと考えられます。しっかりと「グ」と発音すれば、かなり張り上げにくくなります。
名前の通り犬の呼吸の真似をするようなトレーニングです。このトレーニングは、『声帯が息の力を支える能力』を鍛えることができます。声量アップにも役立つトレーニングなので、張り上げの改善に役立つと考えられます。
これらのトレーニングを活用することで、張り上げの改善が期待できます。もちろん、すぐに治るというものではないので、一定の継続が必要になります。
注意点
どんな人にも「その声帯の限界」というものがあり、張り上げないで出せる高音や声量には一定の限界があります。
つまり、張り上げが改善できるのは、あくまでも鍛えられる範囲内においてのお話です。
なので、何をどうしても改善できないところまできたら、そこが限界だと受け入れる必要があるでしょう。
また、特に高音が原因の場合ですが、「張り上げ」を改善しようとしすぎて「喉締め」になってしまう場合もあります。
張り上げないようにしすぎて、喉を締める方向性に行ってしまうのですね。これはこれで良くない方向性に進んでいる可能性があるので、この点に気をつけておきましょう。