今回はボイトレにおける、
- プラトー・・・成長が停滞すること
- スランプ・・・できていたことができなくなること
についての研究考察です。
「プラトー」と「スランプ」は、スポーツなどで使われることが多い言葉ですが、基本的に能力の成長に関するものなら何にでもあるものだと言われています。
もちろん、ボイトレにもあるでしょう。というよりも、ボイトレの成長はスポーツと似たようなものなので、この「プラトー」と「スランプ」について考える必要があるかもしれません。
目次
ボイトレにおける「プラトー(成長停滞)」
プラトー効果 (プラトーこうか、英語:Plateau effect)とは、一時的な停滞状態のことを言う。おもに筋力トレーニング時の停滞期を指す。学習、作業の進歩が一時的に停滞する状態を指す場合にも使われる。成長曲線の横ばいとして現れ、心的飽和や疲労などが原因で起こる。高原現象。高原状態。
「プラトー」は、練習を継続しているのに成長が止まってしまうという状態です。
長い期間練習しているのに、一向に変化が見られないなどは、「プラトー」と言える状態なのかもしれません。
しかし、個人的にはボイトレにおいて、まず「本当にプラトーなのか?」を一旦考える必要があるのではないかと考えています。
というのも「一旦成長が停止している」のではなく、「成長の限界に達している」という場合もあると考えられるからです。
限界に達しているのであれば、それ以上はほとんど進めないわけです。
さらに、その「成長の限界」は、
- 持っている体(喉・声帯)としての限界
- 間違った方向性による限界
という二つに分けて考えることもできると思います。
①持っている体の限界
例えば、『高音開発』などで当てはまることが多いかと。
”魅力的な高音域の限界”は、人それぞれが持っている声帯によってほぼ決まっているので、トレーニングすれば無限に伸びるというものではないですね。体には必ず限界がありますから。
すでに限界を迎えているにも関わらず、「プラトーなんだ」とプラスに捉えてさらに高音を開発しようとすると、逆にスランプに陥る可能性も高まるだろうと考えられます。
②間違った方向性による限界
例えば、『変な癖のついた発声』など根本に問題がある場合ですね。
その発声をいくら良くしようと鍛えても、根本から発声がおかしい場合は、その道は行き止まりになることが多いでしょう。何事にも『理にかなった〜』というものがあり、その”理”から外れた道を行った場合は、努力では超えられない行き止まりのような壁が早い段階で現れるのですね。
この場合、大体は土台から変えないとそれ以上成長するのは難しいでしょう。
-
歌における「声帯の使い方の癖」について
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上記の「①持っている体の限界」「②間違った方向性による限界」という二つ以外で成長が停滞しているのなら、それはおそらく「プラトー」と言えるのかもしれません。
そうであれば、
- 伸びるまでトレーニングを継続する
- オーバーロードの原則(過負荷の法則)
- トレーニングの多様化
- 休養をとる
などの対策によって、停滞した後はまた成長するものだと言われています。
①伸びるまでトレーニングを継続する
単に『次の成長のための停滞状態』に陥っているだけなので、トレーニングを継続していれば、そのうちまた成長が始まるということも普通にあるようです。
ボイトレにおいてもこれは多いように思います。『継続は力なり』というやつでしょうか。
②オーバーロードの原則
「過負荷の法則」とも呼ばれ、負荷を上げていくことでしか人間は成長しないという原則です。
例えば、ずっと3キロのダンベルで筋トレを継続していても筋肉は一定以上成長しなくなるが、5キロ・10キロと負荷を上げていくことで筋肉をどんどん成長させることができる。などがオーバーロードの原則です。
同じように、ボイトレも負荷を少しづつ高めなければいけないとも言えるでしょう。
ただし、個人的にボイトレは「筋トレ」のように考えるよりも、「ストレッチ」のように慎重に考えた方がいいだろうと思います。
というのも、筋トレは『限界まで追い込む』『筋肉をいじめる』ような負荷のかけ方のイメージがありますが、喉や声帯にとっては、こういう考え方は危険性が高いように思います。喉や声帯って体の筋肉のようにムキムキにはなりませんし。
ストレッチは『無理のない範囲でゆっくりとほぐしていく』『優しくコツコツとほぐす』というようなイメージでしょうから喉や声帯に適している考え方だと思います。
③トレーニングの多様化
トレーニングに若干の変化を加えたり、色々なトレーニングをやってみるということです。
これは次の「スランプ」にも関連するお話なので、次の項目で詳しく掘り下げたいと思います。
④休養をとる
過度なトレーニング(=オーバートレーニング)によっても、プラトーは起こると考えられます(*これはスランプも同じ)。
つまり、回復が足りてないということです。
なので、思い切ってたくさん休養をとってみることで、プラトーが解消し、結果的に成長できるようになるということもあるのですね。
ボイトレにおける「スランプ」
スランプは、日常でも使う言葉でしょうが「できていたことができなくなる」「能力の低下」というものです。
ボイトレの成長においては、スポーツよりもこれに陥ることは少ないとも思いますが、あるにはあるでしょう。
スランプに関してもまずは「本当にスランプ」なのか、単に「身体的な変化」なのかを考える必要があるでしょう。
身体的な変化
例えば、「声変わり」や「加齢」による変化ですね。これによって出せていた高い声が出せなくなる、声質が変わったなどのような現象は起こるでしょう。
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高い声が出なくなった原因について
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しかし、これらは人間としての自然な変化であり、基本的に逆らいようがないものと言えるでしょう。なので、受け入れなければいけないものかと。
ただ、この変化は本質的には「歌の上手さ」に影響しないので”マイナス”ではないと思います。
もちろん、声の変化によって『スタイルの変更』『キーの変更』などは必要になるかもしれませんが、『歌う能力が落ちた』とは言えないので、スランプとは言えないのではないでしょうか。
逆に声帯が変化したにも関わらず、変化前のスタイルを維持しようとすることの方がスランプに陥るのかもしれませんね。
スランプの場合
本当にスランプだった場合、その原因は無数にあるでしょう。
- 体調によって喉や声帯の調子が悪い
- 風邪・花粉症
- 過度なトレーニング(オーバートレーニング)
- 声帯の疲労・怪我・ダメージ
- 心理的な原因による発声障害
などの身体的・心理的不調によるものが原因というのが、まずは考えられるものでしょう。
しかし、こういうわかりやすいものは「疲労を抜きましょう」「回復を待ちましょう」「治しましょう」というのが解決策ですし、治りさえすれば元どおり歌えるはずです。
ところが、身体や心にダメージを負っているわけではないのにスランプになっている、という状態が存在すると考えられます。
体にも声帯にも異常はないのに、出せていた声が出なくなった。診断上は問題ないのに、なぜか上手く歌えなくなった、などなど。
個人的に、これらは大体
- 声帯のバランスの崩れ
が原因になるだろうと考えています。
例えば、スポーツなどでは「偏った筋肉をつけすぎたせいでパフォーマンスが落ちる」などのことがありますよね。上半身と下半身のバランスが悪くなった、左右の筋肉のバランスが悪くなった、などなど。
同じように歌にも「偏った発声をし過ぎたせいで思ったように歌えなくなった」などのことがあると考えられます。
これの大事なポイントは、『鍛えられ過ぎて結果的に悪い方に働く』というところでしょう。
過度な発声による偏り
例えば、よくあるのが「過度な高音発声を長期的に繰り返した」など。
- 過度な高音発声をたくさん繰り返すことで高音に必要な部分が成長する
- 過度な高音が出しやすくなる
- 成長した部分に頼るような発声になっていく
- その他の部分があまり使われなくなり痩せていく
- 余計に成長した部分に頼るような発声になっていく
というような流れで、徐々に声帯のバランスが崩れていくのだろうと考えられます。
こういうもの厄介なところは、気づかないくらいゆっくりと長期的にバランスが崩れていき、気づいた時には元に戻すのにも長い時間がかかるような状態になっているところでしょう。
しかも、喉の中なのでベストな状態がどんなバランスだったのかがよくわからない。
スポーツでも『単調な動きを繰り返すこと』がスランプを生み出す原因の一つと考えられていますが、歌においても『過度に偏った発声』がスランプを生み出すのではないかと考えられます。
ダメージを抱えたまま歌い続ける
他にも、風邪などで喉にダメージを負っている状態で歌い続けると、声帯のバランスを崩しやすいと考えられます。
これは、ダメージを負っているにも関わらず「できるだけいつも通りの声を出そう」と声帯がいつもと違う無理な動きをするからでしょう。なんとかカバーしようとするのですね。しかし、そのせいで変な動きの癖がつきバランスが崩れる。
スポーツでも、怪我で痛めた部分をかばうような動きをすることで、別の部分を痛めたり体のバランスを崩してしまうことはありますよね。
これの厄介なところはダメージは完治しても、バランスの崩れを意識しないと歌声はもとに戻らないことでしょう。「風邪を引いてからずっと上手く歌えない」という場合、喉のバランスが崩れているのかもしれません。
多様な刺激のトレーニングがバランスを作る
上記のようなバランスの崩れを防ぐには、先ほどの「プラトー」の部分でも述べた『トレーニングの多様化』がいいと考えられます。
一流のアスリート達もトレーニングを多様化させて体を安定させているというような話はありますね↓
動画を簡単に要約すると、
- 脳への刺激が筋肉を発達させるのに大事。ずっと同じ重さ・同じ回数でトレーニングしても刺激がなくなり、途中で筋肉が発達しなくなる。
- 同じフォームで投げていると、脳は勝手に刺激を変えたがるからフォームが安定しなかったり崩れたりする。
- あえて、あらかじめ2つの違うフォームを作って両方をこなすことで刺激を一定にさせず、それによりフォームが大きく崩れることなく安定した。
という感じです。
『フォームを安定させるために違うフォームでトレーニングをする』というのが、これの面白いところですね。
一見すると真逆のことをしているようですが、トレーニングを固定して一定の動きを繰り返そうとすることの方がズレていくのでしょう。
人間の体は、3ヶ月でほとんどの細胞が入れ替わると言われていますから。
個人的には、ボイストレーニングもこのような考え方で取り組むといいのではないかと思います。
スポーツで体全体のバランスを考慮しながらトレーニングするように、歌においても喉や声帯を一つの体に見立ててトレーニングしていくようなイメージを持つといいのかもしれませんね。
単調なトレーニング・同じトレーニングをやり続けるのではなく、
- 色々なトレーニングをバランス良くやる
- 複数のトレーニングを混ぜる
- 母音や子音に変化をつける
などのように、若干でも変化をつけて多様化させることで上手く成長しやすいのではないかと。
ただし、多様化させ過ぎるのも良くないというか、なんでもかんでもやればいいかというと、それはそれで違うように思います。
トレーニングの幅を広げすぎて「変な癖の発声」を身につけてしまうなどのこともあるでしょうから、自分のプラスになる範囲内でトレーニングを多様化させると考えるといいのかもしれませんね。
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