今回は
- ミックスボイスは『ある』と認識する人
- ミックスボイスは『ない』と認識する人
という『2つの反する認識を持つ人がいるその原因は何か?』
そして、
- なぜプロシンガーの多くはミックスボイスについて語らないのか?
- なぜ一般人ほどミックスボイスについて語るのか?
ということからミックスボイスの存在について考察していきます。
先にこの記事の結論を書いておきます。
ミックスボイスは色々ありすぎる
最近、個人的には
- 「ミックスボイス」という言葉は必要なのだろうか?
- 少なくとも無くした方が得する人が圧倒的に多いのではないか?
と思っています。
まぁ、そんなこと言いながら使っていますが、、、。笑
でも僕のミックスボイスの使い方は「自然な換声点以上の音域の裏声ではない発声=地声の高音」という認識なので、そこまで害はない、、、か?
(害があったとしても、もはや書き直す気力が、、。お許しください。)
やはり、全ての人に同じ認識を与えるのが難しい言葉なので、使わない方が全ての人にメリットとも思うのです。
例えば、こういう位置付けの認識は特に害はない(損はない)と思うんです↓
しかし、こういう位置付け(声帯の柔軟性不足?)↓
や、こんな感じもあるでしょう(おそらく倍音を消失する魅力的じゃない発声)↓
時にはこんなことも言われたりする(これは多分、その裏声そのものが良くない可能性)↓
色々混ざって”寄り”という概念↓
「〇〇寄り」という、一見するとわかるようで突き詰めるとよくわからない表現も生まれますね。
とにかく色々な認識がありすぎるんです。
まぁ、どう考えるのも個人の自由だとは思うのですが、、、。
なぜこのように人によって考えが違うのか?
特に今回は、真ん中の
- 地声でもなく裏声でもない『ミックスボイス』という固有の認識が生まれるのはなぜか?
という部分に重点的に切り込みたいのですが、その前に
- 「ミックスボイス」という言葉の現状
- 『そもそもミックスボイスという声区はあるのか?』
という2つの部分に触れておきたいと思います。
『ミックスボイス』という言葉の認識の変化とその現状
歌の業界も日々進歩しています。
『ミックスボイス』という言葉。
元々はヨーロッパのクラシック音楽からきた言葉(原語はフランス語のヴォワ・ミクストと言われる)なのか、昔からあった言葉なのかはわかりませんが、80年代か90年代くらいにミックスボイスという言葉が日本にも徐々に広まってきたのですかね?(曖昧)
そして00年代〜10年くらい、インターネットやボイトレなどの普及により多くの人に浸透。
ボイトレ業界もこぞってその名称を使う。
そんな一昔前の傾向としては、
- ミックスボイスは地声と裏声を混ぜる高音発声
- ミックスボイスは換声点を越えるための発声
みたいな感じで語られることが多かったのだと思います(予想ですが)。
その結果として、
- 「これがミックスボイスか!なるほど」
- 「こうやって高音を出すのか」
- 「いやいや、混ざらねぇよ」
- 「ミックスボイスってそもそもあるの?」
と色々な意見が出現。
そして、最近では、
インターネットやSNSやYOUTUBEなどがさらに発展して、蓋を開ければ実は世界的に誰もミックスボイスを”明確に”定義できていないことに多くの人が気づく。
(特に「地声」と「ミックスボイス」の明確な差・線引きができない)
もちろん大前提として、『裏声ではない地声のような音色の高音発声』は普通に存在します。
ただ、それをわざわざ
- 「ミックスボイス」と名付ける必要があるのか?
- 地声とどう違うのか?明確な差は何?
- 地声でよくない?
という考えを持つ人が生まれるのは当然です。
その結果として、現在、発声を教えている多くの人や教室が
- 「ミックスボイスとは厳密な定義がないものなんだよ」
- 「曖昧な言葉なんです」
と語る割合がどんどん増加傾向ですね。
ここまで来ると、ミックスボイスって言葉は必要なのか、、?
そのうち、
- 「ミックスボイスはない」
- 「ミックスボイス?まだ言ってんの?」
とみんなが口を揃えて言う日も近いのかもしれませんね。
そもそも、海外ではもう「ない」で結論付いてきているのではないかと予想しますが。
ミックスボイスは『存在しない』
これに関しては僕が言うよりも海外のサイトにわかりやすい内容がありますので、グーグルのサイト翻訳にかけてそのまま抜粋・引用します。
ところどころ意味がわからないと思いますが、まずはさらっと読んでみてください(*「M1」は地声、「M2」は裏声、「M1,5・混合音声」はミックスボイスです。)↓
4つの喉頭振動メカニズムに関する記事を読み、混合音声について考え始めます。あなたは疑問に思い始めます…。確かに、混合音声は胸声(通常はM1にあると見なされます)と頭声またはファルセット(通常はM2にあると見なされます)の混合であると人々が言うので、それはM1とM2の間のレジスタである必要があります...したがってM1.5 。
M1.5の存在は非常に一般的な神話です。多くの人が、混合音声は声帯振動の明確なメカニズム、つまり明確なレジスターであると考えています。しかし、M1.5は実際には存在しません。
それで、混合音声は存在しますか?声区ですか?その質問への答えは重要ではないと思います。重要なのは、M1.5が存在しないこと、混合音声が声帯振動の明確なパターンではないこと、混合音声を正確に定義できないことです。
これは、「ミックスを見つける」必要がないことも意味します。それはあなたが見つけなければならないメカニズムではありません。
リンク先の内容をざっとまとめると、
- 声区(声帯の振動メカニズムの区分)として「ミックスボイスは存在しない」
- 必ず「地声」か「裏声」どちらかの声区区分の発声になる
- ミックスボイスについて考えるのは意味のないこと
という感じです。
良い内容だと思うので、詳しく掘り下げたい人はリンク先のページをサイト翻訳にかけて読んでみてください。
ちなみにこのサイト、「mixed voice exist」と英語でグーグル検索すると一番上に出てきます。
一番上に出てくるからと言って正しいとは限らないのですが、英語サイトは上から順番に見ていっても「ない」「声区じゃない」「考えるな」ばっかりです。笑
まぁ個人的にも納得しかありませんが、日本語検索では、、、オーマイガー。
ま、それはいいとして、「ミックスボイスは厳密には存在しない」のですね。
だって、明確な線引きができない。
発声のメカニズム的に声区は二つしか存在しない。
しかし、今回はここで終わりません。
ミックスボイスがすんなり存在しないと言い切れるのなら、この言葉は世界的にそこまで根付かなかったはず。
先ほどの引用でも「多くの人が信じている神話」のような表現をしています。
信じられるには理由があるはず。
ここからは本題の
- なぜ、ミックスボイスという認識がある人とない人がいるのか
- なぜ、ミックスボイスという認識は普及してしまったのか
に踏み込んでいきます。
プロはミックスボイスをどう捉えている?
まず、プロはミックスボイスをどう考えているのか、について。
あくまで一例なのですが、日本の偉大なボーカリストASKAさんのお言葉(*再生位置・38:10あたり〜)↓
いいですね。
なんか、すごくザックリ!
音色がどうとか、共鳴がどうとか、声帯がどうとかではなく、単に、
- 地声から裏声に切り替わるその音程以降を”地声で”出す発声=ミックスボイス
「ファルセット(裏声)になる音階をチェストボイス(地声)で歌う歌い方」と言ってますから、『地声の高い声』と認識されているのでしょう。
つまり考え方を簡単に図で示すと↓
こんな感じでしょうか。
結局はこうとしか言えないでしょうし、もし仮にミックスボイスを定義するのならこれくらいの認識がちょうどいいと思います。
もちろん、「ASKAさんが言っているからこうだ!」と言うつもりもありませんが、これほど美しく力強い中高音発声(多くの人がミックスボイスと言いそうな発声)を使いこなすシンガー↓
が”「高音の地声=ミックスボイス」と認識している”という一つの参考になりますね。
また、プロのシンガーは『ミックスボイス』というもの自体を語らないシンガーも非常に多く、そういう認識が全くない人も数多くいるでしょう。
多くのシンガーの方々は「この部分でミックスボイスを使ってるんですよ〜」とかって、ほとんど言わないですよね。
というか、
- 『ミックスボイス』という言葉って、”プロのシンガーほど使わない、一般人やボイトレ業界ほど使う頻度が高い言葉”では?
と思うのです。
普通、逆であるべきですよね。
しかもこれ、日本のみならず世界でも同じようにプロはミックスボイスという言葉を使わず、使っているのは一般人・トレーナーがほとんど(*少なくとも僕の観測の範囲では)。
世界的に有名なジェシー・Jさん。再生位置*4:55〜にてヘッドボイス(裏声)とチェストボイス(地声)という声区の説明をしていますが、”ミックスボイス”という用語は出てきません。
日本のシンガーはもちろんこと、世界のシンガーも「Mixed voice is〜」と語らないんです。
もちろんASKAさんのようにそれについて述べてくれる人もいますが、ほとんどざっくりしています。
いい意味で深く考えていない(地声の高音的な考えである)ことがほとんど。
「みんな天才なんじゃないか」という一言で片付けてしまいそうになりますが、この「プロほど語らない」という現象の理由を深く考えるべきなんです。
なぜか、一般的には広く普及している
しかし、世の中にはミックスボイスという言葉が普通に定着しているし、その固有の発声を認識している人もいるし、ボイトレ業界では多く語られるワードでもあります。
この
- プロほど語らない
- 一般人ほど語る
という現象から次の仮説が生まれます。
- 歌が上手い人は「ミックスボイス」が認識できない(しにくい)
- 歌がそこまで上手くない人は「ミックスボイス」が認識できる(しやすい)
と(*認識しているから上手くない、認識していないから上手い、とは言ってません。)
あくまで傾向のお話ですが、その言葉の使用頻度を考えるとこういう仮説が立つと思います。
では、なぜ歌が上手い人ほどそうなのか。
なぜプロのシンガーはミックスボイスを語らない?
【仮説1】 認識してない=その人の中に存在していない
これはかなり有力です。
「ミックスボイス」という固有の感覚や認識を持てない。
自分が発しているのは地声か裏声だけという認識。
そもそも歌が上手い人は声帯の柔軟性に長けているので、感覚的には地声のまま高音域を出しているはずです。
特に何か切り替わった感覚がないのであれば、その高音はわざわざ「ミックスボイス」と名付ける必要もなく「地声の高音域」という認識で十分ですよね。
そして地声の先には裏声がある。どこにも「ミックスボイス」と認識できるものがない。
声帯の柔軟性がある人は両声区が広いという感覚や認識のはず。
あり得ないと思う人もいるかもしれませんが、これがあり得るのがプロのシンガーの声帯の柔軟性。
先ほどのジェシー・Jさんもそうでしたよね。
【仮説2】 下手なことは言えない
プロとして影響力があるからこそ、はっきりしてないことは言わない方がいいと思っている方もいるのかもしれません。
まぁ、もしかしたらこのような方も一部いるのかもしれませんが、数多くいるシンガーたちがみんな発言を控えているとは考えにくいので、やはり認識していないと考えるのが普通でしょう。
もし、ミックスボイスという認識がそれぞれのシンガーに明確にあるのであれば、表に出ない裏側の会話で話題になるはずです。
- 「あの発声ミックスで出しているよね?」
- 「そうそう、ミックスボイスだよ。」
みたいな感じで。
そして次第にミックスボイスの存在は常識となって結果的に”シンガー達の口から”世に出てくるはずですが、そうなっていないことからもやはり認識してない人が多くいるのでしょう。
むしろ、僕の予想ですが、裏でこんな会話が繰り広げられているのでは?。
- 「なんか世間的には俺の高音発声、ミックスボイスって言われてるんだけど、よくわからないんだよね。」
- 「あ、わかる! みんな何を持ってミックスって判断するんだろう? 地声じゃないのかな?」
みたいな感じでしょう。笑
まぁ、勝手な想像です。
例えば、よくあるのがインタビューなどで「どうしてそんなに高音が出るんですか?」と質問されて、「高音?よくわからないけど出るんです」みたいな。
別にカッコつけてるわけではなく、本当にわからないんだと思います。
『高音を出そうとすれば高音が出る』から。
「歩こうとすれば歩ける」「自転車に乗ろうとすれば乗れる」みたいなレベルだと思います。
おそらく、プロのシンガーはミックスボイスが語れないのは『認識していない・できない』から。
なぜ認識できないのかというと、
- 地声で高音域が出せるから
- 地声の感覚だから
- 何かが特別切り替わった認識が”一切ない”から
でしょう。
認識できない人にとって、『ミックスボイスは存在しない』と言ってしまえるのかもしれません。
では、逆に
- 『なぜミックスボイスが認識できる人もいるのか?』
というところ。
これがかなり重要ですね。
厳密な声区としては存在しないにもかかわらず、認識してしまう。
一般人がミックスボイスという固有の発声を認識できる可能性が高まるのには大きく”2つ”の理由があると思うんです。
なぜ一般人ほどミックスボイスを認識できる?
ミックスボイスを認識できる理由は、これから書く
- 声を出す感覚面→【仮説1*声帯の柔軟性のなさ】
- 聴感上の感覚面→【仮説2*コンプレッサーの音色】
という二つの面があるのだと思います。
そしてその両方が揃うと地声や裏声とは全く別物の『ミックスボイス』という認識や概念が強固に出来上がりやすいのだと思います。
【仮説1】 地声域における声帯の伸展の限界を迎えた後、無理やり裏返らない発声を作るために過剰な声帯の硬直を作る発声
声帯の柔軟性がないということは簡単に言えば『声帯の伸展能力(伸びる力)』が低いということですね。
つまり、地声域における声帯を柔軟に伸ばせる範囲が短いという風に考えられます。
このように地声における声帯を柔軟に扱える範囲そのものに差があります。
これが歌が上手い人と苦手な人の差とも言えますね。
ここで、声帯の柔軟性がない人がその時点で裏返らない高音を出すためには、声帯を緊張させるしかないわけです。
この時、声帯の柔軟性がなければない人ほど、すごく喉が締まったりすると考えられます。
締まり過ぎると「喉締め発声」とか言われるのでしょう。
何にせよ、声帯伸展ができないのに裏返らない高音を出すためには、声帯を器用に緊張・硬直させて高音を出そうとするのですね(それしか選択肢がないから)。
つまり、
- 声帯の伸展が止まり(完全に止まるわけではない)、声帯が緊張し出すその瞬間に『ミックスボイス』というものを感じるのではないか
と考えられます。
*この声帯の緊張は正直余計なものなので、「過緊張」と表現します。
この声帯が過緊張し出す瞬間は、感覚的に「何かが切り替わった」という認識が生まれやすいのではないかと考えます。
しかも、ここからが重要で、
この過緊張はトレーニングによって
- ある程度楽な過緊張
- 柔らかい過緊張
にすることもできると考えられます。
トレーニングによって、
その時点で『過緊張』と言えるものではないように思うかもしれませんし、一見するといい感じにも見えます。
これを俗に「ミックスボイスの習得」と言うのかもしれません。
これをミックスボイスと言うのであれば、ミックスボイスと言ってもいいと思いますし、ある意味「ミックスボイスはある」とも言えると思います。分類上は「地声」ですが。
ただ、余計な緊張が音程を上げるベースを担っているのであれば、それは大抵いいものではないんですよね。
つまり、完全にほぐれているわけではないのですね。
これによって生まれるのが、
- 『ミックスボイスはある程度出せるようになったけれど、〇〇が〜〜だ。』
みたいな悩みでしょう。
なぜかすんなりミックスボイスに満足できる人は非常に少なく、多くの人が「けれど〜だ。」という何かしらの問題点を抱えています。
この「ミックスボイスなるもの」は音程的には高い声は出せるんです。大きな声量も出せたりするかもしれません。
ただ、感覚的には「ものすごく脱力している、余計な力が入らずに出せる」であっても、この声帯の余計な緊張を前提に鍛え上げた発声ではどこか美しい倍音が乗らない(=魅力的に聴こえない)。
よくあるのが自分で出す感じは割といい感じにミックスを出せているように感じるけれど、録音してみると何だか変に感じるというものですね。
これはその「ミックス(声帯筋が過緊張し出す発声)」という発声に入ったと時点で美しい倍音を失い始めるので、どこか魅力のない発声になるんです。
にもかかわらず、こういう発声って内耳(自分の内側に聞こえる)音はいい感じに聴こえてしまうから録音するまで気づかないんです(これもこの過緊張発声の最大の弱点)。
そして、『もっとミックスボイスをこうしなきゃ、ああしなきゃ。』という果てしない迷路に入ります。
こうなると、ベースが倍音消失発声なので、努力しても努力しても良くならない。ゴールが見えない。みたいなこともあり得そうです。
少し話が脱線してしまいましたが、
このように中高音のレンジで「何かが切り替わった」と感じる人ほどミックスボイスを認識しやすいのですが、そういう発声ほど高い声は出るが魅力的でない可能性が高いという、、、。
もちろん声帯の内側の緊張(声帯筋の緊張)がある程度機能していないと、地声ではなく裏声に切り替わってしまいます。
- あくまで”余計な”緊張がいらない。
この『余計な』という絶妙な匙加減の言葉の匙加減が難しい。
まぁ音程を上昇させるときにどちらの働きをベースにするかのバランスが重要だろうと思います。
【仮説2】 コンプレッサーのスレッショルドを大きく超える発声をミックスボイスと感じる?【音源を再現しようとする】
これも、すごく重要だと思う内容です。
当たり前ですが、多くの人はプロの歌声を”マイクを通った声”や”CD音源”などからしか聴けません。
ということは多くの機械を通った音声データを聴いているということです。
そして、その中でも”コンプ”がミックスボイスの認識に大きく関わっているだろうということです。
見出しに書いてある「コンプ」に「スレッショルド」と音楽に詳しい方ならわかるとは思いますが、普通の人はちょっと何言ってるかわからないですよね。
簡単に言えば、
- 「コンプレッサー」は音量を圧縮するもの(音量を押しつぶすもの)。
- 「スレッショルド」はその圧縮の閾値(押しつぶす音量のボーダーラインみたいなもの)
です。
すごく簡単にコンプレッサーの役割を図で示しますとこんな感じ↓
*コンプは深く突き詰めれば、ものすごく奥深いものなので、ここで大まかに簡単に表現します。
ちなみにですが、コンプは大きな音をカットするのではなく、「押しつぶす(小さくする)」ので押しつぶした部分の音の密度・濃度が上がります(ココが今回の鍵)。
まぁ、とにかく、このコンプレッサーは録音されたもの・マイクを通したものであれば大なり小なりかかっていると思います。
普段の生活では感じないでしょうが、声を含む『音』というのは基本的にすごくデコボコした音量差があるわけです。
なので、『録音』という音をデータに変換するときに、コンプの役割がなければ大変なことになるのです。
小さい音に照準を合わせると大きな音は割れてしまいますし、大きな音に照準を合わせると小さい音はほぼ聞こえないという状態になってしまいます。
このように、みなさんが普段聴いている音楽における歌声も
- 『コンプがかかった歌声』
言い換えると、
- 『圧縮された(音量差を押し潰された)歌声』
を聴いているからこそいい感じに聴こえるのですね。
iPhoneのボイスメモでも同じような機能(コンプなのかリミッターなのか)を体験できますから、試してみるといいと思います。
こんな感じ(囁く発声と大きな発声を録音したもの)↓
これがあるおかげで、音量差のあるものをある程度同じ音量で再生できるのですね。
つまり、音量の差をなるべく均一に修正して全部いい感じに聴こえさせるのがコンプの役割。
ここからが重要なんですが、圧縮された音は『締まる(≒芯を持つ、こもる)』んです。
元々の音は締まっていないけれど、コンプによって圧縮されると締まって聴こえるんです。
最初のフレーズ「ダーリン〜♩」と「フォエバーーー」は目の前で聴けばかなりの声量差のある発声のはずですが、コンプによって同じくらいの音量に聴こえる↓
最初の「ダーリン〜♩」は割と近くにいる感じですが、「フォエバーーー」でギュッと音が締まって少し遠くに行く感じがしますね。
声量溢れる発声なのでコンプがグッとかかって音が奥の方へいく感じ、音がギュッと締まる感じ、音の密度が高くなる感じになると思います。
つまりこの場合、「ダーリン〜♩」はスレッショルドを超える成分が少ない発声、「フォエバーーー」はスレッショルドを超える成分が多い発声と言えると思います。
で、このスレッショルドを超えやすい発声は
- 強い声を出すとき(大きな声量を出すとき)
- 強い声を出すときは大体『高音を出すとき』
なので、ある一定の高音域に入ると、コンプによって声帯(音)が締まっているように聴こえることが多いのです。
「フォエバーーー」で声帯が締まっているように聴こえた人もいると思います。
つまり、目の前で実際に聴いたらそんなことはないけれど、マイクを通したことによって発声方法が変化して聞こえる場合があるのです(実際はスレッショルド以上の音量になって圧縮されただけ)。
つまり、このコンプなどの圧縮や音色変化を頭に入れずに熱心に音源を聴き込む人ほど、
- 「ここで少し声帯が締まってるなぁ」
- 「これが声帯閉鎖か」
とか感じる可能性がありそうです(*もちろん、本当に締まっている場合もある)。
神経を研ぎ澄まして、コンプの音色変化を聴いちゃってるわけですね。
ある意味では「耳が良い」ですし、ある意味では「耳が悪い」とも言えそうな。
もちろん強い高音発声はその分だけ息の圧力が必要になりますから、声帯にはそれを支える一定の力は必要です。
ただ、それは声帯の過緊張の上に成り立つものではなく、柔軟性の上に成り立つもののはずです。
プロのシンガーの発声は目の前で聴けば、びっくりするほど美しい発声のはず。
ところが音が圧縮されるとその発声全体の音像の素晴らしさの全てをどうしても正確に捉えにくくなる(耳がいい人や聴く機器が高級だと捉えやすい)。
特にダイナミックレンジ(声量差)の広いシンガーは大変でしょう。
これはミュージシャンやエンジニアもレコーディングで最も気を使う部分でしょうし、面白いところでもあるのでしょう。
コンプの説明が長くなってしまいましたが、本題に戻りますと、
このコンプが強くかかった音域帯をミックスボイスと感じることがあるのでは?
音が圧縮され、音色も変化し、声帯がほんのり締まっているように聴こえないこともないですから。
もちろん名称は「ミックスボイス」でも「ウルトラボイス」でも好きに呼んだらいいとは思います。
特にこの『解釈』の段階は大きな問題ではないんです。
ただし、『真似をする・練習する』の段階で問題が生まれる気がします。
つまり、
- そのコンプがかかっている発声の音色(ちょっと締まった音色)を”そのまま真似する”発声方法が『ミックスボイス』になっている。
言い換えると、
- マイクを通さないで歌う発声でマイクを通した音色を再現しようとする
ということが『ミックスボイスを出す』になっている可能性がある。
人の声帯ってすごく器用ですから、良くも悪くもこれができてしまうんです。
つまり、『圧縮された音』を聴こえてくるままにそのまま真似している。
こうであれば辻褄は合いませんか?
コンプの音色(CDから聴こえてくる声)をそのまま再現しようとすると、【仮説1】で言ったような『過緊張』によって倍音を消失するような音色の発声になる可能性が高まります。
つまり、【仮説1*声帯の過緊張の話】と相まって、
- 【出す感覚面】声帯が過緊張し出す(締まり出す)音域をミックスボイスと認識する
- 【聴く感覚面】コンプが強くかかる音域(締まる音)をミックスボイスと認識する
という二つの認識が揃うことで、地声とは別物のミックスボイスという認識が強く出来上がるのではないでしょうか?
簡単に言うと、
- 「声帯が締まる感覚」+「声帯が締まっているように聴こえる音源」=ミックスボイス
と。
でも実際は
- 「声帯の柔軟性不足が生み出す過緊張」+「コンプが強くかかった音の真似」=倍音消失ボイス(魅力度の低い高音ボイス)
を作り出しているだけなのかもしれません。
ついでにもう一つ辻褄が合いますね。
- プロのシンガーは録音に慣れていて、このコンプの圧縮具合を大きく理解しているからこそ、「ミックスボイス」が認識できない
とも考えられますよね。
もちろん、プロでなくとも自分の歌声の録音のトレーニングなどたくさんした人はこういう機械の特性みたいなものをなんとなくでも理解していることでしょう。
結論
長くなってしまいましたが、今回の記事で一番言いたかったことは、
- プロのシンガー(=歌が上手い人)が「ミックスボイス」を認識できていないことが多いのは『声帯の柔軟性が高いから・音楽機器の音色の変化を理解できるから』だと考えられる
ということ。
そして、
- 一般人ほど「ミックスボイス」を認識してしまうのは、『声帯の柔軟性がないから・音楽機器の音色の変化なんてわからないから』だと考えられる
ということです。
「ミックスボイス」という声区は存在しないと結論づけられてきていることは中盤でも述べましたが、それでも「ある」という人もいるはずです。
それはそれでも良いと思います。
正直、ミックスボイスがあるかないかという存在の有無や明確な定義なんてどうでもいいんです。
”自分にとってどっちがお得か”で考えたらいいと思います。
多くの場合は『”ない”で考えた方がお得』でしょう。
少なくとも損はない。
『ある』で考えると損をする可能性がありますし、多くの人は過緊張発声に入り込んでしまう可能性が高そうです(*ただし、一概にこれが悪いとは言えないパターンも確かにある。が、それが自分に当てはまるとは考えないほうがいい場合がほとんどでしょう)。
大事なのは、
- ”あるか・ないか”ではなく、”損か・得か”
- ”地声か・ミックスボイスか”ではなく、”魅力的な高音発声ができるか・できないか”
では?
『魅力的な高音発声』という目的にたどり着くための過程にミックスボイスという言葉は基本的に邪魔なんです。
大体こんな感じになりそう。
ではまた。