歌の雑学・研究・考察

歌における「正しい発声」についての研究

投稿日:2021年3月1日 更新日:

今回は歌における『正しい発声』についてのテーマです。

歌をやっていると「”正しい発声”とは?」と思い悩むこともあると思います。正解の形がしっかりと示されていればあとはそれに取り組むだけですから誰しも”答え”が欲しくなるのは当たり前ですね。

 

ところが、この”正しい発声”というものは明確な答えを探しすぎると落とし穴にハマる可能性を秘めていると考えられます。なぜなら正しい発声というのは厳密には人それぞれ違うものだと言えるからです。

この人それぞれの違いを考慮しながら”自分の正しい発声”をどう見つけていくかという内容です。

「正しい発声」は人それぞれに違う

まず「正しい発声方法」というものは

  1. 歌のジャンル
  2. 持っている声帯の特徴
  3. 体の特徴
  4. 感覚

によって人それぞれの正解が変わってしまうものだということを頭に入れておくべきでしょう。

⑴歌のジャンルの違いは「正しい発声」を変える

音楽は自由なのでどんなジャンルでもどんな歌い方をしてもいいとは思うのですが、やはりジャンルによってそれぞれの『正しい発声』のようなフォーマットはある程度決まっていますね。

 

例えば、オペラなどの「クラシック」と言われるマイクなしを前提とした歌唱方法、一般的に「ポップス」と言われるマイクありを前提として歌唱方法は『正しい発声』の方向性が全然違います

 

また、大きな枠では「ポップス」と呼ばれるものでも例えば「ハードロック」と「ジャズ」では歌い方の傾向が大きく違うのでそういう点でも『正しい発声』は変わってくるでしょう。

 

さらに、同一のジャンルであっても70年代・80年代・90年代・・・現在に至るまで、歌い方の流行りの傾向が変化しているものもあります

 

このように『歌』の方向性は無限大にあって、『正しい発声』というのは”どんな音楽表現をするか”によっていくらでも変わってしまうということです。

⑵持っている声帯の特徴は「正しい発声」を変える

個人個人が持っている声帯や体の違いによって”正しさ”というものは変化します。人間は体も声も大体の作りはみんな同じと言えますが、細かい特徴は人それぞれ違いますよね。

 

声帯の特徴

これは「声が低い・声が高い」などの音域のタイプの違い「息っぽい声・鳴りやすい声・ハスキーボイス」などのような声質のタイプの違いのことです。

 

例えば、「すごく声が低い男性シンガー」が「すごく声が高い女性シンガー」の歌を原曲キーで歌うのは”正しい発声”ではないですよね。逆もまた然り。

歌えるかどうかは別として人それぞれの適正な音域というものが存在するのでその適性に合わせたものが”正しい発声”と言えるでしょう。

 

声質においてもこれと同じようなことが言えます。

例えば、「すごく透明感のある息っぽい声のシンガー」「すごくパワーのあるガラガラ声のシンガー」がいたとして、お互いがお互いの歌声に近づこうと訓練しても『やっぱりもともとの声質を活かした方が良いよね』という結論になるでしょう。

 

つまり、

  • 『正しい発声』は個人個人の声帯の特性(音域・声質)によって変化する

ということです。

⑶体の特徴は「正しい発声」を変える

個人個人の体(骨格・歯・あご・舌・喉)の違いによっても正しい発声は変わります。

 

例えば、

  • 正しい口の開け方は指3本分開ける
  • 発声時の舌の位置は喉の奥の空洞が見えた方がいい
  • 発声時はアゴを引いて姿勢を良くした方がいい

こういうものは「正しい」人もいるし「正しくない」人もいるでしょう。

 

口を開けない方がいい発声ができる人もいるし、舌が上がっている方がいい発声ができる人もいるし、アゴを前に出して猫背になった方がいい発声ができる人もいるということです。

 

ある意味こういう『正しい〜』は多数派にバイアスがかかって生まれたものとも言えるでしょう。

つまり、

  • 動作・型・形・フォームなどにおける『正しい〜』という教えは、厳密には”多数に当てはまりやすいもの”であって全ての人に当てはまる『正しい〜』ではない

ということです。

⑷「正しい発声」の感覚も人それぞれ違う

おそらく「正しい発声の”感覚”」というものが気になることは多いと思います。

人間は真似をして成長する生き物なので、「どうやって・どのように」を探りたくなるのはある意味自然です。

 

しかし、実際には『感覚』にも個人差があるのでこれを考慮しなければいけませんし、あまり他人の感覚を探りすぎてもいい結果は生まれないかもしれません。

 

というのも

  1. ある動作に対する感覚が人それぞれ同じになることはない
  2. 言語化された感覚は受け手に伝わらない
  3. そもそも「感覚」を言語化することは難しい

からです。

 

例えば、「高い声を出す感覚は〜です」と言うときの『〜の部分』にはその人が意識できていること語られます。

無意識にできていることは感覚として伝えることはできませんが、そこにも必要な要素はあるでしょう。つまり、感覚というのは必要なものすべてを伝えることができない。

 

さらに、例えば「脱力が大事です」と言ったとして、『脱力』という言葉が受け手側によって様々に解釈されてしまうのですね。

脱力は個々によって解釈が変わる

個々がそれぞれの『脱力』という感覚を探してしまうので、全く同じ感覚にはならないのですね。

こういう点から「正しい発声の感覚」を学んだところで自分で上手く活用できない可能性が高いのですね。

つまり、

  • 自分だけの感覚を探す必要がある

というのがある意味核心をついた答えでしょう。

正しい発声をどう追い求めるか

これまでの内容を踏まえると「正しい発声とは?」の答えは『人それぞれ違う』というのがある意味核心をついた答えであり、『正しい発声は自分で見つけなければいけない』というのが真理とも言えるはず。

 

しかし、これだと答えが面白くないので、ここからは広い意味での『ポップス向け』で正しい発声をどう追い求めたらいいのかについて考察してみたいと思います。

 

そうすると、

  1. マイクによく通るいい音色の発声にする
  2. 音程とリズムがコントロールしやすい発声にする

という二つの条件を満たそうとすれば必然的に多くの人に当てはまる「正しい発声」になっていくのではないかと思われます。

 

なぜなら、歌の3要素は「①音程」「②リズム」「③音色の質」だからです。

これらが歌を構成する要素であるのなら、「歌が上手い」とは「音程が良い」「リズムが良い」「音色の質が良い」のいづれか、もしくは全てを満たすと成立するものと言えますね。

 

ということはこの3つを「良い」状態にする発声=「正しい発声」になります。

そしてその3つを取りに行くために先ほどの2つの条件を満たせばいいのではないかということです。

⑴マイクによく通るいい音色の発声にする

基本的にポップスはマイクに通すことを前提とした歌唱方法なので、『マイクによく通る声=いい音色』です。

逆に『いい音色だからこそマイクに通る』とも言えるのですが、いい音色の解釈を間違えると”正しい発声”から遠ざかってしまう可能性もあります。

 

例えば、マイクを使わないことを前提とした歌唱方法であるクラシックなどの発声は一般的なダイナミックマイクでは声が通らない(声の魅力が半減する)。これはクラシックが「空間の鳴りを求める発声」だからですね。つまり、クラシックにおけるいい音色を求めるとマイクに通らない声になります。

なので、ポップスにおいては『マイクによく通る声=いい音色』と考えておいた方がいいということです。実際マイクを使う以上は”マイクからの出音が全て”ですから。

よって、ポップス的な正しい発声を身につけるには「マイクによく通る声を探すこと」が重要になるでしょう。

 

マイクに通ることを身につけるには

マイクによく通る声を身につけるのは「マイクをたくさん使うこと」が一番です。

しかし、マイクをたくさん使える環境にある人はなかなかいないはず。その場合はスマホなどで「たくさん声の録音を繰り返すこと」もマイクによく通る声を身につける練習になると考えられます。

歌において自分の歌声を録音することは”発声の面”においてもいい練習なのですね。

マイクによく通る声を身につけることに関しての詳細は『マイク乗りのいい歌声について』の記事にもまとめています。

⑵音程とリズムがコントロールしやすい発声にする

音程とリズムをコントロールしやすい発声にしようとすることは正しい発声への道となると考えられます。

これは文字通りの意味でこれ以上の説明はないのですが、大事なのは「コントロールしようとする」のではなく「コントロール”しやすく”しよう」という意識で発声を考えることでしょう。

 

ここで大事なポイントは

  • 歌の音程・リズムは「音感」や「リズム感」と言った”音楽的感性”だけで決まるものではなく、”声をコントロールする能力”によっても決まっている

ということです。

つまり、歌の音程やリズムは『頭の能力(音楽的感性)』だけでなく『体の能力(声をコントロールする能力)』によっても決まっているということ。

音程とリズムを「コントロールしよう」と意識すると”頭側”から考えてしまいやすいですが、「コントロールしやすい発声をしよう」と意識すると自然と”体側”から考えることになりそれは結果的に正しい発声へとつながるでしょう。

正しい発声を見つける良い方法は『”プロの生歌”と”自分の生歌”を同じ条件で比較する』

上記の二つを指針にして具体的に何をするのが一番いいのか?というのを考えると、『お手本と同じ条件で比較するトレーニング』を繰り返すのが”正しい発声”を身につけるために一番いい方法だろうと考えられます。

 

具体的にはまず、『自分にとってのお手本のシンガーの”生歌”が聴けるもの』を見つけます。YOUTUBEなどにたくさんありますね。

例えばこういうもの↓

 

次に自分の歌声を録音します。スマホの録音や動画撮影で問題ないでしょう。

そして、お手本のシンガーの歌声と自分の歌声を比較・分析することで自然と正しい発声へと導かれて行くはずです。

 

このトレーニングの重要なポイントは『プロのシンガーの生歌=マイクを通っていない歌声』を研究することです。

もちろん、スマホなど何らかのマイクを通っているから音声が録れているのですが、ここで言いたいのは「ダイナミックマイク」や「コンデンサーマイク」などのボーカル用マイクを通っていないという意味です。

 

これが正しい発声を正確に理解するのにすごく役立ちますし、自分を「正しい発声へと導く」ために役立つと考えられます。

 

正確に理解する

マイクを通った歌声というのは、その実態を正確に理解・把握することがかなり難しいです(*もちろんできる人はできる)

 

それに比べると、マイクを通さずにスマホの前で歌っているような歌声は『その歌声の実態がどんなものなのか』を比較的正確に把握しやすい。

もちろん目の前で聞けばもっと確実に理解できるでしょう。

 

この”いい発声”の実態を正確に把握するということがかなり大事で、この正確な理解』の部分だけである程度正しい発声への道を自然と歩むことができるとも言えるはず。

 

よく「歌が上手いシンガーの子供は歌が上手い」「歌の上手さは遺伝だ」ということが語られますが、身近に歌が上手い人がいることによる”発声の正確な理解”という経験値によるものがほとんどだと思われます。詳しくは記事『歌の上手さと遺伝の関係性』にて。

 

正しい発声へと導いてくれる

「お手本の歌声」と「自分の歌声」がほとんど同じ状況が作れるのなら、その二つと比較することで足りないものが自然と見えてきますよね。

 

例えば、誰もが幼い頃に「あ」という文字のお手本を見ながら「あ」を書く練習をしたと思います。

あれは「お手本」と「自分の字」を並べて比較するからお手本に近づくように成長するんですよね。

 

同じように「正しい発声(お手本)」と「自分の歌声」をある程度同じ録音状況を作って比較すると『正しくなるために何が必要か』が嫌でも見えてくるでしょうし、それはつまり『自分が正しい発声ができているかどうか』の確認になるということ。

 

今の時代、ありがたいことに素晴らしいシンガーの生歌をたくさん聴けますね。

こういうものを研究すると「正しい発声」というものの正確な実態が見えてきますし、それと自分を比較すれば「正しい発声ができているかどうか」までわかりますね。

そしてその比較行動を繰り返すことが『正しい発声への道』になっていくでしょう。

正しい発声の確認方法

絶対的ではないのですが、正しい発声を確認する方法はあります。

どちらかと言えば、「大きく間違った発声になっていないか」を確かめるための方法とも言えますが、

  1. ハミングで確かめる
  2. ブレス(息継ぎ)で確かめる

という方法です。

①ハミングで確かめる

ハミング(口を閉じた鼻歌)は「正しい発声」を確かめやすいです。

 

あくまでも可能性の話ですが、ハミングした状態で”楽にしっかりと出せる声”は「正しい」と言える可能性が高くなります。

  • まず、自分が一番出しやすい楽な音域である程度しっかりと声量を出してハミングをします。「んーー♪」。
  • この状態からハミングを解いて「あーー♪」にします。おそらくこの発声は「正しい」と言いやすい発声になるはず。

 

この時の注意点ですが、

  • 喉に余計な力が入っていないこと。楽に自然にハミングできていること。
  • 音量は大きすぎなくてもいいが、ある程度しっかりと鳴らし小さすぎないこと。

この辺りを気をつけましょう。

特にハミングは口を閉じているので自分に聞こえる声が実際よりも大きく感じることがあります。ハミングでしっかりと出しているつもりなのに実際は出ていないということがあるのでその点は気をつけましょう。

 

ハミンングの状態で『楽』と『しっかりと鳴らせる』という両方の条件ができているとき、それは正しい発声状態に近いものの可能性が高いです。

②ブレス(息継ぎ)で確かめる

歌の中でのブレス・息継ぎの仕方で自分が「正しい発声」ができているかどうかを確かめやすいです。

 

こちらも「正しい発声」というよりも「悪い発声」であるかどうかを確かめる方法とも言えるのですが、

  • 歌の中での息継ぎ時に自然に吸うことができるか、吸気音が過度に鳴っていないか

で判断できます。

 

「吸気音」とは息を吸い込む時に声帯を締めることで鳴らす音で、引き笑いの時などに鳴る音のことです。息を吸う時に「キュッ」とした音や「ゾワー」とした音などが大きく入る場合、声帯に力が入りすぎていて呼吸時にそれが抜けきれていない可能性が高いということになります。

 

もちろん、「吸気音」が鳴るからといって必ずしも悪い発声であるとは限らないです。

ただ、あまりに過度にたくさん鳴る場合は確率として悪い発声である可能性が上がるということです。

 

例えば、普段の会話における呼吸時に吸気音が鳴る人はほとんどいないでしょう。つまり、それは自然に息が吸えているということ。

歌も会話と比べると呼吸量自体は多くなりますが、”基本的に”いい発声ができているときは普段と同じように自然に呼吸できるでしょう。

 

なので、『過度な吸気音が鳴らず自然に息が吸えているかどうか』というのは正しい発声を確かめる一つの指標になります。

まとめ

”正しい発声”というものは

  1. 歌のジャンル
  2. 持っている声帯の特徴
  3. 体の特徴
  4. 感覚

という4つの違いによって変わるものなので、一概に具体的な答えを出せるものではない。

 

しかし、

  1. マイクによく通るいい音色の発声にする
  2. 音程とリズムがコントロールしやすい発声にする

という指針で”正しい発声”を追い求めていくと上手く正しい発声へと近づけると考えられます。

 

”正しい発声”の定義が人それぞれ違うのでこれ以上踏み込むことはできませんが、『声の楽器化』というテーマであればまた違った視点や条件を考えることができます。おそらくこれも”正しい発声”という言葉を言い換えたものの一つだろうと思います。詳しくはこちらにて↓

楽器のような声の出し方について

続きを見る

-歌の雑学・研究・考察

Copyright© 【ミュートレグ】 , 2022 All Rights Reserved.