今回は歌における『正しい発声』についての研究考察です。
この記事は
歌における正しい発声方法というものは「ジャンル差」「目標・目的の差」「個人の体の差」をしっかりと考えた上で導き出さなければいけないものなので、『正しい発声は〇〇です』のように言い切ることがかなり難しいもの。
正しい発声とは『過程』から探し出すものではなく、『結果』から『自分に合う過程を導き出すこと』ではないか。
そして、正しい発声というものはまず『正確に理解・把握すること』が一番重要ではないか。
という内容です。
目次
「正しい発声」を考える前にまず2つのフィルターを通す
正しい発声を考えるときは
- ジャンルの差
- 目的・目標の差
という2つの項目をまず整理しておくべきでしょう。
理由は、この2つは「正しい」という価値観をそのものを変えてしまうものと考えられるからです。
ジャンルの差
自分がどんなジャンルの音楽の発声を求めているのか?
あくまで一例でもっとジャンルはたくさんありますが、それぞれの音楽において「正しい発声」は微妙に変化しますので、各自目指すジャンルについて考えておく必要があります。
もちろん大前提『音楽は自由』なので、本質的には「そのジャンルにおける正しい発声」なんてものは存在しないという見方もできます。が、やはりジャンルによってある程度の”傾向”はある。
目標・目的の差
これは歌の目標や目的が何なのか?という部分。
わかりやすい違いで言うと、
- プロのように他人を魅了する歌声を手に入れたいのか【本格派】
- カラオケで自分が満足できる歌声を手に入れたいのか【娯楽派】
などのような違いです。
これはどちらが良いとか悪いなどは一切ありません。歌は人それぞれ好きに楽しむべきものです。
しかし、「正しさ」というものの考え方は変化するでしょうから、「正しい発声」を考えるときに”自分の目標における正しさ”について整理しておく必要がある。
正しい発声は『自分の体の特徴』を考慮する
先ほどの二つのフィルターは下準備みたいなもので、ここからが重要。
これは正しい発声を考えるときに
個人差(脳・感覚・体型・骨格・アゴ・喉・声帯・歯・舌などなど全て)を考慮してそれに応じた「正しい」を見つけることが大事
ということです。
正しい発声の感覚なんて存在しない
まず「正しい発声の感覚はどんなものか?」というのは多くの人が気になるところでしょうが、これは『個人差』があるものなので考えなくていいもの。
むしろ、他人の感覚を探りすぎることで逆に悪い方へ進むこともあるかもしれません。
というのも
- ある動作に対する感覚が人それぞれ同じになることはない
- 言語化された感覚は受け手に伝わらない
- そもそも「感覚」を言語化することは難しい
からです。
例えば、「高い声を出す感覚は〜です」と言うときの『〜の部分』にはその人が意識できていること語られます。
無意識にできていることは感覚として伝えることはできませんが、そこにも必要な要素はあるでしょう。
さらに、例えば「脱力が大事です」と言ったとして、『脱力』という言葉が受け手側によって様々に解釈されてしまうのですね。
個々がそれぞれの『脱力』という感覚を探してしまうので、全く同じ感覚にはならない。
こういう点から「正しい発声の感覚」を探すのはあまりおすすめできない。
というよりも
- 全ての人に共通する正しい発声の感覚は存在しないので、自分だけの感覚を探す必要がある
と言えるでしょう。
正しい発声の”動作”にも注意が必要
実は「感覚」だけでなく、実際に起きている動き・動作の正しさも人によって変わる場合があるので注意が必要だと考えられます。
例えば、
- 正しい口の開け方は指3本分開ける
- 発声時の舌の位置は喉の奥の空洞が見えた方がいい
- 発声時はアゴを引いて姿勢を良くした方がいい
こういうものは「正しい」人もいるし「正しくない」人もいるでしょう。
逆に口を開けない方がいい音色が出る人もいるし、舌が上がっている方がいい音色が出る人もいるし、アゴを前に出した方がいい音色が出る人もいるということです。
なぜなら、人によって骨格・歯・舌・顎・喉・声帯などの形や大きさが違うから。野球選手の打撃フォームが人それぞれ違うのと同じように声における最適なフォームも人それぞれに違います。
なので、こういう動作などにおける正しさを考えるときは体の違いをものすごく考慮しなければいけない。
- 全ての人に共通する「正しい動作」も存在しないので、自分だけの「正しい動作」がある
と言えるでしょう。
個々の「声帯の特徴」と正しい発声
最後に重要となるのが
「声帯の特徴」も正しい発声を決めている要因になる
ということ。
ここでの声帯の特徴とは「声が低い・声が高い」などの音域のタイプや「息っぽい声・鳴りやすい声・ハスキーボイス」などのような声質のタイプのことです。
この『声帯タイプ』には基本的には逆らわないことが「正しい発声」になるでしょう。
例えば、
「すごく声が低い一流男性シンガー」が「すごく声が高い一流女性シンガー」の歌を原曲キーで同じクオリティで歌うことはいくら一流とは言え不可能でしょうし、逆に女性も男性の曲を魅力的には歌えない。
これは言われるまでもないでしょうが、多くの人が『男女の声帯特性の違いは努力ではなんともならないんだから、自分の性別に合うキーで歌うのが正しい発声だ』と普通に理解していることだと思います。
ここで大事なのは
これが『個々の違い』『小さな違い』のレベルでも同じことが言えるということ。
例えば、男性の中の「低い〜普通〜高い」、女性の中の「低い〜普通〜高い」などがある。もっと細かくすると個人個人に適したものがある。
つまり、人それぞれ自分に合うキーがある。
声質においてもこれと同じようなことが言えます。
なので、
- 個人個人の声帯の特性を考慮し、それに合ったものが「正しい発声」であり、自分の特性に合わないものは「正しくない発声」になる
ということ。
正しい発声の出し方
ここまで読んでいただいた方は「もはや正しい発声と言えるものなんてなくない?」と思うかもしれません。
確かにそうとも言えると思います。
「決まった感覚」や「決まった動作・フォーム」みたいなものの正解は一切ない、もしくは人それぞれに正解があるのでそれを自分で見つけなければいけないとしか言えないでしょう。
思うに「正しい発声」とはもっと”結果の方にある”というか『その歌声に起きている現象』の部分にあるような気がします。
上手く表現できませんが、
- 「どのように・どうすれば」のような『過程』の部分にその答えはなく、例えば「音程が正確である・リズムがすごくいい・発声がとても綺麗」などのような『結果』の部分にだけその答えがある
と思われます。
つまり、
- 『結果』の部分にだけ”正しさ”があり、それを実現させるための『過程』は自分で試行錯誤することが『正しい発声』なのではないか
と。
ここで「結果の部分の正しさは〇〇と〇〇だ!」のように述べることはここではできません。
これは冒頭で述べたようにジャンル・目標・目的などが人それぞれ違うので一概に言い切ることはできないということです。
例えば、こういうベーシックなポップス型を求めている人や↓
パワフルでロックなスタイルを求めている人や↓
オペラ・クラシックスタイルを求めている人もいるでしょう↓
このように求めているものが人それぞれなので、一概に「正しい歌声の条件はコレ」と言えません。
ただし、これらの「結果」における正しさを正確に理解・把握することがすごく重要なのではないかと考えられます。
正しい発声の確認方法
①プロの”生歌”と”自分の生歌”を同じ条件で比較する
これが最も「正しい発声」に近づきやすい方法だと思われます。
まず、先ほどの3つの動画には実は共通点があります。
それは「マイクを通っていないこと」。
もちろん、スマホなど何らかのマイクを通っているから音声が録れているのですが、ここで言いたいのは「ダイナミックマイク」や「コンデンサーマイク」などのボーカル用マイクを通っていないという意味です。
これが正しい発声(自分が求める歌声)を正確に理解するのにすごく役立ちますし、自分を「正しい発声へと導く」ためにも使えると考えられます。
正確に理解する
マイクを通った歌声というのは、その実態を正確に理解・把握することがかなり難しいです(*もちろんできる人はできる)。
それに比べると、マイクを通さずにスマホの前で歌っているような歌声は『その歌声の実態がどんなものなのか』を比較的正確に把握しやすい。
もちろん目の前で聞けばもっと確実に理解できるでしょう。
この”いい発声”の実態を正確に把握するということが何よりも大事で極端な話、この『正確な理解』の部分だけである程度正しい発声への道を自然と歩むことができるとも言えるでしょう。
なので、歌手の子供は歌が上手くなると考えられます。
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逆に言えば、間違った理解をすると間違った道に進んでしまう。
なので、「結果」における正しさを正確に理解する段階がものすごく大事で、そのためにはマイクを通していないような歌声を徹底的に研究すると上手くいく可能性が高いということです。
正しい発声へと導いてくれる
実は先ほどのようなマイクを通っていない音源は、スマホさえあれば自分でほとんど同じ状況を作れるはず。
要は、
- お手本と同じ録音状況で自分の歌声を動画に撮って、「お手本」と「自分の歌声」を交互に比較することが正しい発声の確認方法になる
ということ(*お手本のシンガーと自分の声帯の個性の差は上手く考慮しましょう)。
おそらくこれが「正しい発声」の確認方法として最もいいと考えられます。
誰もが幼い頃に「あ」という文字のお手本を見ながら「あ」を書く練習したと思います。
あれは「お手本」と「自分の字」を並べて比較するからお手本に近づくように成長するんですよね。
同じように「正しい発声(お手本)」と「自分の歌声」をある程度同じ録音状況を作って比較すると『正しくなるために何が必要か』が嫌でも見えてくるでしょうし、それはつまり『自分が正しい発声ができているかどうか』の確認になるということでしょう。
今の時代、ありがたいことに偉大なシンガーもスマホの前で歌ってくれたりしています。
そういうものを徹底的に研究すると「正しい発声(結果)」というものが見えてきますし、それと自分を比較すれば簡単に「正しい発声ができているかどうか」までわかりますね。
また、できてなければその比較行動を繰り返すことが『正しい発声への道』となるでしょう。
②ブレス(息継ぎ)で確かめる
歌の中でのブレス・息継ぎの仕方で自分が「正しい発声」ができているかどうかを確かめやすい。
これは「正しい発声」というよりも「悪い発声」であるかどうかを確かめる方法とも言えるのですが、
- 歌の中での息継ぎ時に自然に吸うことができるか、吸気音が過度に鳴っていないか
で判断できます。
「吸気音」とは息を吸い込む時に声帯を締めることで鳴らす音で、引き笑いの時などに鳴る音のことです。息を吸う時に「キュッ」とした音や「ゾワー」とした音などが入る場合、声帯に力が入りすぎていて呼吸時にそれが抜けきれていない可能性が高いということになります。
もちろん、「吸気音」が鳴るからといって必ずしも悪い発声であるとは限らないのです。
ただ、あくまで確率として悪い発声である可能性があるということです。
例えば、普段の会話における呼吸時に吸気音が鳴る人はほとんどいないでしょう。つまり、それは自然に息が吸えているということ。
歌も会話と比べると呼吸量自体は多くなりますが、”基本的に”いい発声ができているときは普段と同じように自然に呼吸できるでしょう。
なので、『過度な吸気音が鳴らず自然に息が吸えているかどうか』というのは正しい発声を確かめる一つの指標になります。
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③ハミングで確かめる
ハミング(口を閉じた鼻歌)は「正しい発声」を確かめやすい。
あくまでも可能性の話ですが、ハミングした状態で”楽に”出せる声は「正しい」と言える可能性が高くなります。
- まず、自分が一番出しやすい楽な音域である程度しっかりと声量を出してハミングをします。「んーー♪」。
- この状態からハミングを解いて「あーー♪」にします。おそらくこの発声は「正しい」と言いやすい発声になるはず。
この時の注意点ですが、
- 喉に全く余計な力が入っていないこと。楽に自然にハミングできていること。
- 音量は大きすぎなくてもいいので、小さすぎないこと。
この辺りを気をつけましょう。
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