今回は「声が低すぎて高い声で歌えない」「声が低いから高い声が出ない」という問題とその解決について。
この問題は、
- カラオケを自由に気持ちよく歌いたい『娯楽派』
- プロのように自分の曲を歌いたい『本格派』
でおすすめの解決策が180度変わってしまう問題でもあるのかもしれません。
その解決策は
- 諦める・キーを変更する・自分の歌える音域を極める→【*本格派向き】
- とにかく高音発声をゴリゴリ鍛える→【*娯楽派向き】
(*向きは必ずではない)
という二つの方向性のどちらかを進むことになると考えられます。
「声が低いから歌えない」という悩みは音楽的には少し変?
おそらく、歌においては「声が低い」という悩みは、「声が高い」という悩みの数よりも圧倒的に多いはず。
声が低くて、
- 流行りの曲はほぼ歌えない
- (男性)女性の曲のオクターブ下しか歌えない
- (女性)男性の曲しか歌えないし、場合によっては男性の曲が高い
などなど声が低い人が抱える悩みは多いでしょう。
しかし、こういう「声が低くて歌えない」という悩みは実は音楽的には少し変というか、”奇妙な悩み”であるとも言えます。
例えるのなら、「身長が180センチあるからSサイズのTシャツが着られない」って言ってるような感じです。
おそらく、多くの人が「自分に合うサイズを着ればいいのに」と思うはず。
歌もこれと同じです。
- 「声が低いから高い歌が歌えない」→「キーを下げればいい・低い歌を歌えばいい」
冷静に考えれば、これが音楽の基本の考え方。服と同じように「自分に合うサイズの歌を歌えばいい」というある意味普通の考え方です。
そもそも「高い声が出せる」=「歌が上手い」ではないですから。
ただし、世界的に1980〜2000年代くらいまで高音至上主義的な流れは確かにあったように思われます。
また、日本はカラオケ文化が根強く「高い声が出せる=上手い」に紐付きやすい環境にあることは間違いないです。
カラオケを楽しみたい人は「そうは言っても原曲キーで高い声で歌いたい」「高音が出せたほうがカラオケで活躍できるんだ」と思う人も多いはず。
それはそれで音楽の楽しみ方なので、何も問題はないと思います。
でも、だからこそ、
- 「本格派」と「娯楽派」で考え方を分けなければいけない
と考えられます。
『魅力』と『高音』は天秤の関係
「鍛えれば誰でも高い声は出せるようになる」という言葉があります。
確かにこれはその通りなのですが、これは言葉足らず。
正しくは、
- 鍛えれば誰でも高い声は出せるようにはなる。ただし『歌声の魅力』を考慮しなければ。
と表現する方がいいと考えられます。
これをわかりやすく言い換えると、
- 魅力的に歌える高音の範囲は人それぞれ持っている声帯によって決まっていて、鍛えてどうにかなる部分と鍛えてもどうにもならない部分がある
ということ。
この『歌声の魅力』と『高音』というものは、天秤の上に乗っているような関係性です。
「魅力」というものを考慮したときに、「高音」側に乗せることのできるウェイトはある程度決まっていると考えられます。
声が低い人ほど魅力と釣り合うように出せる高音の音域は低くなり、声が高い人ほど高いです。
つまり、声が高い人の方が高音に関しては有利。もちろん、『低音』になると立場が逆転します。
ベースとギターでは魅力的に鳴らせる音階が違うのと同じように、人それぞれの声帯にもその違いはあると言えるのですね。
低い声帯の人が高い高音を魅力的に歌う方法はないのか
基本的には、上記のような人それぞれに決まった範囲があると考えられるのですが、例外的な人は存在します。
『低い声帯を持っているのにすごく高い声が出せる・高い声の方が魅力的なシンガー』ですね。
なので、「低い声帯の人が魅力的に歌うためには、低く歌うことが100%正解だ」とは言えません。
しかし、個人的な研究範囲ではそういうシンガーは
- 存在はするが少ない
- 少し特殊な声帯の条件を持っている
- 『努力することなくできた』という人が多い
という結論をつけています。
特に、3つ目の『努力することなくできた』という部分が面白いと思うのですが、声が低いのにその声帯に逆らうような歌唱方法が魅力的に成立している人は「最初からできた」「特にトレーニングはしていない」などのような発言しているシンガーが多いと感じます(*あくまで個人的な研究範囲ですが)。
これはつまり、
- その人にとってはそれが最適である
- 一見すると低い声帯に逆らっているように見えて、その人にとっては自分の体に従っている
という感じでしょう。
つまり、『低い声帯だが、高い声が出しやすい条件を持った喉を持っている』ということですね。こういう人は、逆に低い声で歌うのが苦手だったりします。
このように例外的な人もいるというのも頭に入れておくべきでしょうが、自分がそれに当てはまる確率は低いでしょう。
なぜなら、当てはまる人は多分この記事を読んでないでしょうから。笑
また、『自分は特殊な条件を持っていないが、努力と根性でなんとか魅力的にならないのか?』と考える人はいるでしょう。
これは100%無理とは思いませんが、かなり厳しいかと考えられます。
「何も持って魅力的とするか」にもよるとは思いますが、その道を突き詰めれば詰めるほど、どうにもならない壁(=声帯の特性)というものにぶち当たるはず。
これは、世の中には「高い声帯を持つ人」もたくさんいるからですね。
- 高い声帯を持った人がその声帯特性を存分に発揮して高い声を出している
- 低い声帯を持った人がその声帯の特性に逆らう努力をして高い声を出している
どちらが魅力的になる確率が高いか、有利かは言わずもがな。
もちろん、低い声の人が高い声で歌う努力をしてもいいし、低い声を持った人が魅力的な高い声で歌える場合もありますが、ディスアドバンテージ(不利)であることは間違いないので、『そもそも高い声で歌うべきなのか』をしっかりと考えたほうがいいのかもしれません。
話しを少し戻しますが、こういう面があるので「本格派」と「娯楽派」で考え方を分けなければいけないのですね。
おそらく、
- 本格派は『魅力』が最優先、聴く人を魅了したい
- 娯楽派は『高音』が最優先、とにかく気持ちよく歌いたい
という考え方になることが多いでしょうから、解決策として冒頭で述べたように
- 諦める・キーを変更する・自分の歌える音域を極める
- とにかく高音発声を鍛える
という二つの道になるということです。
もちろん、娯楽派の人でも自分が歌える音域を極めたい人もいるはずなので、『自分が何を求めているのか』というところが一番重要になると思います。
①自分の歌える音域を極める
色々な曲を常に自分のキーに変換し、自分の声帯が最も活かせる音域で歌うということですね。
- とにかく無理な高音を取りにいかず、「ピッチ」や「リズム」や「音色の質」を最優先で取りに行く
というような感じの練習になります。
『無理な高音』というものを捨てて諦めてしまうことができれば、その他の能力はしっかりと伸びます。
高い声帯を持つシンガーと低い声帯を持つシンガーを比較して研究すると『自分の音域を極める』というものがどんなものかわかりやすいと思います。
例えば、低い声帯の男性↓
高い声帯の男性↓
低い声帯の女性↓
高い声帯の女性↓
ちなみに海外の女性は文化的に低い声で話そうとし、日本の女性は文化的に高い声で話そうとするので声帯の特性を考える時その点を考慮しなければいけません(*日本女性の会話のトーンの高さは、世界トップクラスだそう)。
このように「低い声帯を持つ人」と「高い声帯を持つ人」を比べると、歌唱上最適な音域がズレていることがわかりますね。
多くの人が、地声と裏声を合わせて大体2〜3オクターブくらいの魅力的に歌える音域の範囲を持っています(*個人差がある)。
これによって魅力的な「最低音」「出しやすい音域」「最高音」など全てが人によってズレます。
この自分の音域に逆らわずに歌声を鍛えていくということが大事。
「歌いたい音域を歌う練習をする」のではなく、「歌える音域を極める練習をする」ということです。
また、自分の声帯を活かすときに一番大事なのは『発声の質(音色の質)』を最優先に考えるということ。
発声の質を最優先に考えることで、他の色々な能力が手に入り魅力的な歌声になる確率が高いと考えられます。
-
声帯の『音域タイプ』について【魅力的な音域帯は人それぞれ決まっている】
続きを見る
②とにかく高音発声を鍛える
「魅力」を考慮しなければ、声がすごく低い人でも高い声はかなり伸ばせるでしょう。
開発方法は、特殊な発音トレーニングを利用するのがオススメです。
高音の開発方法
まずは、今の自分の『地声でギリギリ出せる高音』を見つけます。
ギリギリ出せる高音は「変な声・苦しい声」などになってもいいので、現状の地声の限界域のことです。おそらくこの音域は、「喉締め」や「必要以上の張り上げ」など何かしら問題を抱える音域でしょう。
この音域を
の3つのトレーニングのどれか、もしくは全てを活用してゴリゴリと開発していきます。
喉が締まる場合は「ネイ」「ヤイ」トレーニングかグッグトレーニング、必要以上に張り上げてしまう場合はリップロールがオススメです。もちろん、最終的には自分に合うトレーニングを見つけるのが一番。
とにかく、これら3つのトレーニングで地声でギリギリ出せる高音を開発します。
苦しい音域を発音の特性を借りて脱力を促しながら、鍛えていく(発声していく)というイメージです。
継続すると、だんだんとギリギリ出せる高音が苦しくなくなっていくはずし、それ以上の高音が出せるようになっていくはず。
このトレーニングで声が低い人でも普通に高音で歌えるようになるでしょう。
「じゃあ、これで特に問題なさそうじゃん」と思う方もいるかもしれませんが、こういうトレーニングは成長もそれなりに早く高い声も比較的早く出せるようになるが、先へ進めば進むほどに魅力的に歌えない可能性が高いので、やはり娯楽派向けだと思います。
”どんな人でも高い声で歌えるようになる”というようなものかと。
ちなみに、本格派の場合の音域開発は
- 今の自分の『地声で楽に出せる高音』を見つけてその”楽に出せる”を少しづつ地道にゆっくりと広げていき、ある程度の限界まで(裏声適正の音域まで)到達したらスパッと諦める
という感じです。
”どこまでも高音を出せるとは言えないが、魅力的に歌えるようになる”というものです。
-
地声の高音域を広げる方法【結局、地道なトレーニングが一番いい】
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まとめ
【声が低くて高い声が出ない問題】
- 「声が低いから歌えない」という悩みは音楽的には奇妙な悩み
- 自分に合うサイズの歌を歌えばいい、キーを下げればいいという考え方もある
- 高音が出せる=歌が上手いではない
- 声が低い人でも、努力すれば高い声を出せるようになるが、魅力的に歌えるかどうかは全くの別問題
- 魅力の面を考慮すると、娯楽派と本格派で高い声に対する考え方を変えなければいけない
【娯楽派】
- ゴリゴリと高音発声を鍛えることで、どんなに声が低い人でも高い声自体は出せるようになる(*ただし、魅力的とは限らない。この点を気にしないので、娯楽派とも言える。)
- リップロール、ネイ・ヤイトレーニング、グッグトレーニングなどを活用
- 音域開発はギリギリを攻めていく
【本格派】
- 声の魅力を最優先に考え、自分の歌える音域を極める(=自分の声帯の限界を超える高い声を出すことは一旦諦める)
- 音域開発は、地声で楽に出せる範囲を慎重に少しずつ広げていく