「歌に肺活量が必要なのか?」というのは、よくある疑問ですが、これは
- 肺活量の必要性は状況に応じて変わってくる
- 肺活量は鍛えるべき要素の一つではあるが、それが全てではない
という風に考えるといいと思います。
今回は、そんな『肺活量と発声の関係性』について掘り下げます。
目次
肺活量とは
肺活量とは
息を最大限吸い込んだ後に、肺から吐き出せる空気量のこと(単位はmL)。
つまり、『肺から出せる空気の総量』のことですね。
正しくはこういう意味なのですが、一般的には『吐く力・勢い、吸う力も含めた言葉』『心肺機能の高さを表す言葉』などとしても使われています。
息の総量が多ければ、必然的に息を吐く力や勢いも強くなることが多いので、結局はほとんど同じになり、そういうニュアンスで捉えても、特に問題はないと思います。
ただ、厳密には『肺から出せる空気の総量』という意味であることを頭に入れておきましょう。
今回の記事ではあまり細かい意味は気にせずに進めますし、厳密に示すところは「肺活量(息の総量)」などのように書きます。
肺活量と発声の関係
肺活量と歌唱力の関係
まず、
- 肺活量は『歌唱力を構成する重要な要素の一つ』ではあるが、それで全てが決まるわけではない
と言えるでしょう。
例えば、肺活量が歌の上手さを決める全ての要因になっているなら、毎日過酷なトレーニングをしているスポーツ選手は肺活量・呼吸筋群が発達しているでしょうから、みんな歌が上手いという理屈になりますが、そうでもないでしょう。
また、体が小さな(肺が小さい=肺活量が少ない)子供には歌が上手い人はいないという理屈になりますが、これもそうではない。
小学生くらいの子でも、ものすごく歌が上手い子はいますよね。
そういう点では、肺活量と歌の上手さには直接的な関係性はないと言えるでしょう。
しかし、声は「息」「声帯」「共鳴」「発音」という4つの要素によって成り立つものです。
つまり、「息」とほぼ同じ意味を指す「肺活量」は、重要な要素の一つということにもなります。
声のスタート地点であり、「原動力」のようなものなので、4つの中でも重要度の高いものだと言えるでしょう。
声帯との連動が鍵
ちなみに、肺活量に長けたスポーツ選手などが、特別歌が上手い傾向にはないのは、
- 「息」と「声帯」の連動
という部分の問題です。
これは簡単に言えば、「声帯が息を活かす能力があるかどうか」ということです。
つまり、息の能力がいくらあっても、声帯の能力がなければいい発声にはならないということ。息を活かす声帯あってこその良い発声ということです。
そういう点では、肺活量だけを鍛えてもダメだと言えます。
しかし、
- 声帯は、息の力に合わせて鍛えられる
とも言えます。
つまり、発声時の息を吐く力が強い人は、それに見合った声帯の動きが身につきやすい(息と声帯の連動性が高くなりやすい)と考えられるのです。
『肺活量を鍛える→息の力が強くなる→声帯が息を活かす能力が上がる→発声が良くなる』という流れです。
この点を考えると、肺活量を鍛えるメリットは大きいと言えるでしょう。
息と声帯との連動性に関しては、こちらの記事にもまとめています↓
-
息に声を乗せる【”息の重要性”と声帯との連動性について】
続きを見る
発声の種類と肺活量(息の総量)の必要性
”肺活量(使える息の総量)”の必要性は、発声の種類に応じて変化します。
意外に感じる人もいるかもしれませんが、パワフルな発声ほど”肺活量自体”の必要性は少なく、ウィスパーボイスのような静かなフレーズほど肺活量が必要になります。
その理由は
- ”声帯にかかる呼気圧”と”口から出る息の量”は、基本的に反比例するから
です。
*呼気圧とは、声帯にかかる息の圧力。
どういうことか?
例えば、
- 「あ”ーーーーー」と声帯を強く鳴らして声を出す
- 「はぁーーーー」とため息っぽく声を出す
どちらが”息が長持ちするか”を試してみると、すぐにわかるでしょう。
強く声帯を鳴らした方が、長い時間声を鳴らし続けることができると思います。
これは
- 声帯が受ける呼気圧が高い発声(鳴らす発声)
- 声帯が受ける呼気圧が低い発声(息っぽい発声)
の違いです。
このように、
- 声帯が息の消費量を決める
ので、それに応じて肺活量(息の総量)の必要性は変化するということですね。
息の消費量が多い発声ほど肺活量の必要性があり、息の消費量が少ない発声ほど肺活量の必要性がないということになります。
なので、よく鳴りの強い迫力ある発声に対して「すごい肺活量!」と言ったりしますが、実際は迫力ある発声ほど息を消費してないのですね(*この場合の「肺活量」は”息の勢い”などのニュアンスなのかもしれませんが。)
迫力ある発声や強い高音発声は、かなり長いロングトーンができたりするのもこれが理由です。
つまり、『息をたくさん消費する発声ほど肺活量が必要』ということにはなりますが、歌にはブレス(息継ぎ)があるので、肺活量(息の総量)を必要とするケースは、そこまで多くないのかもしれません。
肺活量(息の力)と声量の関係
肺活量が多いほど声量が大きくなる傾向はありますが、肺活量だけで全てが決まるわけではありません。
声量と直接的な関係があるのは、先ほどの『呼気圧』で、声量はこれとほぼ比例する関係にあると言えるでしょう。
そして、呼気圧は
- 息の強さ
- 声帯の閉じ具合
によって決まります。
当然、両方が強ければ強いほど呼気圧が高くなります。ただ極端に考えれば、「声帯」と「息」はある程度片方が強いだけでも声量は出ます。
【①声帯『強い』×息『弱い』】
例えば、『赤ちゃんの泣き声の声量が大きい』ということを考えるとわかりやすいかもしれません。
赤ちゃんの肺はすごく小さいです。到底「肺活量がある・息の力が強い」とは言えません。
しかし、声量自体は大きく響き渡ります。
これはしっかりと声帯を閉鎖して強く鳴らしているから大きく聞こえるのですね。
赤ちゃんは自分で動いたり意思表示できないので、親が認識しやすいように泣く声が大きく鳴る喉になっているとかいないとか。人間って不思議ですね。
【②声帯『弱い』×息『強い』】
例えば、思いっきり強く息を吐いて「はっ!!!!」と発すると、かなり声量が出ると思います。
くしゃみや咳でも大きな声量が出ますよね。
これは、息側メインの呼気圧の高まりによる大きな声量です。もちろん、実質的には「声帯が弱い」というよりは、息の勢いを声帯が支えようとしてある程度強く鳴ってしまってはいるのですが。
ここで言いたいのは、声帯側に何も意識を向けなくても、息を強く吐くことで声量が大きくなるということです。
このようなことから、
- 『声量=息の力×声帯の鳴らし方』
だと言えます。
つまり、肺活量は声量を構成する要素の一つなので、肺活量が多いほど声量は大きくなるが、肺活量だけで全てが決まるわけではないということですね。
声量に関しては、声帯と息(肺活量)の両方から考えなければいけないということですね。
-
歌の声量がない・小さい原因について
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肺活量(息の力)と高音の関係
「肺活量を鍛えれば高音が出せるようになるのか?」という問題ですが、これは『肺活量を鍛えても高音が出せるようにはならないが、肺活量が弱いよりは強い方が声帯の能力は成長しやすい』と言えます。
つまり、『直接的な効果はないが、間接的なサポートになるので、ないよりはあった方がいい』という感じです。
まず、肺活量(息の力)を鍛えただけで高音が出せるのなら、スポーツ選手はみんなすごい高音を出せることになってしまいますが、そうではないですよね。
結局のところ、『声帯』部分が重要になるという点で直接的な関係性はない。
しかし、全く関係ないかと言われるとそうでもありません。
例えば、何も意識しない楽な状態を作り、
- 軽く息を吐きながら「は〜」と声を出す
- 空手家の掛け声のように、「はっ!!」と勢いよく声を出す
という二つの行動をとると、後者の方が高い声になるはずです。
人間の声帯は強い息を吐いた方が、高い声が出る仕組みになっているのですね。
厳密には、強い息の力を支えるために、声帯が自然と動いて高音になるので、調節しているのは声帯ですが、息が声帯の動きを誘導しているという点では、肺活量(息の力)と高音にはある程度の関係性があると言えます。
また、先ほどの連動性の部分で述べましたが、『肺活量を鍛える→息の力が強くなる→声帯が息を活かす能力が上がる→発声が良くなる』という流れは高音にも当てはまるので、成長の観点で言えば、肺活量が弱いよりも強い方が高音を出す能力が成長しやすいとも言えます。
ただし、この関係性には限界があります。
試しに、先ほどよりもさらに強い息の勢いで、限界まで息の出力を上げて「はっ!!!!!!!」と声を出してみでください。先ほどの空手家の掛け声から少しは音程が上がったかもしれませんが、そこまで大きく変化しなかったはずです。
そして、おそらく怒鳴り声や、がなり声のような声になって声が割れたでしょう。
人の声帯はスムーズに動く範囲に限界があるので、息の出力を強くしすぎると、声帯がその息に耐えられなくなり声が割れてしまいます。
つまり、息をいくら鍛えたところで、声帯が息の強さに耐えられる上限は決まっているので、”息だけで”より高音にしていくことはできないということです。
もちろん、この声帯が息の力に耐えられる上限もトレーニングによってある程度鍛えることはできますが、無限に鍛えられるわけではありませんので、肺活量を鍛え続ければ高音を出せるようになるとは言えないのですね。
肺活量を鍛える
肺活量を鍛えるとは、「横隔膜を鍛える」とほぼ同じ意味になる
歌においての「肺活量を鍛える」とは『息を吸う力・吐く力を鍛える』がメインになります。
そして、「肺は体の成長以外では基本的に大きくならない」です。
なので、歌においての肺活量トレーニングとは
- 『自分の持っている肺を最大限使えるように鍛える』
ということです。
肺というものは、横隔膜や胸郭によって動いています。
ということは、
- 横隔膜
- 胸郭
などの呼吸筋群を鍛えることで、『吸う力・吐く力』そして『そのコントロール能力』を鍛えられると考えられます。
そして、中でも重要なのが、横隔膜です。
横隔膜は可動域が大きいので、肺活量への影響が大きいですし、横隔膜の動きはブレスの精度にも関わってきます。
さらに、横隔膜自体が間接的に喉周りと繋がっているために、横隔膜は息以外にも影響すると考えられます。
-
横隔膜と発声の関係性について【歌における横隔膜を鍛えるメリット】
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肺活量・横隔膜を鍛える
歌における肺活量トレーニングは、3つあります。
【①ドッグブレス】
犬の呼吸のように「ハッハッハッハ」と発声するトレーニングです。
息の勢いをつけて声を出すことで、息と声帯との連動性も鍛えられます。なので、息に関するトレーニングとしてはとてもいいものだと言えるでしょう。
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ドッグブレスのやり方と効果:横隔膜の柔軟性を鍛えて声と息を連動させる
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【②「スー」「ズー」トレーニング】
「スー」や「ズー」の発音でトレーニングすることで、息の流れに負荷をかけ、息をしっかりと流す発声を身につけるトレーニング。
大きな負荷ではないのですし、肺活量(息の総量)に影響するものではないですが、肺活量(息を吐く力)という視点では、なかなか良いトレーニングだと考えられます。
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歌声の息の流れを作る「スー」「ズー」トレーニング
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【③秒数を数えるトレーニング】
秒数を連続で声に出して、息を吐き切るトレーニングです。
息を大きく吸って「いちにさんしごろく・・・・」と数え続け、息継ぎをせずに息がもつ限界まで秒数を数え続けます。
個人差はありますが、30秒〜50秒の間くらいでほとんどの人は限界を迎えるとお思います。
秒数を長く持たせようとする意識は大事なのですが、それ自体が目的ではありません。あくまでも肺のトレーニングなので、声(息)を出し惜しみせずに、ある程度しっかりとした声量で数えて息を吐き切りましょう(*秒数の最後の方は、声が小さくなっても仕方ありません)。
肺活量・呼吸筋群を効率よく鍛えたい場合には、こちらもおすすめです↓
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