今回は安全地帯のボーカル、天才ボーカリスト、玉置浩二さんの歌声・歌い方についての分析です。
話し声の特徴
話し声の音域はやや低めくらいの音域。
もちろん年齢による音域の変化もあるのですが、相対的にやや低めくらいの音域の声帯を持っているという印象です。
声質は「息と鳴りのバランスのいい」タイプの声質。
声帯としてはしっかりと鳴る性質を持っていると思われるのですが、息も非常にしっかりと流れている。話し声から「息」と「鳴り」の両面を持っているような印象です。
話し声から鼻腔や口腔など上方向へ当たりやすいですし、さらに下(咽頭腔)にも響きがしっかりとあり太く深みもあります。骨格や喉の作りから歌うためにあるような印象です。
持っている声帯
やや低めの音域・バランスのいい声質
歌声の特徴【発声方法】
チェストボイス(地声)低中音域は地声(チェストボイス)。
発声の最大の特徴は何と言っても「息」です。息の流れが綺麗で息の量も非常に多く倍音がしっかりと鳴る声です。
囁くようなニュアンス〜語るようなニュアンスで歌うのが基本系ですが、息の量(倍音)が本当にすごいので囁いてもものすごくよく通るのが特徴です。
トップクラス息の量・息の倍音成分だと思います。
このウィスパーボイス系の低音域だけでも最強レベルの武器と言えるほどに研ぎ澄まされた歌声ですね。
ミドルレンジ(地声)
地声の中高音発声。
地声のウィスパー系の声質とは違い、声帯をしっかりと鳴らして強い高音を出すことが多いです。
声帯にしっかりと息の圧力をかけて、強く迫力ある高音を生み出しています。こちらも倍音が多い発声なので、美しくもパワフルな音色ですね。
昔は上方向へ尖らせるような出し方をすることが多い↓
年代によって咽頭共鳴(下方向への響き)がだんだん深くなっています。昔ももちろん最高なのですが、近年の太い発声もすごい。
近年は下方向のニュアンスを作って太く深い鳴りをしています。強い高音部分↓
ベルティングと呼ばれるような太く強い発声と言えるでしょう。
また、こういう声からシャウト系の発声につなげたりするのですが、信じられないくらいの鳴りがします。いい意味で爆発音みたいな鳴りがする時がありますね。笑
ファルセット(裏声)
高音域は裏声(ファルセット)。
このファルセットが非常に美しいのもまた玉置さんの圧倒的武器の一つでしょう。
特に息の量の多いファルセットは氷のような透明感を作り出します。基本的に息の多いファルセットで透き通る抜け感を作り出してますね。
0:17〜↓
ファルセット自体も非常によく通ります。
また、自在にコントロールしているので、ファルセットのみで歌い切るフレーズなども多いですね。
この、各声区のレベルが非常に高く圧倒的なのが、玉置さんが日本一上手いと謳われる一つの要因なのでしょう。
各声区を使いこなせれば何でもできる↓
歌い方
共鳴や音色
歌声の共鳴は低音域は鼻腔や口腔などを中心とした上方向主体の響き、高音域に行くに連れて下方向への響き(咽頭共鳴)を入れて行くようなスタイルが基本的です。
若い頃は上方向主体が多く、年を経るにつれて下方向へ強く響かせるニュアンスが強くなっています。
もちろん、フレーズによって声を当てる方向は上下に上手くコントロールしています。
また、玉置さんの音色の特徴として「イ」の母音の美しさがズバ抜けているという点があります。
全母音綺麗はもちろんなのですが、特に「イ」母音の発声の鳴り方の素晴らしさは絶品です。斜め前方向へすごく綺麗に響き「イ」が浮き出てきます。
0:25〜↓
この「イ」の美しさこそ玉置さんらしさの一角を担っていると思われます。
ビブラート
ビブラートは多彩にコントロールしています。かけたりかけなかったりと自由自在です。
年代によって多くかけたりかけなかったりと変化させていたりしますね。
フレージング・歌い回し
「話す」ように歌う
歌を「話す」ように歌うというのが一つの特徴でしょう。ただ話しているような言葉・声に音階やリズムを乗せそこに感情を乗せる。
話すように歌っても音階やリズムが限りなく音楽的であれば綺麗な音楽になり得るのですね。
話すような語るような温度感。
そしてこれを可能にするのはピッチ感の良さだと考えています。
おそらく、音程を外す方が本人にとって難しいのではなかろうかと思えるほどに、ピッチ感が素晴らしいです。
このピッチ感があるから言葉を発するだけで音楽的になり、語るように話すように歌うというのが可能になるとも言えるでしょう。
また、話すように歌う印象を作っているポイントの一つに、玉置さん特有の「崩し」があると思います。自分の曲はもちろん他人の歌まであらゆる原曲を即興的に変えてしまいます。
めちゃくちゃに崩しているようで、音楽的。
実は玉置さんの崩しは「表拍・裏拍」に変化をつけたり、「3連のリズム」で分解したりと意外と法則的に崩していることが多いです。特に3連符で崩すのがものすごく上手いですね。おそらく常に3連のリズムが体の中に流れているのでしょう。
ダイナミクス(音量差)がすごい
先ほどの「話すように歌う」というくらい軽い繊細な表現もありながら、声を強く張ったり大きく響かせる表現も圧倒的なのですね。
この音の大小が歌の感動を生み出す要因の一つです。
「引いて押す、押して引く」と様々な表現をしています。そして、これを可能にしているのは共鳴と発声方法ですね。
素晴らしい共鳴と発声が生み出すダイナミクスも玉置浩二さんの歌声の特徴です。
音楽スキルと即興性
コード感・ピッチ感・リズム感など様々な面で優れていることが圧倒的な即興性を生み出しています。
玉置さんの歌は『二度と同じ歌い方の歌を聴けない』と言えるほど同じ楽曲でも毎回のように違う歌い方や表現で歌っています。常に「その時の歌」になるのですね。
もちろん生で歌っている場合であれば世の中の全ての曲がそうだと言えそうですが、玉置さんの場合はメロディー・リズム・表現・アドリブ・フェイクと変化の幅が非常に広くそれを感性のままに動かしているように感じます。
ブルーノートなどの高度なテクニックもお手の物。
またピッチを動かすのが非常に早いですね。こういうピッチを早く動かすのは日本語では「こぶし」、海外だと「メリスマ(ラン)」と呼ばれるようなテクニックですが、自在に使いこなしています。
0:55〜↓