今回は「初心者から歌の練習を始める時、何から始めたらいいのか」というテーマについて。
こういうテーマは極論を言ってしまうと、『正解の道は人それぞれ違うので自分で見つけるしかない、以上。』となってしまいますし、これはある意味では真理です。
ただ、それでは議論が終わってしまうので、こうすれば正解の道へ近づけるのではないかというものを考えてみました。
目次
歌の初心者は何から始めるべきなのか
歌の初心者は、まず
- 歌の能力の全体像を把握する
- 今の自分に歌える歌をたくさん「なぞる」
- カラオケ(空のオケ)で歌える曲を作る
- 基礎のボイトレをする
という4つに取り組むといいと考えられます。
①歌の能力の全体像を把握する
歌の練習を始める前に、「そもそも歌って何?」「歌に必要な能力は?」という部分を言語化して理解しておくことが大切です。
これをすることで、迷うことが少なくなり、スムーズに成長しやすくなるからです。
まず、『歌』というものは、3つの要素に分解でき、
- 『歌』=『①音程』+『②リズム』+『③音色の質』
と表現できます。
この3つが揃えば、歌が完成するということですね。
ということは、『歌が上手くなる』とは、この3つを良くすることと同じ意味なので、
- 歌が上手くなる=『音程を良くする』+『リズムを良くする』+『音色の質を良くする』
と表現できます。
シンプルな考え方ですが、初心者は意外とこの考え方から逸れてしまいやすいです。
例えば、
- 歌が上手くなる=「高い声が出せるようになること」
- 歌が上手くなる=「大きな声量が出せるようになること」
などのように考えてしまいやすいですが、これは本質的ではありません。
後ほど触れますが、本質的ではないものを最初から追いかけると、間違った道を進んでしまう可能性が高くなります。
なので、歌が上手くなるための基本方針は、
- 音程を良くする
- リズムを良くする
- 音色の質を良くする
という3つのみであることを頭に入れておきましょう。
*ただし、「良くする」という概念は、音楽のジャンルによって変動することがあります。例えば、オペラの発声とハードロックの発声は、音色の質の良さの方向性が全然違います。「良い」という概念自体が変化することもあるという点に注意です。
さらに掘り下げると、この3つの良し悪しを決めているのが、
- 音楽的感性:音を判断する能力
- 発声能力:声を操る能力
という二つの能力です。
音楽的感性は、簡単に言えば『脳の能力』、発声能力は、簡単に言えば『体の能力』です。
この二つの能力が、先ほどの歌の3要素の良し悪しを決めているので、
- 『音程を良くする』+『リズムを良くする』+『音色の質を良くする』=『音楽的感性を鍛える』+『発声能力を鍛える』
と言い換えることができます。
つまり、先ほどの式は、
- 歌が上手くなる=『音楽的感性を鍛える』+『発声能力を鍛える』
と表現することもできます。
つまり、歌が上手くなるためには、『音楽的感性』と『発声能力』を鍛えればいい。
そしてさらに、音楽的感性は大きく3つの項目に分解できます。
発声能力は4つの項目。
つまり、これらを鍛えることが歌のトレーニングの全体像になるということです。
これらの項目は、個別に見るとさらに細分化して掘り下げていくことになりますが、初心者のうちはあまり細かいことは考えずに、まずこの全体像をざっくりと把握しておくだけで十分でしょう。
全体像を把握しておけば、何か問題が起きた時や、壁にぶつかった時などに対処しやすくなります。
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歌に必要な能力を紐解く【音楽的感性×発声能力】
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では、具体的に何をするか?に入っていきます。
②”今の自分”に歌える歌をたくさん「なぞる」
ある意味当たり前のことなのですが、歌が上手くなるために一番大事な練習は、たくさん「歌を歌うこと」です。
ボイトレと言えば、特殊な発声練習などをイメージするかもしれませんが、これらは二の次。
- 歌を歌う練習:総合練習。全体の能力を高める。
- ボイトレ:部分練習。トレーニングの種類によってどの能力にアプローチするかが変わる。
なので、まずは歌を歌う練習をたくさんするのが一番大事です。
そして、初心者は歌を歌う練習の中の『歌を”なぞる”練習』が一番いいと考えられます。
なぞる練習
「なぞる」とは、プロのシンガーの音源に合わせて一緒に歌うということ。
この「なぞる」という行動は、初心者の能力を効率良く高められる練習方法です。
例えば、子供の頃誰もが文字を書く練習をしたと思いますが、最初はお手本を「なぞる」練習から始めましたよね。そして、だんだんなぞらずにかけるようになっていく。
同じように、歌も最初はなぞる練習をして、お手本に引っ張られるような形で練習することで、色々な基礎力が高まっていくと考えられます。
歌の補助輪のようなものだと言えるでしょう。
知識はいらないのか?
「何の知識も必要なく、とりあえず歌をなぞればいいのか?」と心配する人もいるでしょう。
確かに、知識がないよりはあった方が良いとは言えますが、なくても大丈夫です。体験のない知識を身につけるよりも、実際に体験してから色々な知識を身につける方が効果的だとも言えます。
『とにかくまずはやってみる』というのが一番大事です。
しかし、なぞる練習には守るべきルールが二つあります。
- 自分の声が聞こえにくい状態でなぞるのは避ける
- 今の自分の能力(音域)に合った曲を選ぶ
⑴自分の声が聞こえにくい状態でなぞるのは避ける
密閉型のイヤホンやヘッドホンを使って、お手本を両耳で聞きながら歌うなど、自分の声が聞こえにくい状態でなぞると、お手本の声に引っ張られて自分の声を良く出せているように感じてしまうことがあります。
つまり、実際には上手く歌えていないのに、上手く歌えていると勘違いしてしまっている状態です。
勘違いしていてもいつかは気づくことなので、大きな問題というわけではないのですが、時間を無駄にしてしまうので、最初から気をつけておくに越したことはありません。
スピーカーで聴きながら歌う、イヤホンを片耳だけにする、イヤホンをゆるく耳にはめるなど、自分の声が聞こえやすい状態でなぞることが望ましいです。
⑵今の自分の音域(能力)に合った曲を選ぶ
「歌を歌う練習」で一番大事なことは、『まずは今の自分の音域で一番歌いやすい曲を選ぶこと』です。
つまり、「高音が出ない」「音程がきつい」「苦しい」といった曲は、”現在の自分”には適していないということです。
- 未来の自分が歌えるようになりたい曲
- 現在の自分の能力でも歌いやすい曲
①ではなく、②を選ぶということですね。もちろん、①と②が合致しているのなら、それはそれで問題はありません。
ただ、多くの人は①だけで選んでしまいやすいので、そこに気をつけなければいけないということです。
なぜ、音域に無理がない曲?
音域に無理がある曲は、そもそも「なぞれない」「練習にならない」ということが一番なのですが、無理のある曲を練習することで基礎が疎かになる上、間違った方向性へ進んでしまう可能性が高まるためです。
例えば、今の自分でも歌える音域の曲をたくさん歌い込めば、歌の『音程』『リズム』『音色の質』という3要素に気が向きやすくなり、歌全体のレベルの向上につながりやすいです。
しかし、音域に無理がある曲を歌おうとすると、頭の中が「高い声・高音」でいっぱいになってしまい、他の重要な要素に気が回らなくなってしまいます。
結果的に成長しにくくなりますし、基礎ができていないのに高音ばかりに気を取られていると、「間違った発声・変な癖の発声を身につけてしまう」などの失敗が起こるりやすいのです。
もちろん、必ず失敗するとは限らないのですが、仮に失敗しないとしてもトータルでかかる時間にそこまで差は出ないので、無難なルートを通った方がいいということです。
何事もそうですが、先に基礎を身につけてから応用に向かわなければ上手く成長できません。歌は基礎が「質」「精度」「正確性」で、応用は「幅」「速度」「変化」「組み合わせ」になります。高音というのは「幅」に当たるので、初心者のうちは気にしない方がいいのですね。
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問題点
一つ問題となるのは、声が極端に低い場合や音域が極端に狭い場合です。「今の自分の音域では歌える曲が見つからない」ということもよくあります。
おそらく、しっかりと探せば見つからないことはないとも思いますが、そこに時間をかけるのもめんどくさいですよね。
こういった場合、工夫しましょう。
例えば、
- 自分が歌える音域だけを歌い、歌えない部分は一旦諦める
- 男性なら女性シンガーの曲のオクターブ下を歌う
- 女性なら声の高い男性の曲を歌う
- 曲のキーをアプリなどを使って変える
などの方法があります。
個人的には、ある程度歌いたい歌が歌える上、自分に合わせた調整ができるので、キー自体を変えてしまうのが手っ取り早くていいと思います(*iPhoneであれば、GarageBandという無料アプリでできます)。
ボーカルごとキーを下げるので多少違和感を感じるかもしれませんが、お手本の歌の上手さが変わるわけではありません。しっかりと段階を踏んだ成長をするためには、ある程度の我慢は必要です。
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③カラオケ(空オケ)で歌える曲を作る
歌をたくさんなぞる練習をした後は、自分の声だけで歌えるようになる練習も必要です。
お手本ボーカルの声という補助輪を外して、ボーカルが入っていない「空のオケ(カラオケ)」に自分だけの力で歌を乗せるということです。
当然、今までお手本に引っ張られていた感覚がなくなるので、最初は色々な課題や問題点が生まれるでしょう。ただこれは、補助輪を外した自転車に乗る時のようなもので、上手くいかなくて当たり前なので、あまり心配しなくてもOK。
また、「なぞる練習」に戻ってはいけないわけでもないので、「なぞる」「カラオケ」と交互にやって徐々に慣らしていくこともできます。
とにかく、ひたすらに歌いこんでいきましょう。
まずは歌える曲を一曲作る
歌を歌う練習の最初の目標は、『歌える曲を一曲作る』です。
今の自分の能力で一番歌いやすい曲(キーを調節した曲など)をひたすらに練習して、「この曲だけは歌える」という歌を一曲作ることを最初の目標にしましょう。
最初にこれをすることで、「持ち歌が一つできた」という自信につながります。
さらに、一つの曲を極めているうちに音域も少しずつ広がってくるので、一つ極めたら次の『今の自分に歌える曲』へと挑戦していくことで、順調にステップアップしていくことができます。一つずつ”今の自分”を高めていきましょう。
自分の歌声を録音する
歌を歌う練習をする際は、必ず録音(もしくは動画撮影)して自分の歌声を聴きましょう。
録音を聴くメリットは
- 自分の歌声を客観的に聴くことができる
- 問題点や修正点を把握しやすくなる
- 自分の声の認識のズレを修正できる
という点です。
①②は説明するまでもないでしょうが、大事なのは③。
「自分で聞いている自分の声」と、「本当の自分の声(他人が聞いている声)」の認識のズレを小さくしておくことが大事ということです。
これが大事な理由は、歌の成長速度に大きく関わるからです。
まず、多くの人が理解していることでしょうが「自分で聞いている自分の声」と「他人が聞いている自分の声」は違います。
自分に聞こえる自分の声は、骨伝導によって内耳に直接聞こえる音(骨導音)が混じっているからですね。
骨導音は自分にしか聞こえない音なので、「自分が聞いている自分の声」と「他人が聞いている自分の声」には誤差が生じるということになります。
これが原因で、自分の声の録音を聞いた時、「これが自分の声?気持ち悪い。」という違和感を感じるのですね。
ここで一つ問題なのが、大きな違和感を感じているというのは「自分に聞こえる自分の声」と「本当の自分の声」の認識が大きくズレているということになります。
そして、このズレは歌において、大きな問題を生み出します。
例えば、極端な例ですが、
- 音程が合っているつもりでも、実際には合っていない
- 自分ではいい声を出しているつもりでも、実際にはいい声ではない
などのように、自分の認識と実際に起こっていることがズレてしまいます。
なので、「自分が聞いている自分の声」と「本当の自分の声」の誤差をしっかりと認識し、自分の声の録音を聞いても違和感をほとんど感じない状態になる必要があるのですね。
そして、何度も自分の声の録音を聞いているうちに、だんだんと違和感を感じなくなり、いつの間にかなんとも思わなくなってくるでしょう。
*個人差があるので一概には言えませんが、毎日5分間でもこれをすると、早い人は1ヶ月くらいで違和感を感じなくなるでしょう。
録音をするだけで、歌の成長速度が変わってくるので、必ずやっておきたいことの一つです。
④基礎のボイトレをする
歌の練習は「歌を歌うこと」が第一ではありますが、歌う以外の”ボイトレ”も有効活用することで成長を加速させることができます。
ボイトレは大きく分けると、
- 基礎のボイトレ
- 課題を集中的に解決するためのボイトレ
に分けることができます。
①は、スポーツで言うストレッチやランニングのようなもので、歌うための基礎力を身につけるものです。
②は、歌を歌う過程で出てきた課題に対して、トレーニングをするということです。例えば、「アゴに力が入ってしまうから、アゴの脱力を促すトレーニングをする」といった感じです。
この②に関しては、課題が人それぞれに違うので、ここでは具体的なことを述べることはできませんが、課題をしっかりと把握して、それに対して効果的なトレーニングを選択することで問題を効率よく改善させることができます。
今回は①の基礎のボイトレについて触れておきます。
基礎のボイトレは、
- 息のトレーニング
- スケール練習
という二つが初心者にはおすすめです。
⑴息のトレーニング
歌の基礎として重要なのが「呼吸」「息継ぎ」「ブレスコントロール」です。
おそらく、「歌において最も重要なものは何か?」という問いに対するシンガーたちの回答率が、一番高いだろうと考えられるのが、『息』です。
歌うという行動は普段の会話などと比較すると、大量の息を循環させる作業になります。つまり、たくさんの息を上手くコントロールできる能力が必要になるということですね。
そして、初心者はこの歌の循環量に慣れていません。
なので、これを鍛えることが基礎トレーニングになるということですね。
また、息のトレーニングに関しては、間違った方向性へ行くことがほぼなく、失敗のないトレーニングだと言えます。そういう点でも、初心者にはオススメしやすいものです。
息のトレーニングは、まずは『ドッグブレス』から始めるのが一番おすすめです(*向き不向きはある)。
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⑵スケール練習
初心者のうちは、スケール練習が大きな効果を発揮すると考えられます(*もちろん、プロでもやっています)。
『スケール練習』とはピアノの音階(「ドレミファソ〜♪」)などに合わせて「あああああ〜♪」などと歌う練習です。
スケール練習は、特殊な発音などを繰り返すことで、鍛えたい部分への集中的なトレーニングができるという面もありますが、何より『音感』『リズム感』という基礎力の向上につながります。
スケールはある意味『簡略した歌』とも言えるので、正確な音階(ピアノの音)に合わせて発声することで、歌の基礎力を高めることができます。
なので、何をしていいか困った時は、スケール練習をしておけば決して無駄にはならないでしょう。初心者のうちは発音は何でもOKですし、難しく考えず「ピアノの音に合わせる練習」くらいで考えておけばいいと思います。
一つ注意点として、ここでも無理な「音域」は捨てておきましょう。音域を広げるためにもスケール練習は使われるので、そういう点では多少無理をしてもいいのですが、特に最初のうちは無理しないことを心がけておく方がいいでしょう。
理由は、先ほどと同じ「間違った発声・変な発声」を身につけてしまうリスクが高くなるからです。
トレーニング音源に困っている方は、こちらも活用してみてください。
注意点
初心者が何から始めればいいのか?という内容については、以上までで終了です。
ただ、上記内容以外でも初心者が考えておくべき注意点があるので、最後にそれをまとめておきます。
注意点は、以下の3つです。
- 声変わりを考慮する
- 地声と裏声をしっかりと認識しておく
- 自分の声のタイプと向き合う
①声変わり(変声期)を考慮する
特に『初心者』であれば、声変わり中の人もいるでしょう。
なので、自分が声変わりの「前」「最中」「終了後」のどれになるかをチェックしておきましょう。
これを考えなければいけない理由は、声変わりは歌の練習において無視できない重要なものだからです。この時期のボイトレは、決して無理せをず慎重にやるのが吉です。
声変わり前
一般的に、〜12歳前後まで(*あくまでも目安)。
子供の声帯は音域が高いので、音域に苦労することがなく、歌の基礎を伸ばしやすいので上手くなりやすいと考えられます。もちろん、子供のうちは何でも成長が早いという面もあります。
ただ、声が後々どう変化していくかはわからない状態なので、方向性を絞りすぎないように注意が必要です。
声変わり中
一般的には、12歳〜18歳くらいの期間。
ただし、早く終わる人・遅く終わる人、変化が大きい人・変化が小さい人、などかなり個人差があります。
*一般的に女性の方が声変わりの終了が早く、男性の方が遅い。
声変わり中というのは、「声帯が大きく変化している最中」です。変化の最中なので、子供の頃からすごく歌が上手いという人でも声が出しにくくなったり、上手く歌えなくなったりします。
- 声が不安定になる・声がかすれる
- 裏声が出なくなる・逆に裏返りやすくなる
- 出せていた高い声が出なくなる
- 音程をコントロールしにくくなる
など色々な問題が生まれます。
これは声変わりが原因なので、仕方のないことです。
そして、この時期は「変化を受け入れ、無理をしない」ということが大事になります。
特に「音域(*特に地声)」に関しては、我慢が必要です。
例えば、声変わりは基本的に「声が低くなっていく」ものです。男性は変化がかなり大きい人もいますし、女性も小さいですが変化はしています。
この低くなっている最中に、音域を無理に広げようとしても音域が中々伸びません。
伸びないだけならまだいいのですが、この変化中に音域を無理に広げようとすると、変な発声や間違った発声を身につけてしまうなどの問題も生まれやすいです。
最悪の場合、「声変わりが終わるまで何もしないほうがよかった」なんてことにもなりかねません。
なので、この時期のボイトレは「自分は変化の最中である」ということを意識して、無理のない範囲でトレーニングに取り組みましょう。
声変わり後
一般的に、18歳頃〜が目安。もちろん、個人差がありますので、もっと早い人も遅い人もいるでしょう。
この時期から、特に何も気にせずにトレーニングしても大丈夫になるでしょう。
「声の個性」が完成しているという点では、本格的なトレーニングを開始するのはこの時期からが一番良いとも言えるのかもしれませんね(*この「声の個性」というのは、後ほど③の項目に繋がります)。
②「地声」と「裏声」をしっかりと認識しておく
歌の練習を続けていくうちに、色々な「声の名前(〇〇ボイス)」を目にすることになるでしょう。
ただ、まずは難しいことは考えずに、
- 地声
- 裏声
の二つだけをしっかりと認識しておけば十分です。
とは言え、多くの人が日常的に使う言葉ですし、そう難しく考える必要はなく、「自分の地声はコレ、自分の裏声はコレ」と理解するだけです。
すでにできている人も多いかもしれません。
*裏声は最初出せない人もいるので、その場合はまず「出せない」ということを自覚することが大事です。練習すれば出せるようになるでしょう。詳しくは『裏声の出し方について』。
とにかく、この「地声」と「裏声」という声の区分を理解し、区別して出せるようになることが大切です。もちろん、声の質や精度は後々鍛えていくものなので、そこは全く気にしなくて問題ないです。
これをしておくと、プロの歌声などを聞いた時にも、「ここは地声から裏声に切り替えている」「ここは裏声だけで歌っている」などがわかるようになるというメリットもあります。
これは意外と大事で、結果的に自分のトレーニングに活かされます。
〇〇ボイス問題
「チェストボイス」「ミックスボイス」「ミドルボイス」「ヘッドボイス」「ホイッスルボイス」「ベルティングボイス」・・・などなど、世の中には「〜ボイス」と名称がついた言葉がたくさんあります。
そういう名称を見るたびに、意味を調べることになるでしょうが、厄介なことに時代や、歌の流派によって言葉の意味が違うことが多々あります。
その結果、初心者は「何が正しいのかよくわからない」と迷ってしまうことになりますが、この迷っている状態が一番良くないです。
迷っているくらいなら、何も知らない方が断然良いです。
なので、初心者のうちは色々な「〇〇ボイス」のことは、考えずに「地声」と「裏声」だけを考えておいた方がいいと思います。色々な言葉に惑わされるくらいなら、その方がお得になるでしょう。
もちろん、そういう名称を追求したい人は、追求して全く問題ないです。
ただ、「人によって言ってることがバラバラだ。わけわからん。」と迷いだした時は、『地声と裏声だけ考えておけば損はない』という言葉を思い出してください。
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③自分の声のタイプと向き合う
自分の『声のタイプ(どんな声帯なのか)』と向き合い、理解することが重要です。
なぜなら、喉や声帯の形は人それぞれ違い、それぞれ自分の体に適した成長の道があるからです。当たり前ですが、人間は『練習すればどんな声にでもなれる』というものではないので、自分の体と向き合うことが重要なのですね。
とは言え、最初はそこまで難しく考える必要はなく、
- 音域のタイプ
- 声質のタイプ
- 声が太い・細い
をざっくりと意識しておくだけでいいでしょう。
①音域のタイプ
これは、自分の声は「低い」「普通」「高い」のどれに当たるかということです。
これを測るときは、『自然な最低音』に着目するとわかりやすいです。
自然な最低音とは、「限界の最低音」「頑張って無理に出した最低音」「音になるかならないかくらいの最低音」ではなく、『楽な状態で、しっかりと音にできる最低音』です。
- ある程度大きな声量が出せる範囲の最低音
- 喉に全く力を入れずに、低めに「はぁ」と大きくため息をついた時の音階
などが目安です。
そうすると、この自然な最低音によって、声帯のタイプの大まかな目安がわかります。
*これらはあくまでも目安なので、必ずそうなるものではないです。また、この目安をはみ出す人も普通にいるでしょう。
クラシックでは、それぞれ『バス・バリトン・テノール・アルト・メゾソプラノ・ソプラノ』という風に呼ばれます。
基本的には、『声が低い人→低音域が得意』『声が高い人→高音域が得意』のように、声帯のタイプで得意な音域が決まってきます。
例えば、声が低い男性がいくら練習しても声が高い女性のように歌うことはできませんし、その逆もできません(*音域的にできたとして、クオリティ・魅力が落ちる)。もちろん、そうならない例外的なパターンもあるのですが、それはあくまでも例外として考えた方がいいでしょう。
つまり、個々の声帯によって得意・不得意、できること・できないことがあるということはある程度受け入れなければいけません。
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②声質のタイプ
「どんな声質を持っているのか?」ということです。これもまずは、普段の話し声から考えましょう。
声質は大まかに分類すると、
- 息っぽい声質
- 鳴りやすい声質(芯のある声質)
- ハスキーボイス(カサカサ型)
- ハスキーボイス(ガラガラ型)
という4つのタイプに分類できます。
わかりにくい人は、まずは縦軸「息っぽい」のか「鳴りやすい」のか、という2択で考えるといいと思います。
もちろん、中間的な「普通」というタイプや、どこにも属さない「例外」のタイプの人もいるでしょう。
また、あくまでも普段の話し声なので、歌声がどうなるかというのはまた話が別になりますが、話し声と歌声は同じ声帯を使うものなので、密接に関係しているとは言えます。
例えば、息っぽい声質の人は透明感のある発声が得意になりやすいですし、鳴りやすい声質の人はくっきりとした力強い発声が得意になりやすい傾向があります。ただし、あくまでも傾向であり、先ほどの『音域』と比べると自由度は高いとも言えます。
なんにせよ、『自分がどんな声質を持っているのか』という部分を頭に入れておく必要があります。
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③声が太い・細い
これは「太い声」「普通」「細い声」のどれに当たるかというお話です。
声の太さ・細さというのは、ある程度コントロールできる面もありますが、元々のフラットな状態の声の太さ・細さは人それぞれ決まっています。
これは、人それぞれ骨格が違うからですね。
例えば、楽に「あーー」と発した時、太い喉を持っている人ほど太い音色になり、細い喉を持っている人ほど細い音色になります。
ここで、細い喉を持っている人が思いっきり喉仏を下げると、確かにある程度太い音色を作れます。しかし、太い喉を持っている人が同じように喉仏を下げると、さらに太い音色になります。
この場合、細い喉を持っている人がいくら頑張っても太い喉を持っている人の太さには敵わないということになります。もちろん、『細い音色』をテーマにすると、立場が逆転します。
これが、コントロールできる範囲の違いですね。
つまり、自分が持っている喉を理解しておくことで、自分はどれくらいの音色の太さ・細さをコントロールできるのかを把握することになります。
この「太い声」「細い声」に優劣はないのですが、ある程度受け入れなければいけない面がありますので、自分の声は太いのか、細いのか、普通なのか、というところを把握しておきましょう。
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まとめ
歌の初心者は、
- 歌の能力の全体像を把握する
- 今の自分に歌える歌をたくさん「なぞる」
- カラオケ(空のオケ)で歌える曲を作る
- 基礎のボイトレをする
にまずは取り組むといいと考えられます。
すごくシンプルな言葉で片付ければ、『とにかく歌える曲を歌いこめ』ということですね。
また、その際に、
- 声変わりを考慮する
- 地声と裏声をしっかりと認識しておく
- 自分の声のタイプと向き合う
という点に注意しておきましょう。